2025年9月4日
北海道苫小牧市にある当会直営施設「ウトナイ湖サンクチュアリネイチャーセンター」が中心となり保全活動を行っている勇払原野。その東側に位置する厚真町浜厚真地域で計画されていた「(仮称)苫東厚真風力発電事業」の取り止めが2025年8月19日に発表されました。
浜厚真地域は「苫小牧東部地域」に属する工業用地ですが、草原や湿地、砂浜などバリエーションに富んだ自然環境が残っています。多種多様な鳥類が見られ、これまでに238種が記録されています※1。さらに、チュウヒやタンチョウなどの絶滅の恐れのある鳥類の繁殖地にもなっており、また、ガン・カモ・ハクチョウ類にとっての主要な渡りルートや、ねぐらから採餌場までの移動ルートにもなっています。当会は、この地域の多様な生物や希少鳥類の保護の観点から本事業区域として相応しくないと訴えてきました。
今回、事業者は撤退の理由を「資機材高騰の影響を受けて建設費等の精査を行った結果、事業性を確保することが困難と判断」と公表しました。2025年4月に当初計画の10基を5基に削減する計画変更を公表した際の変更理由は「環境影響の回避、低減のため」と報道されました。これは、地元関係者、学会や自然保護団体からの意見の他に、環境大臣意見や道知事意見、町長意見においても生物多様性への影響について強い懸念が示されていたことを踏まえての決定でした。もし、これらの多くの主体からの懸念や、それを受けた事業規模の計画変更による事業性の変化が、今回の事業取り止めという最終判断に影響を与えたのだとしたら、その理由として生物多様性への影響回避にも触れていただきたかったと考えています。
近年、ネイチャーポジティブの実現が社会全体で注目されており、企業にとっても生物多様性の保全は重要な課題の1つとなっています。企業が事業を推進する時はもちろん撤退する場合でも、その理由として「生物多様性の保全のため」が1つの評価軸となり、それが公表されること自体が社会的に評価され、投資家を呼び込める社会に変わって行くことが、ネイチャーポジティブの実現のために必要なことではないかと考えます。
当会は、今後も人と自然が共生できる社会を実現するために、まずは生物多様性を保全することがより評価される社会、さらには保全する事を当たり前とする社会の実現を目指して活動を続けていく所存です。
最後に、事業撤退までを簡単に振り返ってみたいと思います。計画が発表された2020年から6年間、当会は事業者との意見交換のほか、さまざまな活動を通じて計画の見直しを訴えてきました。時系列で示すと下記のとおりです。このように当会は、支部や地域の自然保護関係者の方々と連携しながら独自調査の実施、意見書、要望書の提出、自治体への働きかけや地域での普及活動、署名のお願いや地域団体の活動を紹介してきました。事業取り止めまでの活動の中で、ご支援、ご協力くださった皆さま、ともに活動してきた皆さまに心より感謝申し上げます。
※1 引用文献
先崎理之,松井晋,江崎逸郎,大畑孝二,中村聡.2021.浜厚真の鳥類~浜厚真Bioblitz2021報告~.石狩川流域湿地・水辺・海岸ネットワーク.(参照日:2025年8月2日).