公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)あわら沖洋上風力発電事業 計画段階環境配慮書についての意見書を提出しました

令和元年12月19日

電源開発株式会社
取締役社長 渡部 肇史 様

日本野鳥の会石川
代表 中村正男
929-1125 石川県かほく市宇野気1-71

(公財)日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
141-0031 東京都品川区西五反田3—9-23丸和ビル

(仮称)福井県あわら洋上風力発電事業 計画段階環境配慮書への意見書

 

事業実施想定区域は、多くの水鳥や渡り鳥が生息、利用している海域であるため、バードストライクや生息地放棄等が発生することが大きく危惧されます。よって既に計画が進められている他の洋上風力発電事業と協議・調整を行い、以下の配慮と対応を求めます。

  1. (仮称)あわら沖洋上風力発電事業における事業者と協議、調整された事業計画のもとに共同作業も含めた適切な環境影響評価を実施することが必要です。さらに、事業実施想定区域の東には貴社が建設し株式会社ジェイウィンドが運転するあわら北潟風力発電所があり、この発電所との複合的な影響(累積的影響)も評価する必要があります。これらができない場合には本事業計画は実施すべきではありません。
  2. 渡りの時期にはアカエリカイツブリ、アビ類やウミスズメ類など多くの鳥類が事業実施想定区域に生息し、渡りを行っています。このような海域ではバードストライクや生息地放棄の発生を念頭においた調査が必要であり、これらが発生しそうな時期や兆候を予測し把握する事が必要です。また、風力発電施設の稼働後においてもモニタリング調査を実施し、影響が生じた際には風車の稼働停止を含めた対応が必要です。
  3. カモ類が夜間に渡りを行うことは知られていますが、オオミズナギドリ、アビ類やウミスズメ類も夜間に渡りを行うと推測されています。そのため、夜間にバードストライクが発生することを念頭に置いた調査も必要であり、上記同様、バードストライクが発生しそうな時期や兆候を予測し把握する事が必要です。また、施設の稼働後においても、影響が生じた際には風車の稼働停止を含めた対応が必要です。
  4. トモエガモ、マガモ、マガン、ヒシクイは日本海を直接横断して大陸へ渡ることが確認されており、片野鴨池のカモ類、ヒシクイ、マガンも事業実施想定区域を渡る可能性があります。この飛行ルートを詳細に把握するための調査・予測・評価が必要であり、それができない場合には、風力発電施設を建設すべきではありません。
  5. 施設の稼働後に鳥類の飛翔状況を監視できる体制を設け、バードストライクが発生した場合には該当する風力発電機を停止する仕組みを盛り込んだ保全措置のためのシステム構築が必要です。
  6. 施設の稼動後にバードストライクの事故が頻発するなど著しい環境影響が生じた場合は、該当する風力発電機の撤去も含めた判断を行う第三者を参加させた検討体制を設置することについて明文化するべきです。
  7. 海上に飛来する鳥類の数や海洋環境は年によって異なることが多いため、地上に比べて調査・予測・評価などの難度は高いと考えられます。そのため、環境調査の実施には3年以上をかけるべきです。
  8. 環境アセスメント制度における、配慮書、方法書、準備書等の文書は、一般の端末でも縦覧でき、合わせてダウンロード、印刷が可能とすべきです。

以上

(理由については次頁以降に記しています)

《理由》

◎既存計画における事業者と協議、調整された事業計画であるべき

事業実施想定区域は、既に(仮称)あわら沖洋上風力発電事業が計画されており、計画段階環境配慮書が公開されている。本件の配慮書によると(仮称)あわら沖洋上風力発電事業の事業実施想定区域と重複する部分が多くあり、しかも沖合に広く拡大されている。2つの事業がそれぞれに事業計画を進めた場合は複合的な影響評価を実施するという観点がなく、最も心配されるバードストライクにおいて有効な調査・予測・評価ができないと考えます。
従って、(仮称)あわら沖洋上風力発電事業における事業者と協議、調整された事業計画のもとに共同作業も含めた適切な環境評価を実施することが必要です。

◎既存発電所を含む累積的影響が考慮された事業計画であるべき

累積的影響とは、一定の地域内で複数の事業が平行して行われる際、個々の事業の環境アセスメントの積み重ねでは十分に複数事業による環境影響を検討することが困難である場合に、相加的・相乗的に影響を評価することを言います。
業実施想定区域の東側には、あわら北潟風力発電所が稼働中です。片野鴨池と坂井平野を往復するマガンへの影響を評価するためには、既設の10基に加え新たに建設される風車の影響を考慮することが必要です。
なお、あわら北潟風力発電所建設時の環境影響評価資料も利用し、風車が一切ない状態のマガンの行動と現状の比較を行ったうえで、(仮称)福井県あわら洋上風力発電事業の影響を評価することが重要です。

◎多数の水鳥や渡り鳥が生息する海域はバードストライクが発生する可能性がある

日本野鳥の会石川では毎年3月に事業実施想定区域に属する地点の海岸で探鳥会を行っています。その結果注1を見ますと、春の渡り時期にはアカエリカイツブリ、アビ科の鳥類(アビ、オオハム、シロエリオオハム等)、ウミスズメ(環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠA類)、オオミズナギドリやヒメウ(環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠB)が観察され、時としては数百羽に及ぶことがあります。さらにはミサゴ(環境省レッドリスト准絶滅危惧)の採餌場所になっています。
なお、2005年10月にハクガン(環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠA類)4羽が当該区域を飛翔していたのが観察されています。
また、ラムサール条約湿地である片野鴨池で越冬するマガン(環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類)は、片野鴨池と餌場である坂井平野を毎日往復する際、北潟湖周辺を通過します。北潟湖上を飛行することが多いものの、気象条件によっては海上を通過することがあり、(公財)日本野鳥の会ではマガンが北潟湖西の海上から内陸に向けて飛翔していることをレーダー観測によって確認しております。注2
これらの種については洋上の巨大風車によるバードストライクの発生が十分に考えられます。

◎夜間に渡る鳥類のバードストライクの恐れ

一般にカモ類は夜間に渡りを行うと言われています。片野鴨池で越冬するカモ類あるいは他地域からのカモ類も事業実施想定区域を夜間に渡る可能性があります。また、オオミズナギドリは繁殖地では夜間に活動することが確認されており、渡りも夜間と推測されます。同様にアビ類やウミスズメ類も夜間に渡ると考えられます。確認の難しい、夜間におけるバードストライクの可能性については十分な調査・予測・評価が必要と考えます。

◎日本海を直接横断する種に影響を与える可能性がある

トモエガモ(環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類)が陸伝いではなく、直接日本海上を飛んで大陸へ渡ることが解明されています注3。また、九州(長崎県)や関東地方(埼玉県)から追跡されたマガモでも、日本海を横断して大陸へと渡ることが確認されており、そのうちの一部は石川県を経由して渡っています注4。
さらに、島根県出雲市で越冬する国指定天然記念物のヒシクイ注5、マガン注6も日本海を直接横断する渡りを行うことが知られています。この時に送信機を装着されたヒシクイのうち1羽が片野鴨池でも観察されており注7、片野鴨池のヒシクイ(亜種ヒシクイが絶滅危惧II類、オオヒシクイが準絶滅危惧)も日本海を横断するものがいる可能性があります。
片野鴨池は、2010年代初めまで西日本最大のマガンの越冬地でしたが、近年は国内のマガン個体数が増加しているにも関わらず、片野鴨池での越冬数は減少しています。この原因として、個体数の増減に影響を与える要因や渡り時の行動などから、片野鴨池に飛来するマガンは宮城県などに飛来するマガンとは繁殖地や春の渡りルートが異なる可能性が示唆されました注2。渡り時の行動や島根県で越冬するヒシクイの例から、片野鴨池のマガンも直接日本海を横断しているものと考えられています。
これらの渡りの状況から、トモエガモやマガン、ヒシクイを含む北潟湖周辺で越冬するガンカモ類が事業実施想定区域を通過する可能性があります。
北潟湖周辺のガンカモ類の渡りの際の飛行ルートを詳細に把握するための調査を少なくとも数年間実施したうえで予測、評価を行う必要があり、これが困難な場合は事業実施想定区域での風力発電所の建設を行うべきではないと考えます。

◎洋上でのバードストライクについて

洋上での風車によるバードストライクは陸上でのそれに比べて、調査・予測・評価が難しく、巨大風車が立ち並ぶ本計画では特に綿密にこれらを実施しなければなりません。特に、渡り鳥が重要な調査対象となるため、1シーズンでは予測、評価のための情報が不足するため、複数年に渡る調査が必です。
また、風車が稼働した後はバードストライクの発生監視を行う仕組が必要であり、バードストライクの発生に対しては第三者も入れた検討体制を構築し、バードストライクが多発するならば対象の風車の停止、定常的に発生するならば風車の撤去を盛り込んだ運営を行うことが肝要と考えます。
さらに、バードストライクの発生事実、その対策検討結果は公表されるべきです。

◎オンライン閲覧について

環境アセスメント制度における、配慮書、方法書、準備書等の文書は、県庁を始めとした縦覧場所での縦覧は、1部のみのため複数の人員が同時に縦覧することが困難です。また、そのために縦覧場所に出向く必要があるため、時間的、距離的な制約が大きいです。それ故にオンライン閲覧は大きな利点があるものと考えます。しかし、現在のオンライン閲覧は WindowsのInternet explorerでしか閲覧ができないため、下記の問題があります。

  • 今やパソコンよりも、スマートフォンやタブレット端末でのネットアクセスが主流になっているにも関わらずこれらでは閲覧できない。またMacでの閲覧もできない。
  • Windows 10では、Internet Explorerは標準ブラウザではなく、Edgeが標準ブラウザとなっている。Window 10にはInternet Explorerがインストールされてはいるが、うまく使えない方が多々いる。
  • 印刷、ダウンロードができないため複数人が同時に縦覧するためには複数のWindowsパソコンやそのためのネット環境が必要となり、複数人での意見合成などが困難であり、意見書等への反映が十分にできない状況である。
  • また、準備書には多額の費用が費やされたアセスメント実施の結果が記されており貴重な資料となっている。該当地域の環境実態を把握し、以降の検討・研究に広く利用するためにも、ダウンロードや印刷ができないのは問題と考える。

上記の問題解消を強く望みます。

注1. 片野海岸探鳥会データ(付表)
1999年〜2014年は石川野鳥年鑑(ホビーズワールドで購入可)、2015年〜2019年は日本野鳥の会石川の会報「石川の野鳥」4月号または6月号より。
注2. 詳細については(公財)日本野鳥の会に問い合わせ
注3. 世界で初めて、トモエガモの渡りのルートを解明(日本野鳥の会ホームページ)https://www.wbsj.org/activity/press-releases/press-2012-09-07/
注4. Yamaguchi N et al. 2008. Spring migration routes of mallards (Anas platyrhynchos) that winter in Japan, determined from satellite telemetry. Zoological Science 25(9):875-881.
注5.出雲市で越冬するヒシクイを衛星追跡 日本海を渡るルート解明(http://www.yamashina.or.jp/hp/ashiwa/news/201007_hishikui.html)
注6. Yamaguchi, N. and Higuchi, H. 2008. Migration of birds in East Asia with reference to the spread of avian influenza. Global Environmental Research 12:41-54.
注7.2010年11月11日~2011年2月11日にかけて観察(平成22年度(2010年度)加賀市鴨池観察館 年次報告書)

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