
2026年5月7日 更新

熊井の森
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いまこれを書いている4月の初めは、関東平野では野山に色とりどりの花が咲き乱れる季節です。フクジュソウやカタクリの花はスプリングエフェメラル(春の妖精)と呼ばれて、よく知られていますが、早春のこの時期には、いろいろな花が咲いています。
私が住んでいる埼玉のニュータウンの近くに、通称“熊井の森”と呼ばれている里山があります。ヤマザクラが咲き、コナラの新芽も芽吹きはじめ、キブシやウリカエデは淡い黄色の地味な花をつけています。山一面がパステルトーンのいわゆる「山笑う」という情景に一変する、気持ちのいい季節です。小道の両側にはクサイチゴやモミジイチゴが白い花をつけています。
クサイチゴ

ヤマザクラ

ウリカエデの花
この熊井の森、私が今のニュータウンに住み始めた頃、ゴルフ場の建設が計画されていましたが、ゴルフブームの衰退で頓挫して、山林のまま放置されています。モミの木がたくさんあって、サシバやノスリ、フクロウ、それにミゾゴイもすんでいる良好な自然環境が残った里山です。
隣町で開業している獣医師のKさんご夫妻が、ここでアライグマの駆除に取り組んでいます。熊井の森にアライグマの罠を仕掛けて、3月から6月まで、夫婦で毎日見回っているという話を聞き、“毎日が日曜日”のような私もお手伝いしようと、シフトを組んで罠の見回りをしています。まだ私の見回りの日にはアライグマは捕まっていませんが、もし罠にかかっていたら、すぐKさんに連絡をして回収に来てもらうことになっています。


アライグマは、全国的に個体数を増やしており、環境省の調査によると、すでに北海道から鹿児島県にかけての日本のほぼ全域に分布を拡大していることがわかっています。まったく確認されていないのは沖縄県くらいです。奄美大島に持ち込まれて固有種に害を与えていたマングースは根絶されましたが、全国に広がった数百万頭とも言われるアライグマの対策はどうしていけばいいのでしょう。
アライグマのエサは自然環境下では、主にカエル類やサンショウウオ類、ザリガニなどですが、鳥の巣も襲って、卵やヒナを捕食します。私も研究用に近くの林にかけていた巣箱をアライグマに荒らされて、シジュウカラの卵やヒナがやられたことがあります。基本的に雑食性なので、スイカやトウモロコシなどの農作物にも大きな被害を与えています。また、マダニなどが関わる人獣共通感染症も大きな問題になっています。
いま全国でシマエナガが「かわいい!」とブームになっていますが、北米原産のアライグマの問題も、もともとは“かわいい”からはじまりました。テレビアニメに登場するアライグマがかわいかったことから、“かわいい”ブームがはじまり、日本中で一気にペットとしての飼育が広がりました。最初は家庭で飼育されていましたが、じつは気性の荒いアライグマは簡単には人になつきません。成獣になってうっかり噛まれると思わぬ怪我をすることから、扱いに困って、野外に放してしまった人も多かったのでしょう。現在のアライグマ問題はそこからはじまっています。
アライグマ被害に対しては、各市町村でも駆除対策が取られていますが、なかなか数が減ったようには見えません。先は見えない状況ですが、とにかく根絶をめざして地道に捕獲をつづけていかねばならないと思っています。
ちなみにアライグマは「特定外来生物」に指定されているので外来生物法の駆除対象になっており、狩猟免許がない市民でも埼玉県が行う研修会を受講して「捕獲等従事者」の登録をすれば捕獲できます。私も今年の研修を地元で受けるつもりです。

この春も、私が所属するNPO法人オオタカ保護基金が保全している栃木県市貝町の湿地では、たくさんのニホンアカガエルが産卵してくれました。
この湿地は、丘陵に入り込む細長い谷津の最上流部にあり、もともとは水田でした。しかし、農家の方が高齢で耕作をやめたため、長い間ヤブに覆われていました。そこで私たちは2010年から約0.4ヘクタールを借り受けて環境の復元を始め、2年間ほど稲作を行った後、現在は湿地として維持管理をつづけています。

水が入った湿地
管理の目的は、谷津特有の動植物がくらせる環境を取り戻し、守っていくことです。特にニホンアカガエルは、サシバをはじめ多くの生きもののエサとなり、生態系を支える重要な存在です。そのため、産卵に適した浅い水辺を維持することに力を入れてきました。その結果、2011年には69個だった卵塊が、2021年には1700個を超えるまで増加しました。近年はやや減ったものの、現在は700個前後で安定しており、おそらく町内でも最大規模の産卵地になっています。

湿地に産み込まれたニホンアカガエルの卵塊
湿地の維持には手間がかかります。今年も冬の間に草刈りを行い、2月には溜まった泥を取り除き、沢から水を引くための水路を掘りました。そして、産卵が始まる3月上旬までに水を入れることができました。

水路掘り
実は昨年あたりから、卵が消えてしまったり、オタマジャクシが少なくなったりする様子が見られるようになったので、今年はセンサーカメラを設置して調べてみることにしました。
その結果、外来種のアライグマをはじめ、タヌキやイタチなどの哺乳類、アオサギ・ダイサギ・カルガモといった野鳥が湿地を訪れていることがわかりました。成体のカエルだけでなく、卵や孵化したオタマジャクシも、さまざまな生きもののエサになっているようです。

湿地でエサを探すアオサギ(夜間)
今回の調査でも、生態系の中でカエルが果たしている役割の大きさが改めて確認できました。一方で、そのカエルが外来種であるアライグマの影響を強く受けている可能性があるのは見過ごせません。今後は、湿地の維持管理や卵塊のモニタリングに加えて、アライグマの影響を調査し、必要に応じて対策をとる必要があります。

湿地にやって来たアライグマ(夜間)