令和3年1月8日
株式会社ジェイウインド
代表取締役 飯沢雅人 様
日本野鳥の会熊本県支部
支部長 田中 忠(公印省略)
〒861-8064
熊本県熊本市北区八景水谷3-7-38
公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一(公印省略)
〒141-0031
東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル
(仮称)新阿蘇にしはらウインドファーム環境影響評価方法書に対する意見書
貴社が作成された(仮称)新阿蘇にしはらウインドファーム 環境影響評価方法書(以下、方法書という)に対し、下記のように意見を提出いたします。
記
方法書に記載されている対象事業実施区域(以下、計画地という)およびその周辺は熊本県内では数少ない草原性鳥類が生息し、この地域を特徴づける生態系が維持されており自然環境の保全上、貴重な地域である。
計画地は阿蘇カルデラの吹き出し口である立野火口瀬の東側にあたり、この一帯は昔から「まつぼり風」や「俵おろし」といった局地風が発生することで知られている。草原性のセッカ、熊本県の鳥に指定されているヒバリを始め、猛禽類など多くの生物が生息している重要な場所である。その根拠として、国内でも300つがい程度しか繁殖せず、九州ではほとんど見ることができない猛禽類のイヌワシが、計画地周辺で1990年代まで確認されていたことを挙げることができる。また、計画地北部に位置する原生林の北向山や東側に広がる南郷谷北斜面などには森林性鳥類が多く生息しており、計画地一帯はクマタカの生息地ともなっている。計画地とその周辺地域は、日本で今減少している草原環境と森林環境を併せもつ地域であり、鳥類以外にも昆虫や爬虫類、両生類などの数多くの生物が生息し、生物多様性に富んだ地域である。
方法書の3章の「動植物の生息又は生育」では、文献調査から21目58科220種の鳥類が確認されている。しかし、方法書には水鳥などが記載されている一方で、当地で一番に記載すべき草原性鳥類の記載がないことは問題である。特に、計画地では最優占種と考えられるセッカの記載がないのは、文献調査で参照した文献に不足があったと考えられる。また、方法書の作成にあたっては、貴社がすでに運転を開始している「阿蘇にしはらウインドファーム」において知りえた事前調査および事後調査の結果も活用し、調査方法等を検討する必要がある。
計画地には、「レッドデータブックくまもと2019」において絶滅の恐れのある地域個体群に選定されているノスリ、コヨシキリ、ホオアカをはじめ、オオジシギ、セッカやヒバリ、林縁部ではホオジロなどが生息している。これらの繁殖状況を把握するには、繁殖期に終日調査を実施する必要がある。この他にクマタカをはじめとした希少猛禽類の空間利用状況調査を実施し、風車建設による影響評価の必要もある。
また、鳥類が夜間も移動していることは周知のことであることから、渡りの時期などにレーダー調査などの夜間調査を実施したうえで、風車建設による鳥類への影響を評価すべきである。
本計画は、既存の阿蘇にしはらウインドファームの更新事業であるが、現在は計画地の周辺に複数の風力発電施設が建設されていることから、それらの施設による鳥類への影響を含めた累積的影響評価についても実施すべきである。
方法書の4章にある「環境影響が懸念される内容」では、北向山鳥獣保護区、北向山特別保護地区、長陽鳥獣保護区、冠ケ岳鳥獣保護区の周辺に渡り鳥の主要な飛翔経路が存在しないため、計画地での風車建設によるバードストライクの発生などの影響は小さいと記載されている。しかし、方法書段階ではそのような前提には立たず、計画地全体が鳥類の主要な飛翔経路になっていることを想定して、調査方法を検討すべきである。
方法書の5章にある意見にもみられるように、鳥類に関しても詳細な調査が求められている。特にクマタカ、サシバだけでなく、周年生息するノスリや冬期のチョウゲンボウの計画地における生息地利用状況をはじめ、日本最大面積を有する阿蘇の草原で連綿と命をつないでいる草原性鳥類の詳細な調査が求められる。草原性の鳥類では、夏鳥のオオジシギや冬期に計画地周辺を利用する可能性のあるチュウヒについても生息の有無を確認する必要がある。
また、フクロウ類の夜間調査が繁殖期に設定されてはいるが、冬期に渡来するコミミズク、トラフズクに対する調査は設定されていない。文献調査からは、計画地はこれらの主要な渡りルートではないと記されているが、気象条件によって鳥類の移動経路は変わることが既に知られており、実際に、海鳥のオオミズナギドリが立野火口瀬の出口である大津町で保護された例もある。熊本県でも、特に風の強い計画地であればこそ、様々な気象条件のもとで渡り鳥の調査を実施し、適切な影響評価を実施すべきである。
方法書の7章に記載されている県知事意見では、「渡り経路調査の(西部、中部、東部)を明らかにすること」、「既設の風力発電が、鳥類や小動物にどのような影響を与えているかという観点で調査を検討して行うこと」と述べられている。それを順守するには、文献調査や資料調査に頼ることなく、これまで述べてきたような幅広い視野を持った詳細な現地調査を実施する必須がある。
アセス図書の閲覧は、環境影響評価法により定められているとは言え、縦覧期間が1~1.5か月と短く、また、縦覧場所も限られており、インターネット上で閲覧は可能であるが、印刷ができないことが多いのは不便である。数百ページもあるアセス図書を縦覧場所、またはパソコン上のみで閲覧しながら意見書を作成することは、現実的ではない。縦覧期間が過ぎてしまうと作成した意見書の内容の誤りの有無をアセス図書と整合して確認することもできない。アセス図書の内容が、実際の計画地の状況と齟齬がないかを地域住民や利害関係者等が精査できることが、環境影響評価の信頼性を確保し、地域との合意形成を図るうえで不可欠である。そのため、閲覧可能期間に限らず、縦覧期間後も地域の図書館などで、図書を常時閲覧可能にし、また、随時インターネットでの閲覧とダウンロード、印刷を可能にすべきである。すぐにはアセス図書を常時公開することは難しいようであれば、多くの事業者が実施しているように、関係する自然保護団体等に紙媒体でのアセス図書を提供すべきである。
以上