公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)広島西ウインドファーム事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書

令和3年2月22日

電源開発株式会社
代表取締役社長 渡部肇史 様

日本野鳥の会広島県支部
支部長代行 日比野政彦  (公印省略)
〒733-0011 広島県広島市西区横川町3丁目9-3小田ビル1F

公益財団法人日本野鳥の会
理事長 遠藤孝一  (公印省略)
〒141-0031 東京品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

「(仮称)広島西ウインドファーム事業に係る環境影響評価方法書」に対する意見書

現在、貴社が住民意見を募集している(仮称)広島西ウインドファーム事業に係る環境影響評価方法書(以下、方法書という)に対して、鳥類の保全の観点から下記の通り意見を述べる。

貴社が作成した計画段階環境配慮書に対し、当方が提出した意見書においてもすでに、事業実施想定区域には環境省が絶滅危惧IB類に指定するクマタカ、イヌワシ、ヤイロチョウ、絶滅危惧Ⅱ類のサシバ、ハヤブサ、準絶滅危惧種のハチクマ、オオタカ、ハイタカ、ヨタカ、また、世界自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧Ⅱ類に指定されているコウライアイサなど、多くの希少鳥類が生息していることを指摘したが、そのことは方法書にある対象事業実施区域(以下、計画地という)についても同様であることを指摘しておく。

特にクマタカ については、本会会員による調査において計画地およびその周辺で7つがいが生息していることを確認している。また、2020年の夏には計画地の北端および南端で当歳の幼鳥のクマタカを観察していることから、現在も継続して計画地とその周辺で複数のクマタカのつがいが繁殖していることは確実である(別紙資料参照)。

方法書には鳥類に対する影響を評価するための調査方法等を記載しているが、クマタカ等の希少猛禽類や渡り鳥への影響を適切に評価し得る調査データを取得するという観点から、下記のことを実施するよう求める。

(1)鳥類(一般鳥類)調査について

6-41(319)ページにある一般鳥類調査について、図6.2-10に記載されている一般鳥類調査地点での定点観察だけでは、調査地点が少なく、計画地とその周辺の鳥類相を把握することは困難である。そのため、ラインセンサス法も併用して広く計画地をカバーした鳥類相調査を実施することを求める。

なお、計画地周辺において、広島県により絶滅危惧Ⅰ類に指定されているコノハズク、準絶滅危惧に指定されるヤマセミ、要注意種に指定されるオシドリなどが繁殖期に生息していることを本会会員が調査により確認しているので、貴社はそのことに留意して繁殖に影響のないよう十分な配慮を行なった上で、詳細な現地調査を実施すべきである。

(2)鳥類(渡り鳥)調査について

計画地とその周辺では、春および秋の渡りの時期に尾根筋を通過するハチクマ、サシバ、ハイタカ、ハリオアマツバメなどの多くの渡り鳥が飛翔していることが観察されている。これらの鳥類の移動経路上に風車が建設されれば、貴社が自ら予測しているようにバードストライク等の深刻な影響が発生することが懸念される。方法書の6-42(320)ページでは、渡り鳥調査は春季3回、秋季3回(春季:3~5月、秋季:8~10月)とし、定点観察法で調査するとしているが、計画地とその周辺は中国地方でも重要な鳥類の渡り経路となっていることから、貴社は方法書に記載した調査方法にこだわらず、適切な時期に適切な回数の調査を実施し、計画地およびその周辺を通過する渡り鳥全般の飛翔状況の詳細を明らかにすべきである。計画地とその周辺では夜間に渡る鳥類も多いため、レーダーを使用した夜間調査も実施することを求める。

(3)鳥類(希少猛禽類)調査について

6-42(320)ページには猛禽類調査を「1回当たり連続3日間とし、各月一回 ※営巣期(12~8月)の調査は1営巣期実施する(9回)」と記載されているが、貴社がここで希少猛禽類として想定しているだろうクマタカは隔年で繁殖するつがいが多く、1営巣期の調査ではクマタカの繁殖を確認、または巣を発見することは困難である。2営巣期に渡り調査することにより繁殖や巣を発見できる可能性が高まるが、それにはまず、つがいの行動におけるコアエリア(高度利用域)を確定することが必要であり、そのためには方法書にあるよりも詳細な希少猛禽類調査を実施すべきである。

具体的には、各月1回3日間程度にこだわらず、繁殖ステージごとに適切な調査時期や頻度を選定し、できだけ多くの日数で調査を実施すべきである。また、視野図を作成するなどして、計画地内を飛翔または止まりをする希少猛禽類を見逃すことのないように定点を配置し、飛翔状況の正確な把握のためにレーザーレンジファインダーの使用を検討すべきである。
また、調査により、クマタカのつがいのコアエリアの位置や範囲を把握した場合、風車の設置位置はコアエリアの外郭から少なくとも1km以上隔離させることを求める。

(4)累積的影響評価について

計画地に予定通り風車が建設されると、南北11km、東西6kmの範囲に最大高150m超の大型風車が36基立ち並ぶことになり、全国的にも類のない大規模風車群がはじめて広島県内に出現することになるが、計画地とその周辺で生息を確認している7つがいのクマタカをはじめ、多くの動植物の生息が困難になると予測されることが、経済産業大臣をはじめ、環境大臣、広島県知事、広島市長からも意見の中で指摘されている。貴社の計画では、計画地が南北に2つに分かれており、また、計画地の中で風力発電機設置想定範囲が計3つに分かれているが、環境影響をそれぞれの計画地または想定範囲で評価を行うだけではなく、これらを一つの計画地として捉えて累積的な影響の評価を具体的かつ慎重に実施することを求める。

(5)生態系に係る注目種とその選定理由について

6-60(338)ページにある生態系に係る注目種とその選定理由について、オオタカとサシバは「当該地域の大部分をなす山地の森林環境よりも丘陵地の森林環境を中心とした生態系を代表する種であるため非選定とした」とあるが、近年、オオタカとサシバは山地の森林環境においても繁殖する個体群がみられるようになり、事実、本会会員の調査によっても計画地周辺でサシバとオオタカの生息が繁殖期に確認されている。したがって、オオタカとサシバも上位性の注目種として取り上げることを求める。

(6)計画地周辺の脆弱地盤について

配慮書に対する広島県知事の意見でも述べられているように、計画地とその周辺は土砂災害特別警戒区域等に指定され、地盤が脆弱であることが予想される地域である。尾根筋で掘削工事を行い、広大な範囲で裸地を生ずる本事業が、近年相次ぐ集中豪雨による沢崩れの原因となることが予想される。 いったん沢崩れが発生すれば、その周辺では大規模な砂防工事を実施することとなり、その砂防ダム工事によるクマタカの繁殖への影響も懸念される。また、クマタカだけでなく、周辺の沢沿いで繁殖するヤイロチョウやアカショウビンなどへの影響も同様である。そのため、少なくとも土砂災害特別警戒区域とその隣接地での風車の建設には慎重を期すべきである。

以上

自然保護活動のご支援を お願いします!
  • 入会
  • 寄付