公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)ウインドパーク遠州東部風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書

令和2年7月10日

株式会社シーテック
代表取締役社長 仰木一郎 様

〒438-0035静岡県袋井市砂本町3-12
日本野鳥の会遠江 代表 増田 裕

〒141-0031東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル
(公財)日本野鳥の会 理事長 遠藤 孝一

(仮称)ウインドパーク遠州東部風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書

環境の保全の見地からの意見とその理由

1.全体について
(仮称)ウインドパーク遠州東部風力発電事業における環境影響評価方法書(以下、方法書という。)に掲載されている対象事業実施区域(以下、計画地という。)には、以前より希少猛禽類のクマタカおよびオオタカの生息が確認されており、貴社が計画するこの事業を実施すると、これらの鳥類の生息に多大な影響を及ぼすことが懸念される。なお、計画地にクマタカが生息していることは、方法書にある専門家意見等からも確実である。そのため、貴社に対して、事業の中止または縮小を含めて、計画地及びその周辺に生息する希少鳥類への影響を回避可能な対策を取ることを希望する。今後、影響の回避および鳥類の保全について検討を進めるのであれば、環境影響評価の精度をより向上させるため、下記の「個別の項目について」に記載した内容を参考にして調査方法を変更すべきであることを提案する。
2.遠州地域に広範囲にわたる複数事業が鳥類に及ぼす影響
遠州地域には、山岳地域における大規模風力発電事業として、浜松風力発電所(ふそう風力発電)、浜松市天竜区熊風力発電事業(自然電力)、天竜風力発電事業(JR東日本エネルギー開発)、ウインドパーク天竜風力発電事業(シーテック)および本事業が存在し、これらすべてが浜松市天竜区水窪以南の遠州地域の山の尾根に南北方向に並び立つという状況が生まれようとしている。
一方で、これらのすべての計画地内はクマタカなどの希少猛禽類の重要かつ貴重な生息地および繁殖場所となっている。したがって、すべての事業が実施に移された場合、累積的影響によりクマタカをはじめとして遠州地域に生息する希少猛禽類にバードストライクや生息地放棄など大きな影響を与えることが予想される。
また、計画地にあるサシバとハチクマの春秋の渡りルートは、猛禽類全般における国内最南のルート(静岡⇒掛川⇒浜名湖北部⇒伊良湖岬)と重複していることが知られているが、本事業の実施が障壁影響を生み出し、サシバやハチクマなどの猛禽類は風車を大きく迂回することになるか、バードストライクが発生するようになると考える。なお、このような状況はすでに浜松風力発電所の稼働によって生じていることが証明されている。
したがって、環境影響評価は5事業を一体のものとして行う累積的影響評価を適切に実施することで、5事業がまたがる地域全体で環境影響、特に希少猛禽類に対する影響を最小にすべきである。
3.動物の調査、予測及び評価の結果について(方法書217頁)
  • 計画地にクマタカが生息していることが評価されていないので、個別に評価の結果を明記すべきである。
  • 渡り鳥の移動ルートに対する予備調査が未実施であるにもかかわらず、『上空通過することから生息環境の変化に伴う影響が出る可能性は小さい』と結論付けることは無理がある。
4.配慮書に対して提出した意見の取り扱いについて
先に意見募集を行った当該事業の計画段階環境配慮書(以下、配慮書という)に対し、以下のような意見を提出した。それに対し、方法書に事業者見解として回答を掲載しているが、その回答に不明瞭な部分があるため、ここであらためて意見として掲載する。なお、これに対して貴社がどのように対応するかについては、次の環境影響評価準備書に事業者見解として掲載するだけでなく、当会らに個別に見解を述べていただきたい。

  • 希少猛禽類の調査手法について、配慮書に対する意見書で『事業実施に際しては動植物の生息状況、特に野鳥については想定区域の周辺も含め渡りや繁殖の時期を含め、少なくとも2年以上の調査が必要である。鳥類では希少種であるクマタカの生息状況調査が重要となる』と指摘したが、本方法書では『猛禽類保護の進め方(改訂版)』に準拠して進めるとなっている。したがって、現在の段階は、環境省の猛禽類保護の進め方(改訂版)P36のイ予備調査・調査計画の策定(生息確認及び繁殖可能性の推測)の段階と考える。また、2年間の予備調査をした結果をもって、事業計画の検討(回避)の判断を行い、必要であれば『ウ保全措置検討のための調査・解析繁殖状況調査・行動圏の内部構造解析等』に移行することになっている。そこで、
    1. 予備調査については、クマタカの生態を考慮して7水系(家山川・切山川・大代川・原野谷川・太田川・白光川・福用川)ごとの生息確認が必要。
    2. 予備調査計画にあたっては、何人かの地元の鳥類研究者との現地踏査により、効率よくクマタカの生息調査を進めることが必要。

    である。

  • 猛禽類の渡りに関する調査手法について、意見書で『想定区域および周辺地域は猛禽類の大きな渡りルートであるが、渡り時期の調査について今までの既存データでは十分ではないため、春は3〜5月、秋は9〜11月に最低2年間の調査が必要である。』の意見に対して貴社は、方法書では渡り鳥の調査は1年しか実施しないことで記載しているが、計画地周辺では渡り鳥に関して既存データがほとんどなく、1年の調査でその実態が把握できるとは考えにくいので、こちらからの意見通り、あらかじめ2年の調査期間を確保すべきである。また、定点観測における調査ポイントの設定について、何人かの地元の鳥類研究者と現地踏査したうえで決定すべきである。
5.参考文献の追加
3.1.5-1動物の生息の状況に使用される文献に2020年7月に発行予定の『静岡県の鳥類第3版』を追加すべきである。

以上

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