公益財団法人 日本野鳥の会

「幌延町・天塩町における風力発電事業に係る計画段階環境配慮書」に対する意見書を提出しました

「幌延町・天塩町における風力発電事業に係る計画段階環境配慮書」に対する意見書

氏 名: ①日本野鳥の会道北支部 支部長 小杉 和樹
②公益財団法人日本野鳥の会 理事長 佐藤仁志
住 所: ①〒097-0401 利尻郡利尻町沓形字富士見町
②〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル
連絡先: ① 0163-84-3145
② 03-5436-2633

この度、貴社が作成された「幌延町・天塩町における風力発電事業に係る計画段階環境配慮書」について、次のとおり意見を提出します。

(1)事業全体について
 事業実施想定区域(以下、想定区域という。)の設定に関して見直しを行うべきである。特に現配慮書時点で大きな影響が予想される地区については、想定区域から現時点で除外すべきである。
 また、今回、貴社が事業実施区域を想定した幌延町・天塩町に近接する豊富町においては、既に他の事業者が風力発電事業に係る方法書を提出し、一方、貴社においても今後、稚内市及び豊富町に事業実施区域を想定した配慮書を提出する予定と聞き及んでいることから、それぞれの事業案件毎の環境影響配慮だけではなく、宗谷・留萌地方全体(稚内市・豊富町・幌延町・天塩町)での風力発電事業計画を公表し、その上で、各事業間の複合的かつ累積的な内容も配慮書に含め、宗谷・留萌地方全体の広域的な視点にも重きを置いて、想定区域の見直し、除外の検討をするべきである。

理由

 想定区域は、「利尻礼文サロベツ国立公園」の特別保護地区、特別地域に隣接している。サロベツ原野は泥炭上に形成された湿原であり、低平地における国内最大の高層湿原を有する他、国内最大級の浮島のある瞳沼や大規模な湿地溝の発達が見られるなど、国内では他に類を見ない規模の大きい湿原景観を有しているが、風力発電施設の存在は、湿原景観上に大きな影響を及ぼすことが強く懸念される。
 また、想定区域は、国指定サロベツ鳥獣保護区や幌延鳥獣保護区に近接若しくは一部重複している。さらに、国際的にもラムサール条約湿地「サロベツ原野」やバードライフインターナショナルの重要野鳥生息地IBA(Important Bird and Biodiversity Areas)にもなっていること。またこれらの地域は、オオワシやオジロワシなどの希少猛禽類、ハクチョウ類やガン・カモ類など、多数の渡り鳥のルートとなっていることは明らかである。
 さらに、想定区域周辺で鳥類観察を行なっている専門家によれば、絶滅危惧Ⅱ類のチュウヒ、タンチョウ、準絶滅危惧種のミサゴ、オオタカ、ハイタカの生息が確認されている。特にサロベツ鳥獣保護区やIBAは、野鳥の集団渡来地として選定されていることからもわかるとおり、採餌地、ねぐらとして頻繁に利用されており、風力発電施設の建設及び施設の稼働はこれらに大きな影響を及ぼす。
 更に、鳥類に関する保護並びに自然景観の保全に関して述べれば、宗谷・留萌地方に夥しい風車が乱立された場合、鳥類の移動に対して風車が著しい障害壁となることに加え、当地域の良好な自然景観を著しく破壊することになる。

(2)各想定区域について
 当配慮書の時点で、想定区域C,D,E,Fを想定区域から除外した配慮書とすべきであり、また、想定区域A,Bに関しては準備書の段階で、より慎重な評価と影響の軽減策についての検討をすべきである。

理由

  • 想定区域A
     想定区域Aの稜線周辺は、秋にノスリを中心としたタカ類の渡りのルートとして利用されていることが知られているが、今回の配慮書段階での評価がなされていない。また、繁殖期にはミサゴやハチクマ、チゴハヤブサの生息が確認されていることから、風力発電施設を建設すれば、それらの鳥類に衝突死等の多大な影響を与える可能性が高い。
  • 想定区域B
     想定区域Bでは、クマゲラ(絶滅危惧Ⅱ類)、ミサゴ、オオタカ、ノスリの営巣地が確認されており、風力発電施設の建設及び稼働は、これら営巣地の喪失を引き起こす可能性がある。
     また、この区域に風力発電施設が建設された場合、ペンケ沼、パンケ沼を中心とした国立公園区域の景観に大きな影響を及ぼす。
  • 想定区域C
     同区域は、天塩町振老地区の旧天塩川跡の三日月湖を春の塒、産士地区を春と秋の塒として利用しているガン類が、採餌場となっているE地区や天塩町更岸地区への飛行するコースになっている。また、ハクチョウの群れは、渡りの際に同区域の上空を飛ぶものも多い。この場所に、風力発電施設を建設すれば、それらの鳥類に衝突死等の多大な影響を与える可能性がある。
     また、同区域内にはミサゴ、オオタカの営巣地もあり、これらの営巣地の喪失を引き起こす可能性がある。
     このように、想定区域Cそのものが重要な鳥類の利用空間であり、風力発電施設が建設された場合、衝突による死亡の恐れが高いのみならず、採餌場所等の重要な資源が失われ、生息地の喪失が引き起こされる可能性も高く、この地区を想定区域とすることは不適当である。
  • 想定区域D
     想定区域D北側の牧草地は、ペンケ沼を塒にしているガン類(秋にはオオヒシクイが、春にはマガン)のほとんどの個体が採餌場として利用している場所であり、想定区域とすること自体不適当である。
     また、ガン類以外にも、ここを採餌場にしているものは多く、タンチョウ、チュウヒの他、今までに毎年記録されているものとしては、シジュウカラガン、サカツラガン、ハクガン、チゴハヤブサ、チョウゲンボウ、コチョウゲンボウ、シロハヤブサ、ノスリ、ケアシノスリなどが挙げられ、特にカリガネ、オジロワシ、ハヤブサ、ハイイロチュウヒ、ハイタカ、オオタカ、ミサゴは毎年記録され、さらに、想定区域北側に隣接する原野では、タンチョウとチュウヒが繁殖している。
     一方、想定区域D南側の地区は、採餌場所として一部のガン類が利用しているほか、タンチョウも時期によって頻繁に利用し、前述の猛禽類もよく記録されている。 また、ガン・ハクチョウ類の飛行コースにもなっていることから、この区域も想定区域とすること自体不適当である。
     このように、想定区域Dそのものが重要な鳥類の利用空間であり、風力発電施設が建設された場合、衝突による死亡の恐れが高いのみならず、採餌場所等の重要な資源が失われ、生息地の喪失が引き起こされる可能性も高く、この地区を想定区域とすることは不適当である。
     また、建設工事の際、不透水層の下にある支持基盤まで杭を打つこととされているが、工事に伴って被圧地下水層を貫通して支持基盤まで孔を開けることから、湿原の水位に与える影響に関して影響を防ぐことができるか不確実である。もし、万一、地表水の水位に変動を与えた場合、湿原の植生のみならず、湿原の生態系そのものに取り返しのつかない変化を及ぼすおそれがある。
     さらに、国立公園の区域に隣接し、サロベツ原野特有の湖沼・湿原の景観への影響も大きい。
  • 想定区域E
     天塩川対岸の天塩町振老地区の旧天塩川(三日月湖)は、春季におけるガン類・ハクチョウ類の塒になっており、この区域は塒から採餌に向かう飛行コースにあたっている。また、天塩川下流の汽水域には冬期、凍結しない場所があることから、カモ類やオジロワシ、オオワシが餌場として利用している。さらに、春秋の渡りの時期には更に多くのオジロワシ、オオワシが記録されており、隣接している原野では、チュウヒが営巣しているなど、年間をとおしてこれらの希少な野鳥との衝突の危険性が高いため、この地区を想定区域とすることは不適当である。
  • 想定区域F
     想定区域F南側の既設風車では、既にわかっているだけでも今までに6羽のオジロワシが衝突死している。
     一方、F区域ではシロフクロウ、シロハヤブサといった希少な野鳥の観察記録があるほか、隣接する砂丘林ではオジロワシが営巣し、さらに春秋の渡りの時期には、多くのワシタカ類が同区域や隣接する区域を通過・滞在するため、バードストライクの発生する可能性が高い。
     また、秋に渡来するハクチョウの一部には、想定区域F北側の稚咲内地区の海上から渡来して、砂丘林を越えてペンケ沼、パンケ沼に向かうグループがあるため、バードストライクや既設風車との累積効果など、これら野鳥の渡り経路を阻害する可能性が高い。このような理由から同区域を想定区域とすることは不適当である。
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