公益財団法人 日本野鳥の会

「(仮称)石巻風力発電事業に係る環境影響評価準備書」に関する意見書を提出しました

(株)ユーラスエナジ―ホールディングス 御中

「(仮称)石巻風力発電事業に係る環境影響評価準備書」に関する
意見書

平成27年3月11日

項 目 ご 記 入 欄
お  名  前
法人その他の団体にあっては
法人名・団体名・代表者の氏名
①日本野鳥の会宮城県支部 支部長 竹丸 勝朗
②公益財団法人日本野鳥の会 理事長 佐藤 仁志
ご 住  所
法人その他の団体にあっては、
主たる事務所の所在地
①〒982-0811 仙台市太白区ひより台20-7
②〒141-0031東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
連 絡 先 ①022-244-0038   ② 03-5436-2633
準備書についての環境の保全の見地からのご意見
日本語により意見の理由を含めて記載してください。

 (仮称)石巻風力発電事業 環境影響評価準備書」について、次の通り意見を提出します。

  1. イヌワシについて
    (仮称)石巻風力発電事業環境影響評価準備書(要約書)第4章方法書についての意見と事業者の見解において
    事業者は女川ペアは「復興工事による影響で現在の場所から営巣地を移動させる可能性は低いものと考えています。」との見解述べている。この見解に対し、意見を述べる。
     なお、準備書において対象としているイヌワシについては(仮称)石巻風力発電事業環境影響評価準備書(要約書)において事業者は「女川ペア」と述べているので以下同名称を使用して述べていく。
    女川ペアは1984年頃から上品山地域に生息し、上品山地域を離れ女川町の現在地に移動する2008年までの15年間で8回繁殖に成功しているペアである。何らかの要因により2009年(おそらく遅くとも2008年秋季)にこれまでの地域から8km程離れた現在地に移動し、同年繁殖に成功している。その後、現在まで6年間現在地を営巣地として利用しているが繁殖に成功してない。
    営巣地を移動した要因の一つとして、上品山地域における緩やかな環境の変化(人工林の伸長、伐採跡地での樹木の伸長、採草、放牧地の縮小等)により主な餌となるノウサギ等の減少が考えられる。上品山地域に営巣していた女川ペアについて1995年4月から1996年3月に実施された生息調査によれば、この時点ではまだノウサギが豊富であると想定されているが1998年頃からカモメ類を餌としていることが確認されており、このペアが女川町の現在地に営巣地を移動したのは餌となるカモメ類が安定的に捕獲できたためではないかと考えられる。
    今回、上品山地域に風力発電の設置が計画されるに当たり、この計画が実施された場合のイヌワシへの影響について憂慮されることについて述べる。
    事業者の見解では「女川ペアは女川港周辺を主な狩場とし、カモメ類を主な餌とする特異な生態を持っていることや、営巣地周辺で東日本大震災の復旧工事に伴う騒音等が発生しているにもかかわらず、平成24年の繁殖期も同じ営巣地に執着していたことから、営巣地を移動させる可能性は低いと考える。」と述べている。確かに2015年2月においても営巣地付近でペアの飛行が確認されている。なお、騒音については上品山地域にいた時期も航空自衛隊松島基地のジェット機が頻繁に飛行しており、騒音には相当程度の慣れがあるものと推測される。しかし、震災の年の2011年は繁殖に失敗しており、これは震災の救助等でヘリコプターが低空で頻繁に飛行したこと、多くの避難民が営巣地付近に入り込んだことによるものとの見解がある。
    また、2011年3月11日の東日本大震災により、営巣地周辺地域の環境が激変しており、現在営巣地から700m程の旧集落は女川町の震災復興計画で用途複合市街地ゾーン、水産加工ゾーンとして造成工事が進行中で、今後数年以内にこれまでの集落よりも大きい市街地が生まれることになり、遅くともこのような状況になったときには女川ペアが現在の営巣地を放棄し他の地域に移動する可能性が高いと考えられ、事業者の見解とは異にする。
     そのときに女川ペアの移動先として元の上品山地域に戻る可能性が高いと推測する。(全国的にも元の生息地に戻ったり、新たなペアが入り込んだりする例は散見される。)

    その理由
    ○ 女川ペアの既知の土地であること。
    ○ 女川ペアの行動圏(上品山地域に生息した地域も含む。)にはスギ等の人工林が多く、近年その人工林が伐期になり今後伐採が進むことが予想され、現に女川ペアが上品山地域に生息していたときに行動圏に含まれていた福地地域等でも伐採が行われており、女川ペアが上品山地域に戻ってきた場合にこれら伐採地が餌場として利用される可能性が高く、以前より採餌環境の改善が進むことが期待できる。
    ○ 女川ペアにとって移動先と考えられる地域は地形的に現在地より北の北上山地が妥当と思われるが、上品山地域から北の北上山地には新たな生息地を見つけることは宮城県内の北上山地で確認されている4ペアの巣間距離を見るとかなり厳しいと推測される。
    営巣地間距離は概ね以下のとおり。
    女川ペアの現営巣地 - 上品山地域旧営巣地(A)  8km
    A - 北の直近営巣地(B)  11km
    B - 北の直近営巣地(C)  14km
    C - 北の直近営巣地(D)  15km

    女川ペアが上品山地域に戻った場合の風力発電との問題点
    女川ペアが上品山地域に営巣していたときの行動圏には市営牧場、風力発電設置計画地域が含まれており、採餌場としてよく利用されていた。女川ペアが上品山地域に戻ってきた場合においても風力発電設置計画地域を含む地域は採餌場として利用される可能性が高く、特に風力発電施設により改変された空閑地は採餌場になる可能性があり、イヌワシの探餌行動は高空旋回飛行、低空旋回飛行、停空飛翔等多岐にわたり、採餌場であった地域に風力発電が設置された場合バードストライクの危険性が極めて高いと推測される。現に岩手県においてイヌワシがバードストライクによる死亡事故が発生している。

    現在日本のイヌワシは全国で500羽程度(150~200ペア)いわれており、さらに近年繁殖率が低下傾向にあり絶滅が非常に心配されている。このような中で女川ペアは断続的ではあるが繁殖を成功させており非常に貴重な存在である。ニホンイヌワシの現状から鑑みると、女川ペアについて生息、繁殖の阻害要因を排除することは重要であり、当地域における風力発電の設置計画は中止されるべきである。

  2. ミサゴについて
    風力発電計画地域からそれぞれ400m、600mの地点に営巣地があるとのこと。計画地域と非常に近く、計画地での飛行高度も風車への衝突高度での飛行が頻繁である。確認位置、飛翔コースが準備書では、非公開であることから、詳細な検討はできないが、今後ともこの地域を営巣地として利用された場合、工事期間中の配慮はもちろんのこと、仮に風力発電が稼動した場合、繁殖期のディスプレー飛行、育すう期の飛行、雛が巣立った後の飛行能力の劣る雛への影響かなり多きものと推測される。事業者はバードストライクによる事故を回避するため風力発電に高空障害灯の設置、ブレード等に鳥の目玉模様を塗装し、鳥の視認性を高めるとしているが、これらの効果は視界不良のときの効果も含め未知数で疑問とするところである。また、バードストライクが起きない場合でも、採餌飛行等の障壁効果から、営巣地の放棄につながる懸念もある。
    営巣地が風力発電計画地域から至近で計画が実施された場合前述のように、影響は大きく当地域における風力発電の設置計画は中止されるべきである。

以上

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