平野敏明. 2002. 宇都宮市の住宅地周辺におけるツミの繁殖状況の変化 −おもにハシブトガラスとの営巣資源をめぐる競合から−. Strix 20: 1-11
山本浩伸・大畑孝二・桑原和之. 2002. 片野鴨池で越冬するマガモの採食範囲
−片野鴨池に飛来するカモ類の減少を抑制するための試み II−. Strix 20: 13-22
渡部通. 2002. 新潟県東蒲原地方におけるキバシリの分布と繁殖習性. Strix 20:
23-29
林暁央. 2002. 雄キジのさえずりと繁殖行動. Strix 20: 31-38
藤本和浩・中村和則・伴恭則・山口繁登・西山幸佑・太田厚穂・加藤幸久. 2002.
浜名湖周辺に生息するカワウの観察 -新居町中之郷コロニーを中心として-. Strix
20: 39-49
黒沢令子・金井裕・浜口哲一. 2002. 都市におけるハシブトガラスと生ごみの関係III
-東京都と隣接する川崎市の比較-. Strix 20: 51-59
木憲太郎・上田恵介. 2002. 日本国内におけるカラス・カモメ類の貝落とし行動の分布.
Strix 20: 61-70
高美喜男・藤本勝典・川口和範・川口秀美・石田健. 2002. オオトラツグミの初めて観察された巣立ちまでの営巣経過
2例. Strix 20: 71-77
川那部真・市田則孝・金井裕・川崎慎二・藤巻裕蔵・佐藤文男. 2002. 北方四島の鳥類相.
Strix 20: 79-100
渡辺朝一. 2002. コハクチョウの食圧で,冬期に地下茎を除去されたマコモ群落の翌夏の成長.
Strix 20: 101-105
富高裕二・山本兆司. 2002. 九州北東部における春のハチクマの渡り. Strix 20:
107-115
自然保護アピール
早矢仕有子. 2002. 「絶滅危惧種ウオッチャー」の増加がシマフクロウに与える影響.
Strix 20: 117-126
短報
吉居清. 2002. タカ目鳥類の渡り時の飛翔速度. Strix 20: 127-130
渡辺朝一. 2002. 草本類の根元部分を選択的に採食するオオヒシクイの採食行動.
Strix 20: 131-135
嶋田哲郎・鈴木康・石田みつる. 2002. 糞分析法による越冬期のマガンの食性.
Strix 20: 137-141
佐藤重穂・佐藤ゆかり. 2002. ムクドリによるスズメの巣への攻撃事例. Strix
20: 143-148
中村純夫. 2002. 給餌場に集合したカラスの個体数変動. Strix 20: 149-152
石毛久美子・伊澤雅子・上田恵介. 2002. 亜熱帯マングローブ林でのメジロを核にした混群形成.
Strix 20: 153-158
林英子・早川雅晴・増田直也. 2002. 国内で初めて屋上営巣したコアジサシの繁殖状況について.
Strix 20: 159-165
伊藤良昭・赤塚隆幸. 2002. オオヨシキリによるモンシロチョウの捕食. Strix
20: 167-169
對馬昭三. 2002. オオセグロカモメによるアマツバメの捕食の観察. Strix 20:
169-171
平野賢次・橘映州. 2002. 日本におけるシロビタイジョウビタキの初記録. Strix
20: 171-173
平野賢次・尾崎雄二. 2002. 石川県におけるヤドリギツグミの初記録. Strix 20:
175-176
矢田新平. 2002. 石川県におけるフルマカモメの初記録. Strix 20: 177-179
脇坂英弥. 2002. 島根県におけるリュウキュウヨシゴイの初記録. Strix 20: 181-183
大杉建二. 2002. 静岡県におけるアメリカオオハシシギの記録. Strix 20: 185-187
大門久之. 2002. 石川県におけるズグロカモメの初越冬記録. Strix 20: 189-190 |
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| 平野敏明. 2002. 宇都宮市の住宅地周辺におけるツミの繁殖状況の変化 −おもにハシブトガラスとの営巣資源をめぐる競合から−.
Strix 20: 1-11 |
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栃木県宇都宮市の住宅地周辺における16か所の営巣地で,1989年から2001年の12年間,ツミの繁殖状況を調査した.1990年代初期,中期,後期の巣立ちヒナ数は,それぞれ2.18±1.66羽,2.19±1.83羽,2.71±1.81羽で,これらの間に有意な差はなかったが,繁殖つがい数は,1990年代初期に著しく増加したのち,中期以降は減少傾向にあった.数年に渡って継続的に繁殖していたにもかかわらず,6か所の営巣地では繁殖をやめてしまった.これらの営巣地の多くではハシブトガラスが新たに繁殖したり,個体数が増加したりした.一方,ツミはアカマツを営巣木として選好したが,ツミが営巣していない良好なアカマツ林があるにもかかわらず,90年代中期以降,営巣木におけるアカマツの占める割合は減少した.これもハシブトガラスによる妨害のためである.宇都宮市の住宅地周辺では、90年代中ごろからハシブトガラスの繁殖個体数が増加している.したがって,調査地におけるツミの繁殖つがい数は,今後ハシブトガラスによる妨害のために減少する恐れがある. |
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| 山本浩伸・大畑孝二・桑原和之. 2002. 片野鴨池で越冬するマガモの採食範囲
−片野鴨池に飛来するカモ類の減少を抑制するための試み II−. Strix 20: 13-22 |
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1. 片野鴨池で越冬するマガモの採食行動範囲を電波発信機をもちいて調べ,水田環境の変化とマガモの個体数の関係を検討した.
2. マガモは片野鴨池から11km以内の,おもに加賀市内の水田で採食した.
3. マガモの個体数と加賀市内の水田の暗渠排水工事の累積実施面積のあいだには有意な負の相関があった.また,イネの作付け面積とマガモ個体数のあいだには有意な正の相関がみられた.
4. 片野鴨池で越冬するマガモの個体数の減少には水田環境の変化が関係していると考えられたので,マガモの個体数の減少を抑制するためには,農家と協力し水田環境を整えることが有効である. |
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| 渡部通. 2002. 新潟県東蒲原地方におけるキバシリの分布と繁殖習性. Strix 20:
23-29 |
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福島県に隣接した新潟県東蒲原地方において,キバシリの生息状況を調査し,次の結果を得た.
1. 繁殖期における本種の生息域は標高50〜1050mの範囲にあり,ブナの優占する天然林をはじめ一部は標高50〜400mのコナラを中心とした二次林や,集落に隣接したスギ人工林にも生息していた.
2. 巣は標高110mに 1例,120〜325mに 4例,そして680〜1050mに 4例認められ,ほぼ同緯度にある中部山岳の事例より低い標高地にあることがわかった.
3. 巣は地上から0.3〜7.5m,平均3.5mの高さにあった.営巣場所は 9例中,枯損木の裂孔部が 1例,樹皮の脱落した陥没部が 2例,そしてキツツキの古巣を利用したものが 6例であった. |
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| 林暁央. 2002. 雄キジのさえずりと繁殖行動. Strix 20: 31-38. |
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1. さえずりの主な機能は雌の誘引となわばりの防衛にあるといわれる.雄キジのさえずり頻度の日周変化では,日の出30分前から5時間の時刻に頻繁にさえずり,その後は回数が著しく減少している.これは雄キジが早朝の5時間に活発に雌を誘い,他の雄に対してなわばりを防衛しているものと考えられる.
2. さえずり頻度の季節変化は1998年,1999年とも同様の傾向を示し,第 1の高い山と第 2の低い山が見られる.雄キジは季節の後半にも再度さえずりを活発化させているものと思われる.
3. 雌同伴行動時のさえずりは,その回数が単独行動時に比べて14%に減少した.これは「雌の誘引」の必要性が低下したためと考えられ,この時のさえずりは他の雄に対する自己の存在を示す「なわばりの防衛」の機能が強くなっているのではないかと推測される. |
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| 藤本和浩・中村和則・伴恭則・山口繁登・西山幸佑・太田厚穂・加藤幸久. 2002.
浜名湖周辺に生息するカワウの観察 -新居町中之郷コロニーを中心として-. Strix
20: 39-49 |
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浜名湖にある新居町中之郷コロニーにおいて,カワウの個体数の季節変化,繁殖状況を調査した.また,舞阪町舞阪コロニー,舞阪町吹上コロニー,中田島町海浜公園コロニーではカワウの生息状況を調査した.その結果,新居町中之郷コロニーは
1年を通して利用され,繁殖は 2月から 8月にかけて行なわれていた.中之郷コロニーにおける1996年に確認された巣数は最大463個であり,巣立ちまで成長するヒナは
1巣あたり1.6羽程度と推定された.中之郷コロニーでは1996年から2000年まで,舞阪町舞阪コロニーでは1996年から2000年まで,中田島町海浜公園コロニーでは1999年から2000年まで繁殖が確認された.舞阪町吹上コロニーは2000年に繁殖が確認された. |
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| 黒沢令子・金井裕・浜口哲一. 2002. 都市におけるハシブトガラスと生ごみの関係III
-東京都と隣接する川崎市の比較-. Strix 20: 51-59 |
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東京周辺で,何らかのごみもしくはカラス対策を独自に実施している自治体を対象に,2001年冬期に,ルートセンサスを行ない,ハシブトガラスの数と可燃ごみの集積所の数,およびごみの散乱の程度を調べた.その結果の一部を,東京での1999−2000年冬期の同様の調査と比較した.
東京の 4自治体と隣接する川崎市では,ハシブトガラスが優占しており,都心から最も離れて人口密度が低い日野市で有意に少なかった.川崎市では東京の都心部並みにハシブトガラスが多かった.都市化が進み,人口密度が高くなると,ハシブトガラスに好適な生活環境を提供する可能性がある.ごみの散乱防除用具としては,ネットが最も普及していた.しかし,ネット利用率はごみ散乱の状況にあまり寄与していなく,蓋付容器がごみ散乱を防止する用具として優れていると考えられた.また,川崎市のように対策を試行する前に調査を行なった地区では,今後の対策の効果を検証するよい事例となると思われる.今後,さまざまなごみ対策をするに伴って,カラスの数とごみの量,および散乱の状態をモニタリング調査していく必要があると思われる. |
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| 木憲太郎・上田恵介. 2002. 日本国内におけるカラス・カモメ類の貝落とし行動の分布.
Strix 20: 61-70 |
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鳥類の貝落とし行動の分布状況を調べるため,聞き込み調査とアンケート調査を行った.聞き込み調査は北海道から千葉県にかけての太平洋沿岸で行なった.アンケートはメーリングリストと雑誌に掲載した.今回の調査によって,貝落とし行動は日本に広く分布していることがわかった.しかし,分布や観察頻度には偏りがあった.観察された鳥類は
7種におよんだが,ハシボソガラスの観察例がその大半を占めていた.貝の種類は14種類観察された.また,鳥は漁港だけでなく自然環境からも食物を得ており,道路など硬い地面以外にも干潟などの軟らかい地面にも貝を落としていた.投下高度には,0.25mから15mまで広いばらつきがあった.北海道では,長期間にわたって貝落とし行動が観察されていた. |
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| 高美喜男・藤本勝典・川口和範・川口秀美・石田健. 2002. オオトラツグミの初めて観察された巣立ちまでの営巣経過
2例. Strix 20: 71-77 |
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2000年 4月29日と 5月11日に,オオトラツグミの巣を発見し,それぞれ巣立ちおよび巣立ち間際まで,5日間に325分と11日間に1,705分,直接観察とビデオ撮影を行なって,営巣行動を記録した.両者とも閉鎖した森林内にあった.前者の巣は,地上約1.8mのツゲモチの木の又にあり,2羽のヒナが
5月12日に巣立った.後者の巣は,地上役1.6mの岩棚にあり,巣立ち間近と思われた
2羽のヒナがいた巣が 6月 2日にハシブトガラスに襲われた.どちらの巣でも,ヒナには主にミミズ類が給餌され,本種の繁殖にとってミミズが豊富に生息する環境が重要であることが示唆された.ハシブトガラスが重要な捕食者の
1つと考えられ,その捕食圧を下げることが,本種の絶滅率を低下させるのに役立つ方法の
1つだと考えられる.
本報に関連する情報や英文による説明を以下のURLで閲覧できる:http://forester.uf.a.u-tokyo.ac.jp/~ishiken/Amami/ |
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| 川那部真・市田則孝・金井裕・川崎慎二・藤巻裕蔵・佐藤文男. 2002. 北方四島の鳥類相.
Strix 20: 79-100 |
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1998年 7月15〜20日と2000年 7月19〜28日に,北方四島の択捉島,国後島,色丹島およびそれらの周辺海上において鳥類の生息状況を調査した.その結果,陸上および海上をあわせて合計15目35科98種の鳥類が観察された.
択捉島では38種の鳥類が観察された.山地地形が多かったが,河口や低地には大規模な湿原が発達し,海岸には砂浜草原がみられた.森林では,アカゲラやアカハラ,コルリ,ウソ,ホシガラスなどが観察された.草原や湿原では,アオサギ,オオジュリン,シマセンニュウ,ノゴマ,ヒバリなどが観察された.
国後島では68種の鳥類が観察された.山地地形が多く存在したが,河口や低地には湿原が発達し,海岸には砂浜草原がみられた.森林ではコマドリやルリビタキ,キクイタダキ,ヒガラなどが観察され,草原や湿原ではアオサギ,ヒバリ,シマセンニュウ,オオジュリン,カワラヒワなどが観察された.
タンチョウは,国後島ケラムイ岬でつがいと思われる成鳥が 2羽観察された.また,これらの個体を観察した湿地で,古巣が発見された.これは,過去数年間にわたって繰り返し使用されたものであり,繁殖は確認できなかったものの重要な発見となった.
シマフクロウは,国後島東沸湖周辺やドマセワ川沿いで痕跡ないし個体が観察された.営巣木や繁殖に関する徴候は確認できなかった.国後島におけるシマフクロウの生息環境は,針葉樹の純林に近い環境に,オオバヤナギやダケカンバなどの広葉樹が点在する環境であった.これは,広葉樹林や針広混交林が広がる北海道の生息環境とはやや異なっていたが,このような環境もシマフクロウの本来の生息場所のひとつであると考えられ,人手が加わっていない本種の生息環境の一端を示唆するものと考えられた.
色丹島では33種の鳥類が観察された.島は全体が平坦な地形と丘状の地形からなり,大規模な樹林の発達はみられなかった.観察種は,シマセンニュウやオオジシギ,カッコウ,ヒバリ,アオジなどの森林周辺部から草原を好む種が主体であった.沿岸部は複雑に入り組んだ海岸線を形成しており,ウミウ,ヒメウ,チシマウガラス,シノリガモ,オオセグロカモメ,ケイマフリ,エトピリカなどが生息していた.
海上および沿岸域では29種の鳥類が観察された.沿岸域ではケイマフリやエトピリカ,ウトウ,チシマウガラスなどが観察された.北方四島にはこれらの海鳥にとって良好な環境が多く存在するものと考えられた.
北方四島の鳥類相は,北海道の中でもとりわけ道東地域と類似していた.しかし,アオバトやコヨシキリ,ヒヨドリ,コムクドリなどのように北海道では普通にみられる種が,少ないかあるいは全く観察されないなどの違いもみられた. |
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| 渡辺朝一. 2002. コハクチョウの食圧で,冬期に地下茎を除去されたマコモ群落の翌夏の成長.
Strix 20: 101-105 |
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茨城県菅生沼のマコモ群落において,冬期にコハクチョウが地下茎を採食した場所,していない場所にそれぞれ方形枠を設定し,コハクチョウ渡去後の地下茎,一夏を経過した後の地上部の現存量を調べた.地下茎には,採食により除去された後が認められたが,マコモは地下茎を除去された場所においても地上部は翌夏には旺盛に成長した.ハクチョウの食圧によりマコモ群落が攪乱を受けている伊豆沼との比較で,若干の考察を加えた. |
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| 富高裕二・山本兆司. 2002. 九州北東部における春のハチクマの渡り. Strix 20:
107-115 |
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九州北東部にあたる大分県北部に位置する八面山にて,1995年から 7年間のハチクマの春の渡り調査をまとめた.
1. ハチクマの春の渡りは 4月上旬から 6月上旬まで観察され,渡りの最盛期間は 5月中旬であることが確認された.
2. ハチクマの春の渡り総個体数は年により増減の変化あるが,少なくとも150羽から400羽以上の個体が渡っていることが明らかとなった.
3. 特定の時間帯に渡るという傾向は認められなかった.
4. 八面山は,春期,ハチクマが西より飛来し,東または南東へ飛去する渡り経路の途中に位置しているのが確認された.福岡市など九州北西部との渡り経路のつながりについては断定はできないものの,八面山以西にて東進するハチクマやサシバの渡りの観察例もあることから,春期,九州北部を西から東へ横断移動するタカ類の渡り経路の存在が考えられる.
5. 八面山での移動コースは一定しており,山頂よりも低い地点の尾根沿いに沿うような移動が多く観察される.当地の東西に走る台地状の地形的特徴が,ハチクマの移動にとり有効な要因となっていると思われる.
6. 2001年度では,ハチクマの移動速度についての調査も試みた.1.5kmの距離区間での直線的滑翔個体の移動時速は,時速45kmであった.
7. 八面山をふくめた九州北東部周辺でのハチクマの春および秋の渡り経路の全容解明については,広域的かつ連続的な連繋調査が必要であり,今後の課題として残る. |
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| 早矢仕有子. 2002. 「絶滅危惧種ウオッチャー」の増加がシマフクロウに与える影響.
Strix 20: 117-126 |
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北海道東部のシマフクロウの生息地において,1987-2000年,シマフクロウをみに訪れたバードウオッチャーと写真家の数を測定した.人数は1999年以降急増し,特に週末は平日よりも1日あたり多くの訪問者を数えた.訪問者は生息地内の人為的給餌場所に集中していた.人為的給餌は,国による保護事業として実施されているが,一方で人の入り込みを助長し,シマフクロウの採食や繁殖に支障が出る可能性が懸念された.したがって,人為的給餌を実施している生息地においては,時期に応じた給餌場所および営巣地周辺への人の入り込み規制措置が必要であると考えられた. |