公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)西目風力発電事業更新計画に係る環境影響評価準備書に対する意見書

令和2年12月9日

株式会社ユーラスエナジーホールディングス
代表取締役社長 稲角 秀幸 様

日本野鳥の会秋田県支部
支部長 佐々木 均
秋田県横手市前郷一番町1-21
(公印省略)

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
(公印省略)

日本雁を保護する会
会長 呉地 正行
宮城県栗原市若柳川南南町16
(公印省略)

(仮称)西目風力発電事業更新計画に係る環境影響評価準備書に対する意見書

貴社による西目風力発電事業および更新事業にかかる対象事業実施区域(以下、計画地という)は海岸沿いの丘陵地帯にあるが、計画地とその周辺はガン・ハクチョウ類をはじめとする多くの鳥類の渡り経路および希少猛禽類の生息地となっている。鳥類が風力発電施設(以下、風車という)を避けて飛ぶ障壁影響がすでに計画地で生じるなど、更新前の段階で貴社が設置した風車が鳥類の生息に大きな影響を与えている。また、近隣の風車ではハクチョウ類や希少猛禽類が風車に衝突死するバードストライクも生じている。そのため、既存風車の耐用年数が過ぎた時点で風車をすべて撤去し、事業を終了するのが望ましい。あえて事業を続けるのであれば、鳥類にこれ以上の影響を与えないよう、下記の意見にあるような影響の回避低減策を講じながら事業を進めなければならない。

1.風車の設置位置について
貴社は準備書において、方法書段階で最大10基あった風車の設置基数を8基に減ずることで生態系への影響を低減できるとしているが、この計画により新たに環境が改変される部分が、
①ガン・ハクチョウ類などの渡り鳥が高頻度で利用する移動経路となっていること
②希少猛禽類の重要な生息地となっていること
③既存風車の設置範囲を大きく外れている配置計画となっていること
から、一部の風車の設置予定位置は、鳥類保護の観点からみて不適切である。
準備書の表8-2-1専門家へのヒアリング結果(4)(令和2年9月9日実施)(8-21 p359)においても、「新設 8 号機周辺は、ガン類やハクチョウ類、猛禽の飛行ルートとして、使用頻度が高いと考えられる。また、池沼が近くに位置し、鳥類の生息場となっているため、大形風力発電機設置には、懸念が残る。そのため、にかほ市で作成している風力発電に係るゾーニングマップ(素案)を確認し、保全エリアに含まれていないか、もしくは保全エリアに近接していないかを確認しておくこと。」と指摘されている。この指摘に従い、渡りの鳥が高頻度で利用する経路に重なるまたは希少猛禽類の生息を阻害する可能性がある風車については、建設を取りやめるべきである。これについて、以下に詳細を述べる。

(1)渡り鳥が高頻度で利用する移動経路と計画地が重なっている
西目風力発電所の南西にある西目町出戸孫七山周辺と西目町沼田地区の間に、ガン・ハクチョウ類が頻繁に利用する移動経路がある。野鳥の会が2016年秋に行ったレーダー調査において、ガン・ハクチョウ類が既存風車を避けて飛んでいることが確認されている(図1)。また、そのガン・ハクチョウ類がT6・T7・T8の風車付近を集中的に通過することを、2019年秋に新潟大学がレーザー距離計(SAFRAN VECTRONIX社製Vector21AERO)を使用して行った渡り鳥の飛翔状況調査で確認している(図2)。さらに、このルートは渡りの時期だけでなく、越冬期も採餌場所とねぐらの間の移動のためによく利用しており、降雪などの悪天候時でも飛翔していることが当支部会員によって確認されている。
これらから、ガン・ハクチョウ類などの渡り鳥がT6・T7・T8の風車および計画地の南端部を移動経路として集中的に利用すること、また、降雪や霧、強風など気象条件が悪い時にバードストライクが生じる可能性が高いことが分かった。しかし、このような状況を生み出したのは、貴社が既存の風車を建設したことで鳥類に障壁影響が生じたことにより、北端から10基程度の風車を避けて飛ぶようになったためであると考える。そのため、移動経路に対し壁となって配置されるT6・T7・T8の風車は建設すべきではない。さらに、計画地の南には2019年に新設されたにかほ高原ウインドファームが稼働し、北西には現在建設中の西目西ノ浜風力発電事業(西目浜館風力発電から改名)がある。そのことを当該事業も含めて考えると、この地域に存在する渡り鳥の経路の幅は非常に狭まり、さらにバードストライクの発生確率を高めるか、障壁影響として鳥類の風車の迂回距離が増大することが懸念されるため、T6・T7・T8の風車は建設すべきではない。
(2) 計画地周辺に希少猛禽類の営巣木が存在する
準備書では、計画地周辺に希少猛禽類のオオタカおよびクマタカが営巣していることを確認しており、特にクマタカについては計画地の南西部にある斜面で採餌行動を確認したとある(10-282 p692、10-284 p694)。これに対して貴社は、「(平成)30年にクマタカの営巣が確認された谷から極力離隔を確保することとした」(10-379 p789))、「方法書段階では最大10基の計画であったが、南部の樹林地を避けて8基とすることで、生態系への影響を最小限にする」(10-292 p702)等の対策を取ったとしている。しかし、貴社が調査を行った2018年は、前述した計画地の南西側にあるにかほ高原ウインドファームの3基の風車が建設中であったことから、計画地南側におけるクマタカの行動圏はすでに狭まっていた可能性がある。さらに、新仁賀保高原風力発電事業の29基の風車が建設予定であり、近い将来、この地域のクマタカの行動域はさらに狭まる恐れがある。計画地周辺のクマタカの行動域をこれ以上狭めないためにも、既存風車の設置範囲を大きく外れたT8の風車は建設するべきではない。
風車の稼働によるクマタカの営巣地放棄については、野鳥の会徳島県支部の報告(「大川原ウインドファームにより営巣地を放棄したクマタカ」野鳥徳島No.490 2019年7月)がある。これによると営巣木から1㎞以内に建設された陸上風車の建設後、2ペアのクマタカが営巣放棄したとある。貴社の調査で確認したクマタカの営巣木の正確な位置は非公開のため、風車からの隔離距離は不明だが、もしクマタカの営巣地から1km以内に風車を設置する予定であるならば、取り止めるべきである。なお、これは、1㎞以上離れていれば風車の建設の影響により営巣放棄をしないことを担保するものではない。営巣地と1㎞以上離れる場合でも、近隣に高頻度利用地や営巣適地がある場合は設置を避けるべきである。また、T7及びT8の風車の間には営巣環境好適性4の場所が既存の風車から200~300mほどの距離に存在しているため、この位置に風車を設置すべきではない(図 10.1.7-9、10-288 p698)。
2.事後調査について
既存風車がガン・ハクチョウ類に対して、すでに障壁影響を及ぼしていることが分かっているが(図1)、さらに、既存の事業は風力発電が環境影響評価法の対象事業となる以前の事業であり、事業着手前のガン・ハクチョウ類の状況を十分に把握していないと考えられる。このことから、既存の風車を取り壊した後に、風車が1基もない状態でガン・ハクチョウ類および希少猛禽類の飛翔状況を調査し、既存風車の存在によりどのような影響があったかを明らかにし、その影響が大きい場合は風車の更新計画を見直すべきである。また新設風車の設置後も1年間は飛翔状況の調査を行い、新設風車が鳥類の飛翔経路にどのような変化を及ぼしたかを明らかにすべきである。
「動物」についてはバードストライク・バットストライクに関する調査(死骸調査)を稼働後1年間、月1回以上を実施するとあるが、鳥類の死骸の残存率等を考えると、それでは不十分である。特にこの地域では、渡りの時期に回数を増やして死骸調査を実施すべきである。
「生態系」については事後調査を行わないとしているが、生態系の上位性注目種として選定されたクマタカについては引き続き調査を行い、繁殖への影響や行動域の変化がないかどうか調査すべきである。
このような事後調査を行った上で、大きな影響が認められた場合には、風車の停止・撤去等を含めた適切な軽減措置を取るべきである。

なお、この意見は概要にまとめる際に原文のまま採用することを希望する。

以上

(図1)
2016年10月25日~28日 野鳥の会によるレーダーを用いたハクチョウ類の飛翔調査

ハクチョウが尾根上の風車を避けて飛ぶ様子がわかる。風車は西目風力発電所。
Case Examples of Barrier Effects of Wind Farms on Birds in Japan
Tatsuya Ura (Wild Bird Society of Japan) et al., CWW2017発表資料より

(図2)2019年10月17日~23日新潟大学によるレーザー距離計を用いた調査

「秋田県南部における秋季のハクチョウ類渡り状況 関島他2019年(未発表)」より

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