植田睦之・加藤和弘・松野葉月・黒沢令子・成末雅恵:東京の鳥類相の変化とその要因
- 東京都の繁殖鳥類の分布状況を1973~78年と1993~97年に調査した.この調査とほぼ同時期に調査された植生調査の結果と比較することにより,鳥類の分布変化の要因を植生面から検討した.
TWINSPAN法をもちいて鳥類相を区分して1970年代から1990年代にかけての鳥類相の変化をみてみた.その特徴的な変化には(1)スズメ,ムクドリ,ヒヨドリ,キジバトなど市街地でも生息することのできる種のみが記録される鳥類相から,それらとともに緑地に生息するコゲラ,メジロやハクセキレイなども記録される鳥類相へと変化した区画と,(2)ヒバリ,モズなど草地に依存する種が記録される鳥類相から市街地の鳥類相などへ変化した区画が多かった.また,(3)チドリ類,オオヨシキリ,セッカなどの水域に依存する種が記録される区画の減少や(4)夏鳥の多い山地の鳥類相だった区画の減少があった.
植生の変化をみてみると,(1)の鳥類相の変化がおきた場所では,緑地の増加が目立ち,(2)のおきた場所では,畑地や草地の減少が目立った.(3)がおきた場所では畑地や水田の減少が目立ったが,畑や水田は一部の種を除き,水域依存の鳥類の主要な生息地ではなく,鳥類相の変化と環境の変化との関係は不明確で,(4)がおきた場所では大きな環境の変化は認められなかった.
東京でみられたこれらの大きな鳥類相の変化のうち,(1)については緑地の増加と住宅地での樹木の生長による環境の改善と鳥類の都市環境への適応が原因と考えられ,(2)については畑地や草地の減少が鳥類相の変化をもたらしたと考えられる.(3)については植生図に示されないような水辺の微環境の変化やレジャーなどの人による河川の利用圧の増大が原因の可能性があり,(4)については鳥類相の変化に夏鳥の減少がおよぼす影響が大きいので,調査地の植生変化ではなく,越冬地や中継地の植生変化が影響していることや,森林の面積といった量的な変化ではなく,荒廃化や食物である昆虫の減少など質的な変化が影響している可能性が考えられた.
▲目次に戻る
吉居瑞穂・吉居 清:伊勢市におけるツバメの巣の分布の 8年間の変化
- 伊勢ではツバメが減っているか,との視点から,市内でツバメが営巣可能と思われる地域の約40%を対象に市街地,郊外住宅地域,海岸・河口地域,内宮門前町,農山村地域の
5種類の調査地域を設定して,1993年の予備調査を皮切りに,1994年,1997年,2002年の 3回にわたり,ツバメの繁殖状況を調査した.
その結果,巣の数は全体として1994年の 229巣から1997年には 275巣に増加したが,2002年には1994年とほぼ同じ水準の
227巣となり,全体としてはあまり減少していないことが分かった.しかし,地域別にみると,巣の数は内宮門前町以外では全体の傾向と同じく,1997年にいったん増加した後,2002年には1994年よりもかなり低い水準にまで減少した.一方,内宮門前町だけは巣の数が年とともに増加し,2002年には1994年の
2倍以上になった.これらの巣の増減を特徴的な 3か所について詳細に分析した結果,歩行者数の増減に対応していることが確認できた.また聞き取り調査の結果,定量的には説明できないが,巣の数の減少がカラスの繁殖妨害による可能性が高いことが分かった.
ツバメの巣の多少を単位面積あたりの巣の数である巣の密度で比較すると,伊勢市は全体としても他の地域と比べて高いが,内宮門前町は2002年には
525巣/km2と極端に高い値を示した.またツバメの巣は一般に通りに面して多く作られるので,通りの距離100m当たりの巣の数を,歩行者数が記録されている三つの地域で算出した.密度の高い内宮門前町ではこの単位道路長さあたりの巣の数も大きく,通り全体では2002年に10巣/100m,特に巣の多い内宮寄りの区間では14巣/100mであった.
▲目次に戻る
藤巻裕蔵:北海道中部・南東部におけるヒヨドリの繁殖期の生息状況
- 1976~2003年の 4月下旬~6月下旬(高標高地では 7月下旬)に北海道中部・南東部の608区画(5km×5km),調査路691か所でヒヨドリの生息状況を調べた.出現率は西部(61%)より東部(45%)で低く,とくに釧路地方で低かった.生息環境別の出現率はハイマツ林で
0%,常緑針葉樹林で23%,針広混交林で20%,落葉広葉樹林で44%,カラマツ人工林で48%,農耕地・林で71%,農耕地で50%,住宅地で70%であった.ヒヨドリはおもに標高500m以下に生息しており,標高501m以上では急激に出現率が低くなった.調査路
2kmあたりの観察個体数(平均値±SD)は,常緑針葉樹林では0.4±0.8羽,針広混交林で0.3±0.7羽,落葉広葉樹林で0.8±1.3羽,カラマツ林で0.4±0.9羽,農耕地・林で0.9±1.0羽,農耕地で0.4±0.9羽,住宅地で1.0±1.3羽で,生息環境によって違いがみられた.また出現率は温量指数の低い地域で低く,温量指数の高い地域で高いという明らかな関係が見られた.
▲目次に戻る
平野敏明・君島昌夫・小堀政一郎:渡良瀬遊水地におけるサシバの採食環境と食性
▲目次に戻る
坪川正己:北海道東部におけるクマタカ繁殖記録
- 1999年から2002年にかけて,北海道東部の釧路地方と網走地方でクマタカの繁殖経過を調査した.繁殖日数は本州とほぼ一致していたが,繁殖成功率は高かった.育雛期における降雨量の少なさと豊かな食物資源がその原因として考えられた.
- 北海道東部におけるクマタカは針広混交林の広葉樹を営巣木に使い,カツラが多く中にはダケカンバを利用していた.巣の高さは20m前後,巣の大きさは本州のものよりやや小さかった.
- 本種は環境の変化やヒトの接近などにより既存の巣を放棄し,新たな巣を造巣するが元の巣へ戻って繁殖もした.新しい造巣の位置は既存の巣と類似した環境であった.
- 本種を保護するにあたり,工事規模にかかわらず現地での事前調査が重要である.
▲目次に戻る
植田睦之・福田佳弘・松本 経・中川 元:知床半島におけるオオワシの渡りと気象状況
- 北海道道東の知床半島で1999年と2000年の10月下旬から11月下旬にかけてオオワシの渡りの調査を行ない,1999年は,1,707羽,2000年は1,977羽のオオワシを確認した.いずれの年も,10月下旬の渡り個体数は少ないが,11月から20羽以上の渡りがみられるようになり,その後11月中旬に100羽以上の渡りが集中する日が何日かあるというパターンが共通していた.最初に200羽以上の大規模な渡りが記録された日は両年とも稚内の最低気温が氷点下になった日の翌日であり,気温の低下がオオワシの渡り開始の引き金になっている可能性が考えられた.
風速が3m以上の西から北の風が吹く場合は90%以上のオオワシが滑空して渡った.しかし,風が弱い場合やそれ以外の風向では羽ばたいて渡るワシが多かった.100羽以上のオオワシが渡った11回のうち
9回は西から北の風が強く吹いていた日で,5回あった200羽以上の渡りはすべて風の吹いていた日だった.このことより,オオワシの渡りには風の状況が強く影響していることが示唆された.
成鳥の渡りは若鳥よりも早く,2000年は調査期間中に成鳥の渡りをほぼ把握できたと考えられた.越冬期の既存の研究にもとづく成鳥と若鳥の比率と2000年の成鳥の個体数をもとに「北海道越冬群」の総個体数を推定すると,2,600羽程度となり,繁殖期の分布状況から推定したマガダンからサハリンにかけての地域に生息するオオワシの推定個体数の約2,800羽と大きく矛盾してなかった.したがって,この時期にオオワシの成鳥の渡り個体数を把握して,それを継続的にみていくことがオオワシの個体数のモニタリングに有効と考えられた.
▲目次に戻る
伊関文隆:春期に九州北西部を西へ渡るハイタカと東へ渡るサシバ・ハチクマ
2003年 2月 7日から 5月28日の間の59日に,九州北西部に位置する立石山にて渡り観察を行ない,以下の結果をえた.
- ハイタカが 2月中旬から 5月中旬に西へ1,700羽以上,サシバが 4月上旬から 5月下旬に東へ200羽以上,ハチクマが
5月上旬から下旬に東へ500羽以上渡った.
- ハイタカは午前中に渡る傾向があった.
- ハイタカの渡りのピークは3月下旬から4月上旬にみられた.
- ハイタカは 3か月以上,少なくともサシバは 2か月,ハチクマは 3週間程度渡りが続いた.
- 渡りの時にはハチクマ,サシバ,ハイタカの順に群れを作る傾向が強まった.
▲目次に戻る
池野 進・岩崎忠敬・岡田正夫・大野晴一:霞ヶ浦北部におけるサシバの原初的な秋の渡り
- サシバが多く生息する霞ヶ浦北部沿岸にある茨城県新治郡霞ヶ浦町柏崎の富士見塚古墳公園において,2002年 8月15日から
9月27日までサシバの原初的な秋の渡りの調査を渡り個体と残留個体を識別しながら行った.初渡りは 8月17日にあり,8月21日以降
9月26日まで渡りが続いた.この間のサシバの延べ出現数は963羽で,このうち307羽が渡った.延べ出現数の最大は,9月
1日の47羽の渡り個体を含む92羽であり,渡り個体数も当期最大だった。また,この日を境に残留個体数は減少したが,渡り個体数はその後も漸増したため,延べ出現数の経日変化は渡り個体数のそれに類似していなかった.渡りは晴または快晴の好天日に多く発生した.したがって,サシバの北部分布域で渡りの調査を行うにあたっては,好天が続く8月中旬から始め,渡り個体と残留個体を識別する必要がある.
▲目次に戻る
渡辺朝一:越後平野の水田で確認された越冬期のガン・ハクチョウ類の採食行動と食物
- 1992年11月から1993年2月,1993年11月から1994年3月までの2シーズンに渡って,越後平野一帯の水田においてガン・ハクチョウ類の食物内容調査を行った.
- オオハクチョウは,冬季の水田で採食していた例が少なかったが,コハクチョウ,マガン,オオヒシクイは水田での採食が多数観察され,刈り入れの終了した,冬季の水田はガン・ハクチョウ類の越冬期における重要な採食環境であると考えられた.
- 食物内容としては,イネの落ち籾が最も重要と推察され,越年生の草本も多く記録された.
▲目次に戻る
黒沢令子・松尾太郎・徳永珠未・小林和也・佐藤瑛子:
大都市の緑地におけるカラス類の繁殖状況 -札幌市北海道大学近辺と東京の比較-
- 人口集中化の進んだ都市内の緑地である札幌市北海道大学構内とその周辺の調査地(253.6ha)に生息するカラス類の繁殖密度と成功率,およびその営巣条件を2003年の繁殖期に調査した.その結果を他の都市として東京の事例と比較した.
本調査地では,ハシブトガラスとハシボソガラスの両種が共に繁殖していた.カラス類の繁殖密度は0.13つがい/haで,東京都心部の緑地公園を加えた場合と同じ程度に高密度であった.その最近接巣間距離や巣立ち率は東京の調査地と差はなかった.ハシブトガラスが営巣していた巣高は11.95±3.50mであり,東京や大阪の調査とも差がなかったので,本種は巣高などの営巣場所の選択幅が狭いと考えられる.一方,本調査地のハシボソガラスはハシブトガラスよりも低く,また東京のハシボソガラスよりも低い場所で巣を構えており,地域によって平均巣高に違いがあることから,営巣する樹高の選択幅はハシブトガラスよりも広いと考えられる.しかし,2種間で巣立ち幼鳥数に有意な差がなかったので,本調査地内の大学構内は
2種のカラス類にとって好適な繁殖場所と考えられる.
大学構内では,樹林と農場など開けた場所のある環境があるので両種のカラス類が共存していたが,同じ都市域内でも大学周辺の市街地では繁殖していたカラス類は少なく,営巣適地が限られていることが要因である可能性が考えられる.
▲目次に戻る
松尾淳一:大阪市中心部の街路樹におけるキジバト・ヒヨドリの営巣位置
- キジバト,ヒヨドリは本来山地に生息するが,近年都市に進出し,人の近くでの繁殖が増えている.都市部でのキジバト,ヒヨドリの対人距離の差を探るために,人通りの頻繁な大阪市中心部の街路樹で両種の古巣の位置を2002年12月13日から2003年2月19日にかけて調査した.その結果,キジバトがヒヨドリより低い位置に巣を造り,キジバトが歩道側を選んで巣を造るのに対しヒヨドリには傾向がみられなかった.2002年に大阪市内の重なるエリアで筆者は多くのハシブトガラスとハシボソガラスを確認した.都市鳥の最大の捕食者はこのカラス
2種と考えられる.キジバトは頻繁な人通りのすぐ上で営巣することで,捕食圧を下げていると考えられた.ヒヨドリは今後,人との距離を縮めていく可能性があり,注目していく必要がある.
▲目次に戻る
中村純夫:カラスの季節ねぐら -ねぐらの成立・消滅と最低気温-
- 大阪府北東部のカラスの集団ねぐらを1989年12月より1993年 1月までの 3年間にわたり調査した.調査地内に存在した
9個の季節ねぐらのうち 5個について,ねぐらの成立日・消滅日を特定するために高頻度の調査を実施した.この調査地の季節ねぐらは早春より盛夏まではねぐらの数の増加と分布域の拡大(拡大期)を,中秋より初冬まではねぐらの数の減少と分布域の縮小(縮小期)を示したので,拡大期と縮小期に分けてねぐらの変更がおきた日と気象条件の関係について解析した.
最高気温・最低気温では,拡大期は縮小期に比べて高かった.日降水量と日最大風速では 2期間で差がなかった.強風や強雨は季節ねぐらの成立・消滅を促進したり抑制したりすることはなかった.成立日・消滅日に先立つ気温変動の推移を極大域,極小域,中間域にわけて分析したところ,春から夏にかけての拡大期には最低気温が極大域の時に,秋から冬にかけての縮小期には極小域の時に,成立・消滅が起こった.成立・消滅に先立つ15日間の最低気温を成立日・消滅日の最低気温と比較したところ,拡大期にはより高い最低気温を,縮小期にはより低い最低気温が度々観測されていた.これらのことから,最低気温の変動で自動的にねぐらが変更されるのでなく,ねぐら変更に際して環境からの手掛かりの
1つとして利用されていたと考えられる.
▲目次に戻る
赤塚隆幸:エナガ巣に利用された羽毛巣材の量と鳥種および営巣時期と羽毛量の関係
- 岐阜県羽島郡川島町近辺で採集したエナガ巣の分析で,2001年から2003年にかけて巣材に利用された羽毛数の平均は1098.7±426.7枚だった。調査地の巣で利用される羽毛は,キジ類の羽毛が多く,2002年と2003年を合計した比重の比較では,キジ類が全体の44.07%,ハト類が16.92%,小鳥類が14.71%,カラス類が6.59%,ガガイモの冠毛や人工素材などが4.97%,サギ類が4.19%,カモ類が2.82%,だった.羽毛一枚あたりを平均した長さは,サギ類>カラス類>キジ類だったが,羽毛一枚あたりの平均比重はキジ類が一番重かった.調査地ではキジ類の羽毛がエナガ類に好んで利用されていると考えられ,その理由としては,羽毛一枚あたりの容量が多く,保温効率が良いためと考察された.
- エナガが羽毛を集める場所は,18例中7例が猛禽類と考えられる食痕で,6例は放棄した前巣の巣材,羽毛に混ざる獣毛や人工巣材を含めたその他の調達先が5例だった.
- 季節の進行とともに羽毛の利用枚数は有意に減少した.また,初回巣とやりなおし巣をくらべると羽毛の利用枚数は初回巣の方が有意に多かった.初回巣が季節の前半に,やりなおし巣が後半に集中しているため,季節による変化で羽毛の数が減少するのか,それとも初回巣とやりなおし巣とでエナガ羽毛搬入量をかえているのかははっきりしなかった.
- ガガイモの冠毛を除くプラスチック繊維,あるいは犬の毛など羽毛以外の素材の利用は育雛が 3月下旬の 3巣でまとまった利用が見られた.これらの結果は,繁殖期後期には羽毛調達が困難になるために生じていると考えられる.羽毛が時期的に不足する原因は今回の調査では明確にできなかったが,越冬している猛禽類の飛去に伴い,エナガの重要な巣材調達場所である猛禽類の食痕が減少することが考えられた.
▲目次に戻る
藤原知美・白松博之:カワラヒワのチンゲンサイ食害
▲目次に戻る
丸山健司・遠藤裕久・大谷良房:ブッポウソウの巣箱設置による保護活動について
- 1980年代後半,岡山県で繁殖するブッポウソウの多くは木製電柱の穴で繁殖していた.この時期,電力会社は木製電柱からコンクリート製電柱への切り替えを推進しており,コンクリート電柱化された地域のブッポウソウ確認数は極端に少なかった.このままでは営巣場所がなくなってしまう恐れがあるため,電柱に巣箱を設置する活動を行なった.巣箱の設置に伴って,ブッポウソウは増加し,1995年の
5つがいから2002年には99つがいまで増加した.巣箱を設置する場所の条件としては,間隔を300m程度離すこと,近くに水田があること,そばに木が生えていないこと,不特定多数の人が出入りする施設のそばに設置しないこと,200m以内に小高いブッポウソウのとまり場があることが重要と考えられた.
▲目次に戻る
今村貞尭・林 英雄・阿久津斉・飯塚広司・多田敬市・横島友巳・古川佳次・佐々木勝男・鈴木弘之:
ラムサール条約登録地における住民参加による鳥類モニタリング調査の試み
ラムサール条約登録地における「賢明な利用」という目的を推進するための住民参加による参加型湿地管理活動の一つとして,1995年から2003年までオオヨシキリの個体数等をモニタリングするグループを立ち上げ,調査の企画から始めて,調査の実施,結果のとりまとめまで行なった.本稿では,この住民参加によるモニタリングの調査結果と,ラムサール条約登録湿地における「参加型管理」のひとつの事例として,活動内容の実施課程の評価を,ラムサール条約と照合し検証した.
- 活動グループの立ち上げから,結果のとりまとめに至るまでの実施過程の評価をラムサール条約に照らし合わせて検証した.活動はラムサール条約決議の「湿地の研究,湿地の生態学的特徴のモニタリング」の一部であり,「管理および監視について能力を有する者の訓練を促進する」ことにも対応し「登録地における湿地管理への住民の参加の試み」の一つととらえることができ,今後のラムサール条約登録地における住民参加の仕組みづくりの一つの事例として取りまとめた.
- 各調査年の調査対象地域全体での総個体数最大値は18-27個体であった.1haあたりの個体数は3.2~4.8個体であった.各調査地点の生息密度の最小はSt.7の1.1羽で,最大がSt.3の98.2羽であった.各調査地点の各年の平均生息密度とこの淡水池との距離,ヨシ原の面積との関係について,重回帰分析で解析すると,説明変数としては淡水池との距離が採用され,ヨシ原の面積は棄却された.有意な傾向ではないが,淡水池との距離が近いほど生息密度が高くなる傾向がみられた(図4;F=2.34,
P=0.17).また,これに関連して,調査地点間の移動について,St.3,St.4, St.10とSt.9の淡水池との間での移動が多かった.淡水池においては餌運び,採餌行動,巣材運び,水浴び,水のみなどの行動の利用頻度が高く,草地環境が主体であるSt.10において採餌,餌運び,縄張り争いなどでの利用頻度が高かった.このことから谷津干潟のヨシ原におけるオオヨシキリの生息密度は,ヨシ原の面積ではなく,採餌や,水浴びなどのさまざまな利用場所としての淡水池や草地の存在が関係していると考えられる.
▲目次に戻る
永田尚志:ラインセンサス法において河川敷の幅が調査可能範囲に与える影響について
- 河川敷のような開けた環境で河川敷の幅がセンサス結果におよぼす影響について利根川下流域で湿地性鳥類を対象とした調査を行なった.しかし,河川敷の幅が100mまでならば,対象種を全域カバーできるとほぼ100%の調査者が認識している.しかし,河川敷幅が100m以上になると記録できない範囲が出てきて,さらに記録可能な距離がばらつき、調査者によっては100mより狭くなる傾向がみられた.したがって,堤防のような開けた見晴らしの良い環境において繁殖期の小鳥類のラインセンサスの記録幅として100mが妥当であろう.大きく目立つ対象種の場合,記録幅をもっと長くすることができるかもしれない.
▲目次に戻る
井上勝巳・籠嶋恵介:風力発電機に衝突して落鳥したトビの事例
- 長崎県南松浦郡岐宿町岐宿郷で稼動中の風力発電機で2件のバードストライクを確認した.1例目は2003年 5月
4日にトビの落鳥体を発見した.ブレード直下で左翼を骨折していた.2例目は2003年10月21日に切断されたトビの下半身を発見した
▲目次に戻る
嶋崎太郎:オホーツク地方におけるゴイサギの越冬初記録
- 2002年 2月 5日に網走市においてゴイサギ成鳥 1羽を確認した.地元の聞き取り調査によると12月頃から
3月頃までのあいだ,ほぼ毎日のようにねぐらをとっているのが確認されていた.これは当地方における本種の初越冬記録であり,日本での最北の越冬記録となる.
▲目次に戻る
中野晃生:オシドリがオタマジャクシを捕食か?
- 2003年 5月22日,島根県南部に位置する島根県川本町内の水田においてオシドリがカエル目の幼生を捕食した可能性があるのを観察した.
▲目次に戻る
川上和人・藤田祐樹:小笠原諸島母島列島妹島における多趾奇形のオガサワラヒヨドリの記録
- 2003年 6月28日に小笠原諸島母島列島妹島にて,多趾のヒヨドリを捕獲した.両足ともに第二趾,第三趾,第四趾は通常の個体と同様の状態だったが,第一趾において奇形が認められた.右脚の第一趾は,通常の第一趾の約
2倍の太さに肥大しており,趾先に爪が 3本並列についていた.左脚の第一趾は,通常後方につくべきところが,約90度内側に向いていた.
▲目次に戻る
本州におけるワタリガラスの初記録
- 2002年 3月10日に秋田県由利郡大内町中張の水田で70羽ほどのハシボソガラスの群れに混じるワタリガラス
4羽を観察・撮影した.また,2003年 3月15日に能代市小友沼の氷上で,オジロワシが食べ残した ナマズに集まる12羽のハシブトガラスとハシボソガラスと行動する
2羽のワタリガラスを観察・撮影した.
▲目次に戻る |