(仮称)能代山本広域風力発電事業に係る環境影響評価準備書に対する要望書
2020年10月8日
秋田県知事
佐竹 敬久 殿
日本野鳥の会秋田県支部
支部長 佐々木 均
秋田県横手市前郷一番町1-21
(公印省略)
日本雁を保護する会
会長 呉地正行
宮城県栗原市若柳川南南町16
公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
(仮称)能代山本広域風力発電事業に係る環境影響評価準備書に対する県知事意見に関する要望書
秋田県能代市で白神ウインド合同会社が計画する(仮称)能代山本広域風力発電事業(以下、対象事業という)について、環境影響評価準備書における対象事業実施区域(以下、計画地という)およびその周辺に生息する鳥類の保全の観点から、下記の通り要望いたします。
記
- 【要望内容】
- 計画地は世界的なガン・カモ・ハクチョウ類(以下カモ科鳥類という)の渡りの中継地である小友沼のすぐ北側に位置していることから、私たちは、この地域に風力発電施設(以下、風車という)が建設される計画があることについて強く憂慮しています。対象事業の実施は、能代平野におけるカモ科鳥類をはじめとする鳥類の渡りに多大な影響を及ぼし、その他の鳥類においても生息地放棄等の発生リスクを高めるため、事業者に対して計画の抜本的見直しを含めた厳しい意見を県知事として述べていただくことを要望いたします。
- 【背 景】
-
- 計画地に近接する小友沼は、秋田県の鳥獣保護区に指定され、農林水産省の「ため池百選」に選定されている貴重な水辺環境です。また、北東ロシア等で繁殖し、日本海沿いに渡る渡り性水鳥にとって国際的に重要な中継地として、東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ(EAAFP)参加地にもなっています。
小友沼に飛来するマガン(天然記念物、準絶滅危惧)、ヒシクイ(天然記念物、絶滅危惧II類)、オオヒシクイ(天然記念物、準絶滅危惧)、シジュウカラガン(国内希少種、絶滅危惧ⅠA類)、ハクガン(絶滅危惧ⅠA類)等のガン類は最大20万羽に達し、日本に飛来するガン類のおよそ8割が移動の際に小友沼を経由しているとされています。計画地はそれらガン類の滞在時には採餌地として、移動や渡りの際には主要経路として利用される地域です。これまで小友沼では春・秋の渡りの時期に限られていたガン類の滞在が、近年の気候変動による越冬地の北上により、小友沼および八郎潟をねぐらとして冬期の長期間滞在が漸増する傾向にあるため、当該地域への風車の建設が日本へ渡来するガン類に及ぼす影響は、将来増々大きくなることが予想されます。
日本で越冬する大多数のガン類の渡りの経路上でも重要な場所となっている計画地においてバードストライクや生息地放棄などの影響が発生すれば、日本の個体群全体に対し、その存続に重大な影響を及ぼす恐れがあります。
- 計画地はオジロワシ(天然記念物、国内希少種、絶滅危惧II類)、ミサゴ(準絶滅危惧)をはじめとし、イヌワシ(天然記念物、国内希少種、絶滅危惧IB類)、クマタカ(天然記念物、国内希少種、絶滅危惧IB類)、オオワシ(天然記念物、国内希少種、絶滅危惧II類)、オオタカ(準絶滅危惧)、ハチクマ(準絶滅危惧)、サシバ(絶滅危惧II類)、ハイタカ(準絶滅危惧)、ツミ、ハヤブサ(国内希少種、絶滅危惧II類)、チョウゲンボウ、コチョウゲンボウ、チゴハヤブサ、ハイイロチュウヒ、チュウヒ(国内希少種、絶滅危惧IB類)、ノスリなど多くの種類の希少猛禽類が営巣地、採餌場所もしくは渡りの経路として利用しており、ここに風車が建設されることで、これら猛禽類の生息が脅かされる恐れがあります。特にミサゴは計画地内での営巣が認められるため、風車の建設が直接、繁殖を阻害することが予想されます。
- 上記で述べたように、小友沼・八郎潟を中心とする秋田県北西部はカモ科鳥類の世界的な飛来地であるとともに希少猛禽類の生息地であることから、県内でも特に手厚い保護・保全が必要な地域です。過去にもこのエリアに建設が計画された風車は、鳥類等への影響の大きさから建設を断念した経緯があります。対象事業も本来なら計画段階で事業対象区域から外されるべき地域でした。
- 日本野鳥の会秋田県支部(以下、当支部という)及び公益財団法人日本野鳥の会は、既に配慮書の段階でこの地域が鳥類保全の見地から風力発電事業の建設には不適切であることを指摘しています。その後の手続きの中で事業者は風車の基数を削減する等の影響低減策を取っているものの、準備書で発表された風車の配置や基数は、事業者による調査結果および当支部が実施した現地調査の結果から鑑みて、鳥類への影響を十分に低減できるものとは言い難く、このまま事業が進めば、計画地やその周辺地域の生態系および鳥類の生息に大きな影響が出ると考えられます。
- 当支部が行った調査の結果から、6箇所に分散する計画地のエリアはそれぞれが鳥類に与える影響が大きいと考えられ、また、6箇所の計画地は広範囲に配置されることから、渡りのガン・ハクチョウ類が回避しにくい配置になっていると推察します。以下に、特に影響が危惧されるエリアについて述べます。
- 特にガン・ハクチョウ類に影響のあるエリアとして、計画地の南側に位置する3エリア(荷八田エリア、須田エリア、比八田・荒巻エリア)が挙げられます(地図1参照)。このエリアは小友沼の真北に位置し、ガン・ハクチョウ類が北上する際に高度を上げながら進入してくる区域であり、また、これらの滞在時には採餌地として利用され、風車のブレード回転域での往来が南北のみならず東西方向にも盛んな区域です(写真1参照)。それにもかかわらず、3つのエリアがランダムに配置され、全体として鳥類が風車を回避しにくい配置となっています(地図2,3)。そのため、現状の計画のままであれば、風車はガン・ハクチョウ類に対し障壁影響を引き起こし、または、視界が低下する悪天候時にはバードストライクの発生リスクが非常に高まることが予測されることから、計画地及びその周辺の地域には風車を建てるべきではないと考えます。3つのうちどのエリアもガン・ハクチョウ類の利用頻度は非常に高く、どの場所にも風車を建設するべきではありませんが、最低でも荷八田エリアの5基と比八田・荒巻エリアの3基の建設を取りやめることで、この地域を利用する鳥類の渡り経路を確保するべきと考えます。
- 海岸沿いに計画されている2つのエリア(沢目エリア、落合風力発電事業)に風車が建設された場合、既存の風力発電事業と合わせると8㎞近くの海岸沿いに風車が沿岸に並ぶことになり、陸域と海域との間で往来が頻繁な鳥類の飛翔や行動を広範囲に妨げることになります。陸域と海域の往来は渡りの時期にカモ科鳥類のほか、猛禽類や小鳥類が行い、また、海域を採餌場所として繁殖するミサゴも高頻度に行っています。ミサゴは繁殖の際、海で獲った魚を巣に持ち帰る行動がみられるため、海岸に並ぶ風車はその行動に対して大きな障壁となり、県内で当支部が把握しているだけでも2例の衝突死事例があり、また、全国的には複数の事例がみられています。事業者は準備書作成に係る現地調査で判明した7ペアのミサゴの繁殖に影響の及ぶことのないよう、ミサゴの営巣地や行動に合わせて基数を削減するなどの措置が必要です。
- 計画地の周辺には複数の洋上風力発電事業が同時進行で計画されており、これらの他事業との累積的な影響を考えると、対象事業の鳥類に対する影響は、対象事業単独で考えた場合より深刻なものになるものと考えられます。計画地が渡りの主要ルートであることを考えると、対象事業における風車の設置は制限されるべきであり、この観点に基づきより俯瞰的な視野に立つ第三者の指導が必要です。
- 計画地周辺だけでなく秋田県内では急速に風車の建設が増加しており、今後の計画も含めると、秋田県の沿岸域は海も陸も風車で覆いつくされてしまう状況となっています。広範囲に及ぶ開発は豊かな生態系を誇る秋田県の自然環境を大きく損なう恐れがあります。日本野鳥の会秋田県支部代表も出席してきたこれまでの秋田県の環境審議会や環境基本計画策定委員会等においても、環境保全・野生生物の保護の観点から風力発電事業の安易な乱立は認められないと指摘してきました。豊かな自然環境は本県の財産であり、世界遺産の白神山地に近接した米代川の北側の広範囲を風車で埋めつくすという本計画は、景観保護の観点からも問題です。
またEAAFPの取り組みに象徴されるように、これらの渡り性水鳥は日本のみならず多国間で共有する自然資源であり、計画地及びその周辺地域での風車建設がこれらの鳥類に影響を与えた場合、それは同時に国際的にも重大な問題となることを十分に認識する必要があります。累積的影響評価を事業者が行うことを円滑に進めるために、アセス図書を事業者が二次利用可能にする、累積的影響評価手法に関するガイドラインを策定するなど県および国の強力な指導が必要です。
- ブレード塗装やシール貼り付け等は、夜間や悪天候時等には効果がなく、低減策・緩和策として有効ではないと考えます。
なお資料として1)準備書に対する意見書2)秋田県支部による建設予定地における調査を添付します。
2020年10月8日
環境大臣
小泉 進次郎 殿
日本野鳥の会秋田県支部
支部長 佐々木 均
秋田県横手市前郷一番町1-21
日本雁を保護する会
会長 呉地正行
宮城県栗原市若柳川南南町16
公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
(仮称)能代山本広域風力発電事業に係る環境影響評価準備書に対する環境大臣意見に関する要望書
秋田県能代市で白神ウインド合同会社が計画する(仮称)能代山本広域風力発電事業(以下、対象事業という)について、環境影響評価準備書における対象事業実施区域(以下、計画地という)およびその周辺に生息する鳥類の保全の観点から、下記の通り要望いたします。
記
- 【要望内容】
- 計画地は世界的なガン・カモ・ハクチョウ類(以下カモ科鳥類という)の渡りの中継地である小友沼のすぐ北側に位置していることから、私たちは、この地域に風力発電施設(以下、風車という)が建設される計画があることについて強く憂慮しています。対象事業の実施は、能代平野におけるカモ科鳥類をはじめとする鳥類の渡りに多大な影響を及ぼし、その他の鳥類においても生息地放棄等の発生リスクを高めるため、事業者に対して計画の抜本的見直しを含めた厳しい意見を環境大臣として述べていただくことを要望いたします。
- 【背 景】
-
- 計画地に近接する小友沼は、秋田県の鳥獣保護区に指定され、農林水産省の「ため池百選」に選定されている貴重な水辺環境です。また、北東ロシア等で繁殖し、日本海沿いに渡る渡り性水鳥にとって国際的に重要な中継地として、東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ(EAAFP)参加地にもなっています。
小友沼に飛来するマガン(天然記念物、準絶滅危惧)、ヒシクイ(天然記念物、絶滅危惧II類)、オオヒシクイ(天然記念物、準絶滅危惧)、シジュウカラガン(国内希少種、絶滅危惧ⅠA類)、ハクガン(絶滅危惧ⅠA類)等のガン類は最大20万羽に達し、日本に飛来するガン類のおよそ8割が移動の際に小友沼を経由しているとされています。計画地はそれらガン類の滞在時には採餌地として、移動や渡りの際には主要経路として利用される地域です。これまで小友沼では春・秋の渡りの時期に限られていたガン類の滞在が、近年の気候変動による越冬地の北上により、小友沼および八郎潟をねぐらとして冬期の長期間滞在が漸増する傾向にあるため、当該地域への風車の建設が日本へ渡来するガン類に及ぼす影響は、将来増々大きくなることが予想されます。
日本で越冬する大多数のガン類の渡りの経路上でも重要な場所となっている計画地においてバードストライクや生息地放棄などの影響が発生すれば、日本の個体群全体に対し、その存続に重大な影響を及ぼす恐れがあります。
- 計画地はオジロワシ(天然記念物、国内希少種、絶滅危惧II類)、ミサゴ(準絶滅危惧)をはじめとし、イヌワシ(天然記念物、国内希少種、絶滅危惧IB類)、クマタカ(天然記念物、国内希少種、絶滅危惧IB類)、オオワシ(天然記念物、国内希少種、絶滅危惧II類)、オオタカ(準絶滅危惧)、ハチクマ(準絶滅危惧)、サシバ(絶滅危惧II類)、ハイタカ(準絶滅危惧)、ツミ、ハヤブサ(国内希少種、絶滅危惧II類)、チョウゲンボウ、コチョウゲンボウ、チゴハヤブサ、ハイイロチュウヒ、チュウヒ(国内希少種、絶滅危惧IB類)、ノスリなど多くの種類の希少猛禽類が営巣地、採餌場所もしくは渡りの経路として利用しており、ここに風車が建設されることで、これら猛禽類の生息が脅かされる恐れがあります。特にミサゴは計画地内での営巣が認められるため、風車の建設が直接、繁殖を阻害することが予想されます。
- 上記で述べたように、小友沼・八郎潟を中心とする秋田県北西部はカモ科鳥類の世界的な飛来地であるとともに希少猛禽類の生息地であることから、県内でも特に手厚い保護・保全が必要な地域です。過去にもこのエリアに建設が計画された風車は、鳥類等への影響の大きさから建設を断念した経緯があります。対象事業も本来なら計画段階で事業対象区域から外されるべき地域でした。
- 日本野鳥の会秋田県支部(以下、当支部という)及び公益財団法人日本野鳥の会は、既に配慮書の段階でこの地域が鳥類保全の見地から風力発電事業の建設には不適切であることを指摘しています。その後の手続きの中で事業者は風車の基数を削減する等の影響低減策を取っているものの、準備書で発表された風車の配置や基数は、事業者による調査結果および当支部が実施した現地調査の結果から鑑みて、鳥類への影響を十分に低減できるものとは言い難く、このまま事業が進めば、計画地やその周辺地域の生態系および鳥類の生息に大きな影響が出ると考えられます。
- 当支部が行った調査の結果から、6箇所に分散する計画地のエリアはそれぞれが鳥類に与える影響が大きいと考えられ、また、6箇所の計画地は広範囲に配置されることから、渡りのガン・ハクチョウ類が回避しにくい配置になっていると推察します。以下に、特に影響が危惧されるエリアについて述べます。
- 特にガン・ハクチョウ類に影響のあるエリアとして、計画地の南側に位置する3エリア(荷八田エリア、須田エリア、比八田・荒巻エリア)が挙げられます(地図1参照)。このエリアは小友沼の真北に位置し、ガン・ハクチョウ類が北上する際に高度を上げながら進入してくる区域であり、また、これらの滞在時には採餌地として利用され、風車のブレード回転域での往来が南北のみならず東西方向にも盛んな区域です(写真1参照)。それにもかかわらず、3つのエリアがランダムに配置され、全体として鳥類が風車を回避しにくい配置となっています(地図2,3)。そのため、現状の計画のままであれば、風車はガン・ハクチョウ類に対し障壁影響を引き起こし、または、視界が低下する悪天候時にはバードストライクの発生リスクが非常に高まることが予測されることから、計画地及びその周辺の地域には風車を建てるべきではないと考えます。3つのうちどのエリアもガン・ハクチョウ類の利用頻度は非常に高く、どの場所にも風車を建設するべきではありませんが、最低でも荷八田エリアの5基と比八田・荒巻エリアの3基の建設を取りやめることで、この地域を利用する鳥類の渡り経路を確保するべきと考えます。
- 海岸沿いに計画されている2つのエリア(沢目エリア、落合風力発電事業)に風車が建設された場合、既存の風力発電事業と合わせると8㎞近くの海岸沿いに風車が沿岸に並ぶことになり、陸域と海域との間で往来が頻繁な鳥類の飛翔や行動を広範囲に妨げることになります。陸域と海域の往来は渡りの時期にカモ科鳥類のほか、猛禽類や小鳥類が行い、また、海域を採餌場所として繁殖するミサゴも高頻度に行っています。ミサゴは繁殖の際、海で獲った魚を巣に持ち帰る行動がみられるため、海岸に並ぶ風車はその行動に対して大きな障壁となり、県内で当支部が把握しているだけでも2例の衝突死事例があり、また、全国的には複数の事例がみられています。事業者は準備書作成に係る現地調査で判明した7ペアのミサゴの繁殖に影響の及ぶことのないよう、ミサゴの営巣地や行動に合わせて基数を削減するなどの措置が必要です。
- 計画地の周辺には複数の洋上風力発電事業が同時進行で計画されており、これらの他事業との累積的な影響を考えると、対象事業の鳥類に対する影響は、対象事業単独で考えた場合より深刻なものになるものと考えられます。計画地が渡りの主要ルートであることを考えると、対象事業における風車の設置は制限されるべきであり、この観点に基づきより俯瞰的な視野に立つ第三者の指導が必要です。
- 計画地周辺だけでなく秋田県内では急速に風車の建設が増加しており、今後の計画も含めると、秋田県の沿岸域は海も陸も風車で覆いつくされてしまう状況となっています。広範囲に及ぶ開発は豊かな生態系を誇る秋田県の自然環境を大きく損なう恐れがあります。またEAAFPの取り組みに象徴されるように、これらの渡り性水鳥は日本のみならず多国間で共有する自然資源であり、計画地及びその周辺地域での風車建設がこれらの鳥類に影響を与えた場合、それは同時に国際的にも重大な問題となることを十分に認識する必要があります。累積的影響評価を事業者が行うことを円滑に進めるために、アセス図書を事業者が二次利用可能にする、累積的影響評価手法に関するガイドラインを策定するなど県および国の強力な指導が必要です。
- ブレード塗装やシール貼り付け等は、夜間や悪天候時等には効果がなく、低減策・緩和策として有効ではないと考えます。
なお資料として1)準備書に対する意見書2)秋田県支部による建設予定地における調査を添付します。
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資料
(地図1)計画地周辺地図
(写真1)荷八田エリア・須田エリア間を飛ぶハクガン
(地図2)春季渡り時の鳥類の動きと計画地の関係
(地図3)採餌地間の飛翔 概念図