公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)クリーンエナジー会津若松風力発電事業環境影響評価方法書に対する意見書

令和3年2月15日

963-8371 福島県郡山市本町1丁目5番10号
クリーンエナジー合同会社
代表 金山 弘 様

日本野鳥の会会津支部 支部長 満田信也
969-0806 福島県会津若松市宝町2-7

公益財団法人 日本野鳥の会  理事長 遠藤孝一 (公印省略)
141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

(仮称)クリーンエナジー会津若松風力発電事業環境影響評価方法書に対する意見書

貴社が作成された(仮称)クリーンエナジー会津若松風力発電事業環境影響評価方法書に対し、環境保全の立場から下記のとおり意見を提出いたします。

(1)対象事業実施区域における鳥類の生息状況について

(仮称)クリーンエナジー会津若松風力発電事業環境影響方法書(以下、方法書という)について、貴社が設定する対象事業実施区域(以下、計画地という)は環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠB類かつ国内希少野生動植物種に指定され、福島県のレッドリストにも絶滅危惧ⅠB類として掲載されているクマタカの生息地と複数重なることが予想されることから、風力発電施設(以下、風車という)の建設により衝突死(以下、バードストライクという)および生息地放棄が発生する可能性が高いと考える。また、計画地にはサシバやハチクマなどの希少猛禽類の渡り経路が存在するが、それに対しては障壁影響等が発生することが懸念される。

配慮書に対する意見書で、クマタカの生息状況の確認と猛禽類の渡りに関する調査について、精度の高い調査を要望した。方法書によれば、希少猛禽類調査は「2繁殖期を含む2年間、各月3日間程度、繁殖期は毎月 定点観察を実施」としているが、調査内容を具体的に示すべきである。先ず、繁殖期と非繁殖期の調査期間を明示し、全体で調査を何回実施するのかを明示すべきである。また、調査地点は9か所とあるが、最低でも3日間ずつ9地点で同時に行うべきである。

渡り鳥と希少猛禽類観察の定点からの、可視領域が計画地全域をカバーしていない。そのため、鳥類への影響を評価する基礎データが不十分となり、調査報告書の信頼性を損ねる可能性がある。観察地点の配置及び数の見直しを要望する。

一般鳥類の現地調査について、生物多様性の観点から計画地とその周辺に生息する鳥類全体の生息環境や生物多様性も評価すべきである。そのため、一般鳥類の観察も重要と考える。ラインセンサス法とポイントセンサス法で1年間 春、繁殖期、夏、秋、冬の5回実施としているが、調査回数と月が明示されていない。特に5月は繁殖と渡りの時期でもあるので、詳細な調査が必要である。この月は週に2回程度の調査が必要である。

渡り鳥の調査について、方法書にある定点観察では、「日の出前後及び日没前後を中心とした時間に飛翔する渡り鳥を識別し、種、飛行ルート及び飛翔高度を記録する。」とあり、さらに調査期間は1年間、春の渡り3回、秋の渡り3回実施すると記載されているが、調査頻度についての詳細な記載がない。渡り鳥の種類、個体数、時期は年による変動があり、計画地におけるピーク状況を把握することが難しいので、1週間連続観察を月に2回、あるいは3日間連続観察を月に4回の調査を2年間実施することを求める。小鳥類の渡りは夜間でも行われるので、目視や鳴き声を中心とした調査では不十分である。レーダー調査を活用し、夜間の小鳥類の渡りの状況を把握することも要望する。

(2)方法書における影響評価の結果について

背炙山地区には、南北の尾根沿いに大規模風力発電事業として、既設の「会津若松ウインドファーム」(エコパワー社)、計画中の貴社の「(仮称)クリーンエナジー会津若松風力発電事業」(クリーンエナジー合同会社)と計画中の「(仮称)会津若松みなと風力発電事業」((㈱)イメージワン社)と計画中の「(仮称)会津若松ウインドファーム増設事業」(コスモエコパワー(㈱)社)があり、南隣に既設の「郡山布引高原風力発電所」((㈱)グリーンパワー郡山布引)もあり、これらすべてが、猪苗代湖西岸から南岸の山の尾根上に並び建つという状況が生まれようとしている。一方で布引高原を除いて、計画地はクマタカなどの希少猛禽類の貴重な生息地となっており、高密度で繁殖している。国内で風車建設によりクマタカやハイタカなど希少猛禽類のバードストライクや生息地放棄が起きていることが知られていることから、本事業が実施されるとクマタカなどの希少猛禽類にバードストライクや生息地放棄などの影響が生じ、さらに累積的影響として本事業のみならず近傍の既設風車でも生じることが予測される。

計画地にサシバやハチクマなどの希少猛禽類等の渡りルートもあるので、事業の実施が障壁影響を生み出し、これらの渡り鳥が風車を大きく迂回したり、迂回した先の既設風車群によりバードストライクが発生すると考えられる。貴社における環境影響評価ではこれら複数の事業が一体のものとなって生じる累積的影響を適切に評価し、地域全体の環境影響、特に希少猛禽類に対する影響が最小になるよう、影響の回避低減策を講じるべきである。計画地およびその周辺においては、いわゆる発電所アセスのガイドラインにあるような一般的な環境影響評価だけでなく、計画地の環境について知見を持つ利害関係者や専門家とも十分に協議したうえで、実施する調査の内容を決定されることを求める。貴社においても、風車の建設にあたっては、野鳥の生息状況を十分に把握し、地域の優れた自然環境と生物多様性が失われないよう適切な対応をとることを強く求める。

(3)鳥類以外への影響について
①生態系の保全について

計画地の面積の一部が日本森林浴の森100選にも選ばれている会津東山自然休養林と重なっており、風車の建設により、休養林として保全されている豊かな森林生態系が破壊される、または改変される恐れがあるが、そのことは森林保護も謳っている自然休養林としての存在意義が損なわれることになるため、休養林と重なる地域は計画地から除外することを強く求める。

計画地の面積の大部分は、保安林で且つ会津山地緑の回廊に含まれており、奥羽山脈から三国山脈等に繋がる緑の回廊のネットワークの拠点となっている。緑の回廊は生物多様性の保全を目的として設定されているので、風車等の設置に伴い緑の回廊の環境を改変することは避けるべきである。計画地には絶滅危惧ⅠB類に指定されているクマタカが複数つがい、高密度で生息している可能性が高い。生態系の頂点に立つクマタカ等の希少性猛禽類は、餌動物となる多くの野生生物を育む豊かな自然環境に支えられているので、森林伐採や土地の改変が行われれば、餌となる野ウサギ等の激減により、クマタカの生息地が奪われることとなる。計画地には優れた自然が多く残されており、環境省、林野庁が推進する生物多様性保全の観点から極めて損失が大きいと考えられる。本事業については、生物多様性保全の観点から、中止も含めて事業規模を大幅に見直すことを要望する。

②累積的影響について

計画地の近傍には、前述のように他社の既設風車と大規模な増設計画、また、もう一つの他社による建設計画があるが、それらが計画通りすべて建設されると多数の風車が背炙山の尾根上に南北に並ぶことになる。それにより、生物多様性の保全を目的として設置された緑の回廊が環境改変により分断され、回廊の設置当初の趣旨が大きく損なわれる恐れが大きい。計画地のみで行う環境影響評価だけでは評価できない累積的影響について、既設の風車および計画の存在も含めて一体的に影響評価を行う、累積的環境影響評価の適切な実施を強く求める。

③景観について

計画地がある背炙山は会津若松市の市街地の東に位置し、歴史的にも著名な観光施設の鶴ケ城の借景となっている。風車が建設されると尾根には人工物が並ぶことになり、その歴史的な自然景観や観光価値が損なわれることから、景観への影響を最小限にとどめるために建設位置や規模の再検討を求める。また、フォトモンタージュ等を用い風車の建設の前後でどのように景観が変わる予定であるかを示し、広く市民の意見を聴取すべきである。なお、評価の実施を建設稼働後に設定しているが、準備書作成前に市民の意見を聴取するなどして評価を行うべきである。

④一般利用者への配慮について

計画地はハイキング、自然観察などで多くの市民に利用、親しまれている。その工事中および完成後も市民の継続的な利用を促進できるように配慮すべきである。

⑤地域住民への配慮事項について

計画地を含む背炙山には、若松と湊地区を結ぶ生活道路があり、歴史的著名人も利用した記録がある。民俗的な見地から住民意見を聴取するなど、事前調査を十分に実施するよう努めるべきである。

以上

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