公益財団法人日本野鳥の会は、4月2日、北海道の猿払村及び浜頓別町、つまりクッチャロ湖周辺で計画されている「猿払村及び浜頓別町(クッチャ ロ湖)における風力発電事業」(エコ・パワー株式会社)について、オジロワシなどの希少猛禽類の繁殖や渡り、コハクチョウの渡りや採餌行動に影響 を与える恐れが大きいことから、計画位置の見直し等を求める意見書をエコ・パワー株式会社に提出しました。クッチャロ湖は ラムサール条約登録湿地、EAAFP 登録地、IBA、国指定浜頓別クッ チャロ湖鳥獣保護区(特別保護地区)、北オホーツク道立自然公園 に指定され、 湖周辺を含めて約290種類の野鳥が確認され、渡りのピークにはコハクチョウが1万数千羽(日本の約8割)、ヒドリガモやスズガモ等が数万羽渡来する、 鳥類にとって非常に貴重な場所です。今後も本計画の動向を注意深く見守り、適切なタイミングで意見していきます。
日野鳥発第 88 号
「猿払村及び浜頓別町における風力発電事業に係る計画段階環境配慮書」に対する意見書
平成26年4月2日提出
氏名 公益財団法人日本野鳥の会 理事長 佐藤 仁志
住所 〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23丸和ビル
連絡先 03-5436-2633
意見とその理由
(1)対象事業実施区域の選定にあたっては以下の場所は選定の候補から外すべきである。
・海岸線から2kmの範囲にあたる区域
(理由)オジロワシ等の渡り性鳥類が多く利用し、バードストライクや渡り経路の阻害が発生する可能性があるため。
・河口部を含む河川沿いおよび湖沼のある区域
(理由)オジロワシは、繁殖期のみならず、渡り時期や越冬期においても、海岸だけでなく河口部や河川沿いおよび湖沼周辺で探餌することが多く、それらの場所はバードストライクの発生する可能性が高いため。
・オジロワシの営巣およびその可能性がある場所について、営巣地と考えられる場所を中心とする半径2kmの範囲
(理由)(公財)日本野鳥の会が根室地域で行っているオジロワシの営巣期における行動圏調査では、営巣地を中心とした半径2kmの範囲でオジロワシの行動を頻繁に観察されており、この調査結果を参考にすれば、少なくともオジロワシの営巣およびその可能性のある場所を中心に、半径2kmの範囲については、風車の建設による衝突死など、風車による影響を受ける確率が高いと考えるため。
・オジロワシおよびオオワシのねぐらとなっている場所
(理由)国内で衝突死事例があるオオワシおよび、世界的にも風車建設の影響を受けやすいとされるオジロワシの行動が活発な場所での風車の建設は、衝突死など風車による影響を受ける確率が高いと考えるため。
・ハクチョウを含むガンカモ類およびタンチョウの餌場となっていると考えられる場所および、クッチャロ湖内でガンカモ類がねぐらをとっている場所と餌場とを結ぶ区域。
(理由)タンチョウやガンカモ類の餌場となっている場所に風車を建設すると、これらの鳥種において、生息地放棄や忌避を起こす可能性が高いため。また、本計画地周辺には農耕地が少なく、代替地となる餌場が他の場所で確保しにくいと考えるため。
・特定植物群落の指定区域
(理由)特定植物群落は学術上重要または保護を要する植物群落であり、風車の建設や維持管理用の道路の建設、作業用車両の往来による外来種の侵入の可能性が高まることなど、学術上重要もしくは保護を要する植物群落の適正な維持管理を阻害すべきではないため。
(2)候補区域A~Eにおいて配慮すべき事項
区域 | 渡り経路阻害 | オジロワシ | 餌場利用の阻害 | 餌場とねぐらの間 | 特定植物群落 |
A | ○ | ○(キモマ沼で繁殖) | ○ | ||
B | ○(餌場の可能性) | ○ | ○ | ||
C | ○ | ○(渡り経路) | ○ | ○ | ○ |
D | |||||
E | ○ | ○(渡り経路) | ○ | ○ |
(3)累積的影響を考慮して立地選定を行うべきである。
(理由)候補区域A~Eの近傍には、浜頓別市民風車発電所はまかぜちゃん(株式会社浜頓別市民風力発電所)、浜頓別ウインドファーム(株式会社ユーラスエナジー浜頓別)、井の三猿払風力発電所(井の三風力発電株式会社)の3つの風力発電所が存在するが、候補区域の選定にあたっては、それらの風力発電所が鳥類に影響を与えているかどうかを踏まえること。また、それらの存在が鳥類に影響を与えている可能性が示唆できる場合は、その影響が本事業の計画にもたらす効果を見積もること。
(4)方法書作成段階へ進むにあたっての注意
(理由)以上で述べたように、本事業の計画は立地選定の結果によっては渡り鳥や希少猛禽類へ衝突死や障壁効果などの影響をもたらすことが考えられるため、細心の注意を払って対象事業実施区域を選ぶこと。また、その後の環境影響評価方法書の作成にあたって、特に鳥類調査の手法においては、渡り鳥や希少猛禽類への影響の程度を十分に把握することを目的として、有識者や自然保護団体等からよく意見を聴取したうえで、調査計画を立案すること。