公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)新さらきとまない風力発電事業 環境影響評価準備書に対する意見書を提出しました

令和2年2月26日

電源開発株式会社  御中

「(仮称)新さらきとまない風力発電事業 環境影響評価準備書」について
以下のとおり意見書を提出いたします。

特定非営利活動法人サロベツ・エコ・ネットワーク
代表理事 吉村 穣滋
(北海道天塩郡豊富町字豊富東2条5丁目)

風力発電の真実を知る会
代 表 佐々木 邦夫(公印省略)
(稚内市はまなす2丁目7番18号)

道北の自然と再生エネルギーを考える会
代 表 富樫 とも子(公印省略)
(北海道天塩郡幌延町字下沼853番地1)

北海道ラムサールネットワーク
代 表 小西 敢  (公印省略)
(北海道厚岸郡浜中町琵琶瀬60 NPO法人霧多布湿原ナショナルトラスト内)

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一  (公印省略)
(東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル)

■図書縦覧・説明会等

  • 縦覧と意見書募集の周知
    環境影響評価図書の縦覧と意見書募集の周知は、新聞広告を除くと貴社のホームページでの紹介のみでした。新聞広告は新聞を取っていない人は読むことができず、読んだとしても忘れる恐れがあります。近隣の他の事業者同様稚内市をはじめとして周辺自治体のホームページのトップページなどのわかりやすいお知らせの欄に情報を掲載するようお願いすべきです。このほか、回覧やポスター掲示、チラシ配布により多くの人に周知するよう努力すべきです。
  • 縦覧場所
    サラキトマナイの風車はサロベツからも視認可能で影響を受けるため、豊富町の施設も縦覧場所に追加すべきです。
  • オンラインの閲覧方法
    縦覧期間のみインターネット上で閲覧可能ですが、ダウンロードや印刷ができません。約千ページもある環境影響評価図書を、PC上のみで閲覧しながら、意見書を記載することは現実的な方法と言えません。図書の内容が実際と齟齬がないか精査することは、影響を適切に評価するうえで重要です。周辺の事業者のJFEエンジニアリングは閲覧期間に限らず随時、インターネットで閲覧可能にしていますので見習うべきです。また、稚内市図書館または市役所等で閉架禁帯出扱い等により厳重に管理したうえで所蔵し、閲覧できるようにすべきです。図書の信頼性の確保と地域住民との合意形成のために透明性・公平性が不可欠です。
  • 説明会
    説明会の一般参加者は、説明会後に個別に説明を受けるために出席したサロベツ・エコ・ネットワーク関係者2名だけでした(その他の参加者は全員事業者の関係者でした)。新聞広告以外に、貴社のホームページに案内がない、複数回実施するなどの周知の努力を怠った結果です。説明会は形の上で開催しても参加者がいなければ実施する意味がありませんので、合意形成行うために説明会を再度開催しなおすべきです。
  • 情報共有
    稚内市を活動範囲に含む地元の環境保全団体に対して他の事業者と行っている守秘義務契約などを結んだうえで、事業への理解を得るために図書を提供すべきです。

■方法書の意見書に関する対応

方法書の意見が概要として内容の一部が削られており、意見について事業者の見解として回答していない部分が多数あります。削った部分について記載し回答してください。また、方法書の意見書で指摘した内容が全く反映されていません。方法書を提出した段階でほとんどの調査が終了していました。方法書の意見書は追加調査を検討するために行うのではなく、本調査の方法に対して、意見を募っているのであって、その意見が反映されなければ行う意味がありません。方法書の意見を反映させたうえで調査をやり直すべきです。

■景観

稚内市の観光地大沼バードハウスから大沼のハクチョウ類を眺める際に見える背後に丘陵が見える広大な景観は巨大人工物がなにもないことに価値があり、人工物が少しでもあるとその景観を大きく損ないます。このため、この丘陵のスカイラインから突き出た風車の建設は避けるべきです。鉄塔を基準にした垂直見込み角による圧迫感があるか否かの評価方法は当てはまりません。風車は水平に複数が並んでいると一体のものとして見えるため、1本1本の高さではなく、全体的な水平見込み角によって評価すべきです。水平見込み角によって累積的に周りの景観との違和感として評価すれば、各眺望点からは風車の存在は広々とした景観に対して重大な影響を及ぼしていることが明らかになるはずです。実際に私たちは大沼やメグマ沼からサラキトマナイの風車を見るととても気になります。景観自体が重要な場所では影響が想定される範囲として視野角1度の範囲を拡大すべきです。景観のヒアリングは風力発電事業を推進し、専門家ではない地元自治体職員から景観調査地点を問い合わせただけで、専門家にヒアリングが行われていません。景観の専門家やサロベツや宗谷地方の景観の重要性を理解している地元環境保全団体に対して行ったうえで景観の評価をすべきです。

旧サロベツ原生花園ビジターセンター付近はバス停や駐車帯があるため、多くの人が道路沿いから高層湿原と巨大人工物がない景観を見物しに訪れ、車窓からの景観を楽しむ場所でもあります。ここからは現存のサラキトマナイの風車が視認でき、風車が大型化すれば、より大きく見えることが予測されます。このなにもない湿原の景観は、サロベツの自然環境そのものを代表するものです。実際にそれを目的に毎年多くの利用者が訪れ、繰り返し訪れる利用者も多い場所です。この景観にスカイラインから飛び出る形で風車が建設されると、小さくしか見えないとしてもその景観の価値が損なわれ、観光資源としての価値も損なわれます。このため、旧サロベツ原生花園からの景観も評価の対象に加えるべきです。また、同様にメグマ沼木道、稚内森林公園、兜沼公園も景観調査の対象に加えるべきです。景観の重要性は古い一つの指針に依存するのではなく、地元を含めた協議会などで議論をしたうえで、地域の環境を十分に考慮した基準を設定したうえで判断すべきです。

■鳥類

  • 全体
    サラキトマナイの既存風車は環境影響評価の制度が変更される前に実施された事業ですので、建設前に現地調査が行われていません。現存の風車の存在による影響を明らかにするため、既存の風車を撤去した後に最低1年程度空けたうえで、既存の風車による影響を調査し評価してから新たな風車を建設すべきです。
  • 鳥類の定点センサス法
    狙いの種を設定したうえで適切な時期と調査方法を考慮したうえで調査を行わなければ、有効な結果を得ることができません。1地点30分×9地点×月1回(月に半日の調査)では気象条件に左右されるため、生息する鳥類を十分に把握できません。複数回の調査が必要ですので、追加調査を行うべきです。
  • 希少猛禽類
    狙いの種を設定したうえで適切な時期と調査方法を考慮したうえで調査を行わなければ、有効な結果を得ることができません。方法書には調査時間が記載されていませでした。準備書においても5月から10月までの間に調査時間が示されていませんので記載すべきです。
  • ガン、ハクチョウ類
    サラキトマナイの事業地はガン・ハクチョウ類がロシア・日本間を渡る上での主要なフライウェイに位置することが明らかとなっているため、事業を避けるべき場所です。近隣のユーラスエナジー㈱の川西の事業地はその中心に位置することから、経済産業大臣よりサラキトマナイに隣接する場所の多くの風車を取りやめにすべきという意見が出され、実際に多くが取りやめになりました。近隣で(公財)日本野鳥の会、ユーラスエナジー(株)、エコパワー(株)が行った調査でも事業地周辺上空にガン・ハクチョウ類の通過が多数確認されているため、当地域においても川西と同様の状況であることがうかがえます。情報を開示して、その結果を考慮したうえで影響を評価すべきです。
    ハクチョウ類調査では本事業の昼間の調査結果によると渡り経路が事業地内を避ける結果が出ていますが、渡りのピーク時期から外れた5月中旬と11月上旬に調査日が設定されており、ほとんど渡りが確認されていません。調査回数も春と秋でそれぞれ3日しか行っておらず、実施時期が不適切な上記1日ずつを除くと各季節2日間しかありませんでした。春の4月に行われた調査でも1つか2つ分の集団(1つの集団は数十羽のことが多い、野鳥の会報告書参照)しか記録が取れておらず、3回の調査のうち1回(1日分)しか十分な結果が得られていません。渡りは日によってばらつきが多く、気象条件によって大きく変化します。他の事業結果や日本野鳥の会が行った調査結果と比較しても調査日数や確認個体数が少なすぎ、調査結果として影響評価するに十分な結果を得られていません。
    また、貴社がヒアリングを行った鳥類の専門家3名の中にはガン・ハクチョウ類の専門家は含まれていませんでした。地元の渡り情報に詳しい自然保護団体の鳥類専門家の意見を参考しなかったため、適切な調査方法がわからなかったことが原因と思います。
    マガン・オオヒシクイもハクチョウと同様に主要なフライウェイとしてサラキトマナイ周辺を利用するので、調査対象に加えるべきですが、調査が行われていませんでした。猛禽類やハクチョウ類調査とは調査時期や方向も異なるため、既存の調査結果からは参考程度の結果しか得ることができません。また、渡りの時期はマガン・ヒシクイでそれぞれ渡りの最盛期が異なりますので、ガン類の調査として調査方法を専門家に相談しながら検討し再度調査すべきです。
    以上から、貴社の調査結果は不十分であるため、日本野鳥の会や他事業者の調査結果を参考にしながら、地元の鳥類専門家の助言を受けたうえで調査をやり直し捕影響評価をしなおすべきです。方法書に記載された意見ではこの部分が除外されてましたので、除外せず事業者の見解を示してください。日本野鳥の会によるサラキトマナイを含むガン・ハクチョウ類の調査結果を添付しますので評価の参考にしてください。
    ハクチョウ類・ガン類は仮に風車を避けたとしても、高頻度に利用される場所では障壁影響が大きくなるため、既存の風車による障壁影響を明らかにするためには、既存のサラキトマナイの風車を取り壊した後の新たな風車の建設前に、最低1年程度の調査期間を設けるべきです。障壁影響が明らかになった場合は、主要な渡り経路における風車の建設は避けるべきです。
  • 死骸調査(鳥類・コウモリ類)
    死骸の消失率を考えると月1回では十分な評価ができません。他の事業者でも月2回以上調査を行っています。持ち去り率調査では小鳥類と大型鳥類を含め、半数以上が5日以内に消失しているため、消失率を考えいると月最低月5日ごとに調査行わないと適切な評価できませんので、やり直してください。特にオジロワシの場合、月に1度衝突すれば多いほうなので、残存率が高い5日以内に1回の頻度で調査を行うべきです。また、過去に他の地域で風車との衝突事故が多い冬の積雪期に調査が行われていませんが、積雪期の場合、雪に埋もれて見えなくなることを考慮して積雪状況に合わせて5日以内などの高頻度で死骸調査を行うべきです。雪に埋もれた死骸はキツネなどに掘り返されて消失する可能性があります。

■累積的影響の評価

道北エナジー(勇知と川西)、エコパワー(上勇知)による風車建設予定地が近隣にあります。事業地は春秋の道北地方の主要渡り経路である大沼とサロベツの間のガン・ハクチョウ類のフライフェイの中心に位置し、そこに風車が建設されることによる移動阻害は大きいと考えられます。他の事業者による多くの風車の建設により、風車を避けた鳥類が移動経路として当事業地域に集中し、影響が増大する恐れがあります。従って、他事業者から情報の提供を受け、準備書の配置を元に累積的評価をすべきです。貴社としても環境影響評価図書を縦覧期間以外にも自ら率先して公表することで、他の事業者から情報提供を受けやすくし、累積的影響評価に寄与するべきです。景観に対する影響も他の事業の風車が集中することにより累積的影響が増大することが懸念されるため、他の事業者の風車を含めて累積的評価を行うべきです。

■騒音、低周波音及び超低周波音による影響

  • 北海道内の研究機関では、2018年石狩湾新港周辺4事業による累積的影響評価を行った結果、石狩市、札幌市、小樽市において多くの住民に圧迫感・振動感を感じさせ、睡眠障害の疾患も生じ得るという結果が予測されています。これらのことから、「直接的人体に影響し健康被害につながる事例は認められていない」との、環境省指針だけではなく、最新の知見等の情報に基づいた確実な方法により調査、予測を実施して、影響の回避を必ず行うべきです。今後、稼働した場合においても1年間に4回以上のヒアリングや精密騒音計による測定や調査を実施し、調査結果が様々な悪影響を与えていると認められた場合は、運転調整等を行うべきです。

■協議会の設置

本事業ではこれまで地元の環境保全団体などと十分な協議が行われてこなかったため、合意形成が不十分であり、今後大きな問題が発生することが懸念されます。特に、景観については客観的評価が困難なため、地元との協議が不可欠です。今後の調査や影響の評価と環境保全措置などの検討は、各専門の有識者や地元の環境保全団体・観光関係者などが参加する公開された協議会を設置し、十分に話し合った上で行うべきです。

■その他

意見書は、法律で保障された地域住民の権利ですので、すべての記載内容を盛り込み部分的に除外することなく、すべての意見に真摯に対応してください。

以上

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