公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)福井藤倉山風力発電事業に係る環境影響評価方法書への意見書

2021年3月11日

JR東日本エネルギー開発株式会社
代表取締役社長 中村 等 様

日本野鳥の会福井県
代表  酒井 敬治  (公印省略)
〒911-0804福井県勝山市元町3-6-48松村方

公益財団法人日本野鳥の会
理事長  遠藤 孝一 (公印省略)
〒141-0031東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル

(仮称)福井藤倉山風力発電事業に係る環境影響評価方法書への意見書

貴社が作成した環境影響評価方法書(以下、方法書という)に記載されている対象事業実施区域(以下、計画地という)は、生態系の頂点に位置するクマタカが複数ペア生息し、イヌワシについては近隣生息地からの飛来が観察されている。また、ハチクマやサシバなどの猛禽類の渡りの重要な経路となっており、ミゾゴイ、ブッポウソウ、ヤイロチョウ、ヨタカ、オオコノハズクなどの希少鳥類が生息している場所でもある。また、丹生山地中央部に「環境省織田山鳥類観測1級ステーション」が設置されていることや、計画地内にかつての「鳥屋場」跡が多数あることからも分かるように、多くの小鳥類の渡りの重要な渡り経路となっている。さらに、コウノトリの移動が頻繁に観察されるほか、海に近い当該地においては、ガン・カモ・ハクチョウ類などの水鳥の渡り経路にもなっている。

そのため、風力発電施設の稼働後には、バードストライクや障壁影響を含む生息地放棄等が発生することが強く危惧される。さらに、風力発電施設(以下、風車という)の建設工事段階においては、人や工事車両の出入りやそれに伴う騒音や振動の発生により、希少猛禽類の生息や繁殖の放棄、渡りや移動経路の阻害などの影響の発生が危惧される。

以上の理由から、方法書に対し下記のように意見を述べるので、適切な対応を願いたい。

1.計画地の見直しについて

計画地は地域生態系の頂点に位置し、環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠB類、福井県版レッドリストで絶滅危惧Ⅰ類に指定されているイヌワシとクマタカ、およびその他の希少鳥類等の飛翔が確認されている。また、ハチクマやサシバといった希少猛禽類や小鳥類の県内有数の渡り経路でもある。さらに、福井県が定着を試みているコウノトリがよく飛翔する移動経路でもある。

貴社による風車の建設はそれらの鳥類の生息に重大な影響を及ぼすと考えられるため、計画地は風車の建設場所としては不適切であり、計画地の選定位置の見直しを求める。

2.鳥類(希少猛禽類)調査の調査地点(以下、定点という)について

計画地とその周辺で20箇所の観察定点を設定し、1回の調査でそのうちの6箇所を使用するとしている。しかし、計画地はいくつもの稜線で細かく区切られているため、6箇所の定点配置では、希少猛禽類の飛翔を把握するのは困難である。

また、降雪期は稜線部に設定している観察定点は調査員の配置が困難であり、除雪が行われる国道や県道付近に設定した定点のみ機能することになる。降雪期でも十分な調査ができるよう、スノーモービル等での移動やヘリコプター等による調査員の搬送などを実施することを求める。ただし、エンジン音等が希少猛禽類に影響を与えないよう十分な配慮が必要である。

3.「鳥類(希少猛禽類)」の調査日数について

方法書では希少猛禽類調査の日数を「1回あたり連続3日間とし、各月1回」としているが、特に春と秋は、3日間の調査日程に雨天が重なってしまい「ほとんどデータが取れない月」が生じることがあると想定される。そのため、雨天が重なってもその前後の好天時に調査を実施するなどの調査計画を立てるべきである。

また、貴社は、計画地およびその周辺で繁殖していると推察される希少猛禽類の営巣地や高度利用域等を必ず特定し、事業の実施によるそれらへの影響を適切に評価しなければならない。そのため、繁殖期間中は各月1回にこだわることなく、繁殖ステージごとの行動を把握できるように調査日程を組むべきである。

4.「鳥類(渡り鳥)」の調査期間等について

方法書では鳥類の渡り時の移動経路調査として「鳥類(渡り鳥)定点観察法」に「春の渡り期6回、秋の渡り期6回」を「2日間連続」で行うとなっているが、当地の渡り鳥の状況から考えると、春は2月から6月、秋は9月から11月に調査時期を「3日間連続」で設定すべきである。なお、調査実施中に悪天候となりデータが取得できない日が生じる可能性があることを考慮した調査日程を組むべきである。

5.ICレコーダーによる調査等の実施について

計画地で夜間に渡る多くの小鳥類を把握するためにICレコーダーで鳴き声を録音し、種の同定とその頻度を調べる調査を行うことを求める。冒頭に述べたように丹生山地は小鳥類の有数な渡り経路であるため、渡り鳥の多い10月上旬から11月上旬に、目視観察のできない日没後から翌日の日の出前までの時間帯で実施することを求める。

また、方法書の「鳥類(一般鳥類)の任意観察法(夜間)」では、「3回(春季、夏季、秋季)」、「任意に踏査し、出現した鳥類を鳴き声により識別」とあるが、冒頭に記述した希少種の確認には5月から6月にICレコーダーを設置して調査することを付け加えるべきである。

6.累積的影響評価の実施について

計画地周辺では貴社が計画する事業以外にも、他の事業者による風力発電計画が複数ある。ある一定の地域に複数の施設がある場合、鳥類、特に渡り鳥に対し、障壁影響やバードストライクなどの重大な影響を及ぼすことが海外の知見により知られている。そのため貴社は、互いに計画段階であったとしても、他の事業者と事前の調査結果の共有等をしながら、海外文献等を参考にして適切に累積的影響評価を実施し、周辺地域全体における鳥類等の自然環境に配慮すべきである。

以上

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