公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)浜里風力発電事業 環境影響評価方法書 に係る意見書を提出しました

日 野 鳥 発 第 57 号

(仮称)浜里風力発電事業 環境影響評価方法書 に係る意見書

平成27年9月24日 提出

項目 記入欄
氏名 ①日本野鳥の会道北支部 支部長 小杉 和樹
②公益財団法人日本野鳥の会 理事長 佐藤 仁志
住所 ①〒097-0401 利尻郡利尻町沓形字富士見町
②〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル
方法書についての環境の保全の見地からの意見

 この度、貴社が作成された(仮称)浜里風力発電事業 環境影響評価方法書について、次のとおり意見を提出します。

 貴社が本方法書で設定した対象事業実施区域(以下、「実施区域」と言う。)での風力発電施設の設置は、サロベツ地域の自然環境および鳥類の生息に対し大きな影響が予想されるため、事業自体の見直しを含めて、実施区域の位置を見直すべきである。
 また、今回、貴社が実施区域を想定した幌延町に近接する天塩町や豊富町など北海道北部においては、既に他の事業および事業者が風力発電事業に係る配慮書や方法書を提出しているため、それぞれの事業案件毎に環境影響評価を実施するだけではなく、宗谷・留萌地方全体(稚内市・豊富町・幌延町・天塩町)での風力発電事業計画を公表し、その上で、各事業間の複合的かつ累積的な環境影響評価となるような調査内容を方法書に含め、宗谷・留萌地方全体の広域的な視点にも重きを置いて、実施区域の見直し、除外の検討をするべきである。

(1)実施区域の見直すべき理由
・実施区域は、「利尻礼文サロベツ国立公園」の特別保護地区、第3種特別地域に隣接している。サロベツ原野は泥炭上に形成された湿原であり、低平地における国内最大の高層湿原を有する他、国内最大級の浮島のある瞳沼や大規模な湿地溝の発達が見られるなど、国内では他に類を見ない規模の大きい湿原景観を有しているが、風力発電施設の存在は、湿原景観上に大きな影響を及ぼすことが強く懸念される。
 また、実施区域は、道設夕来稚咲内鳥獣保護区に隣接し、かつ国指定サロベツ鳥獣保護区の極めて近くに設定されている。さらに、国際的にもラムサール条約湿地「サロベツ原野」に極めて近く、バードライフインターナショナルの重要野鳥生息地IBA(Important Bird and Biodiversity Areas)と一部重複していること。またこれらの地域は、オオワシやオジロワシなどの希少猛禽類、ハクチョウ類やガン・カモ類など、多数の渡り鳥のルートとなっていることは明らかである。
 さらに、実施区域周辺で鳥類観察を行なっている専門家によれば、絶滅危惧Ⅱ類のチュウヒ、タンチョウ、準絶滅危惧種のミサゴ、オオタカ、ハイタカの生息が確認されている。特に鳥獣保護区やIBAは、野鳥の集団渡来地として選定されていることからもわかるとおり、採餌地、ねぐらとして頻繁に利用されており、風力発電施設の建設及び施設の稼働はこれらに大きな影響を及ぼす。
 さらに、鳥類に関する保護並びに自然景観の保全に関して述べれば、宗谷・留萌地方に夥しい風車が乱立された場合、鳥類の移動に対して風車が著しい障害壁となることに加え、当地域の良好な自然景観を著しく破壊することになる。

・実施区域南側の既設風車では、既にわかっているだけでも今までに6羽のオジロワシが衝突死している。
 一方、実施区域ではシロフクロウ、シロハヤブサといった希少な野鳥の観察記録があるほか、隣接する砂丘林等ではオジロワシが営巣し、さらに春秋の渡りの時期には、多くのワシタカ類が同区域や隣接する区域を通過・滞在するため、バードストライクの発生する可能性が高い。
 また、秋に渡来するハクチョウの一部には、実施区域北側の稚咲内地区の海上から渡来して、砂丘林を越えてペンケ沼、パンケ沼に向かうグループがあるため、バードストライクや既設風車との累積効果など、これら野鳥の渡り経路を阻害する可能性が高い。

 これら理由から、貴社が方法書で提示した場所を実施区域とすることは不適当である。

(2)鳥類調査方法について
1)ルートセンサス法について
①1つのコースにつき、出現種数が飽和する4~6回のセンサスを行うことで1回の調査とし、2年間実施すること。

2)ポイントセンサス法について
①調査は毎月実施し、特に繁殖期など実施区域で鳥類の種数または個体数が増える時期には、月に2回以上の調査を実施すること。これは、近年の研究により、調査回数を重ねる方が、重ねない場合に比べ、風車に対する鳥類の衝突確率の計算結果において低い数字が算出される傾向がある(Douglasら(2012))ことが分かってきたことによる。

3)渡り鳥の調査について
①1週間連続した観察を1回の調査として月2回、または3日間連続した観察を1回の調査として月4回、2年間実施すること。これは、渡り鳥の種類や個体数、時期等には年による変動が見られ、記載されている調査頻度では、年ごとの変動および計画地における渡り鳥のピーク状況を把握することが難しく、より正確なデータを確保するのが難しいと判断されることによる。
②垂直回しを含めたレーダー調査を活用し、計画地における海ワシ類およびその他猛禽類と夜間の小鳥の渡り状況を把握すること。これにより、鳥の種類は分からなくても、おおよその個体数と飛行高度を把握することで、実施区域が野鳥の渡り経路になっていないか、飛行高度等からみてバードストライクが発生する危険性がないか確認することが可能となると判断される。
・渡り等で希少猛禽類が計画地を利用する頻度が高い時期には、月に2回以上の調査を実施すること。その必要性は、上記2)①後段の理由に同じ。

4)鳥類(希少猛禽類)の調査について
①希少猛禽類の繁殖が確認された場合には、繁殖期から幼鳥の分散開始までにおいて月に2回以上の調査を実施すること。その必要性は、上記2)①の理由に同じ。

5)鳥類調査等に関するその他の点について
①計画地周辺には準絶滅危惧種の鳥類オオジシギが多数繁殖している可能性がある。オオジシギはでディスプレイフライトを含む繁殖行動からバードストライクに遭う可能性が高いと考えられ、実際に、国内でもこれまでに複数のオオジシギが犠牲になっている。そのため、オオジシギの繁殖の有無、繁殖確認位置や行動、飛行高度の確認に最大限努めること。
②コウモリの調査において、バットディテクターはフリーケンシー・ディビジョン式を用いるものとし、また、カスミ網またはハープトラップによる捕獲調査も行い、計画地におけるコウモリの利用状況をできるだけ詳しく把握すること。

(3)その他
1)本件のような大規模な計画においては、調査方法および調査結果の評価等に関する有識者検討会を開催、協議すべきである。
2)本計画地は既に他事業者が計画を進めている計画地に近接していることから、鳥類および景観に対して、他の事業者による事業計画内容との複合的な影響について十分な調査を行うこと。
3)風車設置による景観への影響について、北海道北部の景観がきわめて人工物の少ない自然度が高いものであることを十分に認識し、単に数値化した評価にならぬよう調査を行うこと。

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