公益財団法人 日本野鳥の会

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2025年11月10日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

日本鳥学会2025年度大会、おもしろい研究を紹介

今年の夏も酷暑でしたが、会員、サポーターのみなさま、お変わりなく、元気に鳥を見て(聞いて)おられるでしょうか。11月になり、北の国からはハクチョウやガンたちの便りが聞かれます。冬の小鳥たちも出そろって、いよいよ冬ですね。

久しぶりの口頭発表と興味をひかれたノスリの研究

私はこの秋に、札幌の北海学園大学で開催された日本鳥学会の大会に参加して、久しぶりに口頭発表をしてきました。鳥学会で発表するのはもうかれこれ20年ぶりくらいでしょうか?大学にいるときは、学生院生たちが発表してくれるので、私は共著者になっているだけで、自分ではほとんど発表してきませんでした。

今回の発表は私の研究室に在学して修士論文を仕上げたSさんによる、飼育下ペンギンの同性ペアに関する未公開の内容です。この研究については、つい先日、どこで知ったのかアメリカの研究者から問い合わせがあって、これはぜひとも公表しておかなくてはと思った次第です。

自分でもとてもいい内容だと思っていたので、質問の答えも用意していたのですが、久しぶりの口頭発表だったので時間配分がまずく、質問時間が取れなかったことが反省点です(このペンギンの論文は現在、山階鳥類学雑誌に投稿中です)。

口頭発表会場の様子
口頭発表会場の様子

日本鳥学会2025年度大会プログラム
日本鳥学会2025年度大会プログラム(要旨集)

さて今回、口頭発表でおもしろい発表がたくさんあったのですが、その中で私がいちばん興味をひかれた発表を紹介しておきます。それは北九州市立自然史・歴史博物館(いのちのたび博物館)の中原亨さんによる九州地方で越冬するノスリの研究です。

九州地方で越冬するノスリは大陸からの越冬個体も多いのですが、なぜかいつも2羽が仲良く行動していて、この2羽はどういう関係なのだろうかという発表でした。DNA解析でこのペアはオスとメスだということがわかっていました。さらにGPS発信器をつけて追跡したところ、繁殖地を特定することもできました。ところが冬にペアになっていたこの2羽は当然同じ繁殖地に戻って繁殖するのだろうという予想に反して、1羽は大陸に、もう1羽は東北地方に戻って、そこでまた別のつがいを作って繁殖したらしいのです。冬のこの2羽はどんな関係にあったのでしょうか?

ポスター発表の充実と若い才能

ポスター発表は140題にものぼりました。さすがに全部は見切れませんでしたが、興味深い発表がたくさんありました。小中高校生のポスター発表も21題と多く、中にはとてもレベルの高いものもありました。

たとえば愛媛県立今治西高校の木原さんの発表は、四国沿岸に漂着するオオハム類の羽を回収して、その枚数と特徴から、四国沿岸の瀬戸内海で越冬するオオハムの個体数を推定するという、高校生とは思えない大胆かつ科学的なテーマで、とても感心させられました。

小学生の発表にもおもしろい発表がありました。都内の公園の池に生息しているカイツブリを複数年にわたって顔の模様で個体識別して、その社会関係を明らかにするという、むさしの学園小学校の櫻庭君の発表です。そもそも野外で鳥を顔だけで個体識別できるとは、ほとんどの研究者は思っていません(だからカラー足輪を装着したりするのです)。けれどカイツブリについては、1羽1羽、顔のアップの写真を示して説明されると、個体ごとにはっきりした違いがあることがわかります。しかもそれが年を経ても同じ模様であるということまで、櫻庭君は突き止めているのです。すごいなと思いました。

正富宏之先生や藤巻裕蔵先生、阿部 学先生が参加されていたのも、私たち高齢研究者の励みになりました。研究者は死ぬまで現役です。正富先生、藤巻先生、阿部先生、いつまでもお元気で!

黒田賞受賞者の活躍

大会では今年度の黒田賞の受賞講演がありました。受賞者は岡久雄二君。立教大学の私の研究室でキビタキの研究で博士号を取った優秀な若手研究者です。黒田賞は日本の鳥類学の発展に貢献した黒田長禮・長久両博士の功績を記念して、鳥類学で優れた業績をあげ、これからの日本の鳥類学を担う本学会の若手・中堅会員を対象に授与されます。

岡久君は卒業後、環境省の野生生物専門員として10年にわたって佐渡におけるトキの野生復帰事業にたずさわり、放鳥個体群の科学的評価にもとづいて保全施策を推進し、科学的評価にもとづく順応的管理を推進することでトキの野生復帰を成功に導きました。急激に個体数が減っているアカモズについて、長野県を中心として行政・研究機関・地域住民・動物園などを巻き込んだ保護プロジェクトを組織して着実に成果を上げています。

岡久君は研究室にだけ閉じこもることなく、野生鳥類の保全のために広く個人、組織を巻き込んでプロジェクトを進めていけるリーダーになってくれました。大学院で彼を指導した一教員として、とても誇らしく思っています。

最後に、日本鳥学会はむずかしいことばかり言っている学者だけが集まっている学会ではありません。実用技を学ぶ「鳥の教室」や「公開講演会」、大会の前後に開催場所の近くの鳥のスポットを訪れるエクスカーションもあります。小中学生も、シニアも、鳥が好きで鳥のことをもうちょっとだけ知りたい、野外で鳥がこんなことをしていたけど何の意味があるのだろうというような、ちょっとした疑問をもたれた方は、どうぞ学会の大会に参加してみてください。

大会会場の北海学園大学
大会会場の北海学園大学


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プロフィール

日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

「国際サシバサミット2025宇検村奄美大島」に参加して

サシバサミット会場入り口にて(右が上田会長、左が私)
サシバサミット会場入り口にて(右が上田会長、左が私)

10月25日、26日の二日間、鹿児島県奄美大島・宇検村で開催された「国際サシバサミット」に参加してきました。同行したのは、上田会長をはじめ、私の地元・栃木県市貝町の町長や職員、そしてサシバの調査・保護をともに進めているオオタカ保護基金の仲間たちです。

このサミットは、絶滅危惧種であり渡り鳥でもあるサシバの保全と、それを活かした地域づくりを目指して始まった国際的な取り組みです。2019年、栃木県市貝町での第1回を皮切りに、2021年は沖縄県宮古島市、2023年は台湾・満州郷、2024年はフィリピン・サンチェスミラ市と、繁殖地・中継地・越冬地を巡りながら続いてきました。そして今回、5回目となる大会が、6年ぶりに日本の地で、しかも対面で開催されました。会場には約850人もの参加者が集い、南国の空気の中に熱気と希望が満ちていました。

野鳥写真家や国内外の専門家、子どもたちの発表

初日は基調講演や海外からの報告、小中学生による発表が行われました。なかでも印象深かったのは、宇検村出身の野鳥写真家・与名正三氏らによる講演「サシバはなぜ奄美大島を越冬地として選ぶのか?」です。島の約7割を占める照葉樹林にエサとなる多くの小動物がすみ、ねぐらとなる沢が多い、そのような豊かな自然環境が2000羽を超えるサシバの越冬を可能にしていると話されました。

また、フィリピンや台湾からは、無計画な再生可能エネルギー施設の設置が渡りルートや生息地を脅かす懸念が報告され、一方で韓国からは繁殖や観察の事例が増えているという明るい話題も届けられました。さらに、奄美大島、市貝町、宮古島市の小中学校による発表(市貝と宮古島はビデオレター形式)では、子どもたちの元気あふれる声が響き、サシバを愛し守ろうとする輪が世代を超えて広がっていることに深く胸を打たれました。

基調講演を行う与名正三氏ら
基調講演を行う与名正三氏ら

サシバ保全を通じて持続可能な未来をつくる

二日目は、日本、フィリピン、台湾の各地からサシバの生息地を抱える首長が集まり、「首長サミット」が開かれました。議題は、サシバの保全を通じた地域づくり。農業や観光、教育など、地域の特色と結びつけながら持続可能な未来をどう描くかが、議論されました。

最後には、(1)サシバなどの渡り鳥とその生息地の生物多様性保全、(2)自然資源の持続的活用と地域課題の解決、(3)次世代への教育と文化の継承、(4)顔の見える国際交流とネットワーク拡大の4項目からなる「サミット宣言」が採択されました。

サミット宣言を行う首長ら
サミット宣言を行う首長ら
エキスカーションでサシバとその越冬環境を観察する
エキスカーションでサシバとその越冬環境を観察する

今後も、このサミットが、サシバのように国や地域をつなぎ、豊かな自然と文化を次の世代へと渡す架け橋となることを願ってやみません。次回、第6回国際サシバサミットは、2027年春、サシバの中継地・越冬地であるフィリピン・ヌエヴァ・ヴィスカヤ州で開催される予定です。


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