日野鳥発第 48 号
平成26年 7月31日
株式会社道北エナジー
代表取締役 坂本 元靖 様
日本野鳥の会道北支部
支部長 小杉 和樹
公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 佐藤 仁志
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
「(仮称)道北北西部風力発電事業 計画段階環境配慮書」に対する意見書
平素より、日本野鳥の会道北支部ならびに(公財)日本野鳥の会の環境保全活動に関し、ご理解とご協力を賜り、深く感謝申し上げます。
ところで、この度、公表されました「(仮称)道北北西部風力発電事業 計画段階環境配慮書」に対する意見書について、次のとおり意見を述べます。
記
(1)事業計画全体について
事業実施想定区域(以下、想定区域と言う。)の北部には「メグマ沼鳥獣保護区」と重要野鳥生息地(IBA)の「声問大沼」があり、南西部にはIBAおよびラムサール条約登録湿地の「サロベツ原野」もある。想定区域は上記の重要な野鳥生息地に挟まれるように位置しており、また、既存文献※からも、オオワシやオジロワシなどの希少猛禽類、ハクチョウ類やガン・カモ類など、多数の渡り鳥のルートとなっていることが明らかとなっている。さらに、想定区域周辺で鳥類観察を行なう専門家によれば、絶滅危惧Ⅱ類のチュウヒ、準絶滅危惧種のミサゴ、同オオタカ、同ハイタカの生息が確認されている。
このような、多数の希少猛禽類や渡り鳥が利用する区域で風力発電施設(以下、風車と言う。)を建設すれば、それらの鳥類に衝突死等の多大な影響を与える可能性が高いことから、メグマ沼や声問大沼およびサロベツ原野を含むそれら周辺地域、ハクチョウ類やガン・カモ類の渡りルートとなる声問川および増幌川周辺、大型ワシ類の渡りルートとなる丘陵地を除外したうえで、再度、想定区域の設定をすべきである。なお、想定区域の見直しにあたっては、任意の検討委員会を開催するなどし、多くの専門家の意見を収集すべきであり、もし、要請等があれば、われわれも積極的に協力する用意がある。
※参考文献
(2)事業実施想定区域から外すべき場所について
ⅰ)海岸線から3kmの範囲にあたる区域
(理由)オジロワシを含む多くの渡り性鳥類が多く利用し、バードストライクや渡り経路の阻害等が発生する可能性が高いことや、さらには、想定区域の沿岸域は国立公園の第2種特別地域に隣接していることから、自然景観の保護上の観点からも含めて、風車の建設を避けるべきである。
ⅱ)河口部を含む河川沿いおよび湖沼のある区域
(理由)オジロワシは繁殖期のみならず、渡り時期や越冬期においても、海岸および河口部や河川沿い、湖沼周辺で探餌や採餌をすることが知られており、これまでに国内で発生したオジロワシのバードストライクの事例をみても、今回の事業実施場所では、衝突死が発生する可能性が高い。
ⅲ)オジロワシおよびオオワシのねぐらとなっている場所
(理由)国内で衝突死の事例があるオオワシや、世界的にも風車建設の影響を受けやすいオジロワシのねぐら周辺など、これらの行動が活発な場所での風車の建設は、その行動や生息に大きな影響を与える可能性が高い。
ⅳ)ヒシクイを含むガン・カモ類の餌場とねぐらとなっている場所を結ぶ区域
(理由)ガン・カモ類やハクチョウ類が、餌場やねぐら、渡りルートとして利用する場所に風車を建設すると、生息地放棄や忌避、障壁効果といった悪影響を受ける可能性が高い。また、兜沼とその周辺の低層湿原は、ヒシクイをはじめ多くの水鳥の渡り中継地となっていることからIBAに選定されており、それらの希少な水鳥にとっても影響は大きいとみられる。さらに、後述の鳥獣保護区の設定の精神からしても、鳥獣保護区及びその周辺地域は、事業想定区域から除外すべきである。
ⅴ)特定植物群落の指定区域
(理由)特定植物群落は、学術上重要または保護を要する植物群落である。一方、風車やその維持管理用道路の建設、作業用車両の往来により、外来種の侵入の可能性が高まることなどを踏まえれば、学術上重要もしくは保護を要する植物群落の適正な維持管理の面からも、特定植物群落指定区域及びその周辺地域は事業想定区域に含めるべきでない。
ⅵ)道指定兜沼鳥獣保護区とその周辺
(理由)鳥獣保護区は、鳥獣保護法に基づき、鳥類と哺乳類を対象に、その保護と管理を目的に、生息地を保護区として設定されるものであり、特に鳥類のバードストライクや生息放棄をもたらす可能性がある風車の建設は、それらの趣旨と相反するものであり、鳥獣保護法の精神に反する。また、鳥獣保護区のみならず、その周辺地域も保護されることで、さらに鳥獣保護区の存在の意義は高まり、より実効性の高い保護区となる事が期待されることから、鳥獣保護区周辺地域での施設の建設も避けるべきである。
ⅶ)エゾイタヤ等の自然林
(理由)鳥類を含む野生動物は、本来、自然林や天然林に強く依存しているが、その自然林が、風車建設に係る樹木の伐開等で面積を減らすこととなれば、鳥獣の個体数の減少や生息地破壊など周辺地域の生態系に影響を与えることが想定される。
(3)動物の重要な種の選定について
文献その他の資料調査において確認された動物種のうち、鳥類の重要な種に、タンチョウ(特別天然記念物、国内希少野生動物種、絶滅危惧Ⅱ類)を追加し、本事業による影響を予測・評価すること。
これは、同種が2006年にサロベツ原野で繁殖し、同年秋にはそこで育ったと考えられる当年生まれの若鳥が確認(以下の文献参照。)されたことや、その後、毎年のようにサロベツ原野とその周辺地域で、同種が目撃されていることによる。
(4)累積的影響評価について
想定区域の近傍(稚内市内)には、貴社グループの宗谷岬ウィンドファーム(57基)や、さらきとまないウインドファーム(9基)など6つの風力発電所がすでに稼働している。また、他社のものも含めて2~3つの風力発電所の建設計画が存在している。ついては、想定区域の選定にあたっては、既存施設および計画区域の存在が想定区域を利用する鳥類にどのような複合的累積的影響を与えているか、既存施設、計画施設での実績や検討結果等を積極的に活用・検討すること。
(5)景観及び人と自然との触れ合いの活動の場について
想定区域は、稚内市から増毛町まで連続するドライブルートとして、地元住民や観光客が利用する通称オロロンラインがあり、この地区で重要な連続する景観ポイントと野鳥観察などの人と自然との触れ合いの活動の場となっている。また、なだらかな丘陵地帯と酪農景観は、地域の景観資源ともなっている。しかし、想定区域の南側の幌延町オトンルイには28基の風力発電施設が設置されており、道北地方特有の人工物の少ない景観を求めて訪れる観光客や自然景観を精神的な癒しとしている住民が、風車群からの圧迫感を覚えるなど、景観に著しく影響を与えているとの意見が出されている。こうした状況を踏まえ、日本野鳥の会道北支部でも昨年12月に「北海道北部における風力発電の設置及び計画に関しての一文」と題したアピール文を北海道内の連携団体と連名で、風力発電事業者等に送付したところであるが、一向に景観への配慮がなされない状況である。
こうしたことから、風力発電施設の設置により景観及び人と自然との触れ合いの活動の場に与える影響についてフォトモンタージュ等を用いたアンケート調査等を実施するなど丁寧に評価し、これ以上、影響が出ない事業とすべく、それらの位置・規模等を設定すること。
(6)今後の環境影響評価手続きについて
今後の環境影響評価方法書の作成にあたって、特に鳥類調査計画の立案にあっては、渡り鳥や希少猛禽類への影響の程度を十分に把握することを目的に、任意の検討会を開催するなど、研究機関や自然保護団体等の有識者から意見を聴取する機会を設けること。
また、想定区域もしくは対象事業実施区域周辺の動物およびその重要な生息地に係る環境影響評価を行なう際には、貴社グループの㈱天北エナジーが(仮称)天北風力発電所に係る環境影響評価準備書の作成の際に実施した現地調査結果を参考にすること。
ちなみに、この調査結果では、希少な鳥類が複数種確認され、特にオジロワシおよびコハクチョウの風車への衝突確率の予測値は決して小さくない数値となっている。このような参考データからみても、本計画は、その立地選定の結果によっては渡り鳥や希少猛禽類の衝突死や障壁効果など、鳥類へ深刻な影響をもたらすことを考慮し、対象事業実施区域設定の検討を図ること。