令和2年1月28日
株式会社ユーラスエナジーホールディングス
代表取締役社長 清水 正己 様
公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
日本野鳥の会オホーツク支部
支部長 川崎 康弘
紋別郡遠軽町生田原155-29 多賀憲雄方(事務局)
「(仮称)常呂・能取風力発電事業 環境影響評価準備書」
に対する意見書
この度、貴社が作成された「(仮称)常呂・能取風力発電事業」事業に係る環境影響評価準備書について、次のとおり意見を提出します。
記
1.対象事業実施区域で確認されている希少鳥類の生息状況からみた意見
(1)ヒシクイ
貴社が取得したデータから、ヒシクイは主に10月に能取湖西岸を中継地および塒として利用し、日中は対象事業実施区域(以下、計画地と言う)の西側に広がる畑地を採餌場所として、頻繁に計画地内を通過していることが確認できる。
ヒシクイなどの大型鳥類は空中での飛行操作性が低いことから、悪天候時は風力発電施設(以下、風車と言う)を避けるような行動を取りがたく、風車への衝突リスクが高い種である。また、貴社の取得データによれば、計画地を通過するヒシクイの飛行高度は高度M(風車のローター高)がほとんどである。そして、塒と餌場の行き来はヒシクイの能取湖周辺での滞在中に毎日繰り返される。これらのことから、本計画地におけるヒシクイの生息状況においては、1羽当たりの風車への衝突確率が非常に高くなると考える。一方、ヒシクイなどのカモ科の鳥類では天候の良いときには風車を避けて飛ぶ障壁影響が生じることが知られているが、貴社が風車建設後の保全措置として飛来時期に風車の稼働を止める稼働制限を行っても、この障壁影響を解消することはできない。
これらを鑑みると、計画地に風車を建てるとヒシクイのバードストライクが多く発生すること、また、障壁影響が頻発することで計画地西側の餌場を放棄することが予測され、これらが長年に渡り繰り返されることで、オホーツク海沿岸を通過して根釧地域で越冬するヒシクイの個体群の存続に対し影響を与える可能性がある。
そのため、ヒシクイが利用する場所(北端から数えて10基めまで)での風車の建設を避け、ヒシクイに対する影響を回避すべきである。
(2)マガン
貴社が取得したデータから、マガンは主に10月に能取湖西岸を中継地および塒として利用し、日中は計画地の西側に広がる畑地を採餌場所として、頻繁に計画地内を通過していることが確認できる。
マガンなどの大型鳥類は上記①のヒシクイと同様、空中での飛行操作性が低いことから悪天候時は風車を避けるような行動を取りがたく、風車への衝突リスクが高い種である。また、貴社の取得データによれば、計画地を通過するマガンの飛行高度には高度Mが含まれている。一方、天候の良いときには風車を避けて飛ぶ障壁影響が生じることが知られている。
これらを鑑みると、計画地に風車を建てるとマガンのバードストライクが少なからず発生すること、また、障壁影響が頻発することで計画地西側の餌場を放棄することが予測され、これらが長年に渡り繰り返されることで、オホーツク海沿岸を通過して根釧地域で越冬するマガンの個体群の存続に対し影響を与える可能性がある。
そのため、マガンが利用する場所(北端から数えて3~7基めまで)での風車建設を避け、マガンに対する影響を回避すべきである。
(3)オオジシギ
貴社が取得したデータから、オオジシギは繁殖期に計画地内で生息していることが確認できる。
オオジシギは2000年以降になって本州以南のみならず北海道でも個体数の減少が懸念されており、また、近年の豪州での越冬環境の悪化(宅地開発、異常乾燥、野火等による生息環境の消失)から、急速に個体数が減少することが懸念されている。
オオジシギは繁殖期(4~6月)になわばり周辺の上空でディスプレイフライトを行うが、その際に行う旋回飛行は高度50~100mと高度Mの範囲で行われるため、オオジシギは風車への衝突リスクが高い種と言える。
これらを鑑みると、オオジシギが利用する場所(北端から数えて4~6基めの範囲)での風車建設を避け、オオジシギに対する影響を回避すべきである。
(4)オジロワシ
飛翔図や詳細な調査結果は記載されていないが、貴社のデータによると調査期間中に計画地内外で1,917例の飛翔を、また、5つがいの繁殖を確認している。
国内外の事例をみても、オジロワシは風車への衝突リスクが非常に高い種であり、日本や欧州各国でオジロワシのバードストライク対策が講じられている状況である。
これらを鑑みると、計画地において渡りの時期や越冬期にオジロワシが利用する場所、および繁殖期については営巣地から半径3,000m以内での風車建設を避け、オジロワシに対する影響を回避すべきである。そうしなければ、長年に渡りバードストライクの発生が繰り返されることで、計画地周辺で繁殖するオジロワシおよびオホーツク海沿岸を通過して根釧地域で越冬するオジロワシの個体群の存続に対し影響を与える可能性がある。
また、風車建設後も計画地周辺で繁殖するオジロワシがあれば、その行動や繁殖状況をモニタリングしていく必要がある。
(5)オオワシ
貴社が取得したデータから、オオワシは主に12・2・3月に計画地とその周辺を利用、計画地内を飛翔していることが確認できる。
オオワシにおけるバードストライクの発生はそれほど多くは確認されていないため、風車への衝突リスクが高い種とは言えないが、しかし、貴社のデータでは高度Mでの飛行が多いことから、気象等の条件によっては一定程度のバードストライクが発生する可能性は否定できない。また、当会が2014年11月に北海道・宗谷岬で行った調査の結果から、オオワシにおいては風車を避けて飛ぶ障壁影響が頻繁に生じることが知られている。
これらを鑑みると、計画地に風車を建てるとオオワシのバードストライクが発生する可能性があること、また、障壁影響が頻発することで計画地を渡り経路として放棄することが予測され、これらが長年に渡り繰り返されることで、オホーツク海沿岸を通過して根釧地域で越冬するオオワシの個体群の存続に対し影響を与える可能性がある。
そのため、オオワシが利用する場所(北端から数えて1~12基めまで)での風車建設を避け、オオワシに対する影響を回避すべきである。
(6)チュウヒ
貴社が取得したデータから、チュウヒが9月および4月のおそらく移動期に計画地を通過したことが確認できる。
これまでに国内ではチュウヒにおいてバードストライクが生じている事例は報告されていないものの、生態が非常に近いヨーロッパチュウヒおよびハイイロチュウヒではそれが確認されていることから、現時点では風車への衝突リスクが低い種とは言えない。
貴社の取得データでは両方とも高度Mで計画地を通過していること、また、チュウヒは近年になって国内希少野生動植物種に指定されるなど保護すべき鳥類の種として非常に注目されていることから、チュウヒが利用する場所(北端から数えて4~5および9~10基め)での風車建設を避け、チュウヒに対する影響を回避すべきである。
(7)ハイタカ・オオタカ・クマタカ
貴社が取得したデータから、これら3種の鳥類が繁殖期に計画地内で行動していることが確認できる。
これまでに国内でこれら3種においてバードストライクが生じている事例が報告されていることから、現時点では風車への衝突リスクが低い種とは言えない。
貴社の取得データでは3種とも高度Mで計画地内を飛翔していること、また、これらは保護すべき鳥類の種として注目されていることから、これらが利用する場所での風車建設を避けるなどして、影響を回避すべきである。
(8)クマゲラ
貴社が取得したデータから、少なくとも一つがいのクマゲラが繁殖期に計画地内に生息していることを確認している。
これまでに国内ではクマゲラにおいてバードストライクが生じている事例は報告されていないものの、同じキツツキ科のアカゲラでは確認されていることから、クマゲラが風車への衝突リスクが低い種とは言い切れない。
クマゲラが天然記念物に指定されていることも考えると、クマゲラの繁殖期の行動圏となる営巣木および食痕が多いエリアから半径1kmの範囲での風車建設を避け、クマゲラに対して影響が発生しないように配慮すべきである。
2.事業計画全体について
(1)繁殖期、渡り期に計画地とその周辺を利用する絶滅危惧種の鳥類が非常に多く、計画地に風車を建設すると、これらの鳥類に対しバードストライクおよび障壁影響を含む生息地放棄などの影響を引き起こすと考えられる。そして、そのことが計画地周辺で繁殖する鳥類およびオホーツク海沿岸を通過して根釧地域で越冬する鳥類の個体群の存続に対し影響を与える可能性がある。
それらのことから、風車の配置計画のみならず、事業計画そのものを見直して、風車の建設による当該地域の鳥類およびその個体群への影響を回避すべきである。
(2)準備書にある保全措置はどれも「保全措置を実施で事業者の実行可能な範囲で影響が回避低減される」と一般的なことしか記載されていない。本来であれば種ごとに保全措置を検討すべきであり、複数の専門家に種ごとに予測評価の結果について意見を求めたうえで、十分な影響の回避低減が確認できなければ、事業を抜本的に見直すべきである。
別紙
対象事業計画区域で確認されている主な希少鳥類の保護ランクについて