公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)浜里風力発電事業環境影響評価準備書に対する意見書を提出しました

平成29年2月8日

株式会社 道北エナジー 御中

「(仮称)浜里風力発電事業環境影響評価準備書」について以下のとおり意見書を提出いたします。

特定非営利活動法人サロベツ・エコ・ネットワーク
代表理事 高瀬 清
北海道天塩郡豊富町字豊富東2条5丁目

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 佐藤 仁志(公印省略)
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

日本野鳥の会道北支部
支部長 小杉 和樹(公印省略)

北海道ラムサールネットワーク
代表 小西 敢(公印省略)
北海道苫小牧市植苗150-3
(公財)日本野鳥の会 ウトナイ湖サンクチュアリ内(事務局)

■基本的な考え方
・利尻礼文サロベツ国立公園とその周辺には、国内最大の高層湿原があり、どこまでも何もない平原やそこから眺める雄大な利尻富士の景観を求めて多くの人が訪れる。また鳥類をはじめとする国内を代表する貴重な野生生物の生息地であり、渡り鳥にとっては国内有数で国際的にも重要な渡り経路となっている。特に水鳥にとって国際的に重要な中継地であるラムサール条約湿地や重要野鳥生息地(IBA)となっている。私たちは風力発電の重要性は理解しているが、全体としてサロベツを取り囲み、宗谷地方を覆うような風車建設計画には様々な問題点があると考える。加えて、現状ではこれらの地域において、水鳥をはじめとした渡り鳥の生態について明らかになっていない点が多い。私たちは急激な風車建設により、今後永きにわたって利用可能な利尻礼文サロベツ国立公園とラムサール条約登録湿地やその周辺の自然環境の観光資源を含めた資質を損なう恐れが大きいと懸念する。風車建設は地域にとって大きな影響があるため、渡り鳥の不明な生態を明らかにした上で、全体像を把握し、協議会などの開かれた場で、地域住民やサロベツとその周辺の利用者が内容を充分に理解したうえで、時間をかけて建設による影響を検証すべきと考える。
以下に準備書の個別内容についての意見を述べる。

■縦覧方法と住民説明会
・再三に渡り指摘してきたことであるが、準備書の縦覧や住民説明会のやり方に問題があるため、事業の内容の理解不足や影響の評価が十分にできない大きな原因となっている。現状では地元や関係者の理解を得られていないため、事業実施後に大きな問題が起こることが懸念される。

1.周知
縦覧や説明会の周知が新聞広告とHPでの紹介のみで不十分だった。実際に豊富町や幌延町の一般住民で縦覧や説明会について知っている人はこちらで把握している限り一人もいなかった。周知をHP上や新聞広告に限らず、回覧やポスター掲示、チラシ配布、関係機関のHP上に掲載などで行うことで、より多くの人に知ってもらうべきである。

2.縦覧場所
縦覧場所が土日祝夜間に閉鎖されている役場等に限られているため、平日の日中に仕事などしている住民が閲覧する機会がない。土日祝夜間に開館している公共施設は存在するにもかかわらず、あえて選択しない理由を示すべきである。

3.オンラインの閲覧方法
縦覧期間のみインターネット上で閲覧可能であるが、ダウンロードや印刷ができない。数百ページもある図書をPC上のみで閲覧することは現実的な方法と言えない。実際には事業に対して特別に関心を抱いている一部の人しか閲覧していない状況と考えられる。また、ブラウザの制限や図書の拡大縮小などの機能が大きく制限されており、非常に使いにくい。縦覧期間終了後に準備書の内容が実際と齟齬がないか精査することができないことは影響を評価するうえで大きな問題であるため、閲覧期間に限らずにいつでも公共施設やインターネットで閲覧可能にするべきである。

4.説明会
説明会の日程は2か所が平日の日中であり、1か所が平日の夜間だった。日中に時間がある酪農地帯であることを加味しても、より多くの参加を期待するならば、休日の日中または休日の夜間を選択するべきである。事業者の都合に合わせた日程であると考えざるを得ない。説明会場には、背広を着用した関係者が会場内に待機しており、一般参加者が中に入りにくい雰囲気だった。実際に参加しようとしたが、雰囲気を場違いに感じ、会場に入らないまま帰った住民がいた。一般参加者が入りやすい会場の雰囲気にするよう工夫することも重要と考える。実際に豊富・幌延・天塩の3つの説明会の参加者は同業者を除いてすべてサロベツ・エコ・ネットワークが個別に呼びかけた参加者(すべての参加者は事業自体を知らなかった)で、住民説明会であったにもかかわらず一般の参加者は一人もいなかった。これでは、住民説明会としての機能を果たしていないことになる。事業者の周知の方法に問題があったと言わざるを得ず、改善するべきである。

5.説明会で私たちが質問したことに対し、図面が提示されず、口頭のみ、または図書のページを示したうえでの回答だった。しかし、質問者に対してしか説明がなかった。これでは図書の内容を熟知したものでなければ、内容を理解できない。住民説明会である以上、どんな質問に対しても速やかに回答できよう、人数分の図書を用意できないのであれば、該当する箇所をスライドなどですぐ示せるように準備し、質問内容を共有し、質問者以外にも内容が理解できるように努めるべきである。

■関係者への説明
・道北7事業の時と比較して、非公開部分を含む図書を持参した上での環境影響評価の専門員や現場担当者がサロベツ・エコ・ネットワークに説明したことや、非公開情報を含む図書の一部が提供されたことを評価する。一方で、他の事業者は我々を信頼し、これまで図書のすべてが提供されてきた。私たちは環境保全団体であることから、希少種の保全にとって不利なことを行うことは有りえないことである。環境影響評価を行う目的の一つは地元への説明責任を果たし、理解を得ることである。理解を得たうえで建設的な協議をするためには情報の共有することが不可欠であることから私たちに図書のすべてを提供するべきである。

■事業地の選定
・事業地は国民の共有財産であるサロベツの国立公園に4方を囲まれた飛び地にある。すぐ東側は国立公園の中核となる特別保護地区に含まれる海岸砂丘が広がり、西側には海岸草原と隣接している。国立公園の重要な部分に隣接する場合、緩衝帯を設けるべきと考えるが、幅が狭いため設けることができない。事業地は本来国立公園に含まれるべき特質を備えているが、幌延町などが編入しなかった場所である。今でもその地域の国立公園になるべき重要性に変わりはない。さらに、事業地の東側半分は重要野鳥生息地に設定されており、砂が採取され、砂丘林が消失した後も、引き続き多くの野鳥が生息し、渡り経路として利用されている。以上から、事業地は選定場所としてとして不適切である。

■改変
・道北7事業で新たな林道を造成して建設する部分の風車が取りやめになった例がある。工事用道路、取り付け道路は既存のものを利用し、自然林や草地が残存している箇所に新たな道路を設置することは避けるべきである。

■騒音
・風車建設予定地から2-10km以内の近い場所に人家等があるため、風車による低周波騒音による人や家畜への健康被害が懸念される。海外ではこの被害が認められている事例もある。その影響は人によって個人差がある。地元では非常に敏感な人がおり、それが原因で引っ越した人もいる。今後風車による人畜への健康被害が発生した場合の事業者による補償内容について事前に取り決める必要がある。

■景観

1.サロベツを代表する重要な景観
国立公園である下サロベツ湿原の中核となる幌延ビジターセンターやそこから伸びる下沼、小沼、パンケ沼までの3kmの木道やパンケ沼から西側を眺めると人工物が何もない湿原と砂丘林、利尻富士が見える景観が広がっている。このなにもない景観はサロベツ湿原を代表するものであり、実際にそれを目的に毎年多くの来館者が訪れ、リピーターも多い。特にパンケ沼は写真コンテストで受賞作品が出るほど夕日が有名な場所であり、毎年カメラマンによる夕日撮影ツアーが開催されている。この景観の中に一つでも人工物が建設されると、その良さが大きく損なわれ、国立公園としての資質を大きく損なわれるだけでなく、関連するエコツアーを行うための観光資源にも大きく影響を及ぼすことが懸念されるため、風車の建設をさけるべきである。

2.国立公園の利用者が求めるもの
風車の景観は観光資源になると準備書に記載されていたが、すでに音類風力発電所があるため新たな観光資源としては十分機能しており、新たなもの必要性を感じない。これまでは風車が珍しかったため、観光資源となったが、多くの風車の建設計画がある中で、今後も観光資源と成り得るか疑問であり、幌延ビジターセンター方面からのサロベツの景観や海岸から海岸砂丘林を眺める場合にむしろ大きな支障となることが懸念されるため、建設を避けるべきである。幌延町の観光資源についての地元や周辺向けの祭りのアンケート結果では、風車が観光資源と成り得る根拠が引用されていたが、全国から訪れる観光客にとって何が魅力か知るためには有効な結果ではないと考える。サロベツは豊富町と幌延町でつながっており、サロベツ湿原センターの木道からも音類の風車が視認できる。風車が大きく、豊富に近い浜里で風車が建設されれば、なにもない湿原が魅力である景観が損なわれ、同様に観光資源として大きく損なわれることが懸念されるので、建設を避けるべきである。

3. 事業者の景観配慮案
景観の配慮案として幌延VCから利尻富士と風車が重なる部分の風車建設をとりやめにした案が提示されたが、裾野に風車がかかっているため、写真に写る。景観の配慮としては不十分である。その周りの砂丘林上もスカイラインより上に風車が飛び出る形になっている。この景観は利尻富士と砂丘林、サロベツ湿原が一体となって初めて価値があるものであり、風車の存在は景観に対する悪影響が著しい。このため建設を避けるべきである。

4.海岸から砂丘林を見た場合
海岸から見た景観は利尻富士だけでなく、砂丘林側の人工物が見えない風景も重要である。景観調査では利尻富士だけが景観の評価対象になっているが、内陸側を眺めた場合に風車の存在は国立公園である海岸砂丘林の景観を著しく損なうものであり、その大きさから圧迫感もある。その風景は調査地点に限らず車窓から豊富町との境界までずっと続くものである。このため、風車の建設を避けるべきである。

■鳥類
風車による鳥類への影響は衝突だけ考慮すればよい訳ではない。衝突による影響を避ければよいとした場合、風車を避けて飛翔する傾向のある鳥類がどれだけ高頻度で利用していても、風車の建設が可能という評価になる。しかし、道北7事業における経済産業大臣意見では風車を避けるとされているガン・ハクチョウ類が高頻度に利用する地域の風車の建設は「とりやめ」の評価だった。浜里においても高頻度地域での風車の建設は避けるという考え方が必要である。

1.オジロワシ・オオワシ
 当地域周辺にはオジロワシの巣が存在する。繁殖個体は数か月間、巣の周辺を利用する。渡り個体が一時的に滞在するよりも確実に高頻度に利用されており、調査回数が少ないことから安全面をとって行動圏すべての範囲内の風車建設を避けるべきである。
 オジロワシ・オオワシが渡り鳥として、春と秋の利用頻度が評価されているが、両種は冬鳥で当地域に越冬するので、海岸漂着物が重要な餌となる冬季の利用状況も含めて評価することが不可欠である。このため、秋から春までの期間のデータを用いて再評価するべきである。漂着があった場合に多くの海ワシが集まり周辺の利用頻度が高くなることが明らかになった。事業地は全域に海岸に餌が漂着する可能性があり、利用頻度が高くなる可能性があることから、事業地内の風車の建設は避けるべきである。
 環境影響評価では海ワシ類は風車を避けるとしているが、その根拠を示すべきである。たとえ避けたとしても、高頻度に利用される場所では移動阻害による影響が大きくなるため、風車の建設を避けるべきである。

2.チュウヒ
 チュウヒは事業地内を主要な餌場として高頻度に利用している。風車の衝突の危険度に留まらず、高頻度に利用している場合、障壁影響が大きくなるために、風車の建設を避けるべきである。

3.ガン・ハクチョウ類
 ガン類の渡り調査結果のうちペンケ沼に入る個体とペンケ沼から東側に向かいすぐに着陸した個体は渡りではなく、中継地と採餌場所との往復の行動である可能性が高いため、これらの記録を外したうえで、利用頻度を再計算してから影響を評価するべきである。
 ハクチョウ類は事業地を高頻度に利用しているため、建設を避けるべきである。環境影響評価ではガン・ハクチョウ類は風車を避けるとしているが、その根拠を示すべきである。たとえ避けたとしても、高頻度に利用される場所では移動阻害による影響が大きくなるため、風車の建設を避けるべきである。

4.小鳥の渡り
 宗谷地方は日本とロシアとの間の主要な国際的な渡り経路に位置する。浜里は海岸沿いに位置するため、特に多くの小鳥が特に秋に渡っていることが予測される。普通種であっても、個体数が多ければ、衝突や移動阻害などの大きな影響が懸念されるため、その影響をレーダー調査によって評価するべきである。

5.累積的評価
 道北7事業による多くの風車の建設により、風車を避けることによりこれまで内陸を通っていたガン・ハクチョウ類の渡り個体が海岸に集中して渡り、影響が増大する恐れがある。その場合の累積的評価の対象を勇知に限らずに、道北7事業全体と宗谷丘陵の事業を含めて行うべきである。

■哺乳類
・東側の列の風車は国立公園の海岸砂丘林の際に当たるため、森林性のコウモリの出入りが予想され、衝突が懸念されるが、バットディデクター調査位置は際から遠く、生息状況を充分に把握できなかった可能性があるので、影響を充分に評価できない。このため、際の部分の影響を適切に評価するために再調査を行うべきである。

以上の意見について個別の回答を求める。

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