公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)苓北風力発電事業に係る環境影響評価準備書に対する意見書

令和2年12月11日

株式会社レノバ
代表取締役社長 CEO 木南 陽介 様

日本野鳥の会熊本県支部
支部長 田中 忠(公印省略)
〒861-8064
熊本県熊本市北区八景水谷3-7-38

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一(公印省略)
〒141-0031
東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル

(仮称)苓北風力発電事業に係る環境影響評価準備書に対する意見書

貴社が作成された(仮称)苓北風力発電事業に係る環境影響評価準備(以下、準備書という)に対し、下記のように意見を提出いたします。

(1)アセス図書の縦覧方法について
貴社によるアセス図書の公開方法が不十分なため、地域の利害関係者に周知されていないことから、地域住民等が事業内容を十分に把握できず、事業実施後に地域で混乱が生じる可能性がある。

  1. 周知方法の問題点
    環境影響評価図書の縦覧と意見書の募集に係る周知は、貴社および熊本県のホームページや環境影響評価情報支援ネットワークに限らず、地域での回覧やポスター掲示、チラシ配布、その他の関係機関のHP上での掲載など、より多くの人に周知するよう最大限の努力をすべきである。
  2. 閲覧方法の問題点
    アセス図書の閲覧は、環境影響評価法により定められているとは言え、縦覧期間が1~1.5か月と短く、また、縦覧場所も限られており、インターネット上で閲覧できることは便利であるが、印刷ができないことは不便である。数百ページもあるアセス図書を縦覧場所、またはパソコン上のみで閲覧しながら意見書を作成することは、現実的ではない。縦覧期間が過ぎてしまうと作成した意見書の内容の誤りの有無をアセス図書と整合して確認することもできない。アセス図書の内容が、実際の対象事業実施区域(以下、計画地という)の状況と齟齬がないかを地域住民等が精査できることが、環境影響評価の信頼性を確保し、地域との合意形成を図るうえで不可欠である。そのため、閲覧可能期間に限らず、縦覧期間後も地域の図書館などで、図書を常時閲覧可能にし、また、随時インターネットで閲覧とダウンロード、印刷を可能にすべきである。例えば、北海道の幌延風力発電事業更新計画環境影響評価方法書では配慮書や方法書などの図書がインターネット上で常時閲覧可能となっていた。地域住民との合意形成を図るには、アセス手続きにおける透明性と公平性の確保が不可欠なため、これら他の事業者の取り組みを貴社も参考にすべきである。すぐにはアセス図書を常時公開することは難しいようであれば、多くの事業者が実施しているように、関係する自然保護団体等に紙媒体でのアセス図書を提供すべきである。
(2)計画地周辺の自然環境および鳥類全般について
計画地およびその周辺は熊本県内でも数少ないサシバを頂点とする生態系ピラミッドが維持されており、また、谷川沿いに水田があり、は虫類や両生類が豊富に生息しているなど、日本では今もっとも大切にしていかなければならない里山環境が残る重要な地域である。
そのことは、貴社が4月から8月にかけて毎月3日間ずつ行った希少猛禽類調査の結果(表10.1.4-19および表10.1.4.20)でサシバが調査地点(St.)4・5・9などを中心に197回と非常に多く観察されていることからも明らかである。サシバは環境省による生物多様性保全上重要な里地里山の選定基準にもなっていることから、営巣位置や繁殖成績など繁殖実態を明らかにすべきである。また、環境省による「サシバの保護の進め方」に沿った対応を検討すべきである。
また、会員等による普段の観察結果から、計画地はハチクマやハヤブサなどの繁殖期における行動圏となっている可能性があるが、風力発電施設(以下、風車という)の建設に係る資機材等の搬入搬出路の設置や拡幅工事により、計画地およびその周辺にあるそれらが暮らす豊かな自然環境に重大な負荷をかける恐れがある。
天草西海岸と呼ばれる天草下島の西海岸域一帯は、多くの鳥類にとって日本でも非常に重要な渡りおよび移動経路となっている。
それらのことから、計画地で風車の建設を検討するのであれば、さらに詳細に鳥類等の自然環境の状況を把握したうえで影響を再度評価し、その結果を公表する必要がある。
(3)センサス調査の結果について
現地調査のうち任意観察調査を主にポイントセンサス法とラインセンサス法で行っているが、その調査時期が4月、5月、10月、1月となっている。しかし、これでは現地の鳥類の状況を把握するのには時期が誤っており、また、不十分である。特に5月のみを鳥類の繁殖期としている点は問題である。鳥類の一般的な生態を知っていれば、当然、6月および7月も繁殖期として調査を実施するはずであることから、貴社による鳥類調査では繁殖期のデータが不十分であり、影響評価において誤った結果を導出することは必至である。特に鳥類では繁殖期の生息状況を知ることは影響を評価するうえで重要であり、計画地においては熊本県で絶滅危惧Ⅱ類に指定されるサンコウチョウなど希少な鳥が多く生息している可能性があることから、貴社が計画地で風車の建設を検討するのであれば、繁殖期における鳥類の生息状況を再度、詳細に把握したうえで影響を評価し直し、その結果を公表する必要がある。
(4)各環境類型における調査時期ごとの平均個体数密度について
632~637頁にある各環境類型における調査時期ごとの平均個体数密度について、針葉樹林より環境が多様な広葉樹林の方が鳥類の種数が多く、また、夏鳥より冬鳥の方が種数の多いことは、鳥類の生態において一般的に知られていることである。しかし、貴社による調査結果では、少ない調査回数においてはラインセンサス法よりも詳細に鳥類相を把握できるとされているポイントセンサス法において、針葉樹林と広葉樹林の間で確認種数に差がなく、また、繁殖期と冬季でも差がなかったとしている。そのことから考えると、貴社が設定した調査ポイントおよびルートが悪く、適切に現地の鳥類の状況を把握できなかったものと考える。そのため、調査ルートやポイントの設定方法を見直したうえで鳥類の生息状況を再度把握しなければ、環境類型による鳥類の個体数密度の違いを比較することはできない。
(5)鳥類の渡り時の移動経路調査について
  1. 猛禽類および一般鳥類の渡りについて
    表10.1.4.22(1)によると、猛禽類および一般鳥類向けの渡り時の移動経路調査が5月、9月、10月に各3日間ずつ実施されている。その結果、アカハラダカはSt.1、4、5、9で確認されたことから、移動経路の幅が広いことが分かった。一方、当会会員らの観察では、その時の風向き等の影響により移動経路が東西にずれること、特に秋の渡りでは夕刻、苓北方面の林に猛禽類等が降りているという記録がある。また、計画地では貴社の準備書で言うところの高度Mなど飛行高度が風車のブレードの高さと重なる可能性も大きく、バードストライクが発生するリクスが高い。このように、猛禽類および一般鳥類の渡り時の移動経路は計画地上にあり、また、貴社の調査結果よりも経路の幅が広いと予想されることから、さらに詳細な鳥類の渡り時の移動経路調査を再度実施したうえで、影響を評価する必要がある。
  2. ツル類の渡りについて
    表10.14-82(2)の渡り鳥(ナベヅル・ツル属の不明種)の影響予測について、「風力発電機周辺は迂回可能な空間が確保されていることから、ブレード等への接触による影響は小さいものと予測する」としているが、ツル類などの大型鳥類は、渡り時において、天候がよく視界が良い日には、風車から数km手前からでも風車を避けて飛ぶなど障壁影響が生じること、そして、それによる移動経路の変更や消滅が起きることが国内外の事例により知られている。また、ツル類は空中での飛行操作性が低いため、視界不良な気象状況下では、飛行高度が下がり、風車のブレードを発見してもすぐに回避することができないため、移動経路上に風車を建設すると、バードストライクが発生する可能性が高い。
    これらのことから、貴社はツル類の移動経路上に風車を建設すべきではない。なお、特に秋の渡り時には夜間でもツル類が渡っていることが知られているため、貴社がさらにツル類の渡り時の移動経路について調査するのであれば、夜間調査を追加して実施すべきである。
    なお、出水に飛来するツルは「鹿児島県のツルおよびその渡来地」として国の特別天然記念物に指定されており、本事業実施区域周辺を利用した群れは、これらのツルの一部であると考えられることから、準備書には具体的な保全対策や事故が起きた場合の対応策等を明記しておく必要がある。
  3. レーダー調査の結果について
    資料編の2.レーダー調査に係る調査方法及び結果に記載されている内容について、貴社はレーダー調査により夜間でも鳥類の飛翔軌跡が生じることを確認されているが、目視による種の確認ができないことから、準備書では夜間のレーダー調査の結果について記載事実を掲載しているだけで、種ごと等に影響を評価していない。しかしながら、先述のように計画地周辺では夜間でもツル類が渡っていることが知られているため、出水市におけるツル類の渡来情報も鑑みながら、夜間に移動する鳥類をツル類として渡り経路に対する影響を評価しなおすべきである。
(6)高度区分別の確認状況について
表10.1.4-20では希少猛禽類について高度区分別の確認状況がまとめられている。その中で、計画地内での確認回数が少ないものも含まれるが、ミサゴ、ハチクマ、サシバ、ノスリ、ハヤブサは高度Mを飛翔する確率が50%以上と高く、いずれも猛禽類で生じやすいバードストライクまたは障壁影響が発生する可能性がきわめて高い。そのため、希少猛禽類の保全の観点から、これらの種が多く飛翔する場所では、風車の建設を避けるべきである。
(7)事後調査および環境保全措置について
貴社は、発電所アセス省令第31条第1項の規定によらずとも、下記に提案する事後調査を実施し、および影響が生じた場合には順応的管理の手法等に頼らず、下記の環境保全措置を講ずるべきである。

  1. 死骸探索調査について
    貴社は準備書の10.3事後調査のうち「(3)動物」において「バードストライク・バットストライクに関する調査」として、1年間の鳥類の死骸探索調査を行うこととしている。死骸探索調査において貴重種の衝突事例を確認した場合、死骸を一時冷凍保存したうえで関係各所へ報告を行うとあるが、これではその後に引き続き起こる可能性がある衝突事故を防ぐことができない。ツル類や希少猛禽類の渡り時期にそれらの衝突事例を確認した場合は、渡りの時期が終了するまで、それらの鳥類が衝突死したと考えられる風車およびその周辺の風車の稼働を停止したうえで、それが生じた原因を解明し、その後の保全措置を講じるべきである。
  2. 飛翔状況確認調査について
    貴社が作成した準備書には記載されていないが、貴社が建設した風車が運転開始した後、最低でも2年間はツル類および希少猛禽類の飛翔状況を調査し、風車建設後に移動経路や繁殖地利用がどのように変化したかを調査すべきである。また、もしそれらの鳥類について障壁影響を含む生息地放棄等の影響が生じている場合には、影響を発生させたと考えられると風車およびその周辺の風車の稼働を停止したうえで、それが生じた原因を解明し、その後の保全措置を講じるべきである。
  3. サシバの繁殖への影響確認について
    公開された準備書では、サシバの繁殖期における行動がふせられていることから、十分に評価されているか不明であるが、「(2)計画地周辺の自然環境および鳥類全般について」で述べたように、サシバの繁殖状況について事後調査と事前の調査結果との比較を行い、必要に応じて稼働制限等の措置を検討すべきである。

以上

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