公益財団法人 日本野鳥の会

強毒の鳥インフルエンザ感染発生に対して

2010年12月27日掲載
2011年2月16日修正

10月に北海道の稚内でカモ類の糞から強毒の鳥インフルエンザウイルスが見つかって以来、島根県安来市の養鶏場、鳥取県米子市のコハクチョウ、富山県高岡市のコブハクチョウと感染が起こり、ついに世界最大のナベヅルの越冬地である鹿児島県出水市でナベヅルに感染が起こりました。養鶏業に打撃を与えるだけでなく、野鳥に対する大きな脅威ともなっています。
今回の発生は、隣国での大規模発生に続いて起こった過去の発生とは異なり、周辺各国での大規模発生は無く、野鳥や野外飼育の鳥での発生が主であることが特徴です。強毒性のウイルスでも発症しにくいカモ類が国外から日本各地にウイルスを持ち込んでいることを想定せざるを得ない状況にあります。とは言っても感染は散発的であり、出水市を除いては、長く続くこともありません。ウイルスを持っているとしても、それは多くはないと考えられます。
出水市には、狭い地域に多くのツルたちが生息し、病気が発生すると次々に感染が起こり、深刻な被害が起こることが懸念されていました。強毒性のウイルスがいつ入ってくるかわからない現在、特定の場所に多くの鳥が集中しないようにしてゆかなければなりません。
鳥インフルエンザは、鳥の病気ですので、バードウォッチングなど鳥から離れて観察する場合、人に感染する心配をする必要はありません。ただし、ウイルスを持ち帰らないように、カモなど水鳥が集まる水際はなるべく歩かないようにし、もし歩くようなことがあったら、靴底を洗うことと養鶏場や動物園など鳥を飼っている近くには行かないよう注意してください。

2010年の強毒性鳥インフルエンザ(H5N1亜型)感染発生の状況

2010年は、東アジア地域で次のように強毒の高病原性鳥インフルエンザ(H5N1亜型)の感染が発生しています。

10月14日
北海道稚内大沼 カモ類糞(10月26日確定)
11月26日
韓国イクサン市 マガモ 1羽
韓国ソサン市 ワシミミズク 1羽
11月27日
島根県安来市 養鶏場 (ニワトリ)
11月29日
韓国ソサン市 ワシミミズク 1羽
12月4日
鳥取県米子市安倍 コハクチョウ 1羽
(12月18日 ウイルス確認・発表)
12月10日-18日
富山県高岡市 コブハクチョウ 6羽 高岡古城動物園
濠で飼育 (12月18日 疑い発表 19日 強毒性確認発表)
12月18日
香港 ニワトリ(飼育鳥)
12月15日~24日
鹿児島県出水市 ナベヅル 6羽

東アジア地域の広い範囲で感染が発生し、野鳥からの確認が多いのがこのシーズンの特徴です。強毒のウイルスが広い範囲に拡散していることが推測されます。ただし、感染発生は散発的であり、出水市を除いて終息しています。


2010年に東アジア地域で確認されている鳥類の強毒性鳥インフルエンザ(H5N1亜型)発生場所
(日付は、その場所・地域で最初に確認された月日)

ウイルスは、どこから来たのか

強毒性の鳥インフルエンザウイルスの感染ルートはまだ解明されていませんが、ロシアや中国、モンゴル、アラスカなどの大陸でウイルス密度が高い地域があり、そこが渡り鳥の飛来ルートと重なった可能性も考えられます。カモ類の国内への飛来は、繁殖地のロシア東部などから①日本海を越える直接ルート、②中国東北部や朝鮮半島などの中継地を経由したルートが想定されます。大陸ではワクチンを家禽に接種している国があるので、鶏やアヒル、ガチョウなどはウイルスに感染しても症状は出ませんから、知らないうちにウイルスが増えて水に流れ出し、渡り鳥も触れるようになった可能性も考えられます。
カモ類は強毒性ウイルスに感染しても症状が現れにくく、ウイルスを持ったまま移動できると考えられます。感染し、体内でウイルスを保持したカモ類の糞に含まれたウイルスに水辺で触れたコブハクチョウやツル類などが感染したという推測ができます。
島根県安来市の養鶏場は、水鳥類の飛来数が多い中の海の湖岸と飯梨川の間に位置していました。養鶏場には、スズメやネズミなど小型の野鳥や小動物が侵入可能な場所があり、ここからウイルスに感染した可能性が検討されています。

ナベヅルへの感染について

絶滅危惧種(絶滅危惧Ⅱ類)であるナベヅル・マナヅルが出水平野に集中して越冬している状況の危険性は、以前から当会でも指摘してきたところです。独自の越冬地分散の取り組みも行っておりますが、成果が出ないうちに懸念していた事態が発生したという状況です。

http://www.wbsj.org/activity/conservation/endangered-species/crane-hogo/

出水では、ツルへの被害の拡大を最小限に努めるとともに、養鶏場などへのウィルスの伝搬を防ぐ両面での対策が必要です。環境省を始めとした関係機関と協議を進めて取り組んでまいります。

人への感染を恐れる必要はありません

鳥インフルエンザの強毒性という意味は、ニワトリにかかるとかなりの確率で死亡するという意味です。感染した鳥との濃密に接触する等の特殊な場合をのぞいて、通常人には感染しないと考えられています。一般的な注意点は、環境省より国民の皆様へということで「野鳥との接し方について」(平成22年12月4日)が出されております。

http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/bird_flu/manual/20101204.pdf

気をつけなければいけないのは、人間によるウイルスの運搬です。これを防ぐために、カモ類など水鳥の糞が多量に蓄積しているような場所には、立ち入らないこと、糞を踏んだ場合は、靴底を水洗いや消毒するなどの配慮が必要です。
一方で、適度な距離をおいて水鳥を観察することは問題ありません。観察の際に、衰弱したり、様子のおかしい個体を発見した際には、お近くの都道府県や市町村役場にご連絡ください。

水鳥類の越冬保全の必要性

強毒性のウイルスは、カモ類など水鳥類が運んできている可能性があります。狭い地域に多くの鳥が集中するような状況では、一度に多くの鳥が感染して強毒性ウイルスが急速に増殖し、野鳥にも家禽にも大きな被害を与える恐れがあります。水鳥類が少数の群れで各地に分散していれば、ウイルスが侵入しても感染個体が少なく、早期に感染が終息することが期待できます。大規模集中渡来から、小規模分散渡来地への移行は、人のインフルエンザ流行時に、学級閉鎖で自宅待機をするようなものです。「ふゆみずたんぼ」など全国で水鳥類の保全活動が進んでいますが、このような保全活動により薄く広く越冬個体が分散して保全されることが、これからはより重要になると言えます。

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