公益財団法人 日本野鳥の会

北海道北見市での風力発電所建設計画に対し意見書を提出しました

北海道北見市「(仮称)常呂・能取風力発電事業環境影響評価書」に対する意見書を提出しました

2012.05.31

 日本野鳥の会オホーツク支部と公益財団法人日本野鳥の会(事務局:東京都品川区、会員サポーター数5万人)は、絶滅のおそれのある鳥類の生息に対して影響を与えることが懸念される、北海道北見市常呂町での大規模風力発電施設の建設計画に関して、適切な環境影響評価が行われるための調査手法を提案する観点から、事業者である株式会社ユーラスエナジーホールディングス(代表取締役社長 清水 正己氏)に対して、下記の内容で意見書を提出しました。

意見書提出先

株式会社ユーラスエナジーホールディングス

本件問合せ連絡先

公益財団法人日本野鳥の会(自然保護室・浦 達也) TEL 03-5436-2633

日野鳥発第 15 号
平成24年5月25日

株式会社ユーラスエナジーホールディングス
代表取締役社長 清水 正己 様

日本野鳥の会オホーツク支部
支部長 川崎 康弘

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長  佐藤 仁志
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

 

「常呂・能取風力発電事業(仮称)環境影響評価方法書」に対する意見書

 

 この度、貴社が作成された「常呂・能取風力発電事業(仮称)」事業に係る環境影響評価方法書について、次のとおり意見を提出します。

    1. 対象事業計画区域で確認されている希少鳥類について
       これまでに対象事業実施区域(以下「計画区域」という。)周辺ではオジロワシをはじめ、種の保存法および文化財保護法に指定、また、レッドリスト(環境省 2006)およびレッドデータブック(北海道 2001)に掲載されている希少鳥類(別記)の生息が多数確認されている。
       ついては、一般鳥類はもとより、これら希少鳥類について、風力発電施設(以下「風車」という。)の建設が与える影響を評価、予測するための調査計画が必要である。
    2. 【2.2対象事業の内容(2)対象事業実施区域の位置】について
       計画区域内は、畑地や牧草地などに風車を建設する際に、地目変更が必要な場所や、風車設置に適さない傾斜地も多く、どこにでも容易に風車を設置できるとは考えにくいことから、設置可能な位置を図面上に具体的に明示すべきである。
       また、今後行う環境調査および影響予測の結果を受けて、設置可能な位置を選定する場合は、その旨を方法書に明記すべきである。
    3. 【3.1地域の自然的状況(2)動物・植物の概況 動物】について
       計画区域及びその周辺における重要な鳥類の生息状況については、1に述べた希少鳥類を含めて調査し、選定結果や選定根拠を明示するべきである。
    4. 【4.2.5動物(2)調査の手法 鳥類】について
      ①ラインセンサス法について
       次の通り、調査方法の見直しを行うべきである。

      • 各調査期において、1つのコースにつき、確認種数が飽和するように6回のセンサスを行うことで、1回の調査とすること。

      ②定点センサス法について
       次の通り、調査方法の見直しを行うべきである。

      • 調査地点を選定するに当たっては、定点候補地からの視野図を作成したうえで、実際に見通しの良い定点かどうか評価すること。
      • 1回30分の調査時間では不十分なため、調査の目的や対象種に応じ、適切な調査時間や頻度を設定すること。
      • 3日間を1回の調査とすること。
      • 「調査時には観察幅を設定しない」とあるが、調査の目的や対象種に応じて、適切な観察幅を設定すること。

      ③任意踏査について
       次の通り、調査方法の見直しを行うべきである。

      • 計画区域内はどこでも自由に踏査できる環境とは考えられないため、現実的に踏査可能な範囲を示すこと。
      • 調査時期、調査回数、観察幅を明示すること。

      ④空間飛翔調査について
       次の通り、調査方法の見直しを行うべきである。

      • 「計画区域内の4地点(P1~4)」とあるが、P3は計画区域外であるため、計画区域内に設置しなおすこと。
      • 定点を設定する際は、全ての定点候補地において視野図を作成したうえで、調査地点として適切かどうか評価すること。
      • 地点ごとに30分間の調査では、調査時間が短く、不十分である。
        ついては、当会出版の野鳥保護資料集第26集等を参考に、調査の目的や対象種に応じた適切な調査時間、観察幅等を設定すること。
      • 霧の発生時や強風、降雪時など、悪天候時にも調査を実施すること。
        (オジロワシの繁殖期である5~8月は、霧に覆われる日があり、越冬期は風雪の伴う日がある。悪天候と晴天時では鳥類の行動に違いがあることが考えられ、実際に、根室市内の昆布盛ウィンドファームでは霧の日にオジロワシのバードストライクが発生している)
      • 飛翔高度を正確に把握するため、レーザー距離計等を使用すること。
      • 風力発電機の規模に応じて、高度区分を具体的に明示すること。

      ⑤鳥類の渡り時の移動経路に関する調査について
       計画区域周辺では、ガン、カモ、ハクチョウ類以外にも、多くの鳥類が渡るため、全ての渡り鳥を対象にした調査を実施する必要がある。
       特に、計画地に隣接地した能取湖の西岸では、春季と秋季に、環境省の「シギ・チドリ類渡来湿地目録」にも掲載されているように、キアシシギやダイゼンといったシギ・チドリ類が多く確認され、また、希少種のヘラシギやホウロクシギも確認されている。
       さらに、計画区域は紋別市のコムケ湖と網走市の能取湖・濤沸湖などを結ぶルートの重要な渡りの経路となっている可能性があるため、夜間調査(鳴き声)も含めた十分な調査が必要である。
       また、目視だけでなくレーダー調査を並行して行うこと。

      ⑥希少猛禽類の生息状況に関する調査について
       計画区域では希少猛禽類のほかにも、オオジシギやクマゲラといった希少種や、エゾライチョウといった鳥類が生息していると考えられるが、それらに関する調査方法の記述が一切ない。これら3種も含めて、その生息状況を網羅できる調査計画を方法書に組み入れ、希少鳥類全般を対象とした調査(営巣地・繁殖場所・冬ねぐら・エサ資源調査等)を行うべきである。

    5. 【4.2.5動物(3)調査地域等】について
      ①空間飛翔調査の調査地点について

      • 調査の目的が定点調査と異なることから、調査地点が同一位置では不適当である。ついては、調査地点は、稜線や尾根の先端を優先的に選定すべきであり、方法書の図4.2-5にあるP2、P4に加えて、能取湖を見下ろすことのできる尾根上に2点を設定すべきである。また、P1は河川と畑地に挟まれた場所であり、風車が建てられるような場所とは考えられず、空間飛翔調査の調査地点としていることは大いに問題がある。

      ②鳥類の渡り時の移動経路に関する調査、希少猛禽類の生息状況に関する調査の調査地点について
       地点数が4点では不十分であり、計画区域内と区域外で少なくとも各3地点ずつ設定すべきである。
      また、設定された地点P1~P4、R1~R4については、次の通り見直しを行うべきである。

      • P1、R1は河川と畑地に挟まれた場所であり、風車が建てられるような場所とは考えられず、計画区域及び区域内の調査地点としていることは不適切である。設置可能な範囲に調査地点を変更すること。
      • P2は、視野が広い場所ではないため、見晴らしがよく、湖岸の干潟等も確認できるP2から南へ200mの地点へ変更すること。
      • R2とR4は林と牧草地が混在するエリアにあり、ルートの左右や前後で環境が異なり、生息種も大きく異なると思われるため、正確に生息状況を把握するため、調査範囲を左右で分け、かつ50mまたは100mごとに区切って記録すること。

    6. 【4.2.5動物(4)調査期間等】について
    7. ①鳥類に関する動物相の状況(ラインセンサス、定点センサス、空間飛翔)
       四季の実施では不十分なため、繁殖期、越冬期および春と秋の渡りの時期に設定すべきである。なお、渡りの時期の調査については、シギ・チドリ類、ガン・カモ類、小鳥類で時期が異なるためそれぞれ適切な時期を設定すること。
       また、少なくとも2年間継続して実施すること。
      ②渡り時の移動経路に関する調査
       方法書に記載されている期間では渡りの状況を十分に把握することはできないため、次の通り調査期間の見直しを行うべきである。

      1. 秋季は8~11月、春季は3月~6月とすること。
        (能取湖の西岸にはヒシクイが渡りの中継地として利用しているため、秋季は8月から調査する必要がある。また、春季は、当該計画地で6月上旬まで渡りが見られるため。)
      2. 期間中は、2週間に1回(1回=3日間)実施すること。

      ③希少猛禽類の生息状況に関する調査
      越冬期から繁殖期にかけての希少猛禽類の生息状況を把握するには、方法書にある調査期間は十分でないため、次の通り調査期間の見直しを行うべきである。

      • 調査期間は2年間とし、毎月3日間以上行うこと。
      • 霧の発生時や強風、降雪などの悪天候時にも調査を実施すること。

    8. 【4.2.5動物(5)予測の手法】について
    9.  次の通り手法の見直しを行うべきである。

      • 分布または生息環境の改変の程度を予測する方法について、詳細な記載がされていない。ついては、どのような手法を用いて予測を行うのか、具体的に記載すること。
      • 引用した文献などを明記すること。
      • 鳥類にとって回避が難しいと考えられる影響が予測される場合、建設計画を中止または一部変更することを含めて、影響軽減策を検討すること。

    10. 【4.2.8 景観(4)調査地点】について
       計画区域に風車が建設された場合、方法書で示されている3地点のほかにも、紋別市や大空町から風車が見える可能性が高い。また、藻琴山や知床連山などの景勝地からも一望できる可能性があるため、眺望景観の状況についても調査し、設置後の予測を行う必要がある。加えて、風車が見える可能性のある範囲の住民や市町村に対し、景観上の問題が無いか意見聴取をする必要がある。
      1. 以上

別紙

「対象事業計画区域で確認されている主な希少鳥類

■オジロワシ

  • 種の保存法 国内希少野生動植物種
  • 文化財保護法 天然記念物指定種
  • 環境省 レッドリスト 絶滅危惧IB類
  • 北海道 RDB 絶滅危惧種

■オオワシ

  • 種の保存法 国内希少野生動植物種
  • 文化財保護法 天然記念物指定種
  • 環境省 レッドリスト 絶滅危惧Ⅱ類
  • 北海道 RDB 絶滅危惧種

■オオタカ

  • 種の保存法 国内希少野生動植物種
  • 環境省 レッドリスト 準絶滅危惧種
  • 北海道 RDB 絶滅危急種

■ハイタカ

  • 環境省 レッドリスト 準絶滅危惧種
  • 北海道 RDB 絶滅危急種

■ミサゴ

  • 環境省 レッドリスト 準絶滅危惧種
  • 北海道 RDB 絶滅危急種

■ヒシクイ(亜種ヒシクイ)

  • 文化財保護法 天然記念物指定種
  • 環境省 レッドリスト 絶滅危惧Ⅱ類
  • 北海道 RDB 希少種

■マガン

  • 文化財保護法 天然記念物指定種
  • 環境省 レッドリスト 準絶滅危惧種
  • 北海道 RDB 希少種

■ホウロクシギ

  • 環境省 レッドリスト 絶滅危惧Ⅱ種
  • 北海道 RDB 希少種

■ヘラシギ

  • 環境省 レッドリスト 絶滅危惧IA類
  • 北海道 RDB 絶滅危急種

■オオジシギ

  • 環境省 レッドリスト 準絶滅危惧種
  • 北海道 RDB 希少種

■クマゲラ

  • 文化財保護法 天然記念物指定種
  • 環境省 レッドリスト 絶滅危惧Ⅱ類
  • 北海道 RDB 絶滅危急種

■エゾライチョウ

  • 環境省 レッドリスト 情報不足
  • 北海道 RDB 希少種

※環境省版レッドリストでは情報不足により生息数は不明だが、狩猟捕獲数および狩猟登録数当たりの捕獲数が1970年代以降激減していることから、生息数が減少し、絶滅が危ぶまれる種と考えられる。

参考資料:

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