原著論文
平野敏明・遠藤孝一・君島昌夫・小堀政一郎・野中 純・内田裕之. 1998. 渡良瀬遊水地における秋冬期のチュウヒのねぐら. Strix 16: 1-15.

蔡 煕永. 1998. 低温多雨がニュウナイスズメの産卵間隔と一腹卵数に与える影響. Strix 16: 17-23.

平野敏明・小池重人. 1998. 日光戦場ヶ原周辺における繁殖期の鳥類相の変化. Strix 16: 25-35.

嶋田哲郎. 1998. 新浜における越冬期の水鳥群集の変化. Strix 16: 37-45.

藤巻裕蔵. 1998. 北海道中部・南東部におけるハシボソガラスとハシブトガラスの生息状況. Strix 16: 47-54.

岡 徹・中村雅彦. 1998. 上越教育大学構内における非繁殖期の鳥類相 -多雪地域において積雪が鳥類群集に与える影響-. Strix 16: 55-66.

植田睦之. 1998. 東京都の緑地における開放巣性小型鳥類の低い繁殖成功率. Strix 16: 67-71.

石田 健・高美喜男. 1998. アマミヤマシギの相対生息密度の推定. Strix 16: 73-88.

岩崎由美・市石 博. 1998. 伊豆大島・利島におけるカラスバトのねぐら. Strix 16: 89-98.

鈴木弘之. 1998. 聞き取り調査に基づく広島市八幡川河口周辺のツバメの営巣状況. Strix 16: 99-108.

井上勝巳. 1998. 長崎県五島列島福江島を秋期に渡るタカ類. Strix 16: 109-120.

黒岩哲夫・西村俊彦・橋本裕子・吉本海男. 1998. 高知市における春期のサシバの渡り. Strix 16: 121-126.

大畑孝二・下野伝吉・丸谷 聡. 1998. 加賀市片野鴨池における休息用人工物設置の水鳥類の利用状況. Strix 16: 127-134.

石塚 徹・臼井総一・手井修三・長井 晃・三浦淳男. 1998. 金沢市でみられたクロウタドリの造巣行動. Strix 16: 135-141.

短報
神崎高歩・箕輪義隆・矢作英三・佐藤浩二. 1998. 航空写真をもちいたスズガモの個体数調査方法の検討. Strix 16: 143-147.

石田 健・高美喜男・植田睦之. 1998. ルリカケスの奄美大島金作原原生林における巣箱利用例. Strix 16: 148-151.

新妻靖章・高橋晃周. 1998. 巣穴営巣性海鳥類コシジロウミツバメの巣箱の形状とその利用率. Strix 16: 152-155.

脇坂英弥. 1998. コンクリート製人工崖で繁殖したカワセミ. Strix 156-159.

岩見恭子・池田 翔・山崎里実. 1998. 高圧線鉄塔でのトビの営巣例. Strix 16: 160-162.

吉田幸弘. 1998. カッコウのカヤクグリへの托卵. Strix 16: 163-166.

平野敏明. 1998. 住宅地で観察されたツミの 2回目繁殖行動について. Strix 16: 167-170.

井上勝巳. 1998. 春期に長崎県対馬を南下するハチクマとサシバ. Strix 16: 171-174.

東 陽一. 1998. タイワンリスによるメジロの巣の卵の捕食. Strix 16: 175-176.
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平野敏明・遠藤孝一・君島昌夫・小堀政一郎・野中 純・内田裕之. 1998. 渡良瀬遊水地における秋冬期のチュウヒのねぐら. Strix 16: 1-15.
 栃木県藤岡町渡良瀬遊水地で1994年10月~1995年 3 月,1995年10月~1996年 3 月,1996年10月~1997年 3 月の 3 越冬期にチュウヒのねぐら入り個体数,ねぐら環境について調査を行なった.
 チュウヒのねぐら入りの時刻は,多くは日没から日没後30分以内であった.朝の飛び立ち時刻は,日の出20分前から10分前が多かった.
 調査地では,1995年 1 月には 9 か所のねぐらで合計26羽,1996年 2 月には 4 か所のねぐらで合計28羽,1996年12月~1997年 3 月には合計 9 か所のねぐらで平均26羽が記録された.特に定期調査地内のねぐらは多くのチュウヒが利用し,各越冬期の総個体数のそれぞれの54%,89%,90%を占めた.
 定期調査地内のねぐらでは,個体数が10月後半から除々に増加し12月後半から 1 月にピークとなった.各ねぐらの個体数は調査日によって異なった.これは、ひとつには 1 羽の個体がいくつかのねぐらを日によって違えているためと考えられた.また,ねぐら周辺のヨシ刈りは,個体数やねぐらの位置に影響をおよぼした.
 チュウヒがねぐらとして利用した環境は,高さ 1 m以上の植物が7.2~25.8本/m2あり、下層植物が35~51.7cmの高さに繁茂した環境であった.ヨシの密生する下層植物のない環境はねぐらに利用されなかった.ねぐらには,夜間チュウヒが利用する寝床が観察された.1997年 1 月にほぼ全域を調査した結果,調査地ではねぐら環境の多くは定期調査地に集中していた.ねぐらとヨシの密生地の気温は, 5 か所中 3 か所でねぐら環境のほうが有意に高かった.
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蔡 煕永. 1998. 低温多雨がニュウナイスズメの産卵間隔と一腹卵数に与える影響. Strix 16: 17-23.
 1994年から1996年に北海道南東部の 2 つの異なる環境において低温多雨がニュウナイスズメの産卵間隔と一腹卵数に与える影響を調べた.1996年の 5 月に北海道では非常に低い気温と多量な降水量が記録された.1994年と1995年において産卵はほぼ 1 日に 1 卵であったが,1996年には 1 日 1 卵の例は54.3%にすぎず, 3 日以上の産卵間隔が多く見られた.1996年の前期繁殖の平均一腹卵数は1994年と1995年に比べて有意に小さかった.ニュウナイスズメの長い産卵間隔と一腹卵数の減少は産卵期間中の急激な気温の低下が原因と考えられた.
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平野敏明・小池重人. 1998. 日光戦場ヶ原周辺における繁殖期の鳥類相の変化. Strix 16: 25-35.
1. 筆者らは,栃木県日光市戦場ヶ原周辺において,1974年~1988年に行なった調査結果と1993年~1997年に行なった結果を比較して繁殖期の鳥類相の変化を調べた.調査値は,針葉樹林,混交林,低木林,湿原の 4 か所である.調査には,ラインセンサス法をもちいた.
2. 針葉樹林では,1988年の繁殖期には合計17種,平均個体数29.6羽,1997年の繁殖期では合計19種,平均個体数30.6羽を記録した.22種中19種では,両調査年度の間で個体数に有意な差はなかった.ルリビタキ,エゾムシクイは有意に増加し,ヒガラは有意に減少した.
3. 混交林では,1974年と1976年の繁殖期には合計28種,平均個体数30.6羽,1993年と1995年の繁殖期には合計29種,平均個体数32.0羽を記録した.34種のうち28種では,両調査年度の間で個体数に有意な差はなかった.マガモ,ミソサザイ,キクイタダキは有意に増加し,カワガラス,エゾムシクイ,センダイムシクイは有意に減少した.
4. 低木林では,1982年の繁殖期には合計30種,平均個体数52.6羽,1996年の繁殖期には合計23種,平均個体数42.2羽を記録した.記録した34種中32種では,両調査年度の間で個体数に有意な差はなかった.ウグイスとホオアカは有意に増加した.
5. 湿原では,1988年の繁殖期に合計19種,平均個体数17.4羽,1997年には合計14種,平均個体数18.8羽を記録した.記録した22種中17種では,両年の間に有意な差はなかった.ノビタキ,ホオアカ,アオジ,スズメは有意に増加し,ホオジロは減少した.
6. 本調査地では,調査期間中著しい環境の変化はなかった.キビタキやサメビタキ,コサメビタキ,メボソムシクイといった夏鳥を含む多くの種で生息状況に変化がないのは,良好な環境が維持されているためと思われた.
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嶋田哲郎. 1998. 新浜における越冬期の水鳥群集の変化. Strix 16: 37-45..
 新浜において,1966年から1990年にかけての土地利用変化が,越冬期の水鳥群集に及ぼした影響を調べた.それぞれの年の水鳥群集を比較するために,種数,平均個体数,密度,種多様性指数,主要種を求めた.1990年の新浜については,クラスター分析をもちいて,調査区ごとの水鳥群集の類似性を検討した.
1. 新浜の面積は1966年から1990年にかけて,1,592haの増加がみられた.また,内陸湿地,干潟の面積が減少し,市街地,海上の面積が増加した.草原,内陸湖沼の面積はほとんど変化しなかった.
2. それぞれの年の水鳥群集を比較すると,種数は減少したが,平均個体数は増加し, 種多様性は下がった.水鳥の生息環境である内陸湿地と干潟の減少やその孤立化による種数の減少と,特定種の増加がその原因であると考えられた.
3. 種ごとの変化をみると,シロチドリやハマシギ,オオバンといった干潟や内陸湿地を好む種が減少し,スズガモやセグロカモメ,ユリカモメといった特定種の個体数が増加した.スズガモは生息地である浅海の減少による集中化,カモメ類はゴミの増加がその個体数増加の一因であると考えられた.
4. 1990年の新浜の地域ごとの水鳥群集を比較すると,新浜保護区と江戸川放水路でみられる内陸性タイプと江戸川河口と行徳沖でみられる沿岸性タイプとに分けられた.またこれらの中で新浜保護区,次いで江戸川放水路が種数,種多様性ともに高かった.今後,新浜全体の保全をすすめていく上で,新浜保護区の環境整備をすすめると同時に,周辺の湿地の保全をすすめて湿地の孤立化を防ぐ必要があると考えられた.
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藤巻裕蔵. 1998. 北海道中部・南東部におけるハシボソガラスとハシブトガラスの生息状況. Strix 16: 47-54.
 1976~1997年の4月下旬~6月下旬(高標高地では7月下旬)に北海道中部と南東部においてハシボソガラスとハシブトガラスの生息状況を調べた.調査路457か所におけるハシボソガラスの出現率は,農耕地79%,住宅地71%,農耕地・林65%で,森林では観察されないか,観察されても11~15%と低く,垂直分布ではおもに標高400m以下で観察された.調査路 2 kmあたりの観察個体数は,住宅地で1.9±3.1羽と多く,ついで農耕地と農耕地・林で1.4±1.4,1.0±1.4羽であったが,森林では少なかった.ハシブトガラスの出現率は,森林では40~90%,住宅地88%であったが,農耕地・林や農耕地では45,43%と低かった.垂直分布では低地から高標高地までほぼ同じような出現率であった.調査路2kmあたりの観察個体数は,住宅地で4.9±7.3羽と多かったが,その他の環境では全般に少なく,常緑針葉樹林の1.6±1.1羽以外では0.3±0.5~0.9±2.0羽であった.出現率と観察個体数は森林ではハシブトガラスの方で,農耕地ではハシボソガラスの方で多く,住宅地では差がみられなかった.
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岡 徹・中村雅彦. 1998. 上越教育大学構内における非繁殖期の鳥類相 -多雪地域において積雪が鳥類群集に与える影響-. Strix 16: 55-66.
 多雪地域において積雪が鳥類群集に与える影響を研究するため,1992~1997年の非繁殖期( 9 ~ 2 月)に上越教育大学構内においてラインセンサス法,定点観察法とかすみ網による捕獲法をもちいて鳥類相と各種鳥類の個体数を調べた.調査地内で28科67種の鳥類を確認し,30種489個体を標識した.鳥類相の季節変化および積雪前後の種組成と各種鳥類の個体数の比較から,確認できた67種は,繁殖期から出現していた夏鳥( 1 種),降雪前の12月までに調査地から消失する種( 5 種),積雪期にのみ消失する種(10種),積雪期に個体数が減少する種( 6 種),積雪に関係なく安定した個体数を維持する種(18種),通過種(27種)の 6 タイプに分類できた.池を生活場所とするカモ類,地表を主な採食場所とするツグミ類,ホオジロ類などの鳥類に対して,水面の凍結や地表の積雪は調査地からの消失や個体数の減少といった影響を与える一方,キツツキ類やカラ類などの樹上採食種やカラスやスズメといった人間生活に深く関わる鳥は積雪前期,積雪期とも安定した個体数と出現率を維持した.
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植田睦之. 1998. 東京都の緑地における開放巣性小型鳥類の低い繁殖成功率. Strix 16: 67-71.
 東京都中西部の住宅地に囲まれた小規模な緑地 6か所で鳥類の繁殖成功率についての調査を行なった.キジバト,ヒヨドリ,カワラヒワ,オナガの開放巣性の小型の鳥では繁殖成功率が22~33%と低かったのに対し,捕食を受けにくいと考えられるコゲラ,シジュウカラ,ムクドリ,ツミ,ハシブトガラスの樹洞営巣性や巣防衛性の鳥は72.5~91.7%と比較的高かった.
 繁殖の失敗の原因がわかった例は少なかったが,多くは巣内の卵やヒナが消失しており,捕食による失敗と考えられた.捕食者の特定ができた31巣のうち29巣はハシブトガラスだった.したがって,東京の緑地の開放営巣性の鳥の繁殖率が低いのはハシブトガラスによる高い捕食圧のためと考えられた.
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石田 健・高美喜男. 1998. アマミヤマシギの相対生息密度の推定. Strix 16: 73-88.
 アマミヤマシギの 1羽に試験的に13.5 gのネックレス式発信機を装着し,2月 2日から 8月27日にかけて位置を測定して行動圏を推定した.この個体は,1日あたり 6~9 haの範囲を利用していた.ほとんど動かない時期もあった.7か月間の行動域を合わせると約20haだった.8月27日以降は電波が受信できなくなったが,その原因は不明である.
 1990年 6月,1991年 3月,1996年12月,1997年 2月および 3月に行なった自動車センサスによって,冬期の12月以外には,林道上で多くの個体を観察した.ヒナが巣立つ時期の 6月にもっとも個体数が多く,12月にはきわめて少なかった.12月に少ないことは,一部の個体が渡りをして奄美大島からいなくなっていることに原因がある可能性を示唆した.移入捕食者のマングースの分布域で観察密度が低いと推定され,マングースの駆除が望まれる.
 繁殖期の自動車センサスによる林道上での観察密度は,ラジオ・テレメトリー法によって評価した行動圏の広さに相当する結果を示していた.自動車センサス法は,アマミヤマシギの相対的な個体数を評価するのに有効であると判断された.しかし,一部の地域ではヒトの活動によって林道上でのアマミヤマシギの行動が撹乱されており,正確な相対個体数の変動を評価するのが難しくなっていることを指摘した.
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岩崎由美・市石 博. 1998. 伊豆大島・利島におけるカラスバトのねぐら. Strix 16: 89-98.
1. 伊豆大島および利島のカラスバトのねぐらにおいて,1995年から1997年にかけて個体数の季節変動,冬期の複数のねぐらにおける個体数,ねぐら内の行動,ねぐら周辺のセンサス調査を実施し,大島北西部,利島におけるカラスバトの個体数の推測,冬期のねぐらタイプおよびねぐらが成立する条件について考察した.
2. 1996年 2 月には大島北西部で58個体,1997年 2 月には大島北西部で78個体,利島で96個体のカラスバトが確認された.
3. 本種のねぐらにはおもに冬期から春期にかけて利用されるねぐらと,その他の季節にも利用されるねぐらがあることが確認された.
4. 冬期のねぐらには少なくとも以下の 3 タイプのねぐらが確認された.A;ねぐらのある特定部分に個体が集中し,鳴き声や枝移り等の行動が活発に観察されるタイプで,個体数が最も多い.B;個体間距離はやや離れており,活発な行動はみられないタイプで,個体数が10から20個体前後.C;集団を形成せず 1 あるいは 2 個体でねぐらをとるタイプ.
5. 採食地や休息地が周辺に存在すること,防風地形がねぐらの成立条件のひとつになっていると推察された.
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鈴木弘之. 1998. 聞き取り調査に基づく広島市八幡川河口周辺のツバメの営巣状況. Strix 16: 99-108.
1. 広島市八幡川河口周辺において,1997年 6 月にツバメの分布と繁殖状況について調査した.調査は現地において確認および,聞き取りにより行なった.
2. 営巣数は件数で127件,巣の数は186個確認した.営巣密度は今回利用が認められたもののみを対象とすると1.71巣/km2,利用は確認されていないが巣の外見がほぼ完全のものを対象とすると3.50巣/km2であり,同様な環境条件と考えられる都市部,河川周辺地域などの密度と比べるとかなり低かった.
3. 聞き取り調査の結果,本地域においては20年以上前からの繁殖が確認された.10年以上前からのものよりも,10年以内のものが多く,比較的新しいものが多かった.
4. 聞き取り調査の結果,繁殖の阻害要因はヒナの転落が29件,カラスによるもの22件,(巣材の不足などで)巣がつくりにくい10件,子供のいたずらによるもの 5件,猫によるもの 4 件,ヘビによるもの 1 件,人間によるもの 2 件であった.
5. 聞き取り調査の結果,本調査地においては巣材となる泥の量や質が繁殖を制限する一つの要因となっていると推定される.
6. 聞き取り調査の結果から,人々のツバメに対する関心度を探ってみると,過去の繁殖回数,阻害要因,今年の渡来時期,生活経過,巣立ちビナの数などについて基礎的な情報が得られた.特に回答者が店舗所持者あるいはその家族の場合は,営巣状況を全く把握していないと答えたものはなかった.また,転落したヒナに対して拾い上げをしたり,巣が落ちないように手助けをしたりといったツバメの繁殖に対して人が手助けをしていることが多く,生活空間を共にしている営巣場所の所持者(商店主など)がツバメを見守っていることが窺える.
7. 営巣の地理的な分布の状況をみると全体の約 7 割が商店街に集中していた.
8. 営巣の建築物種別営巣状況をみると住宅,事務所など,商店がそれぞれ 2 件,12件,112件であり,商店に営巣しているものが多かった.
9. 本調査地においてはカラスによる阻害の危険を低める構造物特性のため,商店といった営巣場所を選択していると考えられる.
10. 営巣場所の特性により繁殖状況に差がみられ,外側から見える露出した場所に造巣したものと,店舗軒内などの外側からは直接見えない場所に営巣したもののうち,下から覗いた見やすさで 2 つにわけた場合,今年の利用状況を比較すると見にくい場所にある巣の利用が有意に多かった.なお,この理由として繁殖の阻害要因としてカラスがあげられている拠点と開放度の関係をみると,閉鎖空間のほうがより開放的な空間よりも低く,有意差が認められ,捕食者(カラス)の影響が 1 つの要因となっていると判断できる.
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井上勝巳. 1998. 長崎県五島列島福江島を秋期に渡るタカ類. Strix 16: 109-120.
 筆者は1996年 9 月21日から10月 6 日までの16日間と,1997年 9 月20日から10月 4 日までの15日間に,長崎県五島列島・福江島でタカ類の渡り調査を行なった.調査の集計には,筆者以外の調査記録として山田一太氏(1996年 9 月20日)と,竹上修氏(1997年10月 5 日)山田氏(1997年10月 6 ~10日)を採用し,ハチクマの渡り状況についてまとめた.
1. 1997年 9 月20日から10月10日までの21日間に13,769羽を記録した.日本国内の 1 調査地点で記録された渡り個体数の最大であり,福江島がハチクマの主要な渡り経路であることが確認された.
2. 1996年の渡りのピークは10月上旬であった. 9 月下旬に飛来数が減少したが,その原因は台風や秋雨前線の降雨がハチクマの渡り移動を停滞させたためと推測された.
 1997年の渡りは 9 月27日から 9 月30日までの 4 日間に46.7%が記録され,10月 6 日以降は0.4%と減少した.周期的な天気の変化以外に,台風の接近や秋雨前線の影響がなかったことから,通常の渡りのピークは 9 月下旬であると考えられた.
3. 渡りは 6 時以前には記録されず,日の出時刻の約 1 時間後までに47.0%~57.7%が飛び立った.
4. 海上へ飛び立ったのちに引き返した個体を1996年に10.49%,1997年に4.94%記録した.引き返しの要因として風向,風力,天気の変化などの気象状況や,飛び立ち時刻などとの関連が推測された.
5. 飛び立つ場所は福江島の西面が大半であり(94.0%),南面はごく少数であることが判明した.飛び去る方向は,磁針方位約260゜を主とした西方向が85.7%,約300゜以北へ12.8%,男女群島方向へ1.4%であった.
 ハチクマ以外にもオオタカ,アカハラダカ,ツミ,ハイタカ,サシバ,チゴハヤブサ,チョウゲンボウの渡りを確認した.
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黒岩哲夫・西村俊彦・橋本裕子・吉本海男. 1998. 高知市における春期のサシバの渡り. Strix 16: 121-126.
 高知市北部で,春期のサシバの渡りを1992年から1997年に観察した.サシバの渡りは, 3 月下旬から 5 月下旬まで観察され,渡りのピークは 3 月下旬もしくは 4 月上旬であった.
 観察されたサシバの総個体数は,多い年で8,000羽以上であった.渡りの観察される時刻は,早朝から夕方までで,出現時刻に一定の傾向はなかった.年齢を識別できた個体数は少なかったが,成鳥は 4 月までに確認され,若鳥は 5 月に確認された.
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大畑孝二・下野伝吉・丸谷 聡. 1998. 加賀市片野鴨池における休息用人工物設置の水鳥類の利用状況. Strix 16: 127-134.
 1995年 9 月に石川県加賀市片野鴨池に環境庁が水鳥の休息用人工物として浮き板,丸太杭と畦を設置した.11月12日から 3 月31日まで,これらの休息用人工物を利用した鳥類を調べた.
 浮き板は16種, 1 日平均90.1羽,丸太杭は 4 種, 1 日平均7.5羽,畦は12種, 1 日平均65.2羽の利用があった.これらのことからどのような条件で多くの利用がある若干の考察を行った.
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石塚 徹・臼井総一・手井修三・長井 晃・三浦淳男. 1998. 金沢市でみられたクロウタドリの造巣行動. Strix 16: 135-141.
 1997年 6月上旬に石川県金沢市の公園内のクロマツ林において,造巣中のクロウタドリ雌を発見した.その後,巣に出入りする行動が約50日間みられた.日本における本種の初めての繁殖行動である.クロウタドリが消失した 7月下旬まで,7日間にわたり断片的なビデオ撮影を行ない,訪巣頻度や在巣時間,発声行動を調べた.8月に営巣高や巣の大きさを測定したが,巣内に卵は確認できなかった.しかし,雄の個体がみられずに長時間,長期間の入巣がみられたことは,未受精卵の抱卵を示唆するものと考えられた.

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