公益財団法人 日本野鳥の会

サシバ保護の取り組み

1.サシバとは~生活とその生態

サシバ
サシバ

サシバは、東北地方以南に夏鳥として渡来する中型の猛禽類です。南西諸島からフィリピンなどで越冬し、おもにトノサマガエルやニホンアカガエルなどの両生類、シマヘビやニホンカナヘビなどの爬虫類、ヤママユガの幼虫やトノサマバッタなどの昆虫類、小型哺乳類などを食物としています。

トノサマガエル
トノサマガエル

東日本におけるサシバの生息地の多くは谷津田や谷戸と呼ばれる里山環境です。サシバの行動圏は約100~200haで、水田と森林の接する長さが長い環境を好むことが知られています。例えば千葉県佐倉市の谷津田環境は、谷津田と斜面林の境界を含むように細長い形状をしています。ひとつの谷津田の面積が大きいので、そこだけで生息が可能なようです。

育雛中期(6月中旬)から巣立期(7月上旬)を経て秋の渡りが始まるまで、採食地が谷津田から森林に移行し、バッタ類やガの幼虫等の昆虫類の採食割合が増加します。そのため、サシバの保全には、人工林の間伐等生物多様性の高い森にすることが大切です。

西日本の生息地
西日本の生息地

一方、西日本における近年の研究では、東日本とは生態や環境利用などが異なるサシバが多く生息することがわかってきています。また、生息地の周辺に水田がほとんどない山地でもサシバの営巣が確認されており、里山環境で繁殖する個体群とは生態や環境利用等が異なる部分も多いことが分かりつつあります。

2.里山環境の変化などで減少~サシバの現状

耕作放棄田
耕作放棄田

環境省の繁殖分布調査の結果によると、生息分布が急激に縮小していることが示されており、特に関東以西でその傾向が顕著です。そのため、平成18年12月に改訂された環境省レッドリストでは、絶滅危惧 II 類としてとりあげられるまでになってしまいました。サシバは、ダム建設事業や道路建設事業、住宅地や工業団地等の面的な開発事業等のほか、水田の圃場整備や耕作放棄等による採食環境の悪化により、その生息に影響を受ける事例が見られます。

「ピックイー」と独特の大きな声で鳴くサシバですが、生息地が失われるとその声も聞こえなくなります。豊田市自然観察の森周辺でも放棄田が増えつつあり、サシバを見る機会は減っています。

3.当会の活動

1)豊田市自然観察の森での取り組み

水張休耕田
水張休耕田

豊田市自然観察の森の里山保全計画において「サシバのすめる森づくり」をテーマに、2004年まで繁殖していたと思われるつがいの復活を目的に餌資源であるカエル類を増やすために休耕田に水を張る事業を2005年からスタートさせました。2004年度は2,183㎡、2009年度には合計12,931㎡整備しました。卵塊の合計では、2004年は727個、 2005年は645個、2006年は1,223個、2007年は2,777個、2008年は1,528個、2009年は3,404個であり増加させることができました。

この取り組みの一環で、サシバの餌資源調査、行動圏調査、生息適地モデルの作成等を行いました。

ニホンアカガエルの卵塊
ニホンアカガエルの卵塊

また、2007年には、豊田市で劇団シンデレラによる「2007SORA~ぼくは野鳥のレンジャーだ~」と題するサシバの保全をテーマとしたミュージカル公演を行ないました。

豊田市自然観察の森における当会の保護活動は、当会が同施設の指定管理者受託を終了したため、2024年3月に終了いたしました。

2)サシバ保護エコツアー

ヤシの木にとまるサシバ
ヤシの木にとまるサシバ

2019年3月17日(日)~22日(金)の6日間、当会・アジア猛禽類ネットワーク・日本自然保護協会と共催で「フィリピン・サシバ保護エコツアー」を開催しました。日本人スタッフ含め18名のメンバーで、ルソン島でバードウオッチングや地元の野鳥保護に関わる人々との交流を行いました。

ほんの数年前まで密猟が行われていた地域であるルソン島北部のサンチェスミラ市周辺は、渡り前にサシバが集結する重要なポイントの一つでもあります。かつての密猟者は銃を双眼鏡に持ち替え、日本人などの観光客にサシバの生息地ガイドを行っています。エコツアーが存続することで密猟の抑止になり、サシバの保護にもつながります。

若者たちによる歓迎の踊り
若者たちによる歓迎の踊り

バードウオッチングでは現地の鳥に詳しいネイチャーガイドにより、様々な野鳥に出会えました。サシバの群れはもちろん、フィリピンカンムリワシやフィリピンクマタカなどの猛禽類、アカノドカルガモ、アカサイチョウ、シロボシショウビン、バンジロウインコ、ウロコバンケンモドキなどが見られました。特に夜の森の観察で出会った、ねぐらのヤシの木にとまるサシバやフィリピンアオバズクは印象的でした。


フィリピン・ルソン島「サシバの渡り保護エコツアー」開催のお知らせ

※コロナ禍のため、しばらくの間中止とさせていただいております。

当会では2020年3月、アジア猛禽類ネットワーク、日本鳥類保護連盟、日本自然保護協会とともに、『フィリピン・ルソン島 サシバの渡り保護エコツアー』を開催します。

フィリピン最大の島・ルソン島では、数多くの固有種が生息しており、毎年3月下旬には、サシバが繁殖のために島北部に集結します。過去には、年間5000羽に及ぶサシバの密猟が確認されていましたが、現在では、地元の団体や日本からの支援によりゼロになっています。

今後、サシバ保護を地域に定着させるためには、エコツアーを通じ、サシバの繁殖地である日本と、越冬地であるフィリピンの市民交流が必要になります。

地域の方々のおもてなしと、美味しい食事は、お墨付き。自然保護と熱帯雨林でのバードウォッチングを楽しむ、本物エコツアーぜひにご参加ください。

「サシバの渡り保護エコツアー」のご案内


3)サシバサミット

2019年5月25~26日に栃木県の市貝町立小貝小学校で第1回国際サシバサミットが当会も参加する実行委員会主催で開催され、全国から300名の参加者がありました。

市貝町長開会あいさつ
市貝町長開会あいさつ

 サミット開催のねらいは大きく2つあります。1つ目は、国内はもとより国境を超えてサシバの保護に関係する人々のネットワークづくりや顔の見える関係を構築すること。2つ目は、サミット開催地の住民にサシバのことを知っていただくこと。地元での活動を紹介することで自らの活動の意義を再認識していただき、地域での活動を盛り上げることです。そのため、サミットの前半は、市貝町でサシバや里山保全に関わる方々に登壇していただきました。

後半は、市貝町の取組みを当会遠藤孝一理事長から紹介するとともにフィリピンや台湾、沖縄県宮古島市からの報告が行われました。最後には、サシバ保護のために今後4つの項目を実行すること参加者全員で確認したサミット宣言が了承され、来年度は宮古島市、2021年はフィリピン、2022年は台湾で国際サシバサミットを開催することが公表されました。

記念植樹
記念植樹

26日にはエクスカーションが行われ、サシバの里自然学校のフィールドを堪能したり、サシバのための森づくりとして地元産の苗を使った記念植樹も行われました。

・関連リンク
 国際サシバサミット

4)フィリピンに中古双眼鏡を寄贈

寄贈双眼鏡
寄贈双眼鏡

フィリピン北部では、地域住民・NGO・大学・行政が一体となって猛禽類、とくにサシバの渡り調査と密猟根絶に向けた取り組みが行われ、その際には日本から寄贈された双眼鏡が大きな役割を果たしました。しかし、サシバはフィリピン南部からインドネシア(スラワシ)方面にも渡り、越冬する個体がいることが最近の調査で明らかになっています。

最近、この地域(ミンダナオ島南部のサランガイ地域)でも地元住民に加え、高校生や大学生がこの活動を開始しようとしていますが、観察器具である双眼鏡や望遠鏡はほとんどないのが現状です。この地域での活動を支援するため、日本から中古の双眼鏡、望遠鏡、三脚を寄贈し、フィリピン全域でのサシバの研究と保護の推進に寄与することを目的として当会会員に寄贈を呼びかけました。その結果、合わせて100台ほど集まり、共同企画者のアジア猛禽類ネットワーク(代表山崎亨)を通して現地のラプターネットワークフィリピンに寄贈します。

5)トヨタ自動車新研究開発施設に係る環境監視

豊田・岡崎地区研究開発施設用地造事業は、愛知県企業庁の事業で、岡崎市及び豊田市にまたがる地域(下山・額田)に研究開発用地を造成し、この造成地をトヨタ自動車株式会社が買い上げて、テストコース及び研究施設を建設し、施設を供用する計画です。

この事業計画区域は、愛知県北東部の豊田市と岡崎市にまたがり、美濃三河高原の一郭にあり、標高350mから550m位のゆるやかな起伏の丘陵地です。周辺に郡界川(ぐんかいがわ)、保久川(ほっきゅうがわ)及びそれらの支川が流れています。尾根と斜面は森林で、川沿いには水田が開かれており、森林と谷津田がおりなす美しい里山景観が広がっています。ここではサシバ、ハチクマ、ミゾゴイなどの絶滅危惧種の繁殖が確認され、野鳥にとっても貴重な里山環境であることが分かってきました。

2007年7月、愛知県が条例による環境影響評価(環境アセス)の手続きの中で方法書を作成、公表した時点では、660haの計画予定地のうち約410haを改変する予定でした。これに対し、地元の野鳥保護団体である愛知県野鳥保護連絡協議会や日本野鳥の会愛知県支部、当会などが要望書提出などの活動を行う中で、2011年2月に公表された環境影響評価準備書に載せられた計画では、計画地約652haのうち、改変面積を約270haまで小さくすることができました。

しかし、当会は、引き続き絶滅のおそれのある野鳥をはじめとする里山生態系の保全を求めて活動しており、その一環として、愛知県企業庁とトヨタ自動車が事務局を務める「トヨタ自動車新研究開発施設に係る環境監視委員会」に委員として参加し、工事による影響を把握しつつ保全のために意見、アドバイス等を行っています。

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