公益財団法人 日本野鳥の会

トップメッセージ 2023年5月

2023年5月8日 更新

日本野鳥の会 会長 上田恵介

コスタリカ紀行

2月にコスタリカに行って来ました。鳥も多いし、美しいケツアールもいる国だというので、ハチドリが見たいという妻と2人で行って来ました。コスタリカにもう30年も住んで、ツーリストを経営しているSさんにお願いして、11泊12日のツアープランを組んでもらいました。乾季の終わりで、ちょうど鳥たちが繁殖をはじめる季節にコスタリカの北半分を太平洋からカリブ海まで、平地から高地までいろんなところを回ってきました。

多様なコスタリカの野鳥たち

やっぱりメインはハチドリたちですが、構造色は光の当たり加減で、微妙に変化するし、暗いところにいると緑も青も真っ黒に見えます。しかもせわしくブンブン飛び回るので識別に苦労します。それより、綺麗で華やかなのがフウキンチョウ類です。その名の通り、空色のソライロフウキンチョウや真っ赤なホノオフウキンチョウなどが、ホテルの給餌台のバナナに集まってきます。

ヒノドハチドリのオス

ヒノドハチドリのオス

これらきれいな鳥もいいのですが、コスタリカに行って見たかったのは、もっとコアな、南米でしか見られない独自の目(order)や亜目(sub-order)、科(family)の鳥たちです。

たとえばジャノメドリ。これはずっと世界で1科1属1種の鳥と思われていましたが、最近の分子系統解析で、太平洋のニューカレドニアに生息しているカグーと近縁な種であることがわかりました。ずっと孤独な種であったジャノメドリにもカグーにも、近縁の仲間がいたのです。

ジャノメドリ

ジャノメドリ

ヒゲドリは南米のスズメ目タイランチョウ亜目カザリドリ科の鳥です。タイランチョウ亜目というのは、スズメ目の中でも、中南米にだけ生息する鳥たちのグループで、起源の古い、哺乳類でいえば有袋類のようなグループの鳥です。マイコドリ類もこの亜目に属しています。ヒゲドリは熱帯雨林の高木のてっぺんにとまって、「キーン」という、鐘の音のような1キロ四方に響き渡るような途方もなく大きな声で鳴きます。

ヒゲドリ

ヒゲドリ

有名なケツアール(カザリキヌバネドリ)も見ることができました。キヌバネドリ目の鳥は、アフリカ、アジア、中南米の熱地域にだけ生息する鳥で、ブッポウソウ目やサイチョウ目に近い鳥です。コスタリカにはケツアールを含めて、10種が生息しています。高い木の茂みで、枝にそっと止まっているキヌバネドリ類は、地元のガイドがいなかったら、到底、見つけられなかったでしょう。

コスタリカではバードガイドが職業として成立しています。あちこち回りましたが、行くところには地元のガイドが待っていてくれて、鳥を見せてくれました。とくに森の奥深くに、踊り場を持っているマイコドリ類は、オスは1日のうちに数回、そこにやってきて、求愛行動をするのです。素早いし、シャイだし、とても見るのが難しいと思います。

ケツアール

ケツアール

セアオマイコドリ

セアオマイコドリ

バードガイドの重要性

そんなわけで、コスタリカでは地元の鳥を知り尽くしたガイドの重要性をあらためて感じました。日本でもエコツーリズムの一つとしてバードウオッチングをもっと取り入れるべきだとは思うのですが、果たして日本でバードガイドは職業として成立するのでしょうか。

まず日本では一年を通して、多種類の鳥が見られる場所がなさそうです。信州に行って夏鳥を見るとかはいいのですが、どうしても季節限定になってしまいそうです。それからコスタリカでは、ホテルの庭などにハチドリ用の蜜の給餌器や、餌台にバナナなどの果実を置いて、一年中、鳥を呼ぶことができます。熱帯には花蜜食や果実食の鳥が多いからです。日本にはメジロとヒヨドリ以外に花蜜食の鳥はいないし、冬に種子を給餌しても、カラ類以外はそんなにたくさんの鳥は来ないでしょう。

というわけで外国人向けの日本のバードウオッチングとしては、給餌の是非はありますが出水でツルを見せるとか、佐渡でトキを見せるとかの、ごく一部の地域での限定的な取り組みに限られてしまうでしょう。外国人バードウオッチャーが憧れるヤマドリは、そもそも日本のバードウオッチャーでさえ、滅多に見れない種類なので、ヤマドリツアーは難しいと思います。

けれど鳥の好きな若い人が、将来の職業として、誇りを持って働ける専門職としてのバードガイドという職業ジャンルには、今後、もっと目が向けられていいと思います。

コスタリカのバードガイドの方と

コスタリカのバードガイドの方と

コスタリカの自然を満喫

コスタリカの自然を満喫

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プロフィール

日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一

ため池は命の源

例年になく暖かい(暑い?)春。季節があっという間に過ぎていきます。スミレやカタクリをゆっくり愛でる間もなくヤマザクラが咲き、そして今はフジの花の甘い香りが里山に満ちています。新緑の雑木林をバックに、ため池に姿を映して咲くフジの花。今の季節らしい美しい里山の景色です。しかし、この景色。実は今年は見られなかったかもしれなかったのです。

甘い香りが漂うフジの花

甘い香りが漂うフジの花

ため池修復作戦

時は昨年の秋に遡ります。9月24日の台風15号による大雨で、ため池の側面に大きな穴が開き、ため池の水がすべて抜けてしまったのです。我が家の田んぼは、このため池の水を、水路を通じて引き入れて使っているので、ため池に水がないと稲作に必要な安定した水が得られません。加えて、この田んぼは水辺の生きものの生息場所にもなっているので、水が足りなくて干上がってしまったら大変です。

そこで、冬の間に修理をすることになりました。しかし、お金のかかる大掛かりな工事はできないので、ここは何とか知恵を絞って人力でやるしかありません。そこで、穴を広めに囲むように鋼の杭を打ち、周りにワイヤーメッシュを張って強化し、その周囲に土嚢を3段に積んで土手を作りました。土嚢の総数、70個。大人の男3人で、1日がかりの作業でした。その甲斐あって何とか水のたまるため池に戻りました。

杭を打つ
杭を打つ
土嚢を作る
土嚢を作る
ため池に開いた穴の周りに、土嚢を積んで土手を作る
ため池に開いた穴の周りに、土嚢を積んで土手を作る


もうすぐ田植えの季節です。田んぼに水を入れると、いっせいにカエルたちが集まってきて大きな声で鳴きだします。水と一緒に田んぼに入ったメダカやドジョウ、フナは卵を産み、やがてふ化して稚魚になります。それを狙って肉食の水生昆虫やヘビ、鳥もやってきます。田植えとともに命溢れる田んぼがよみがえります。ため池は、その命の源なのです。今回の水抜けと修理を通じて、ため池の大切さを改めて感じました。

水が戻り、フジが咲くため池

水が戻り、フジが咲くため池


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