公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)串間南部風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見書

令和3年3月8日

〒805-0025 福岡県北九州市八幡東区中尾1-13-21
有限会社ウィンディ
代表取締役 南 優奈 様

〒880-0943 宮崎市生目台西1-2-6
日本野鳥の会宮崎県支部 支部長 岩切 久

〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
公益財団法人日本野鳥の会 理事長 遠藤孝一
(公印省略)

「(仮称)串間南部風力発電事業に係る環境影響評価方法書」に対する意見書

貴社が作成された(仮称)串間南部風力発電事業に係る環境影響評価方法書(以下、方法書という)に対し、環境保全の立場から下記のとおり意見を提出いたします。

①事業計画全体について

宮崎県再生可能エネルギー等導入推進計画における2022年度までの風力発電導入見込量は112,800kWであるが、貴社の計画によりこれを大幅に超過することになる。宮崎県内では諸塚村、日之影町、日南市、串間市等で風力発電事業の、また、県内各地の山地や里山で大規模太陽光発電事業の計画、工事、稼働運転が開始されており、これらにより宮崎県の自然環境はまるで虫食い状態のように、地域の自然環境や生態系が破壊されている。

地球温暖化対策や持続可能な社会を構築するために自然エネルギーの導入を拡大する必要性は、多くが認めるところである。そして、宮崎県は再生可能エネルギーによる持続的な社会の構築を目指している。しかし、それは単に再生可能エネルギーの導入量を増やすということではなく、地域との共生を図りながら、景観や自然環境に配慮した発電設備の導入を推進したいということである。貴社のこの事業計画も、県のビジョンに沿って自然環境に配慮したものとなるよう、最善を尽くして今後の環境影響評価に臨んでいただきたい。

②地域住民の意見聴取のあり方について

地球温暖化対策や持続可能な社会を構築するために自然エネルギーを利用することは必要であるが、しかし、それは開発行為を含む人の営みと自然環境との共生の上に成り立たねばならず、地球温暖化対策として行う開発行為が、我々の暮らしを支える生物多様性の基盤を破壊してはならない。しかし、そのようなことに気づかない人間の行為によって、後世になって地域の住民が大きな代償を払わされてきたことは、過去の多くの歴史が物語っている。宮崎県高千穂町岩戸地区では長きに渡り我慢を強いられてきた住民が健康被害などの大きな犠牲を払い、今も尚その傷は癒えていないのである。企業も行政も当初は経済発展のみを見据え、将来その地区に起こりうる環境影響に対する配慮ができなかったのである。貴社のように大きな力を持つ企業は本来、地域の声なき声を尊重し、配慮しなければならない。そのような観点で貴社は、この事業計画に対する地域住民の意見を住民説明会や意見募集に留まらず、各戸を訪問するぐらいのつもりで丁寧に聴取すべきである。

③累積的影響評価について

計画段階環境配慮書(以下、配慮書という)に対する宮崎県知事の意見にもあるように、「対象事業実施区域の周辺では、『串間風力発電所設置計画』、『(仮称)串間市いちき風力発電事業』及び『(仮称)日南風力発電事業』が手続き中であり、将来的には内陸から海岸近くまで数多くの風車が、おおよそ南北方向に連続して配置されることになる。渡り鳥等の飛翔ルートへの影響について、これら他の事業も含めた累積的な影響を十分に考慮した上で、調査、予測及び評価をすること。環境影響を回避又は十分に低減できない場合は、事業実施区域の変更や事業中止も含めて計画の見直しを検討すること」とある。このことについて貴社は、事業者見解として「他事業との累積的影響を考慮して実施する。」「環境影響を回避又は十分に低減できない場合は、事業実施区域の変更や事業中止も含めて計画の見直しを検討します。」と回答している。

しかし、方法書には累積的影響評価に関する具体的な方針や考え方、評価手法等が記載されておらず、不十分な内容となっている。貴社は他事業者と協力し、情報の共有を図りながら、また、海外事例を参考にするなどして累積的環境影響評価を実施したうえで、影響の回避・低減策を講じ、計画地の周辺に他事業が存在することにより生じる鳥類をはじめとした自然環境への重大な影響を回避するための方針や方法を示すべきである。また、回避できない重大な環境影響が生じると予測される場合には、事業計画そのものを見直すべきである。

④クマタカの生息への配慮について

配慮書に対する環境大臣意見に、「事業実施想定区域とその周辺に種の保存法に基づく国内希少種に指定されているクマタカが確認されており、複数のペアの営巣及び繁殖行動が確認されている」とある。また、環境省による猛禽類保護の進め方(改訂版)によれば、クマタカの高度利用域(採食場所、主な飛行ルート、主要な旋回場所、主要なとまり場所等を含む利用頻度の高い区域)においては、「この区域内での行為は特に営巣期のクマタカ親鳥の行動に影響を与える可能性があり、それが原因で繁殖に失敗することが考えられる。」、「営巣木から好適採食地までの飛行移動ルートの確保も大切であり、途中にクマタカが避けるような構造物等は作るべきでない。」とある。つまり、営巣場所と採餌場所が風車の存在により分断されれば、クマタカが現生息地を放棄することにつながるのである。

さらに同書には、「クマタカは、主要な生息地では繁殖ペアの行動圏が隣接し、連続して分布している場合が多い。このような地域では事業の影響を完全に回避することは困難なため、事業計画の段階でクマタカの分布及び生息状況の情報収集を行い、事業の影響を最小限にとどめられるような計画を立てることが望ましい。」、「クマタカの行動を明らかにし、保全措置を検討するには、営巣場所の発見及び少なくとも繁殖が成功した1シーズンを含む2営巣期の調査が望ましい。」とある。

これらのこと、および環境大臣意見に「本事業の実施による重大な影響を回避又は十分に低減できない場合は、風力発電設備等の配置等の再検討、対象事業区域の見直し及び基数の削減を含む事業の見直しを行うこと」とあることから貴社は、質、量ともに十分かつ適切な事前調査を行ったうえで、クマタカの生息域が計画地と重複する部分があるなど、クマタカの生息に影響が出る可能性があると認められた場合は、事後の保全措置を検討するまでもなく、現段階で計画地の位置の見直しや事業規模縮小などの検討が必要である。

以上

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