公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)鉢伏山風力発電事業に係る環境影響評価方法書

令和3年3月5日

株式会社OSCF
代表取締役 梅田 明利 様

日本野鳥の会福井県
代表  酒井 敬治
〒911-0804 福井県勝山市元町3-6-48松村方

公益財団法人日本野鳥の会
理事長  遠藤 孝一 (公印省略)
〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル

(仮称)鉢伏山風力発電事業に係る環境影響評価方法書への意見書

貴社が作成した環境影響評価方法書(以下、方法書という)に記載されている対象事業実施区域(以下、計画地という)では、生態系の頂点に位置するクマタカが複数ペア生息し、イヌワシについては近隣生息地からの飛来が観察されている。また、ハチクマやサシバなどの猛禽類の渡りの重要な経路となっており、丹生山地中央部に「環境省鳥類観測1級ステーション」が設置されていることからも分かるように、多くの小鳥類の重要な渡り経路でもある。さらにはコウノトリの移動が頻繁に観察されるほか、計画地でも海に近い場所においては、ガン・カモ・ハクチョウ類などの水鳥の渡り経路にもなっている。そのため、風力発電施設(以下、風車という)の建設工事段階においては人や工事車両の出入りや、それに伴う騒音や振動の発生により希少猛禽類をはじめとした多様な鳥類の生息や繁殖に及ぼす影響が、また、風力発電施設の稼働後には、バードストライクや障壁影響を含む生息地放棄等が発生することが大きく危惧される。

以上の理由から、方法書に対し下記のように意見を述べるので、対応を検討願いたい。

1.計画地の位置の見直しについて

冒頭に記述したように、計画地は、生態系の頂点に位置し、環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠB類および国内希少野生動植物種、福井県版レッドリスト絶滅危惧Ⅰ類に指定されるクマタカの生息地である。また、ハチクマやサシバといった希少猛禽類や小鳥類の県内有数の渡り経路でもある。さらに、福井県が定着を試みているコウノトリがよく飛翔する移動経路でもある。風車の建設はその生息に重大な影響を及ぼすと考えられるため、計画地は風車の建設場所としては不適切であり、計画地の位置の選定の見直しを求める。

2.希少猛禽類の調査定点と「視野図」について

計画地とその周辺に10箇所の観察定点を設定しているが、降雪期にはSt1、St2、St4、St8の4定点は除雪されることから定点の配置が可能と思われるが、St10は国道365号が冬季間通行止めの箇所であり、残りの定点は除雪が行われないと思われる。つまり、現状の定点配置予定では、繁殖期と重なる降雪期は十分な調査が出来るとは言えない。スノーモービルで定点に入るとしても、途中の雪崩の危険も考慮すると、ヘリコプターによる調査員の搬送を明記する事を求める。ただし、そのエンジン音等が希少猛禽類に影響を与えないよう十分な配慮が必要である。

貴社が作成した「視野図」を見ると、計画地の上空はすべて視野に覆われているが、「山肌の見える範囲」は限定的なので、巣材や餌の搬送などが確認された場合には繁殖行動に影響を与えないよう配慮をしつつ、移動観察することを明記し、十分な調査ができるようにすべきである。

3.希少猛禽類の調査日数について

「調査は昼間に3日間連続で行う」となっているが、3日間の調査日と雨天が重なってしまい「ほとんどデータが取れない月」が生まれる場合があると想定される。そこで、調査の日程について、繁殖期間中は各月1回に拘ることなく、繁殖ステージ毎の行動を把握できるように調査日程を組むべきである。

4.レーダー調査およびICレコーダーによる調査の追加について

計画地とその周辺を渡っていく鳥類の移動経路の状況を把握し、事業実施による鳥類に対する影響を検討する基礎データを得るためには、目視観察調査だけでは不十分である。

船舶レーダーを垂直と水平方向へ回すことで得られた画像を分析することで、鳥類の飛翔高度や位置を3次元で把握でき、夜間を含む飛翔の時間帯等の詳細が明らかになる。本区域は平坦地が少ないが、鉢伏山頂上付近には平坦地があるので、そういった場所を利用してレーダー調査を実施することを求める。

また、夜間に渡る多くの小鳥類を把握するためにICレコーダー等で鳴き声を録音し、種の同定を行うことを求める。冒頭述べたように丹生山地は小鳥類の有数の渡り経路であるため、渡り鳥の多い10月上旬から11月上旬に、目視観察のできない日没後から翌日の日の出前までの時間帯で録音調査を実施することを求める。

5.調査、予測及び評価の手法中、「5.調査期間等【現地調査】e)渡り鳥・定点観察法」について

「春の渡り期6回(3月~5月に7~10日間隔)、秋の渡り期6回(9月~10月に7~10日間隔)」とあるが、猛禽類(ハチクマ・サシバ・ノスリ)やガン・ハクチョウ類、小鳥類の渡りの全体像を把握しようとすると、それでは不十分である。つまり、本年(2021年)のような大型寒波の襲来によって、ガン・ハクチョウ類で1月の移動が見られたように、水鳥だけでなく小鳥類においても積雪期の南下が見られることから、海岸線に近い当該地における渡り鳥の移動の実態把握には、1月~2月(冬季)、3月~6月(春気)、9月~11月(秋季)など、調査期間を長く設定し、その分だけ調査回数も以下の案ように増やすことが必要である。

案)「2月(下旬)と11月(上旬)は各月3日間を1回ずつ、3月~5月および9月~10月は各月3日間を2回ずつ」計36日間(3日間×12回)

6.累積的影響評価の実施について

計画地周辺では貴社が計画する事業以外にも、他の事業者による風力発電計画が複数ある。ある一定の地域に複数の施設がある場合、鳥類、特に渡り鳥に対し、障壁影響やバードストライクなどの重大な影響を及ぼすことが海外の知見により知られている。そのため貴社は、互いに計画段階であったとしても、他の事業者と事前の調査結果の共有等をしながら、海外文献等を参考にして適切に累積的影響評価を実施し、周辺地域全体における鳥類等の自然環境に配慮すべきである。

以上

自然保護活動のご支援を お願いします!
  • 入会
  • 寄付