公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)ウインドパーク天竜風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書

令和2年7月13日

株式会社シーテック
代表取締役社長 仰木 一郎 様

〒438-0035静岡県袋井市砂本町3-12
日本野鳥の会遠江 代表 増田 裕

〒141-0031東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル
(公財)日本野鳥の会 理事長 遠藤 孝一

(仮称)ウインドパーク天竜風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書

貴社が作成した(仮称)ウインドパーク天竜風力発電事業環境影響評価方法書に対して、下記の通り意見を述べます。

全体について

(仮称)ウインドパーク天竜風力発電事業における環境影響評価方法書(以下、方法書という)に掲載されている対象事業実施区域(以下、計画地という)では、以前より希少猛禽類のクマタカおよびオオタカの生息が確認されており、さらに静岡版レッドリストで絶滅危惧ⅠA類(CR)に指定されるブッポウソウが繁殖している。貴社が当該事業を実施することで、これらの鳥類がバードストライクや生息地放棄等の影響を受けることが懸念される。計画地にクマタカが生息していることは、当会も参加した『静岡県の鳥類第3版』および『静岡県の鳥類第2版』の作成に係る鳥類調査の結果からも確実である。また、ブッポウソウに関しては、当会の20年間にわたる観察結果から、計画地で継続的に繁殖していることは明確である。そのため、貴社に対しては、当該事業がこれらの希少鳥類の生息に影響を与えないよう、事業の縮小または中止を含めた抜本的な影響回避策を講じることを求める。今後、影響の回避および鳥類の保全について検討を進めるのであれば、環境影響評価の精度をより向上させるためにも、下記の「個別の項目について」に記載した内容を参考にして調査方法を再検討および変更すべきである。

個別の項目について

1.遠州地域に広範囲にわたる複数事業が鳥類に及ぼす影響
遠州地域には、山岳地域における大規模風力発電事業として、浜松風力発電所(ふそう風力発電)、浜松市天竜区熊風力発電事業計画(自然電力)、天竜風力発電事業計画(JR東日本エネルギー開発)、ウインドパーク遠州東部風力発電事業(シーテック)および本計画が存在し、これらすべてが浜松市天竜区水窪以南の遠州地域の山の尾根上に南北方向に並び建つという状況が生まれようとしている。
一方で、これらのすべての計画地内はクマタカなどの希少猛禽類の重要かつ貴重な生息地および繁殖場所となっている。したがって、すべての事業が実施に移された場合、クマタカをはじめとして遠州地域に生息する希少猛禽類にバードストライクや生息地放棄などの影響が累積的影響として生じることが予測される。
また、計画地にあるサシバとハチクマなどの春秋の渡りルートは、猛禽類全般における国内最南のルート(静岡⇒島田⇒掛川⇒浜名湖北部⇒伊良湖岬)と重複していることが知られているが、本事業の実施が障壁影響を生み出し、サシバやハチクマなどの猛禽類は風車を大きく迂回することになるか、または障壁影響が生じない場合には、バードストライクが発生するようになると考える。なお、このような状況はすでに浜松風力発電所の稼働によって生じているものと考えられる。したがって、環境影響評価は5事業を一体のものとして行う累積的影響評価を適切に実施することで、5事業がまたがる地域全体における環境影響、特に希少猛禽類に対する影響が最小になるよう回避策を講じるべきである。
2.動物の調査、予測及び評価の結果について(方法書209頁~239頁)
  • 貴社は計画地でのクマタカの生息、およびブッポウソウの継続的な繁殖を確認しているにも関わらず、『改変による生息環境の変化に伴う影響が生じる可能性がある』にとどめた評価の結果を再考することを希望する。また、今後、留意事項として対応で進めるのであれば、クマタカだけでなくブッポウソウについてもその旨を明記すべきである。
  • 渡り鳥の移動ルートに対する予備調査が未実施であるにもかかわらず、『上空通過することから生息環境の変化に伴う影響が出る可能性は小さい』と結論付けることは無理がある。
3.特別な絶滅危惧種ブッポウソウへの配慮
計画段階環境配慮書に対する意見書の中で指摘した、計画地でブッポウソウが繁殖していることについて、本方法書における影響評価の結果の中では全く触れられていないため、ここにあらためてそのことを指摘する。そして、ブッポウソウの繁殖に影響を及ぼさないため、風力発電所の設置場所と⼯事エリアの変更が必要であるが、どちらも少なくとも巣から 5km 以上離れた場所にすべきである。
4.配慮書に対して提出した意見の取り扱いについて
先に意見募集を行った当該事業の計画段階環境配慮書(以下、配慮書という)に対し、以下のような意見を提出した。それに対し、方法書に事業者見解として回答を掲載しているが、その回答に不明瞭な部分があるため、ここであらためて意見として掲載する。なお、これに対して貴社がどのように対応するかについては、次の環境影響評価準備書に事業者見解として掲載するだけでなく、当会らに個別に見解を述べていただきたい。

  • 希少猛禽類の調査手法について、配慮書に対する意見書で『事業実施に際しては動植物(特に野鳥)については周辺エリアも含め渡りや繁殖の季節を含む2年以上の調査が必要と考える。鳥類については希少種としてクマタカが各所で観察されており営巣場所及び行動範囲を特定し設置及び工事に際して対策をとるべき』と指摘したが、本方法書では『猛禽類保護の進め方(改訂版)』に準拠して進めるとなっている。したがって、現在の段階は、環境省の猛禽類保護の進め方(改訂版)P36のイ予備調査・調査計画の策定(生息確認及び繁殖可能性の推測)の段階と考える。また、2年間の予備調査を実施した結果をもって、事業計画の検討(回避)の判断を行い、必要であれば『ウ保全措置検討のための調査・解析繁殖状況調査・行動圏の内部構造解析等』に移行することになっている。そこで、
    1. 予備調査については、クマタカの生態を考慮して計画地にある10水系(小芋川・六つの沢・新開沢・不動沢・八代沢・成瀬沢・神妻沢川・和山間沢川・地八川・出馬川)ごとの生息確認が必要、
    2. 予備調査計画にあたっては、現地踏査により、効率よくクマタカの生息調査を進めることが必要、

    である。

  • 猛禽類の渡りに関する調査手法について、当会は意見書で『また、猛禽類の渡りのルートであることが考えられ、その調査も今までのデータでは十分では無く春と秋を含む2年間の調査が最低必要である。』と意見したにも関わらず、貴社が作成した方法書では、渡り鳥の調査は1年間の実施としている。しかし、渡り鳥の数などは年変動があることから、1年の調査では到底その実態が把握できるとは考えにくいため、当会からの意見通り、あらかじめ2年間の調査期間を確保すべきである。また、定点観測における調査ポイントの設定について、現地踏査したうえで決定すべきである。
5.参考文献の追加
3.1.5-1動物の生息の状況に使用される文献に2020年7月に発行予定の『静岡県の鳥類第3版』を追加すべきである。

以上

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