公益財団法人 日本野鳥の会

新型コロナウイルスの感染拡大の事態にあたって

会長 上田恵介

 ウグイスが鳴き、ヒバリが囀(さえず)るこの時期。本来なら、心はずませて野山へ探鳥に出かけたくなる季節です。けれど今年は新型コロナウイルスの感染が広がり、鳥を見に行くことも控えて、家に閉じこもっている会員も多いことでしょう。身近な方が感染で亡くなられたり、入院を余儀なくされた方もいらっしゃると思います。心よりのお悔やみと、一日も早いご回復をお祈りします。

 また全国の連携団体・支部の皆さまには探鳥会の開催自粛など、感染防止のためにさまざまな協力をいただいています。会長として、改めてお礼を申します。ありがとうございます。

 自然は多くの恵みを私たちに与えてくれる存在ですが、時には私たち人類にとって大きな脅威となることもあります。今回の新型コロナウイルスの全地球規模での感染拡大(パンデミック)は、私たちがこれまでに経験したことのない大規模な自然災害です。しかし自然界において、寄生する細菌やウイルスなどの病原体と、寄生される生物は、お互いに自然界の一員として、長い進化の歴史の中で共存し、共に進化してきた関係にあります。すぐに人が死ぬような強毒性の病原体は、人が死ぬと自分も死んでしまいますから、最終的には進化しません。いろんな病原体が人に病気をもたらすのは、人が自然の一部(自然とつながって生きている存在)であることからくる宿命です。

 過去にもコレラやペストなど、さまざまな感染症が人類を脅かしてきました。しかし今回と異なるところは、過去の感染症は発生地域を中心にして、そんなに広がることはありませんでした。狩猟・採集の時代なら、感染は家族単位、小さな部族単位で終息していたでしょう。しかし現在のグローバル社会において、発達した交通手段と網の目のように張り巡らされた貿易関係は、結果的に世界を「一つの村」状態にしてしまっています。このような状況下でのパンデミックは、20世紀初頭のスペイン風邪を上回るスピードで広がり、大きな被害をもたらすであろうことは間違いありません。

 現在、この未曾有の危機に世界中で多くの科学者や医療従事者、心ある政治家たちが、パンデミック被害を最小限で食い止めようと必死に闘っています。大切なことは、政治家が常に科学者の声に謙虚に耳を傾けて、正しい情報を大衆に届けること、そしてパンデミックが起こっても、被害が最小限ですむように、貧富の格差や戦争で治療が受けられない人が出ないような社会を構築する努力を払うことなのではないかと、私は考えています。

 日本野鳥の会の創設者中西悟堂は、自然に大きな負荷をかける現代文明のあり方に疑問を呈し、人と自然の共生について説いてきました。今回の事態に際して、私たち一人ひとりが、これまでの社会や経済のあり方、人と自然の関係などについて、今一度熟考し、見直す機会にしていくことが大切だと私は思っています。

 現在のこの状況下で、探鳥会など、不特定多数が集まる行事の中止は当然ですが、家に閉じこもっているとストレスも溜まります。自宅から歩いて行ける範囲で散歩をしたりすることまで自粛を要請されているわけではありません。外出の自粛は、人の集まる場所での不特定多数の人との接触を避けるための要請です。人の少ない早朝などに家の周りや公園など身近な場所で、ゆったりと、静かな気持ちで歩きながら、木々を見上げてみてください。メジロやヒヨドリやキジバトなど、これまで見慣れてきた鳥たちの、普段は気づかなかった面白い行動や生態にきっと出会うはずです。私はそれが鳥を見ることの原点だと思っています。

 今しばらくは我慢の時です。会員の皆さんはデマ情報などに惑わされず、正しい科学的知識に基づいて、落ち着いてしっかりとした感染防止の行動をとっていただきたいと思います。日本野鳥の会は組織としても感染の拡大防止に最大限の努力を払うつもりです。

 皆でこの困難を乗り越えていきましょう。引き続き、会への温かいご支援、ご協力をよろしくお願いします。

2020年5月12日改