2012年、2013年にシブノツナイ湖で繁殖したオオジシギ。足に標識のフラグをつけた 撮影/髙﨑成人
日本野鳥の会は、2016年より生息個体数の減少が懸念されているオオジシギの調査と、その生息地である勇払(ゆうふつ)原野(北海道苫小牧市)の保全に向けたオオジシギ保護調査プロジェクトを行っています。
オオジシギは全長約30cm、日本で繁殖しオーストラリアで越冬する渡り鳥です。北海道を主な繁殖地とし、本州や九州、またロシア極東の一部でも繁殖が確認されています。環境省版レッドリストでは、本州中部で生息地が減少しているという理由から準絶滅危惧種(NT)となっています。また、北海道でも十勝地方で行なわれた調査で、1978~91年と2001年を比較して個体数が減少していることが指摘されています(※1)。さらに、越冬地であるオーストラリアでも越冬数が減少しているとされていますが、近年は調査が行なわれていないためよくわかっていません。また、渡りの主要な中継地も把握されていない中、渡りの際に利用すると考えられる内陸湿地の減少も懸念されています。
当会では2000年からウトナイ湖サンクチュアリを中心に、「勇払保全プロジェクト」として勇払原野の鳥類調査を行ない(※2)、05年度末には「勇払原野保全構想報告書」をとりまとめ、行政機関等にその保全を働きかけています。01 ~03年の鳥類調査では繁殖期のディスプレーを確認し、1千29羽のオオジシギに装着した標識やフラグから、当地が重要な中継地であることも判明しました(※3)。10年にわたる働きかけの結果、勇払原野は遊水地としての利用が決定し、湿地環境が確保されることになりました(※4)。一方で、勇払原野はこの10年間でブロッコリーの大規模試験栽培用地として利用されるなど、生息環境と個体数の減少が懸念されます。
そこでこのプロジェクトでは、勇払原野を含め、主要繁殖地である北海道におけるオオジシギの生息状況とともに、衛星追跡により渡りの中継地や越冬地を明らかにすることで、保護すべき地域や環境を特定し、保全活動に結びつけていきます。普及活動の一環として、オオジシギの生態を紹介した小冊子「おかえりオオジシギ」を道内の小学生に配布、展示や講演会などイベントを通じてオオジシギの生態と勇払原野の豊かな自然を紹介します。
オーストラリアでオオジシギの越冬する湿地の調査や普及活動を行なっている研究者やNGOと交流し、保護のための国際連携も目指しています。苫小牧市在住で調査に参画した子どもたちとともにオーストラリアを訪問し、現地との交流を通じて勇払原野の貴重な自然や越冬地としての重要性を実感してもらいます。
※1 北島幸恵・藤巻裕蔵 2003 北海道十勝平野におけるオオジシギGallinago hardwickiiの生息動向 山階鳥学誌,35 :12-18 2003
※2『野鳥』2001年9・10月号 ※3『野鳥』2002年8月号
※4『野鳥』2015年4月号
◎このプロジェクトは、長年ウトナイ湖サンクチュアリをご支援いただいた故・越崎清司様からのご遺贈を活用させていただきます
2017年に勇払原野で行った調査では、2001年と比較しておよそ3割減少していた。
シギ科タシギ属。学名Gallinago hardwickii 全長約30cm。
ずんぐりとした体に長いクチバシを持つ渡り鳥です。
夏は主に北海道の草地や本州の山地の草地、ロシアの一部で繁殖し、冬にはオーストラリア周辺で過ごします。渡りの途中で水田や湿地などで観察されることがありますが、詳しい渡りのルートや中継地はわかっていません。
繁殖地の草原ではオスが「ズビャーク」とか「ジーエップ」と鳴きながら飛びまわり、尾羽を広げてバリバリと音を立てながら急降下するユニークなディスプレイ飛行が見られます。その大きな音から、地方によっては「カミナリシギ」と呼ばれ親しまれています。
オオジシギにとって必要な環境や重要な生息地・中継地を明らかにし、適切な保全を行なうことを目的に、渡りルートを探る調査をおこなっています。2016年の衛星追跡調査では、世界で初めてオオジシギが北海道苫小牧市からニューギニアまでの太平洋上5,000km以上を6日間、ノンストップで渡ることを明らかにしました。調査は2020年にも実施を予定しています。
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調査の様子(HTBニュース映像)
当会のオオジシギ調査の様子が紹介されています。
日本のオオジシギ生息数については、1985年に行なわれた調査での北海道の推定個体数3万6千羽という数値以降のデータがありませんでした。
オオジシギのおかれている現状を把握し、保全のための資料とするため、北海道内では個体数調査を、全国では繁殖状況のアンケート調査を行いました。
2017年に、勇払原野でディスプレイ飛行をしている個体数を数え、過去に行われた調査結果と比較してどの程度減少しているのかを明らかにするための調査を行いました。その結果、ウトナイ湖や弁天沼を含む勇払原野西部で77羽が観察され、107羽が記録された2001年と比較して30羽、およそ30%減少していることを明らかにしました。
ファクトシート2 勇払原野における個体数調査1(PDF 285KB)
ファクトシート3 勇払原野における個体数調査2(PDF 250KB)
2019年にも2017年と同様に勇払原野で調査を行い、個体数が2000年の107羽から63羽に減少したことを確認しました。この調査は子どもたちが「オオジシギ調べ隊」として参加しました。
日豪合同生態調査の様子(HTBニュース映像)はこちら
2018年に道内の当会連携団体(支部)の協力を得て全道で個体数調査を行いました。推定個体数は35,000羽、草地や湿地が重要であるという結果を得ました。この調査は子どもたちが「オオジシギ調べ隊」として参加しました。
ファクトシート5 北海道におけるオオジシギの繁殖個体数の推定(PDF 240KB)
繁殖期のオオジシギの生息状況の現状を把握するため、2018年に文献による調査と本州以南の当会連携団体(支部)へのアンケート調査を行いました。22県で過去20年間に繁殖の記録があり、56か所の繁殖地の半数以上が消失か個体数の減少傾向にあることがわかりました。
ファクトシート4 本州以南におけるオオジシギの繁殖状況(PDF 435KB)
知られているようで知らない鳥「オオジシギ」に関する基礎知識を子どもたちに知ってもらい、郷土の自然に目を向け、そこに住む生きものたちの素晴らしさを実感していただくため、2018年に小冊子『おかえりオオジシギ』を制作しました。2020年まで3年間に渡り、道内の小学4年生に配布をおこないます。
勉強会や渡り鳥講座、イベントのブース出展などを通して、オオジシギを知っていただくための普及活動を行っています。
2019年6月には「柳生博と巡る勇払原野ツアー」、シンポジウム「柳生博と学ぶ勇払原野の魅力~安平河川道内調整地の賢明な利用を考える」を開催、苫小牧市民の皆さんといっしょに様々な角度から勇払原野について学びました。
地球規模で渡りをするオオジシギの調査・生態研究を通じて、国内外で市民~研究者の交流の輪が広がりつつあります。苫小牧市とオーストラリアの子どもたちも、お互いの調査地を訪問して交流を深めています。国際交流の事例をいくつかピックアップしてご紹介します。
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