公益財団法人 日本野鳥の会

(仮称)天北風力発電所に係る環境影響評価準備書に対する意見書

日野鳥発第  13 号
平成26年 6月13日

株式会社 天北エナジー
代表取締役 渡辺 義範 様

日本野鳥の会道北支部
支部長 小杉 和樹

公益財団法人 日本野鳥の会
理事長 佐藤 仁志
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル

(仮称)天北風力発電所に係る環境影響評価準備書に対する意見書

 平素より、日本野鳥の会道北支部ならびに(公財)日本野鳥の会の環境保全活動に関し、ご理解とご協力を賜り、深く感謝申し上げます。
 ところで、この度、公表されました「(仮称)天北風力発電所 環境影響評価準備書」について、次のとおり意見を述べます。

1.全般的事項について
(1)「8.重要な種及び注目すべき生息地のうち(2)渡り時の移動経路」について
 渡り確認状況において、「渡り」と「移動」を区別して表に記載しているが、そもそも渡りと移動を区別した理由および、区分する際の基準や方法等を明記すること。

(2)予測衝突数の算出について
①環境省の「鳥類等に関する風力発電施設立地適正化のための手引き」に記載されている算出モデルだけでなく、現在考案されている最新で適切なモデルを用いて算出すること。
例;由井正敏・島田泰夫.球体モデルによる風車への鳥類衝突数の推定法.2013.総合政策15(1)1-17.
②各鳥種における予測衝突数を算出する際、計算の対象となる鳥類が「風車を避ける場合」と「避けない場合」で算出している。避ける場合、一律に回避率を95%として計算に用いられているが、実際には、対象の鳥種や種群によって、回避率が異なる可能性が多分にあり、海外文献を引用するなどして、できるだけ最新で適切と考えられる回避率を用いて算出すること。
例;Use of Avoidance Rates in the SNH Wind Farm Collision Risk Model.
J. Everaert. 2014. Collision risk and micro-avoidance rates of birds with wind turbines in Flanders. Bird Study 61(2):220-230.
③対象事業実施区域全体、もしくは地図上に示された風車設置予定位置の中心地点から、ある程度のバッファーを設けて、その範囲内で各鳥種における予測衝突数を算出するのではなく、導入予定の風力発電機のローター直径の3倍(風車工学的に必要とされる間隔)を目安とした格子状メッシュを地図上に配し、それぞれのメッシュごとに予測衝突数を算出すること。

(3)騒音による生息環境の悪化について
①同準備書を読むと、「鳥類は風車稼働後の騒音に対し、時間の経過に伴い馴致をみせる。」との記載が全体に見られるが、「時間の経過に伴い馴致をみせる。」とした根拠を明らかにすること。
 一方、武田恵世(日本鳥学会2010年度大会講演要旨集:84)によると、「…三重県における風車建設後の森林と対照区の森林で野鳥の繁殖期の調査を行い、比較検討した結果、(風車建設後の森林では、対照区の森林に比べ、野鳥の)生息密度は約1/22であった。すなわち、建設後少なくとも11年では、年月とともに鳥類が増えていることはなく、風力発電機の影響を受けない、あるいは順応している個体は非常に少ないままであると考えられる。野鳥は、騒音を発生する人工建造物にある程度順応性があり、鉄道や高速道路、空港周辺に野鳥が多い場所があることはよく知られている。しかし、風力発電機に順応していない理由としては、稼働の日変動や年変動が極めて大きく、稼働中も風波と呼ばれる風向、風速の変動による変化が大きいこと。また、特殊な騒音、特に低周波音の影響や、ストロボ効果の影響などが考えられる。このように、風力発電機の鳥類の生息への影響は極めて大きく、風力発電所の立地には慎重な検討が必要であると考えられる。」と述べられていることは極めて重要な見識である。
 これらの見識も踏まえ、各鳥種に対して、騒音による生息環境の悪化について再度評価すること。
②環境省による「ダム事業における希少猛禽類の保全技術に関する調査」を用いて、騒音による鳥類への影響を予測しているが、今回の内容では、ダム環境に生息していない鳥種についてもこの規定に基づいて予測、評価しているため、妥当な調査結果であるか、疑問が残る。ついては、そういった種に対して、別の方法で騒音による影響を予測すること。
③「国土技術政策総合研究所資料No.393-395道路環境影響評価の技術手法(別冊事例集動物、植物、生態系)」にある、トンネル工事中におけるクマタカに係るモニタリング調査の結果を用いて、今回、騒音等、工事による猛禽類への影響を予測しているが、その予測がクマタカ以外の鳥種に対しても有効であるとする根拠を示すこと。
(4)騒音による餌資源の逃避・減少について
 「稼働後の時間経過に伴い、騒音への馴致が考えられることから、餌資源の逃避が起きたとしても一時的なものである。」としているが、その根拠が明確でないことから、「馴致と逃避の一時性」と記述した根拠を示すこと。

2.各鳥種について
(1)オオジシギについて
 騒音による生息環境の悪化について、「飯田知彦.1991.オオジシギの繁殖行動と生息環境.Strix10:31-50」によれば、オオジシギは繁殖期間中に音や光による繁殖阻害を嫌うことが示唆されており、オオジシギに関しては、稼働後の時間経過に伴う騒音への馴致は考慮しにくいので、その観点から評価を再度行うこと。

(2)オジロワシについて
①改変による生息環境の減少・喪失について
 営巣木周辺には風力発電機を設置しないこととしているとあるが、その範囲について図面上で明示すること。
②繁殖・採餌に係る移動経路の遮断・阻害について
 本件においては、渡り経路の遮断・阻害についても、別途、詳細に検討すること。
③ブレード・タワーへの接近・接触について
・飛翔経路の変更による影響が予測されるため、繁殖・採餌環境の有無に限らず、渡り経路の存在からどのような影響が予測されるか具体的に検討すること。
・本種の衝突確率や衝突数に関する既存の文献はないとしているが、例えば下記のような文献がある。
 由井正敏・島田泰夫.球体モデルによる風車への鳥類衝突数の推定法.2013.総合政策15(1)1-17.
 Kitano M. & Shiraki S. 2013. Estimation of bird fatalities at wind farms with complex topography and vegetation in Hokkaido, Japan. Wildlife Society Bulletin 37(1):41-48.
May R. etc. 2010. Collision risk in white-tailed eagles. Modeling collision risk using vantage point observations in Smöla wind-power plant. Norwegian Institute for Nature Research, Trondheim, Norway.
May R. etc. 2011. Collision risk in white-tailed eagle. Modeling kernel-based collision risk using satellite telemetry data in Smöla wind-power plant. Norwegian Institute for Nature Research, Trondheim, Norway.
Nygard, T. etc. 2010. A study of white-tailed eagle movements and mortality at wind farm in Norway. Proceedings of the BOU conference climate change and birds. British Ornithologist Union, Peterborough, England, United Kingdom.
・オジロワシの予測衝突数を算出するにあたっては、由井(2013)に記載されている計算モデルを利用すること。
・声問川および増幌川の両河川でサケ科等魚類が遡上する期間は、オジロワシにとって好適な餌場となり、両河川間を往復する際に衝突の危険性が高まるので、その点についても評価を行うこと。
・オジロワシにとって、高度Lは羽ばたき飛行を行うなど非常に不安定な状況で飛翔している場合が多く、飛翔中に容易に高度Mになることも考えられるため、オジロワシの予測衝突数を算出するにあたっては、高度Lで飛翔した個体も含めた結果を算出すること。

(3)オオワシについて
①ブレード・タワーへの接近・接触について
・声問川および増幌川の両河川でサケ科等魚類が遡上する期間は、オオワシにとって好適な餌場となり、両河川間を往復する際に衝突の危険性が高まるので、その点についても評価を行うこと。
・オオワシの予測衝突数を算出するにあたっては、由井(2013)に記載されている計算モデルを利用すること。
・オオワシにとって、高度Lは羽ばたき飛行を行うなど非常に不安定な状況で飛翔している場合が多く、飛翔中に容易に高度Mになることも考えられるため、オオワシの予測衝突数を算出するにあたっては、高度Lで飛翔した個体も含めた結果も出しておくこと。

(4)チュウヒについて
①ブレード・タワーへの接近・接触について
・本種の衝突確率や衝突数に関する既存の文献はないとしているが、近縁種では例えば下記のような文献がある。
Whitfield, D. P. & Madders, M. (2006) Flight height in the Hen Harrier Circus cyaneus and its incorporation in wind turbine collision risk modelling. National Research Ltd., Banchory, UK.
Whitfield, D.P. & Madders, M. (2006) A Review of the Impacts of Wind Farms on Hen Harriers Circus Cyaneus and an Estimation of Collision Avoidance Rates. Natural Research Information Note 1 (revised). Natural Research Ltd., Banchory, UK.

(5)シロハヤブサについて
 Hötker(2006)によれば、シロハヤブサの主な餌資源であるカモメ類は、世界的に風力発電機に衝突死する可能性が高く、海に近い本対象事業実施区域においても、カモメ類の衝突死が起きることが予想される。その場合、シロハヤブサがカモメ類の死体や風車周辺での飛翔個体に誘引され、そのことにより、シロハヤブサの風力発電機への衝突を誘導する可能性もあるため、餌資源であるカモメ類の利用状況の観点から、風力発電施設の建設がシロハヤブサに及ぼす影響を評価すること。

(6)コハクチョウについて
 衝突数の算出にあたっては「渡り」と「移動」を区別せず、一つにまとめて計算すること。なお、算出にあたっては、現在考案されている最新で適切なモデルを用いること。
例;由井正敏・島田泰夫.球体モデルによる風車への鳥類衝突数の推定法.2013.総合政策15(1)1-17.

3.事業計画全体について
 オジロワシおよびコハクチョウの衝突数を算出するのに最新の計算モデルを使用した場合、貴社で予測に用いた範囲における衝突数は「オジロワシで0.6羽/年」、「コハクチョウで0.5羽/年」程度になると考える。
この値は、オジロワシに限ってみれば、日本の風力発電所の中で2番目に高い衝突確率とみられる。また、特にオジロワシは、秋の渡りの時期から冬にかけて、若い個体が風車と衝突死する傾向が高いが、当該対象事業実施区域はオジロワシの渡りコースになっていると考えられ、衝突死が頻繁に起こる可能性の高い場所と懸念する。
 さらに、北海道北部では冬季間に風力発電施設への衝突死が多いことから、冬季間における衝突数について補正が必要である。
なお、現在、日本国内でのオジロワシの死因で、理由が判明しているものでは風力発電施設への衝突死が最も多く、そのことがオジロワシの個体群の存続に少なからず影響していることも示唆されている。
 コハクチョウについては、これまでに国内外での衝突死の事例は見られないものの、オジロワシなど他の鳥類の事例からみても、0.5羽/年という衝突確率は決して小さい数字ではないと考える。また、渡りや移動時の飛行コースは天候等で容易に変化するなど予測の不確実性も考慮すると、予測される衝突数は0.5羽/年より格段に大きくなる可能性が高い。
 これらの状況から考えると、当該対象事業実施区域で風力発電施設を建設することは、オジロワシなどの希少猛禽類やコハクチョウなど多数の鳥の生息に多大な影響を及ぼす可能性が高いことから、風車の配置位置の変更を含めた、事業計画地の選定そのものを見直すなど、大幅な計画変更が必要であると考える。
 また、当該対象事業実施区域の東西には大規模な宗谷岬ウィンドファーム(57基)、さらきとまない風力(9基)等の既存施設があることから、本事業との累積的な評価が必要である。
 このほか、当該対象事業実施区域周辺には、人と自然との触れ合いの活動の場として野鳥観察等でも多くの方が利用している「大沼」「メグマ沼」があり、この眺望点からの影響について見込角「1.64」「2.05」として「認識されない」と評価しているが、本地域周辺はもともと人工物の少ない丘陵地形であることから「主対象となる」ほど、実態と乖離した評価となっており、既存施設も対象とし累積して景観への影響を評価する必要がある。同時に、当該対象事業実施区域の中心的な集落となる中増幌及び増幌地区からのフォトモンタージュによる景観予測からは「見込角」以上に景観への影響があると感じられることから、地域住民や自然とのふれあいの場としての利用者等にフォトモンタージュによる聞き取り調査を実施するなどして、再度影響を評価すること。

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