公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)秋田県由利本荘市沖洋上風力発電事業に係る環境影響評価準備書に対する意見書を提出しました

令和元年11月13日

秋田由利本荘洋上風力合同会社
代表 須山 勇 様
秋田県由利本荘市一番堰235番地3

由利本荘市野鳥を愛する会
代表 佐々木 正美
秋田県由利本荘市一番堰106-10

日本野鳥の会秋田県支部
支部長 佐藤 公生
秋田県潟上市天王追分86-15

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

(仮称)秋田県由利本荘市沖洋上風力発電事業に係る環境影響評価準備書に対する意見書

貴社の作成した(仮称)秋田県由利本荘市沖洋上風力発電事業に係る環境影響評価準備書(以下、準備書と言う)について、対象事業実施区域およびその周辺(以下、計画地と言う)で実施された鳥類調査の時期や回数などについて不足が多く、また、地域住民等による鳥類の観察結果とも大きく異なっていることから、調査・予測・評価が不完全なまま準備書を作成、縦覧したと言わざるを得ない。環境影響評価書の作成に向けた追加調査の実施または風力発電施設(以下、風車と言う)の配置や位置の大幅な見直しおよび鳥類保護の観点から、以下に意見を述べる。

(1)渡り時期における鳥類調査に係る問題点
①渡来期(秋)
貴社は定点調査およびトランセクトライン調査を10月19日、レーダー調査を10月15日に終えているが、計画地において地域住民が観察した結果、ガン・カモ・ハクチョウ類の渡来のピークは10月中旬から11月中旬であった。貴社はこの時期に十分な調査を実施しておらず、計画地におけるガン・カモ・ハクチョウ類の詳細な渡来状況を把握したうえで影響を評価できていない。(準備書 表10.1.7-7)。

②渡去期(春)
貴社は春の渡り時期における鳥類調査を3月8日~11日に実施しているが、計画地において地域住民が観察した結果、この年は2月25日にはガン・ハクチョウ類は渡去し終えており(渡去数; 2/18 ~22に2000羽以上)、貴社の調査ではこれらの時期を逸しており、計画地におけるガン・カモ・ハクチョウ類の詳細な渡去状況を把握したうえで影響を評価できていない。

(2)重要種および調査対象種の選定に係る問題
①絶滅危惧種であるシジュウカラガン・ハクガンについて記載がない
地域住民の観察結果によると、シジュウカラガンを2019年2月11日に20羽、2月16日3羽、2月17日2羽を由利本荘市内の水田で確認している。また、ハクガンは秋田市沖の洋上を南下するのを観察している。これらのことから、この2種は計画地の上空を飛翔する可能性があるため、追加調査を実施して状況を把握すべきである。

②調査対象となっている渡り鳥の種数が少ない
地域住民による観察結果ではマガモ等のカモ類も大量に洋上を渡っていることが確認されている(2019年10月27日~11月6日間に5000羽以上)。また、アジサシを含むカモメ科の鳥類もこの海域の洋上を渡っているため、貴社は追加調査を実施してこれらの鳥類の飛翔状況を確認し、衝突確率の計算等、影響評価を実施すべきである。

(3)予測評価における問題点
①ガン・ハクチョウ類の飛翔高度を適切に把握できていない
準備書10-1.7-74~78においてガン・ハクチョウ類は「レーダー調査結果によれば、鳥類等の軌跡高度は高度H(風車ブレード領域外)が全体の70~80%程度を占めていたことから、高高度の飛翔割合が高いものと推察される」とある。しかしながら、

  • 遠方を目指し高高度を飛翔する群が頻出する時期に偏って調査した可能性が高い。
  • ガン・ハクチョウ類は強風等の悪天候時に低高度を飛翔するなど、飛翔高度は天候等によって変化するが、貴社はこれらの条件を含めた調査を実施していない。
  • 洋上から内陸、内陸から洋上へと飛翔ルートを変える際に飛翔高度が大きく変化するが、貴社はこれらの条件を含めた調査を実施していない。

以上の理由から、貴社の限られた日数による2地点のみのレーダー調査の結果から、計画地におけるガン・ハクチョウ類の飛翔高度を一般化して影響を評価できない。

②衝突確率を過小評価している
準備書10.1-7-119~208では複数の衝突確率計算モデルで各鳥類の風車への衝突確率を算出しているが、これはあくまでも計画地内を飛翔した鳥類に限って計算したに過ぎない。計画地の周辺にはたくさんの風力発電所および計画地があるため、それらの地域を飛翔する鳥類が障壁影響および生息地放棄により貴社の計画地に飛来することも考慮して衝突確率の計算をすべきである。つまり、貴社の準備書にある定性的記述によるものではなく、単純加算モデルによる累積的影響評価を実施すべきである。もし、累積的影響評価を実行するのに鳥類のデータが足りない場合は、追加調査を実施すべきである。

③ミサゴに対する配慮が欠如している
風車の基礎および海底ケーブルの設置の工期がミサゴの育雛期と重なっている。騒音による魚類の忌避および水の濁りの発生により餌の探索が難しくなることで、ミサゴが育雛に十分な餌を確保するのが困難になる可能性がある。
工事の予定されている7月はヒナの巣立ち直前であり、もっとも給餌量の多い時期である。また、巣立ち後もしばらくヒナは親から給餌を受け、8月~10月にかけては巣立ちしたばかりの未熟な幼鳥が頻繁に海上で魚を捕る練習をする時期であるため、7月から10月にかけては工事を行うべきではない。

④海鳥の餌となるハタハタの卵(ブリコ)への影響を評価すべきである
ハタハタの産卵期である11~12月および孵化期である1~2月には、ハタハタの卵は計画地で越冬する鳥類にとって貴重な餌資源となっている。貴社による風車の設置に係る工事および建設後の騒音等が計画地周辺のハタハタの産卵にどのような影響が出るか評価を行い、また、その影響が計画地で越冬する鳥類の生息にどのような影響を及ぼすか評価すべきである。

(4)準備書で提示している事後調査における問題点
①順応的管理は問題点が多い
準備書に記載されている保全措置では、事後調査を実施しながら影響が生じた場合にそれらを取り除いていく順応的管理を行おうとしていると理解できる。しかし、順応的管理を実施するには、事業者の実行可能な範囲ではなく、確実に影響を取り除くことができる保全措置の例を示し、また、それを事業者が絶対に実施することを確約しなければ、実効性のある順応的管理はできない。
洋上風車の建設に係る鳥類の影響予測は陸上と比べても不確実性が高く困難なことから、本来は予防原則の観点から鳥類が利用する海域での風車の建設を避けたうえで、なお残る不確実性を取り除くために順応的管理が実施されるべきである。順応的管理は事業実施のための免罪符ではなく、貴社もその観点に立って保全措置を講じるべきである。

②事後調査の実施期間が述べられていない
順応的管理を行いたいのであればなおさらであるが、共用期間(20年)を通して事後モニタリングを実施すべきである。

③バードストライクの発生状況確認調査の方法に不備がある
まず、鳥類のモニタリングのためのカメラの設置数が2台(風車2地点)では少なすぎる。基本的にはすべての風車にカメラを設置すべきであるが、最低でも3kmに一本、計10地点以上で設置すべきである。特にミサゴの営巣地付近および風車列の端ではカメラの設置密度を増やすべきである。

(5)結論

  • 適切な影響評価を実施するために、(1)から(3)にある追加調査を最低でも1年間は実施すべきである。
  • 追加調査の結果も鑑みて、貴社による洋上風車の計画が鳥類その他の生物に影響があると認められた場合には、風車の設置位置および基数を変更すべきである。
  • 対象事業計画区域は海鳥にとって重要な生息地であり、多くの渡り鳥の経路にもなっているという観点から、本来は配慮書作成以前の段階から事業実施想定区域として選定されるべき海域ではなかった。そのような観点から鑑みて、上記にある追加調査を実施できないのであれば、鳥類をはじめとする海洋生物に影響が大きいと予測される風車(大きく海岸側と沖側に二列ある風車列のうち海岸側のすべて、子吉川河口の沖合すべて)の建設を無条件に取りやめるべきである。

なお、この意見は概要にまとめる際に原文のまま採用すること、また写真も掲載あるいは添付することを希望する。

以上



2018/2/22 9:18 ガンの北帰
2019/10/27 7:27 マガモの南下
2019/10/26 7:09 低高度を飛ぶハクチョウ(1)
2019/10/26 7:09 低高度を飛ぶハクチョウ(2)

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