公益財団法人 日本野鳥の会

背炙山の風力発電計画に対し、環境影響評価の再実施を要請しました

日本野鳥の会会津、日本野鳥の会奥会津連合、(公財)日本野鳥の会は背炙山の風力発電計画に対し、環境影響評価の再実施を要請しました

2012.05.17

 日本野鳥の会会津(事務局:会津若松市、代表:林克之)、日本野鳥の会奥会津連合(事務局:会津町、代表:長沼勲)と公益財団法人日本野鳥の会(事務局:東京、会長:柳生博、会員・サポーター数約5万人)は、5月16日、福島県会津若松市の背炙山における風力発電施設建設計画について、絶滅のおそれのある鳥類の生息や鳥の渡り経路に対する影響の有無を適切に評価するため、事業者のエコ・パワー株式会社に対し、環境影響評価(調査・評価・影響予測)の再実施を求める要請書を提出しました。また、福島県知事に対しても、同要請内容について、文書で提示しました。
 当該計画地では、クマタカ(国内希少野生動植物種、絶滅危惧ⅠB類)が5ペアと、これまでも周辺の風車で衝突死事例が多いノスリ(準絶滅危惧種)が複数ペアで繁殖しています。
 また、ハヤブサやオオタカ、サシバ、ミサゴ、ハチクマ、ハイタカなど、希少な猛禽類の生息も多数確認されています。
 さらに、計画地周辺には大規模な鳥の渡り経路も存在することが明らかとなっています。
 以上のことから、この場所に現計画のまま大規模風力発電施設が建設されれば、これら鳥類の繁殖が阻害されたり、生息地の消失や衝突死、渡り経路の阻害などの悪影響は避けられないと憂慮しています。
 このため、事業者に対して、環境影響評価の再実施を強く要請し、5月末日までの回答を求めました。

<主な要請書の内容>

  1. 当該計画がクマタカに及ぼす影響を適切に判断するためには、環境省ガイドラインに従って、クマタカの予定区域周辺の利用エリアや行動圏の内部構造を明らかにする必要があること。
    また、採餌環境の代替地はないことやクマタカは風車を回避しないことを前提に、営巣地と餌場が分断されることを予測に入れ、再評価すべきこと。
  2. ノスリについては、予定区域とその周辺において影響調査を追加し、詳細な行動パターンを把握し、風車を回避しないことを前提に、再度、影響予測と評価を実施すべきこと。
  3. 「ハヤブサ、オオタカなど希少猛禽類について本計画が及ぼす影響は小さい」としているが、国をあげて保護に努めているこれら鳥類に対し、今回の風車建設が真に影響を及ぼさないか、影響調査を追加実施し、影響予測と評価を実施すべきこと。
  4. 当該計画が鳥類の渡り経路に影響を与えないか正確に把握するため、調査期間を春季・秋季に広く設定する必要があること。また、目視観察以外にも、レーダー調査を行うなど、詳しい調査を行い、影響予測および評価を再度行うべきこと。
  5. 環境影響評価準備書で提示されているクマタカとノスリに関する環境保全措置では、影響を回避できるとは到底考えられないため、追加調査および再評価を実施し、あらためて環境保全措置の実施内容について検討すべきこと。

要望書提出先

  エコ・パワー株式会社

本件問合せ連絡先

日野鳥発第 5 号
平成24年5月16日

エコ・パワー株式会社
 代表取締役社長 周布 兼定 様

日本野鳥の会会津
代表 林 克之

日本野鳥の会奥会津連合
代表 長沼 勲

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長  佐藤 仁志

「会津若松ウィンドファーム(仮称)事業」建設予定地である
背炙山に生息する希少猛禽類と渡り経路の保全に関する要請

 今般、貴社が計画中の「会津若松ウィンドファーム(仮称)事業」建設予定地である背炙山は、会津東山自然休養林の一角に位置し、風光にも優れ、多くの人々が自然を楽しむ環境である一方、希少な野生動植物の重要生息地でもあります。
 特に鳥類にあっては、クマタカやオオタカ、ハヤブサなど「種の保存法」による国内希少野生動植物種や、サシバやノスリなど環境省によるレッドリスト掲載種の鳥類の生息が確認されています。
 貴社が公開された「会津若松ウィンドファーム(仮称)事業」に係る環境影響評価準備書(以下、「準備書」といいます)に対し、すでに提出した意見書で述べましたが、背炙山に風力発電施設を建設した場合、下記で述べるようにクマタカなど希少鳥類の生息および渡り経路に対して重大な影響を及ぼすことが危惧されます。
 したがって、特に希少鳥類の生息および渡り経路の状況についての追加調査を行い、影響予測および評価を再度実施することを要請します。

  1. クマタカについて
     背炙山はクマタカ(国内希少野生動植物種、絶滅危惧ⅠB類)を含む猛禽類にとって、餌条件が整っている場所であり、クマタカの生息密度が高く、現在5ペアのクマタカの生息が確認されている場所です。このことは、貴社が作成された準備書で、風力発電機設置予定区域(以下、「予定区域」といいます)の周辺で複数のクマタカの行動が示されていることからも明らかです。また、準備書で示されているように、繁殖期を含めて時期を問わず、クマタカの行動域が予定区域と重複していることから、クマタカはこの場所について餌場を含めた生息地として、高度に利用していることが明らかであり、これら現状からすれば、予定区域での風力発電施設の建設は不適当と判断せざるを得ません。
     それにもかかわらず、準備書では予定区域周辺にも同様の環境があるため、生息地の減少や喪失の影響はないとしています。
     また、

    • クマタカやその餌となる動物は騒音に対して馴到する、
    • クマタカは風車を回避する、

    という根拠のない理由から、生息地放棄の発生や衝突リスクはきわめて低いと評価しています。さらに、環境省によるガイドライン(以下、「猛禽類保護の進め方」という)に従って、利用区域や行動圏の内部構造を明らかにしていないにもかかわらず、準備書内で影響予測や評価を行っています。
     予定区域やその周辺などクマタカが活発に活動する場所に風車を建設した場合、衝突事故が起こるほか、

    • 頻繁に利用している餌環境が環境改変により喪失する、
    • 営巣放棄を引き起こす、
    • 繁殖成功率が低下する、
    • 営巣の中心地と採餌場所を分断する、
  2. ノスリについて
     背炙山では、予定区域およびその周辺で、繁殖期を含めて、時期を問わず、複数ペアによるノスリ(準絶滅危惧種)の行動が頻繁にみられており、活発に活動していることが準備書からも明らかとなっています。
     ノスリは、郡山布引高原風力発電所(背炙山から南東に約10kmの会津布引山で電源開発株式会社が運営)で、複数の衝突死事例が確認されています。その後事業者は、風力発電所内でノスリの衝突死事故防止策を実施していますが、その効果は明確でなく、今後もノスリの事故が予想されます。また、会津布引山の他、北海道苫前町の風力発電施設でも、ノスリのバードストライクが確認されています。
     このようなことから、ノスリが活発に活動する場所に風車を建設した場合、その衝突リスクは非常に高いものと考えられますが、準備書では、ノスリが風車を回避するという根拠のない理由から、「衝突リスクはきわめて低い」と評価されています。
     以上のことから、風車に衝突する可能性が高く、生息条件の変化によっては絶滅危惧種となる可能性のあるノスリについては、予定区域およびその周辺において、影響調査を追加し、詳細な行動パターンを把握したうえで、ノスリは風車を回避しない可能性が高いことを前提に、再度、影響予測と評価を実施すべきです。
  3. ハヤブサ、オオタカ、サシバ、ミサゴ、ハチクマ、ハイタカについて
     貴社が作成された準備書で示されているように、背炙山では予定区域およびその周辺で、

    • ハヤブサ(国内希少野生動植物種、絶滅危惧Ⅱ類)、
    • オオタカ(国内希少野生動植物種、準絶滅危惧種)、
    • サシバ(絶滅危惧Ⅱ類)、

    の行動が確認されています。
     また、生息条件の変化によっては絶滅危惧種となる可能性のある準絶滅危惧種であるミサゴ、ハチクマ、ハイタカの生息も確認されています。
     このように、希少な猛禽類の複数の種が生息できるのは、背炙山が豊かな生物多様性に支えられ、採餌環境が整っていることを示していると言えます。
     ついては準備書で、「風力発電施設の建設がこれらの希少猛禽類に及ぼす影響は小さい」としていますが、国をあげて保護に努めているこれら鳥類に対して、風力発電施設の建設が影響を及ぼさないかどうかを正確に予測するため、予定区域とその周辺において、追加の影響調査を実施し、再度の影響予測と評価を実施すべきです。

  4. 鳥類の主要な渡り経路となっている風力発電機設置予定区域周辺について
     準備書にあるように、予定区域の西側には大規模な鳥類の渡り経路が、また予定区域および東側と北側にも渡り経路が存在することが明らかとなっています。
     一方、準備書では、予定区域は、鳥類の主要な渡り経路にはなっていないかのように記述されていますが、「ふるさとの鳥をたずねる」(昭和54年福島県野鳥の会)によると、

    • 新潟県から阿賀川沿いに入り、会津若松市付近でそのまま阿賀川沿いに南下するルート、
    • 猪苗代湖上空を抜けるルート、

    と二つの渡り経路が示されています。このことから、背炙山は渡り経路上にあり、さらにその付近で二つの渡り経路に分かれ、鳥にとっては交通の要所となっていると考えられ、実際、背炙山では鳥類の渡りが多数観察されています。
     また、渡りのコースはその日の風向や風力などによって、1~2kmは簡単に移動することから、天候により、渡り経路が予定区域寄りに多少でも変化した場合、多数の鳥類が予定区域上空を通過することが容易に予想できます。
     いずれにしろ、準備書では少ない日数での調査結果が示されているだけであり、その結果のみで、「予定区域がメインの渡りルートではない」と推定するには、あまりにも根拠が不十分です。
     環境省による「鳥類等に関する風力発電施設立地適正化のための手引き」でも、渡り経路は風力発電施設建設に際して配慮すべき重要な地域であると示されており、準備書の内容および当会で把握している既存の情報から考える限り、予定区域は風力発電の建設に適した場所ではないと思慮します。
     以上のことから、背炙山での風力発電施設建設が鳥類の渡り経路に影響を与えないか正確に把握するため、春季および秋季に広く調査期間を設定し、目視観察以外にも、昼夜問わずレーダー調査を行うなど、詳しい調査を行い、影響予測および評価を再度行うべきです。

  5. クマタカ、ノスリに対する環境保全措置について
     準備書では、「クマタカとノスリが風車に衝突する確率は低い」としながらも、「ススキを主体とした緑化を段階的に行うことで、餌動物の採餌等に係る衝突リスクの回避に努める」とあります。
     しかし、イヌワシが衝突死した釜石広域ウインドファーム(株式会社ユーラスエナジーが設置)では、建設に伴い、風車の設置場所周辺の低木林および放棄された草原について、管理した草原環境にしたことで、餌動物を誘引し、イヌワシが頻繁に採餌しにくるようになった可能性が考えられています。また、先述のとおりノスリの衝突死事例が発生している郡山布引高原風力発電所内は牧草地で、ススキ草原と同様の草原環境のため、今のところ、どのようなバードストライク防止策も効果を発揮していない状況にあります。
     このようなことから、準備書で提示しているクマタカとノスリに対する環境保全措置では、影響を回避できるとは到底考えられず、このためにも、当要請書で当会が提案する追加調査および再評価を実施したうえで、あらためて環境保全措置の実施内容について検討すべきです。
  6. 回答期日について
    本要請書に対する公式回答を5月末日までに、要望三団体宛に書面をもって提出してください。

以上

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