日野鳥発2018-083号
平成31年2月5日
株式会社グリーンパワーインベストメント御中
日本野鳥の会島根県支部 支部長 佐藤仁志
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公益財団法人日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一
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(仮称)新浜田ウインドファーム発電事業に係る環境影響評価方法書についての意見書
(仮称)新浜田ウインドファーム発電事業に係る環境影響評価方法書(以下「方法書」という。)3.1-61ページ(3)動物の注目すべき生息地には、環境省アセスメントデータベース・センシティブマップ・クマタカの生息分布(方法書3.1-44ページ、図3.1-21(2))に生息地として示されているにもかかわらずクマタカが明記されておらず、方法書3.1-62ページ図3.1-23「動物の注目すべき生息地」にも記述されていない。
日本野鳥の会島根県支部および認定NPO法人西中国山地自然史研究会の調査では、別添の「5つがいのクマタカの推定行動圏」に示すように、当該計画地一帯はクマタカの主要な生息地となっており、動物の注目すべき生息地として取り上げられていないことは、当該方法書の信頼性にもかかわる大きな問題である。方法書4.3-37ページ3.評価(2)評価結果においても、「環境省の調査指針に基づいて生息状況を調査し、予測評価を行えば、直接改変による重大な影響を回避し又は低減できる可能性が高いと考える」とされている。しかし、「5つがいのクマタカの推定行動圏」に示すように、当該対象事業実施区域内には環境省レッドデータブック(以下「環境省RDB」という。)で絶滅危惧ⅠB類に選定されている5つがいのクマタカが生息しており、うち1つがいは2017年に繁殖し巣立ちも確認している。そのため、この貴重な生息地の北側尾根には、既設の風力発電機29基が存在しており、その南側尾根に新たに17基の風力発電機が設置されると、5つがいのクマタカの行動圏が46基の風力発電機で囲いこまれる状況となることは必至で、クマタカの生息存続が極めて困難となることが予測される。
このことから、準備書作成に向けた現地調査において、われわれの調査結果の妥当性が確認された場合には、クマタカの保護を図るために当該地域における風力発電施設の建設を断念することを強く要望する。
なお、配慮書にある当該事業想定区域内においては、環境省RDBで絶滅危惧ⅠB類に選定されているイヌワシも確認されており、島根県のレッドデータブック(以下「島根県RDB」という。)準絶滅危惧種に選定されているオシドリの繁殖が2017年と2018年に確認されている。
さらに、環境省RDB絶滅危惧ⅠB類のヤイロチョウ、同絶滅危惧Ⅱ類のミゾゴイ、同準絶滅危惧のハチクマとオオタカ、島根県RDB絶滅危惧Ⅱ類のヤマセミなども繁殖期に確認されている。これらのほか、国内では八幡高原と大分県九重町のみに渡来し越冬する希少な鳥類、シラガホオジロの渡りの経路ともなっている。
対象事業実施区域では、2017年8月の線状降水帯による集中豪雨で甚大な沢崩れ等が発生しており、要因の一つに尾根筋へ建設された既設の風力発電施設29基にともなう森林の保水機能消失が考えられる。また、2018年には沢崩れの対策のために公共工事として実施された砂防ダム建設工事により、近隣のクマタカつがいの繁殖が認められなかった。このような事例から、その南側尾根に新たに17基の大型風力発電施設設置のための敷地造成や道路開削が行われ、森林が破壊されれば、さらなる沢崩れの発生を助長する可能性があり、当該事業による直接影響はもとより、間接的な影響も懸念される。
以上述べたように、当該事業実施区域一帯には優れた自然が多く存在しており、方法書に示されたような調査及び予測・評価を行うまでもなく、風力発電施設を設置することは環境省が推進する生物多様性保全の観点からきわめて損失が大きいと考えられることから、(仮称)新浜田ウインドファーム発電事業については中止されることを併せ要望する。