公益財団法人 日本野鳥の会

トップメッセージ 2021年10月

2021年10月1日更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

新しい局面を迎えたライチョウ保護

オリンピック・パラリンピックの閉幕にあたって

コロナはなかなか収束に向かいませんが、みなさま、いかがお過ごしですか。

前回、開催には反対だと意見表明しましたが、オリンピック、パラリンピックが無事に終わって、良かったと思っています。今でも本心はできれば中止すればよかったという意見に変わりはありません。ですが開催されてしまえば、頑張っているアスリートの姿に励まされることもいっぱいあり、感動的な大会であったと思っています。困難な状況の中、大会運営に携わった関係者のみなさんには人知れぬ多大なご苦労があったと思います。心からご苦労様でしたと申し上げます。

私はコロナに責任ある立場にはいませんが、今はとにかく重症化させない、重症化しても死なせない医療体制の確保が急務だと思っています。そして一生物学者の立場からですが、ワクチン接種とPCR検査をさらに拡大、加速して、クラスターを防ぎつつ、あらゆる場所でコロナウイルスを狭い範囲に封じ込めていくことが大切だと考えています。

北アルプスから中央アルプスへ、ライチョウを移入する試み

暑い夏でしたが、私は8月末に乗鞍岳にライチョウを見に行ってきました(家から車で行ったので、ほとんど人との接触はありませんでしたが、県境を越えてしまいました!)。この時期のライチョウはお天気がいいと出てきません。頂上の駐車場についた時は気温10.5°C、強風で白い霧が吹きつけてきます。そんな中でしたが、今日は出るぞと期待して、大黒岳へ登るとライチョウに会うことができました。夏羽から秋羽(ライチョウは年3回、換羽します)に変わったライチョウが、ハイマツの茂みから顔を覗かせていました。

ライチョウ霧の中、姿を現した秋羽のライチョウ。日本はライチョウの生息地としては世界南端。氷河期に大陸から渡ってきた集団が、氷河期終焉後に本州中部の高山帯に取り残され、2万年にわたり奇跡的に生き残ってきた。

ライチョウの保護は、今、新しい局面に入っています。それは乗鞍岳のライチョウを、すでにライチョウが滅びてしまった中央アルプスに移住・定着させる環境省のプロジェクトです。ライチョウが中央アルプスから滅んでしまったのは、これからも反省の材料として、わざわざ別のところから移住させる必要はないじゃないかとの意見もあります。私もかつて野生のトキが日本から絶滅した時、中国からトキをもらってくる必要はないじゃないかと言う立場でした。大切な鳥を日本列島から失った反省を多くの国民が持ち続けていくべきだと思ったからでした。

けれどトキが復活して、佐渡島の空を舞う情景を見ていると、やっぱり移入してよかったかなと思います。中国のトキと日本のトキには遺伝的な差異はありません。数千年前にはトキの集団は大陸から朝鮮半島、そして日本と、一つにつながっていたのです。

北アルプスと(滅びた)中央アルプスのライチョウも、遺伝的には差はないことがわかっています。滅多には起こらないでしょうが、何十年かに一度、北アルプスから中央アルプスへ、またその逆方向へと、冒険心に富んだ若いライチョウが、いくつものバリアを越えて移動していったのです。なんともロマンを感じる話ではありませんか。

中央アルプスのライチョウはライチョウ研究者の中村浩志さんはじめ、多くの関係者の努力で、順調に繁殖に成功しつつあります。数年後には千畳敷のカールでライチョウの親子連れに会うこともできるでしょう。その日を心待ちに、山を歩ける体力を残しておこうと思います。

北アルプスの最南端にある乗鞍岳にて。
北アルプスの最南端にある乗鞍岳にて。

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日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

秋の花咲くクヌギ植林地

ススキの穂が秋風に揺れ、モズの高鳴きが聞こえてきます。そんな里山の草原には、オミナエシやワレモコウ、ツリガネニンジンなどの可憐な花が咲いています。

この場所は私や仲間たちでクヌギを植えた植林地です。石油やガス、電気を当たり前に使っている今の生活からはちょっと想像できませんが、昭和初期までは炭が広く燃料として使われていました。そのため、里山には炭の原料としてコナラやクヌギが盛んに植えられ、数年から15年ほどの間隔で伐採と更新が繰り返されていました。したがって、里山には伐採直後の草原から収穫直前の林まで多様な環境が存在していました。しかし今では、利用されなくなって放置された林が多くなり、草原も減りました。

オミナエシ
オミナエシ

ワレモコウ
ワレモコウ

ツリガネニンジン
ツリガネニンジン


そんな里山の林を若返らせ、草原から林に至る多様な環境を復元したいと考え、3年前からクヌギを里山に植えて育てています。実は、私の住む栃木県市貝町では、昔からクヌギを原料に茶道で使うお茶炭づくりが盛んに行なわれていました。その炭は切り口が菊の花のように見えることから「菊炭(きくずみ)」と呼ばれ、高級なお茶炭としてブランドにもなっていました。そこで、地元の製炭業者さんと協働で、クヌギの育林と炭の生産を通して里山の林を再生し、生物多様性を守る「サシバの里・菊炭プロジェクト」を始めました。

まだまだ炭の原料になるほどまでにはクヌギは育っていませんが、植林地は秋の花が咲くのにちょうどよい草原になっています。管理のための草刈りは大変ですが、草原性の植物の生育地やサシバの狩場として、そしてクヌギがよい炭の原料に育ってくれることを期待して、日々がんばっています。

草刈り風景(2021年6月)草刈り風景(2021年6月)

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