公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)宗谷岬風力発電事業更新計画に係る環境影響評価準備書に対する意見書

令和2年11月11日

株式会社ユーラスエナジーホールディングス
代表取締役社長 稲角 秀幸 様

特定非営利活動法人サロベツ・エコ・ネットワーク
代表理事 吉村 穣滋
(北海道天塩郡豊富町字豊富東2条5丁目)

風力発電の真実を知る会
代 表 佐々木 邦夫(公印省略)
(稚内市はまなす2丁目7番18号)

道北の自然と再生エネルギーを考える会
代 表 富樫 とも子
(北海道天塩郡幌延町字下沼853番地1)

日本野鳥の会 道北支部
支部長 小杉 和樹
(北海道利尻郡利尻町沓形字栄浜142 佐藤里恵方)

北海道ラムサールネットワーク
代 表 小西 敢
(北海道厚岸郡浜中町琵琶瀬60
NPO法人霧多布湿原ナショナルトラスト内)

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
(東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル)

「(仮称)宗谷岬風力発電事業 更新計画 環境影響評価準備書」に対する意見書

貴社が作成されました、「(仮称)宗谷岬風力発電事業 更新計画 環境影響評価準備書」に対し、下記のとおり意見書を提出いたします。

■環境影響評価図書の縦覧方法について

貴社によるアセス図書の公開方法が不十分で、地域の利害関係者に周知されていないことから、地域住民等が事業内容を十分に把握できず、事業実施後に地域で混乱が生じる可能性があります。

・周知方法の問題点
環境影響評価図書の縦覧と意見書の募集に係る周知は、貴社のホームページに限らず、回覧やポスター掲示、チラシ配布、関係機関のHP上での掲載など、関係者の協力を得て、より多くの人に周知するよう最大限の努力をすべきです。稚内市のホームページには情報が掲載されていますが、一般にはわかりにくい場所に掲載されています。トップページのお知らせ欄等に掲載することなどを稚内市にお願いすべきです。
・閲覧方法の問題点
アセス図書の閲覧は、アセス法によって決まっているとは言え、縦覧期間が1~1.5か月と短く、また、縦覧場所も限られており、インターネット上での閲覧においても参照するには不便で、ダウンロードや印刷ができません。数百ページもあるアセス図書を縦覧場所、またはパソコン上のみで閲覧しながら意見書を作成することは、現実的ではありません。縦覧期間が過ぎてしまうと作成した意見書の内容の誤りの有無をアセス図書と整合して確認することもできません。図書の内容が、実際の事業実施区域の状況と齟齬がないかを地域住民等が精査できることが、環境影響評価の信頼性を確保し、地域との合意形成を図るうえで不可欠です。そのため、閲覧可能期間に限らず、縦覧期間後も地域の図書館などで、図書を常時閲覧可能にし、また、随時インターネットで閲覧とダウンロード、印刷を可能にすべきです。幌延風力発電事業更新計画環境影響評価方法書では配慮書や方法書などの図書がインターネット上で常時閲覧可能となっており、また、えりも岬や苫東厚真風力発電事業では個人のパソコンなどへのダウンロードが可能でした。地域住民との合意形成を図るには、アセス手続きにおける透明性と公平性の確保が不可欠ですので、これら他事業者の取り組みを貴社も参考にすべきです。仮にすぐにアセス図書を常時公開することは難しくても、多くの事業者が実施しているように、関係する自然保護団体等に紙媒体の図書を提供すべきです。

■環境影響評価全般

既存の風力発電施設(以下、風車という)の存在による環境影響を明らかにするためには、事業の実施前と実施後の状況を比較する必要があります。既存の宗谷岬ウインドファームは風力発電事業が環境影響評価法の対象事業になる以前に建設されたため、建設前の調査結果が公表されていません。このため、建設前の調査結果を明らかにして、今回の更新事業に係る調査結果と比較し、調査内容に不足が生じている場合は、既存の風車の撤去後に風車がない状態で1年程度の環境調査を行うことにより、建設前と同等の状況を創出し、影響を評価することで、大きな影響が確認された場合は風車の更新計画を見直すことが必要です。

■景観

・景観資源としての宗谷丘陵について
日本最北の地である宗谷岬は、日本屈指の観光地です。宗谷丘陵は北海道遺産である周氷河地形や宗谷海峡およびサハリンが眺望可能で、貴重な自然景観が楽しめる場所であるため、風車が存在しない方が景観的に魅力があります。風力発電を推進している稚内市は風車の存在が景観資源の一つになると宣伝していますが、環境影響評価ではそのような根拠が不明確な価値観ではなく、地域の手つかずの景観資源に風車が建設された場合の景観的な変化の価値の増減を評価すべきと考えます。実際には、宗谷丘陵は、サロベツ湿原と同様に大きな人工建造物がない風景こそが、宗谷丘陵の景観的価値を高めています。このため、当丘陵のスカイラインから突き出る形での風車の建設は避けるべきです。
・景観に対する影響評価手法の問題点
景観は環境影響評価で垂直見込み角のみによって評価されていますが、この地方では広大な手つかずの風景そのものに価値があるため、圧迫感の有無による評価基準は適切ではありません。また、影響を判断する基準に複数の風車設置による累積的な影響が含まれていないため、地域の景観の価値を適切に評価することができません。さらに水平方向に複数の風車が並ぶと、景色としては一体のものとして見えるため、風車1基ごとの高さではなく、風車列全体における水平見込み角によって影響を評価すべきです。景観に係る影響評価は30年ほど前に作られた指針に依存するのではなく、地元の観光業者や自然保護団体などからの意見を十分に聴取し、協議会などを開催し、議論を重ねたうえで地域の自然環境への配慮と住民の意向を十分に考慮したうえで影響を評価すべきです。
また、眺望点の多くは既設の風車群がほとんど見えない海岸線に設定されており、宗谷丘陵に設定された眺望点も風車群がほとんど見えない宗谷丘陵にある駐車スペースのみに設定されているため、風車群による景観への影響を適切に評価することができません。このため、景観資源となっている宗谷丘陵で建設した風車群が見やすい場所(準備書の1140ページ)およびフットパスの終点である丸山周辺にも眺望点を設定した上で、景観への影響を評価し直すべきです。
・フットパスの存在について
宗谷丘陵にあるフットパスのコースは、宗谷丘陵の周氷河地形やサハリンの遠望が魅力となっている当丘陵の代表的な遊歩道となっています。
この遊歩道の本来の魅力は風車ではなく、宗谷丘陵の自然景観とサハリンの眺望であることから、宗谷丘陵のフットパスの途中にある展望地などの複数箇所を景観に対する影響評価の調査地点として設定し、評価をし直すべきです。これらの展望地は、実際にすでに眺望点として設定されている宗谷公園や宗谷丘陵駐車帯よりも景観的価値があると考えられる場所です。これらの展望地を眺望地点に追加して影響を評価すれば、風車による景観への影響が大きいことが明らかになるはずです。特にフットパスコースから10m以内に配置される予定のSMJ13は設置を取りやめるべきです。
対象事業実施区域(以下、計画地という)の多くの部分が、稚内市風力発電ガイドラインにより、景観上の理由から「風車の建設が好ましくない地域」に指定されています。現在、風車事業を推進している稚内市の意向に忖度せず、その先見性と普遍的な重要性を理解したうえで、貴社はガイドラインを自主的に遵守し、風車の建設が好ましくない地域を計画地から除外すべきです。
・景観上の問題による風車の設置の取りやめ、または移動
既存の風車が建設されている範囲以外にも計画地が広がっていますが、その中でも既存風車が設置されていない北側の計画地は宗谷岬に近く、宗谷岬の周氷河地形や牧草地の景観および遠く稚内市やノシャップ岬、利尻山を遠望できる景観を阻害するため、そこでの風車の建設は避けるべきです。新規の風車の設置範囲は既存の風車がある範囲にとどめ、SMJ4・6・12・13・14・15は設置を取りやめるか、既存の設置範囲に移動すべきです。

■地形

宗谷丘陵に広がる周氷河地形は保全すべき地形として「日本の典型地形」に指定されています。その地形に人の手を加えない状態で保全するために、周氷河地形となっている部分は計画地から除外すべきです。環境影響評価の対象範囲は現行からの変更部分だけでなく、現存の風車も含めた周氷河地形の上に存在する風車とするべきです。また、景観に対する影響、周氷河地形がよく見える場所(景観の項を参照)を眺望点として設置したうえで評価をやり直すべきです。

■植物

宗谷丘陵のササ草原は特定植物群落に指定されています。現状のササ群落の生育範囲を把握したうえで、それらの植物群落を保全するために、ササ草原は計画地から除外すべきです。また、景観評価は上記の景観の部分に記載されているように、宗谷丘陵上にササ群落が見渡せる眺望地点を設定した上で評価をやり直すべきです。

■鳥類

宗谷岬周辺は、日本とサハリンおよびロシアの間を渡る鳥類の主要かつ国際的にも重要な渡り経路となっています。計画地でも多くの鳥類が渡っており、風車建設による小鳥を含む鳥類への影響は大きいと予測されるため、鳥類保護の観点から計画地全体が風車の建設を避けるべき場所です。それらの観点を踏まえ、鳥類について下記の意見を述べます。

・オジロワシ、オオワシについて
宗谷丘陵は日本とサハリン間を渡るオジロワシとオオワシの主要かつ国際的に重要な渡り経路です。これら2種は、春は主にオホーツク海沿岸を北上しますが、一部は日本海側でも北上がみられます。また、秋はその日の風向きによっては宗谷丘陵の尾根上を多数が南下することや、既存の風車群がすでにオジロワシとオオワシに対して障壁影響を引き起こしていることが(公財)日本野鳥の会2015年の報告で明らかになっているため、既存風車を取り壊した後に、風車が1基もない状態で再度、1年程度はこれら鳥類の飛翔状況等の調査を行うべきです。この調査により、既設風車の存在によりどのような影響があったのかを明らかにし、その影響が大きい場合は風車の更新計画を見直しすべきです。一方、貴社が道北エリアで計画している他の事業では、オジロワシやオオワシへの影響が懸念されることで多くの風車の建設が取りやめとなっていることから、現段階において主要な渡りの経路での風車の設置を取りやめるべきです。
保全上の観点からオジロワシの飛翔図が非公開になっていますが、繁殖個体の飛翔軌跡でなければ公開しても保全上の問題は生じにくいので、少なくとも渡りの状況についてはアセス図書で公開すべきです。また、希少猛禽類における定点調査では冬期も含めすべての定点で調査を行うことが重要ですが、準備書からはそのことが読み取れなかったので、きちんと記述してください。加えて、渡り鳥の調査では、計画地の南部から、風車設置予定地を近傍から見渡せるような調査地点が設定されていません。計画地から3km程度離れている他の調査地点(NB-5を含む)からでは、観察によるオジロワシやオオワシの発見率や飛翔軌跡の精度が低下し、調査の信頼性を確保することが困難なため、計画地南部にも調査地点を設定し、調査をやり直すべきです。
さらに、オジロワシ・オオワシは渡りの際には計画地の東側を多く利用するため、この部分に該当するSMJ10・16・17の風車の建設を取りやめるべきです。また、オジロワシの営巣地では、確認されている繁殖個体または非繁殖個体の利用状況に関係なく、影響を避けるため少なくとも営巣地から半径1km以上の場所への風車の設置を避けるべきです。
実際にオジロワシのバードストライクが10件発生した計画地の西側はオジロワシの亜成鳥が高頻度に利用していることが示唆されています。風車に目玉模様をつけるなどしてオジロワシに忌避行動を促すのではなく、本種の重要な生息地として保全するために風車の建設を避けるべきです。
・ガン類、ハクチョウ類について
夜間の鳥類調査の結果が準備書からは読み取れないので、アセス図書にその結果を示してください。また、渡り鳥の調査地点には、計画地の南部を風車設置予定地の近傍から見渡せるような調査地点が設定されていません。計画地から3km程度離れている他の調査地点(NB-5を含む)からでは、観察によるガン・ハクチョウ類の個体の発見率や飛翔軌跡の精度が低下し、調査の信頼性を確保するのが困難なため、計画地南部にも調査地点を設定し、調査をやり直すべきです。
秋には多くのハクチョウ類が計画地内を多く通過することから、バードストライクだけでなく障壁影響も発生することが予測されます。そのため、特に通過頻度が多い南側では風車の建設を避けるべきです。また、既存の風車群がガン・ハクチョウ類に対して、すでに障壁影響を及ぼしている可能性が高いため、既存の風車を取り壊した後に、風車が1基もない状態で再度、1年程度はガン・ハクチョウ類の飛翔状況の調査を行い、既設風車の存在によりどのような影響があったかを明らかし、その影響が大きい場合は風車の更新計画を見直すべきです。
・死骸探索調査
計画地およびその周辺には既存の風車が多数存在するので、すべての既設の風車を対象に死骸調査を行ったうえで、計画地において更に風車が建った場合にどのような影響が出るかを予測すべきです。なお、保守点検の際に作業員が行う死骸探索では調査精度に問題があり、また、月1回程度の調査では衝突死した個体が動物に持ち去られたり、冬期は雪に埋もれることにより発見されない可能性があるため、専門の調査員による月2回以上の死骸探索調査を通年で実施すべきです。
また、死骸探索調査だけでは見落としが懸念されるため、風車に監視カメラを設置し、バードストライクが発生してないか確認すべきです。
・小鳥類の渡り調査
方法書には、鳥類のルートセンサス調査およびポイントセンサス調査は夜間も含めて実施すると記載されていましたが、9-10月の秋の渡り時期における夜間調査の結果が準備書からは読み取れませんでしたので、詳しく示してください。合わせてレーダー調査によってどのくらい野鳥が渡っているか明らかにすべきです。
・事後調査
保全措置に関して、ハクチョウ類、オジロワシ・オオワシ、カモメ類を対象に事後調査を行うとされていましたが、その方法について記載がなかったため、きちんと示してください。また、事後調査はバードストライクのみを対象にするように読み取れましたが、以上の飛翔状況の調査も加えて実施すべきです。

■累積的影響の評価

準備書から周辺の既設の風力発電施設、および当計画との関係からみた累積的影響について評価していることが読み取れませんでしたので、詳しく示してください。

■地域協議会の設置と情報の公開

これら影響評価の結果の公開は、地域の利害関係者が参加する開かれた協議会の場で行うべきです。利害関係者が情報を共有し、意見を述べることができる地域協議会を設置すべきです。

以上

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