計画段階配慮書についての環境の保全の見地からの意見 |
この度、貴社(日本風力エネルギー株式会社)が作成された(仮称)宮城西部風力発電事業に係る計画段階環境配慮書について、下記のとおり意見を提出します。
記
- 現在、貴社が計画段階環境配慮書(以下、配慮書と言う)を縦覧している(仮称)宮城西部風力発電事業について、事業実施想定区域(以下、計画地と言う)に風力発電施設を建設した場合、環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠB類で宮城県の絶滅のおそれのある野生動植物 RED DATA BOOK MIYAGI 2016(以下宮城RDBと言う)にも掲載されているクマタカの生息地と計画地が重なることが予想され、衝突死(以下、バードストライクと言う)または生息地放棄が発生する可能性が高い。また、サシバやハチクマなど希少猛禽類の渡り経路に対しても障壁影響等が発生することが懸念される。
配慮書においては専門家へのヒアリングを行っており、クマタカの繁殖生息を示されているが、日本野鳥の会会員の情報でも計画地に近い、鳴子温泉西部から漆沢ダムにかけての奥羽脊梁山脈の東部山麓の広範囲においてクマタカの生息を確認している。また、宮城県猛禽類生息状況調査報告書(宮城県 2016)でも、計画地においてクマタカの生息の他、ハイタカ、サシバ、ハチクマの生息や繁殖地が報告されていることから、これら希少猛禽類の保護の観点から繁殖地を避けるよう計画地の位置を見直すべきである。
国内ではクマタカが過去に風力発電施設(以下、風車と言う)によるバードストライクに遭った事例があることから、計画地に風車を建設した場合、希少猛禽類や希少鳥類のバードストライクが起こる可能性が高いと考える。このため、影響評価に係る現地調査ではクマタカや他の猛禽類も繁殖しているものとして適切な調査を十分に行い、これらの猛禽類の生息や繁殖に影響が無いよう、慎重を期して計画地を選定すべきである。
また、サシバやハチクマの渡りルートについても、東西に延びる広範囲の計画地を通過することが容易に予想され、本会会員の観測でも漆沢ダム近くにて、秋に多数のサシバとハチクマの移動が観察されている。計画地周辺は希少猛禽類にとって主要な渡りコースにもなっているので、猛禽類の渡りに係る調査についても質、量とも十分なものを求める。
- 配慮書によると貴社は、計画地にクマタカ等の主な生息環境が存在し、その一部が直接改変されることから生息環境の変化に伴う影響が生じる可能性があると予測している。計画地およびその周辺はクマタカ以外にも多様な鳥類の生息地となっており、ハイタカ、サシバ、ハチクマの繁殖や生息のほかにヨタカ、ハリオアマツバメ、オオタカ、アカショウビン、サンショウクイ、ノジコが繁殖期に生息していることや繁殖行動が観察されている。そのため、希少猛禽類だけでなく重要種の保護の観点から繁殖地を避けるよう計画地の位置を見直すべきである。
- 貴社は、風車の稼働の影響により生息環境が変化するとしているが、調査結果を待つことなく、環境の変化だけではなく、バードストライク等の直接的な影響が生じることが懸念される。特に大型猛禽類であるクマタカは、当会会員の観察によると、計画区域周辺に複数つがいが生息している可能性が高い。クマタカは行動範囲が広く、つがい間でなわばり範囲が重なる場合があり、風車建設により複数個体のクマタカでバードストライクが発生する危険性が非常に高い。また、この地域はクマタカだけでなく、ハイタカやハチクマの繁殖も確認されている。これらの猛禽類の生息への影響やバードストライクの発生についても十分な配慮が必要であり、このような生息地での風車の建設は避けるべきである。また、サシバやハチクマの主要な移動ルートにもなっているため、ルート周辺での風車の建設は避けるべきである。
- 配慮書の予測に『重要な鳥類の渡り経路』について、述べられていない。配慮書では今後の留意事項として、重要な種の生息状況や生息環境、希少猛禽類の詳細な確認を行い、重大な影響が想定された場合に風車の配置や基数、改変区域を検討するとしていることは評価できる。しかし、上空を利用する鳥類への影響などについては方法書以降での評価について、ここでは述べられていない。鳥類への影響は計画地の直接改変だけでない。計画地の上空を利用する鳥類についてはバードストライクだけでなく、「渡り経路の変更」や「生息地の利用放棄(事実上の生息地からの追い出し)」といった影響についても、影響の回避または低減策を計画初期の段階から検討すべきである。
計画地の大部分は、宮城県が発表している「風力発電導入可能性エリア」から外れており、保護優先エリアになることが予定されている。クマタカや他の猛禽類に対し、バードストライクや繁殖地・生息地の放棄など影響が強く懸念されるため、重ねて計画段階から十分な配慮が必要である。
以上の理由から、計画地およびその周辺において、いわゆる発電所アセスのガイドラインにあるような「猛禽類保護の進め方」および「サシバの保護の進め方」に準拠した調査方法を用いた一般的な環境影響評価よりも、利害関係者や専門家とも協議したうえで、さらに詳しい適切な調査の実施を求めるところである。
貴社においても、風車の建設計画にあたっては、猛禽類をはじめ野鳥の生息状況等を的確に把握し、地域の優れた自然環境と生物多様性が失われないよう適切な対応をとることを強く求める。
以上
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