公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)新さらきとまない風力発電事業に係る計画段階環境配慮書に対する意見書を提出しました

平成30年2月 20 日

電源開発株式会社  御中

「(仮称)新さらきとまない風力発電事業 計画段階環境配慮書」について以下のとおり意見書を提出いたします。

特定非営利活動法人サロベツ・エコ・ネットワーク
代表理事 吉村 穣滋
(北海道天塩郡豊富町字豊富東2条5丁目)

稚内の風力発電を考える会
代 表 佐々木 邦夫(公印省略)
(稚内市はまなす2丁目7番18号)

道北の自然と再生エネルギーを考える会
代 表 富樫 とも子(公印省略)
(北海道天塩郡幌延町字下沼853番地1)

日本野鳥の会 道北支部
支部長 小杉 和樹 (公印省略)
(北海道利尻郡利尻町沓形字栄浜142 佐藤里恵方)

北海道ラムサールネットワーク
代 表 小西 敢 (公印省略)
(北海道苫小牧市植苗150-3 日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリ内)

公益財団法人 日本野鳥の会
  理事長 遠藤 孝一  (公印省略)
(東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル)

■基本的な考え方
 利尻礼文サロベツ国立公園とその周辺には、国内最大の高層湿原があり、どこまでも何もない平原やそこから眺める雄大な利尻富士の景観を求めて多くの人が訪れる。また鳥類をはじめとした国内を代表する貴重な野生生物の生息地であり、渡り鳥にとっては国内有数かつ国際的にも重要な渡り経路となっている。特に水鳥にとっての国際的に重要な中継地であるラムサール条約湿地や重要野鳥生息地(IBA)がある。
 私たちは風力発電施設(以下、風車という)の重要性は理解しているが、他の事業を含めると全体としてサロベツ湿原を取り囲み、そして宗谷地方を覆うような風車建設計画には様々な問題点があると考える。加えて、現状ではこれらの地域において、水鳥をはじめとした渡り鳥の生態について明らかになっていない点が多い。
 このような中で、急激な風車建設の集中により、今後永きにわたり利尻礼文サロベツ国立公園とラムサール条約登録湿地や、その周辺の自然環境の観光資源を含めた資質を損なう恐れが大きいと懸念する。
 風車建設は、地域の自然環境にとって大きな影響があるため、協議会などの開かれた場で地域の団体と議論を行い、地域住民やサロベツとその周辺の利用者が内容を充分に理解したうえで、時間をかけて建設による影響を検証すべきと考える。

以下、配慮書の個別内容についての意見を述べる。

■縦覧方法
 環境影響評価図書の縦覧や住民説明会の開催の周知が不十分であるため、事業に対する理解が不十分である。現状では合意形成につながるとは言い難いため、事業実施後に混乱が起こることが懸念される。

1.周知
 環境影響評価図書の縦覧と意見書募集の周知は、こちらで把握する限り、ホームページでの紹介のみだった。電源開発㈱のホームページ内でも縦覧のページは奥深い階層にあり、見つけるのが困難な場所にあった。実際に、周辺自治体の一般住民で、事業や縦覧について把握している人は、当方で把握している限り一人もいなかった。従って、ホームページに限らず、回覧やポスター掲示、チラシ配布、関係機関のHP上掲載などの協力を得ることで、より多くの人に周知するよう努力すべきである。

2.縦覧場所
 環境影響評価図書の縦覧場所が土日・祝日夜間に閉鎖されている役場等に限られているため、平日の日中に仕事をしている住民などが閲覧する機会がない。土日・祝日夜間に開館している公共施設を縦覧場所として選択すべきである。

3.オンラインの閲覧方法
 縦覧期間のみインターネット上で閲覧可能であるが、ダウンロードや印刷ができない。数百ページもある環境影響評価図書を、PC上のみで閲覧することは現実的な方法と言えない。実際には、事業に特に懸念している人しか閲覧していない状況と考えられる。縦覧期間終了後に、図書の内容が実際と齟齬がないか精査することができないことは、影響を適切に評価するうえで問題である。このため閲覧期間に限らず随時、公共施設やインターネットで閲覧可能にすべきである。

4.説明会
 地域住民との合意形成をはかるために、配慮書に関しても方法書や準備書と同様に自主的に説明会を開催すべきである。

■関係者への説明
 地域の環境保全団体であるサロベツ・エコ・ネットワーク等に対する事前の説明がないため、行うべきである。

■騒音
 事業計画区域より500m~2km以内に民家があるため、風車による低周波騒音による人や家畜への健康被害が懸念される。風車の大型化に伴い、視聴可能な騒音のみでなく、低周波騒音が増加することも懸念される。海外では、これらの被害が認められている事例もある。その影響は人によって個人差があることが知られているため、事業予定地周辺に低周波音を含めた騒音に敏感な人がいないか把握し、現時点で騒音による影響が出ていないか、把握する必要がある。なお、風車の運用開始後に風車による人畜への健康被害が発生した場合、事業者による補償内容について、事前に取り決めておく必要がある。

■風車の影
 風車の大型化は風車の影による影響が増大するため、避けるべきである。

■景観
 大沼バードハウスとメグマ沼から見る、沼や湿原と利尻富士からなる風景は、稚内市を代表する景観であり、巨大な人工物がない湿原・丘陵そのものが重要である。大沼バードハウスやふれあい公園から見た大沼の周りを囲う丘陵は大沼と一体の景観として見られている。このため、この丘陵のスカイラインから突き出た風車の建設は避けるべきである。また、景観は垂直見込み角のみによって評価されているが、この地方では広々とした風景そのものに価値があるため、圧迫感の有無による評価基準はそぐわない。風車は水平に複数が並んでいると一体のものとして見えるため、1本1本の高さではなく、全体的な水平見込み角によって評価すべきである。水平見込み角によって評価すれば、各眺望点からは風車の存在は広々とした景観に対して重大な影響を及ぼしていることが明らかになるはずである。また、景観自体が重要な場所では影響が想定される範囲として視野角1度の範囲では狭いので、広げるべきである。
 サロベツ湿原センターの木道から事業地は視認できない位置にあるが、旧サロベツ原生花園ビジターセンター付近は、木道が撤去された後も、バス停や駐車帯があるため多くの人が道路沿いから高層湿原と巨大人工物がない景観を見物しに訪れる。ここからはサラキトマナイの風車が視認でき、風車が大型化すれば、より大きく見えることが予測される。このなにもない湿原の景観は、サロベツの価値を代表するものである。実際にそれを目的に毎年多くの利用者が訪れ、繰り返し訪れる利用者も多い。この景観にスカイラインから飛び出る形で風車が建設されると、小さくしか見えないとしてもその景観の価値が損なわれ、観光資源としての価値も損なわれることが懸念される。このため、旧サロベツ原生花園から視認できる場所を事業地から除外すべきである。

■鳥類
・オジロワシ・オオワシ
 計画地は尾根上にあり、オジロワシやオオワシが移動経路として利用するため、移動経路として頻繁に利用している場所の風車の建設を避けるべきである。

・ガン・ハクチョウ類
 既存の風車は環境影響評価の制度が変更される前に実施された事業である。現在では、事業地はガン・ハクチョウ類がロシア・日本間を渡る上での主要なフライウェイに位置することが明らかとなったため、不適切な事業である。実際に、近隣のユーラスエナジー㈱の川西の事業地はその中心に位置することから、環境大臣や経済産業大臣より、多くの風車を取りやめにすべきという意見が出された。本事業の昼間の調査結果では渡り経路が事業地内を避ける結果が出ているが、我々が行った調査や他の事業者が行った調査でも事業地周辺上空のハクチョウ類の通過が多数確認されているため、当地域においても川西と同様の状況であることから、風車の建設を避けるべきである。

(公財)日本野鳥の会によるサラキトマナイを含むガン・ハクチョウ類の調査結果
http://sarobetsu.or.jp/npo/wp-content/uploads/2015/06/1d8f77171e6e83e2d070fa9d2151f5a8.pdf

 調査方法についても、ハクチョウ類の調査は渡りを3つの時期に分け、1日ずつしか調査が行われていないが、最も渡りの条件が良い日が調査日として選定されていない。ハクチョウ類は気象条件等によって渡り状況が大きく異なるため、1日の調査ではそれらの変動を十分に考慮できない。さらに、調査に適した10月上旬の代わりに渡りの時期が過ぎた11月に調査が行われているため、調査時期選定として不適切である(ヒアリング結果でも10月が調査適期と記載されている)。加えて、通常10月20日前後に渡りの最盛期が来るが、その時期に調査が行われていない。以上から、調査結果は過小評価または不適切であるため、やり直すべきである。また、同様に渡りを行っているマガン・ヒシクイの調査を追加して行うべきであり、ガン・ハクチョウ類としてひとまとめにして累積的な影響を評価すべきである。空間的な利用頻度を評価するに当たっては、目視による飛翔軌跡の位置特定の不確実性からメッシュの大きさは1kmメッシュなどの大きめのものを選ぶべきである。調査を行うに当たっては、当地域のガン・ハクチョウ類の渡り状況に詳しいサロベツ・エコ・ネットワークの知見も参考にすべきである。
 ハクチョウ類の渡り経路は気象条件や年・季節変動が大きく不確実性が高いため、それを考慮するために、安全面をとって少しでも影響があると判断された場所に位置する風車を事業区域から除外すべきである。また、仮に風車を避けたとしても、高頻度に利用される場所では障壁影響が大きくなるため、事業地から除外すべきである。

4.小鳥の渡り
 宗谷地方は、日本とロシアとの間を渡るスズメ目を中心とした小鳥類の主要な国際的渡り経路にある。近隣地域の事例を見ると、多くの小鳥が特に秋に海岸沿いを渡っていることが予測される。普通種であっても、個体数が多ければ衝突や移動阻害などの大きな影響が懸念されるため、その影響をレーダー調査等によって評価し、影響が大きい地域は事業地から除外すべきである。

■累積的影響の評価
 道北エナジー(勇知と川西)、三浦電機(勇知)、エコパワー(上勇知)による風車建設予定地が近隣にある。事業地は春秋の道北地方の主要渡り経路である大沼とサロベツの間のガン・ハクチョウ類のフライフェイの中心に位置し、そこに風車が建設されることによる移動阻害は大きいと考えられる。他の事業者による多くの風車の建設により、風車を避けた鳥類が移動経路として当事業地域に集中し、影響が増大する恐れがある。従って、累積的影響の評価を、道北7事業などの他事業者の事業や地域の環境保全団体を含めた協議会の場で行うべきである。
 景観に対する影響も他の事業の風車が集中することにより累積的影響が増大することが懸念されるため、累積的評価を行うべきである。

■協議会の設置
 これまで、本事業では地元の環境保全団体などと十分な協議が行われてこなかったため、合意形成が不十分であり、今後大きな問題が起こることが懸念される。今後の調査や影響の評価と環境保全措置などの検討は、各専門の有識者や地元の環境保全団体・観光関係者などが参加する公開された協議会を設置し、十分に話し合った上で行うべきである。

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