公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)能代山本広域風力発電事業に係る環境影響評価準備書に対する経済産業大臣勧告に関する要望書

令和3年3月3日

160-0022 経済産業大臣
梶山 弘志 様

日本野鳥の会秋田県支部
支部長 佐々木 均 (公印省略)
秋田県横手市前郷一番町1-21

日本雁を保護する会
会長 呉地 正行 (公印省略)
宮城県栗原市若柳川南南町16

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 遠藤 孝一 (公印省略)
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

(仮称)能代山本広域風力発電事業に係る環境影響評価準備書に対する経済産業大臣勧告に関する要望書

秋田県能代市で白神ウインド合同会社が計画する(仮称)能代山本広域風力発電事業(以下、対象事業という)について、環境影響評価準備書(以下、準備書という)における対象事業実施区域(以下、計画地という)およびその周辺に生息する鳥類の保全の観点から、下記の通り要望いたします。

【要望内容】

計画地は世界的なガン・カモ・ハクチョウ類(以下カモ科鳥類という)の渡りの中継地であり、東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFP)の登録サイトである小友沼のすぐ北側に位置していることから、私たちは、この地域に風力発電施設(以下、風車という)の建設計画があることについて強く憂慮しています。

対象事業の実施は、能代平野におけるカモ科鳥類等の渡り鳥および希少猛禽類にバードストライクや障壁影響(注1)を含む生息地放棄などの多大な影響を及ぼす恐れがあります。すでに準備書に対し秋田県知事および環境大臣から同様の指摘がなされたことから、事業者は風車の位置を変更する等の保全措置の案を発表しましたが(図1、図2)、事業者の事前調査(注2)及び当会による鳥類調査の結果(添付資料1)からも分かるように、カモ科鳥類の移動経路および希少猛禽類の生息地との重複がそれでもなお大きく、影響の回避・低減策になっているとは言い難く、かえって鳥類の飛行や生息を阻害するような配置となっています。そのため、影響を回避・低減するためのより有効な保全措置を取るよう、経済産業大臣として今後発出される勧告を通して、以下のように事業者に対する厳しいご指導を要望いたします。

対象事業と鳥類の生息状況についての具体的な問題点として、以下の点があげられます(図2参照)。

  1. 比八田1号機の東側への移動案は、比八田2号機および既存風車(能代パワー金ヶ台風力発電所)との間隔を狭め、しかも南側の荷八田エリアと北側の水沢エリアと一直線上になっていないことから、障壁影響などの鳥類の渡り経路への影響を軽減しない。また採餌地間の移動については、かえって障壁影響を増大させる。
  2. カモ科鳥類にとって非常に重要な生息地である小友沼との距離が最も近く、移動や渡り経路、また、採餌場所としても利用頻度の高い荷八田エリアでの環境保全措置が図られていない(※荷八田エリアは環境省作成の鳥類センシティビティマップにおいて注意喚起レベルA1に指定される区域である)。
  3. 荒巻1号機の落合地区への移動案は、海岸沿いに風車が並ぶことによって生じる影響の軽減措置が取られていないどころか、かえって海岸沿いの風車の配置を密にし、鳥類の渡り経路及び猛禽類の採餌活動に対する阻害を増大させる。
  4. 海岸沿いの2か所の計画地がガン・ハクチョウ類の渡りの経路及びミサゴ等の希少猛禽類の高頻度利用区域となっていることが事業者および秋田県支部の調査で確認されている。

これらの問題点に対して取られるべき対策として、以下の点を要望します(図3参照)。

  1. 比八田1号機および2号機の建設そのものを取りやめる。
  2. 荒巻1号機の建設そのものを取りやめ、落合地区への移動は行わない。
  3. 荷八田エリアの5基の建設をすべて取りやめる。
  4. 図3には示されていないが、渡り鳥及び希少猛禽類に対して影響が及ばないよう海岸沿いの風車の基数を削減する。

本事業は6つのエリアすべてにおいて重大な環境影響が起こる可能性があり、環境保全の立場からは本来すべてのエリアの中止を求めるべき内容のものですが、ここでは特に緊急性の高いものとして上記の点について要望するものです。

環境負荷が高いと想定される場所での強引な風車の建設は、自然保護上取り返しのつかない影響を発生させることで風車建設に反対する世論を高めてしまい、かえって風力発電の今後の導入促進の妨げになるものと考えます。本事業は、計画地が鳥類を含む自然環境の保全に最も配慮すべき区域にあることを考慮し、経済産業大臣の毅然としたご判断を賜りたく、お願いいたします。

(注1)障壁影響とは

障壁影響とは、風車が鳥類の春秋の渡り経路および塒や営巣場所と餌場の間にある移動経路の上に存在することで、鳥類の飛行の障壁となることを意味する現象である(Rydell et al. 2012)。生息地放棄は地上にある鳥類の利用場所に対するものであるが、障壁影響は空中にある鳥類の利用場所の阻害を意味する。この障壁影響により鳥類の渡りや移動の経路が風車周辺で変わってしまうことがあり、そのことで鳥類は渡りや移動経路を延長せざるをえなくなり、餌場、換羽場所や中継地、繁殖地までの飛行距離が延び、場所によっては風車建設地周辺で以前は利用していた好適な生息地を利用できなくなり、ときには従来の生息地とは離れた質の劣る生息地まで移動してしまうことにつながり(Drewitt & Langston 2006)、鳥類の飛行に係るエネルギー消費が増え、結果的に鳥類の繁殖成功率や生残率を低下させる可能性を意味する(Masden et al. 2010)。障壁影響の発生の有無や程度は、鳥類の種、ねぐらおよび営巣地と餌場の間の日常的な移動や春秋の渡りなど、移動の種類や状況、飛行高度、鳥類の種ごとによる風車の回避率によって変わり、また、風車側による要因としては風車の立地や配置、施設の規模、風車の運転状況、さらに、自然条件による要因としては、時間帯、天候等による風車の視認性、風力や風向、地形などによって変わる(Gove et al. 2013)。

(引用文献)

(注2)準備書に記載されている事業者の現地鳥類調査の内容

渡り時の移動経路:図10.1.4-34 (秋季ヒシクイ)、図10.1.4-35(秋季マガン)、図10.1.4-37(秋季ガンの一種)、図10.1.4-47(冬季ヒシクイ)、図10.1.4-48(冬季マガン)、図10.1.4-49(冬季ガンの一種)、図10.1.4-51(冬季オオハクチョウ)、図10.1.4-52(冬季ハクチョウ属の一種)
渡り鳥の年間予測衝突数:図10.1.4-85(2)(ヒシクイ:由井モデル)図10.1.4-85(4)図10.1.4-85(6) (マガン:由井モデル)図10.1.4-85(8) (ガンの一種:由井モデル)10.1.4-87(6) (ハクチョウ属の一種:由井モデル)

(地図1)準備書段階の風車配置予定図

(地図2)変更後の風車設置予定位置

(地図3)日本野鳥の会秋田県支部・日本雁を保護する会・(公財)日本野鳥の会の要望。カモ科鳥類の採餌行動・渡りの移動経路の阻害を低減するために必要最低限の変更と考えます。

参考写真
<比八田エリア>

写真①2020年3月1日6:44 比八田2号機予定地付近を通るマガンの群

写真②2020年3月7日 比八田1・2号機付近を通過するマガン(風車は金ヶ台風力発電所)

写真③2021年2月28日 比八田エリア北側に降り立つガンの群

写真④2021年2月23日 比八田エリア北側で採食するガン(風車は金ヶ台風力発電所)

<比八田エリア>

写真⑤2021年2月23日 荷八田エリア付近で採餌するヒシクイ

写真⑥2021年2月23日 荷八田エリアを飛ぶハクガン

写真⑦2021年2月28日 荷八田エリア内を東西方向に飛ぶガンの群

写真⑧2021年2月28日 荷八田・比八田エリア間を飛ぶマガン・ヒシクイ・シジュウカラガン

(参考地図)計画地の現在の既存風車配置図と写真位置

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