2024年7月2日 更新
6月2日、富士山のふもとの小山町須走(すばしり)において、地元の日本野鳥の会東富士の主催による「探鳥会発祥の地 90周年記念式典」と「記念探鳥会」に参加してきました。
ここ須走は日本野鳥の会初代会長の中西悟堂が、1934年に日本で初めて野鳥の観察会を開いた探鳥会発祥の地です。当時から、野鳥の宝庫として知られ、この探鳥会には北原白秋や柳田國男、金田一京助、新村出、杉村楚人冠ら、当時の著名な文化人35名が参加していました。
当時、鳥は飼って楽しむものか狩猟の対象であって、野外で鳥を見て楽しむ探鳥という文化は存在しませんでした。そんな時代に「野鳥」という言葉をつくり、「野の鳥は野に」と主張して、探鳥会を始めたのが中西悟堂でした。須走にある冨士浅間(せんげん)神社の境内には、日本野鳥の会創立70周年を記念して、地元の日本野鳥の会東富士(当時の御殿場支部)や町民らの寄付によって中西悟堂の記念碑が建てられています。
会長あいさつのようす。式典は冨士浅間神社で厳かに行なわれた
だから須走は今風に言うなら、日本のバードウオッチャーの”聖地”とも言うべき場所です。しかしそれが会員も含め、多くの人にはまだまだ認識されていないのではないかと、ちょっともどかしい思いを感じています。須走を日本野鳥の会公認の“聖地”として、将来的にいろんな環境整備に取り組んでもいいのではないかと思います。
たとえば余裕があれば、鳥の多い森をサンクチュアリとし土地を買って、レンジャーの常駐するビジターセンターを建設するとか、いろんなアイデアが湧き出てきます。この地を聖地としてもっと宣伝すれば、外国からのバードウオッチャーもたくさん呼び込めるし、それは地元小山町の観光振興にもつながり、大きな経済効果をもたらすと思います。
90年前と同じルートをたどった記念探鳥会
6月2日の探鳥会には、地元の支部・連携団体のメンバーや子供たちとその保護者など、総勢50人以上の参加がありました。どこの支部でもシニアが多いのが普通の光景なのに、ここはやけに子供たちが多いなと思ったら、地元の支部が「東富士キッズ隊」という小学生グループを組織して、富士山をホームグラウンドとした野鳥保護活動に取り組んでいるということを知りました。子供たちが野鳥を通して自然や生態系を学ぶ「キッズ隊」は、支部会員の指導を受けて野鳥観察や富士山のごみを減らすために登山者や観光客への呼びかけ運動にも取り組んでいるそうです。
今回の記念式典では、このキッズ隊の子供たちが中西悟堂作詞の鳥の歌の合唱を披露してくれました。そのうちの一つ、「サンコウチョウ」の番の歌詞を紹介します。
「長い尾をしてホイホイホイ、
森の茂みを抜けてはくぐり、
青いメガネでホイホイホイ」
という子供たちにも歌いやすい、可愛い歌です。
このキッズ隊というアイデアは、全国の他の支部にもどんどん広めていって欲しいものです。
中西悟堂の記念碑の前で、探鳥会参加者一同の記念撮影
いつもは静かな山間の谷津田に、子どもたちの声が響きます。
今日は、私が運営にかかわる「サシバの里自然学校」の「農的暮らし講座」の2回目。田んぼの草取りです。
1回目の5月下旬には、田植えを行ないました。その後、イネの成長とともに雑草が生えてきたので、今回はそれを取り除きます。草取りの方法は、昔から使われてきた「田ぐるま」と最新式(?)の手製の「田こすり」。田ぐるまは、回転する部分に短い鉄製のつめが多数ついており、それを押しながら田んぼの中を進みます。田こすりは、棒の先につけた板の後ろに金具を取り付けて、それを針金で結んだもので、これで田んぼの地面をごしごしこすります。ともに、田んぼの土を攪拌(かくはん)して、雑草を根ごと剥ぎ取ります。これをしないとコナギなどの雑草が一面はびこってしまい、大変です。また、この作業を通じて、イネの根に酸素が送り込まれ、呼吸や発根も促進されます。
ところで、この田んぼに雑草が生えるのは、除草剤を使わずに、無農薬・無化学肥料で米づくりをしているからです。加えて、土水路(小川)と田んぼをつなげて魚や小動物が移動しやすい構造にしています。だから、ここには、たくさんの生きものがいるのです。そこで、草取りの後には、生きもの観察を行なって参加者の皆さんにそれを実感してもらっています。
生きものの生息環境としても重要な田んぼですが、現在農地から多くの生きものが姿を消すなど、持続可能な農業の基盤となる生物多様性が急速に低下しています。そのような中、農政の基本理念や政策の方向性を示す「食料・農業・農村基本法」が、この5月に改正されました。
今回の法改正では「食料安全保障」ばかりに目が行きがちですが、実は「環境」についても前進がありました。「環境との調和」が基本理念に追加され、不十分ながらも施策の柱として環境政策が書き込まれました。日本野鳥の会では、今後も環境NGOや研究者などと連携して、生物多様性豊かで持続可能な農業・食料システムへの転換に取り組んでいきます。
水路と田んぼがつながる谷津田