令和 2年 3月25日
アジア風力発電株式会社 御中
日本野鳥の会島根県支部 支部長 佐藤仁志
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(仮称)益田匹見風力発電事業に係る環境影響評価方法書についての意見書
(仮称)益田匹見風力発電事業建設予定地には、配慮書段階での意見書で示したとおりクマタカ、ヤイロチョウ、ミゾゴイなどの環境省により絶滅危惧種IB類に選定されている希少種をはじめ、多くの貴重な動植物が生息している。
今回公表された方法書では情報不足とされ、特に触れられていないが、令和元年10月24日付経済産業省発「(仮称)益田匹見風力発電事業に係る計画段階環境配慮書に対する意見書」に述べられているように、想定区域の周辺では環境省絶滅危惧IB類、広島県絶滅危惧I類に選定されているイヌワシの生息が確認されている。近年、2018年4月に若鳥が、2019年7月には成鳥が観察され、それぞれビデオ・写真撮影されている。これらのことから、建設予定地周辺はイヌワシの生息域である。したがって、希少猛禽類の調査においてはイヌワシの確認に十分に配慮するべきである。
クマタカ については本会会員の調査により、建設予定地周辺で3つがいの生息が確認されている。2018年夏には建設予定地西側で幼鳥が観察され、繁殖していることが確認されている。
本建設予定地北3kmには浜田ウインドファームの風力発電機29基が稼働中であり、さらにその南側に(仮)新浜田ウインドファームの風力発電事業17基の建設計画が進行中である。浜田ウインドファーム、(仮)新浜田ウインドファーム、(仮)益田匹見風力発電の3つの風力発電施設が完成すれば、南北10km、東西5kmの範囲内に最大高150m超の大型風車61基が立ち並び、全国的にも類のない風車群が建設されることになる(別添「益田匹見風力発電所一帯に計画されている風力発電施設完成後の状況予想」参照)。この範囲内で生息が確認されている9つがいのクマタカをはじめ、多くの動植物の生息・生育が困難となることが予測される。経済産業大臣意見をはじめ、島根県知事、益田市長からも指摘されている、複数の風力発電基の稼働による累積的な影響が懸念される。そこで、すでに稼働中の風力発電事業者、現在建設計画進行中の風力発電事業者と十分連携し、累積的な影響の評価を具体的かつ慎重に実施することを求める。
なお、当該対象事業実施区域周辺において、島根県により絶滅危惧II類に選定されているアカショウビン、ヨタカ、準絶滅危惧種に選定されているオシドリの繁殖が確認されている。
さらに、環境省により絶滅危惧ⅠB類に選定されているヤイロチョウ、ブッポウソウ、絶滅危惧Ⅱ類に選定されているミゾゴイ、サシバ 、準絶滅危惧に選定されているハチクマ、オオタカ、島根県により絶滅危惧Ⅱ類に選定されているヤマセミなども繁殖期に確認されている。これらのほか、国内では八幡高原と大分県九重町のみに渡来し越冬し、広島県により要注意種に選定されているシラガホオジロの渡りの経路ともなっている。また、近隣の山域で広島県により要注意種に選定されているノスリの繁殖が確認されており、建設予定地周辺の伐採地でもノスリが繁殖する可能性がある。
加えて、建設予定地周辺では、春秋の渡りに時期に尾根筋を通過する多くの渡り鳥が観察されている。これらの鳥類の渡りのルート上に巨大な風車が建設されれば、方法書でも予測されているように深刻なバードストライクが懸念される。方法書では渡りの調査は春秋に数回、定点観察法で行うとされているが、夜間に渡る鳥類も多い為、レーダーを使用した調査を実施することが必要である。
対象事業実施区域は、島根県知事の配慮書に対する意見でも述べられているように、脆弱な地質が予想される地域である。尾根筋に広大な掘削を行い、広大な裸地を生ずる建設工事は、近年相次ぐ集中豪雨による沢崩れの原因となることが予想される。 一旦沢崩れが発生すれば、周辺では大規模な砂防工事を実施することとなり、浜田市金城町の浜田ウインドファーム近辺で2017年に発生した集中豪雨災害の復旧工事で見られたように、砂防ダム工事によるクマタカの繁殖への影響が懸念される。クマタカ だけでなく、周辺の沢沿いで繁殖しているミゾゴイやアカショウビンなどへの影響も同様である。
以上述べたように、当該対象事業実施区域一帯には優れた自然が多く存在しており、方法書に示されたような調査及び予測・評価を行うまでもなく、当該風力発電施設を建設することは環境省が推進する生物多様性保全の観点からきわめて損失が大きいと考えられることから、(仮称)益田匹見風力発電事業については計画の断念を強く要望する。