公益財団法人 日本野鳥の会

ドイツ・デンマーク・イギリスを訪ねて

当会では自然保護室および保全プロジェクト推進室が2015年3月9日(月)から20日(金)まで欧州の3ヵ国を訪問し、野鳥と風力発電のこと、そして野鳥保護区の管理・運営について学んできました。

(1)風力発電が野生生物に与える影響に関する国際学会2015(CWW2015)に参加

2015年3月10日(火)~12日(木)にドイツ・ベルリン工科大学で開催されたCWW2015に参加しました。CWW2015で自然保護室の浦は「日本における風力発電による野鳥への影響」を、保全プロジェクト推進室の松本は「当会が道東で行った自主的な鳥類調査によって計画中止となった風力発電事業」についてポスター発表し、多くのコメントや賛辞をいただきました。

発表全体では、研究者や専門コンサルタントからは方法論に関する発表が多いのと違い、NGOからはマッピングやゾーニング、環境アセスメントのあり方など政策提言に関する発表が多く、我々NGOはいかに鳥類が風力発電の影響を受けないようにするかという予防原則に基づいたデータ整理や法律など制度面の整備をいかに進めていくかが重要であることを認識しました。


発表ポスターの内容を説明する保全プロジェクト推進室の松本チーフ

(2)Dansk Ornitologisk Forening(DOF:デンマーク鳥類学協会)へ訪問

3月13日(金)は当会と同じくBirdLife InternationalのパートナーでコペンハーゲンにあるDOFの本部事務所を訪問し、Mark Desholm博士にお会いしました。Desholm博士が昨年8月にオーフス大学から移る以前は、DOFでは風力発電と野鳥に関する活動をあまり行っていませんでしたが、今後は、政府でも取り組んでいるバードストライク軽減策の開発に協力しつつ、Desholm博士の研究で確認してきたケワタガモ等での障壁効果、クロガモやアビ類での生息放棄などの調査を継続していきたいとのことでした。当会でも障壁効果および生息放棄に注目しており、今後はDOFと情報交換しながら調査を進めていきたいと思います。


コペンハーゲン沖のミドルグルンデン洋上風力発電所

(3)The Crown Estate(CE:英国王室所有不動産管理会社)へ訪問

3月16日(月)はイギリス・ロンドンにあるCEへ訪問し、Jessica Campbell氏とChris Lloyd氏にお会いしました。お話で興味深かったのは、英国でも環境影響評価法は手続き法に過ぎないが、鳥類に影響を出した者が罰せられる強力な規制法の存在が、英国で事業者が鳥類に影響を出さないように風力発電開発を行う要因であることでした。そして、RSPBなど英国の自然保護団体も協力して作成した累積的影響評価手法のマニュアルの提供、翻訳および出版の許可をいただきましたので、当会ではこのマニュアルの翻訳を行い、国内でも注目され始めている累積的影響評価のあり方に関する知識の普及に努めていきたいと考えています。

※英国本土の海岸線の土地の55%および領海内のすべての海底は英国王室が所有していますが、CEは王室に代わりそれらを管理する第三セクターで、洋上風力発電を建設する際に事業者は、CEから海底を有償で借りなければなりません。英国王室の意向により、CEは将来に渡り持続可能な海底利用を提唱し、事業者に指導しています。


The Crown Estateにてエリザベス女王とともに
(左から松本・浦・Lloyd氏・Campbell氏・エリザベス女王Ⅱ(写真))

(4)Royal Society for the Protection of Birds(RSPB:英国鳥類保護協会)への訪問

3月17日(火)はイギリス・サンディにあるRSPBの本部事務所を訪問し、Rowena Langston博士とBenedict Gove博士にお会いしました。野鳥と風力発電等の事業への活動資金の調達状況を伺ったところ、RSPB内や会員から関心の高い事業のためにまずは内部資金の充当を行い、もし得られる場合には英国政府やEUからの業務委託と外部助成金および寄付金を組合せているとのことでした。

(5)BirdLife International(BLI:バードライフインターナショナル)への訪問

3月18日(水)はイギリス・ケンブリッジにあるBLIの本部事務所を訪問、Tristriam Allinson氏とAida Kowalska氏にお会いし、Allinson氏からは滑翔性鳥類における風力発電の脆弱性指標およびセンシティビティマッピングの作成方法について、Kowalska氏からは、欧州開発銀行等が適切な環境アセスメントを行った自然エネルギー事業者に資金を投資するようBLIが指導しており、そのためのガイドラインを作ったというお話を伺いました。風力発電に対する鳥類の脆弱性指標作りは当会も注目しており、ぜひ国内で指標作りをしたいと考えています。また、銀行などが事業者などに対し責任ある投資を行うことを促すのは日本でも大変参考になる活動です。そのため今後は、BLIと情報共有しながら活動を進めていきたいと思います。

今回の学会参加や団体への訪問により、野鳥と風力発電に関する最新の研究事例や活動内容を知ることができました。そして、当会が現在取り組んでいる、または始めたいと考えている風力発電に関する野鳥保護の活動は、NGOとして、世界的な流れとして間違いがないことを確認できました。風力発電と野鳥の保護に関して、今後も国内外から最新情報を収集し、当会の活動にいかしていきます。

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