公益財団法人 日本野鳥の会

愛がん飼養制度の廃止について環境大臣に要望書を提出しました

 2011年3月22日、当会は、野鳥をペットとして飼うことを法的に認める「愛がん飼養制度」について、鳥獣保護事業計画の基本的指針を改定する機会に、廃止すべきとの要望書を松本龍環境大臣に提出しました。
要望書の内容は以下のとおりです。

日野鳥発第89号
平成23年3月22日

環境大臣
松本 龍 様様

野鳥の愛がん飼養目的の捕獲許可の廃止についての要望

財団法人日本野鳥の会
会 長 柳生 博

 日ごろ、環境行政の執行にあたり、私どもNGOの自然保護活動にご理解をいただき、まことにありがとうございます。
さて、昨年10月から、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(以下「鳥獣保護法」という)に基づき、貴職の諮問により「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」(以下「基本的指針」という)の改定が、中央環境審議会において検討されています。この指針は、来年度第十一次鳥獣保護事業計画を改定する中で参考とするため、都道府県に対し告示として公布される予定と承知しております。
現在の基本的指針には、鳥獣の捕獲等の事由のひとつに「愛がん飼養目的の許可」が掲げられ、これを基にして、メジロの捕獲が許可されています。この愛がん飼養を目的とした鳥獣の捕獲については、審議会において本来禁止すべきとの方向性が出されて既に54年、また明確に廃止の方向性が打ち出されてから33年もの歳月が経過しています。
しかし、この「愛がん飼養制度」は、別紙のように理念上も実態上も様々な矛盾を引き起こしており、鳥獣保護法の適正な執行の障害になっています。前述のように、禁止の方向性が出されて長年が経過しているにも関わらず、この制度を今回温存させてしまえば、野生生物の不適切な消費の助長をし続けていると、国際的にもそしりも免れ得ないとも考えます。
これらのことから、鳥獣の愛がん飼養制度の廃止を貴職におかれて実現され、生物多様性条約締約国会議議長国の名に恥じないご英断をいただきますよう、下記のとおり要望します。

  1. 現在の「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」に掲載されている鳥獣の捕獲等の事由から、「鳥獣の愛がん飼養目的の許可」を削除されたい。
  2. この機会に、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の施行規則第五条の四を削除し、鳥獣の愛がん飼養制度について撤廃されたい。

以上


野鳥の愛がん飼養目的の捕獲許可の廃止についての要望書 別紙

鳥獣の愛がん飼養制度の経緯と、廃止すべき理由

経緯:

 愛がん飼養を目的とした鳥獣の捕獲許可については、昭和32年の鳥獣審議会の答申において「本来は捕獲を禁止すべきものであるが、旧来より飼養の慣行もあるので、制度の運用に当たっては、学術研究、教育参考資料、愛がん飼養のため必要な場合に限り、最小限度においてこれを許可するようにすべきである」とされました。
また、昭和53年の自然環境保全審議会の答申においては、「日本に生息する種類の鳥獣の愛がん飼養を広範囲に認めることは、鳥獣は本来自然のままに保護すべきであるという理念にもとるのみならず、鳥獣の乱獲を助長することとなるおそれがあるので、廃止することが望ましいが、過渡的措置として、次のような規制の強化を図る必要があるとして、飼養のための捕獲の許可基準の厳格化や輸出国の適法捕獲証明書の制度等により、国内産鳥獣の保護に好ましくない影響を与えることのないよう適切な指導を行う必要がある」とされています。(添付資料1)
こうした方針に基づき、愛がん飼養目的の捕獲許可対象種は、昭和25年当時の7種からこれまで漸次削減されてきており、平成19年からは、メジロ1種のみについて、1世帯1羽のみ飼養を認める扱いとされて来ました。(添付資料2)

廃止が必要な理由:

  1. 基本的指針における理念との矛盾
    現行の基本的指針では、「鳥獣の捕獲等及び鳥類の卵の採取等の許可に関する事項」の「(4)その他特別な事由を目的とする場合」の一つとして、「鳥獣の愛がん飼養目的の許可」が挙げられています。しかし同指針には同時に「鳥獣の愛がん飼養は、鳥獣は本来自然のままに保護すべきであるという理念にもとるのみならず、鳥獣の乱獲を助長するおそれもある」との基本的見解が明記されており、これは愛がん飼養目的の捕獲を許可することと矛盾しています。(添付資料3)
  2. 公益性の欠如
    そもそも、愛がん飼養を、他の公益的な捕獲事由と同列に並べて扱う理由は基本的指針及びには何ら示されていません。愛がん飼養は「個人の慰楽」であって、一方的に日本の自然環境からメジロを捕獲し消費するだけであり、自然環境保全・生物多様性維持や、次世代を担う国民の情操向上に資す等々の効用は得られず、もはや役目を終えていると考えます。個人的な楽しみのために愛玩飼養を続けることは、今日的に認められない行為と言わざるをえません。
  3. 生物多様性国家戦略2010における制度そのものに対する疑念
    今年度策定された生物多様性国家戦略2010においても、愛がん飼養は「制度そのものの必要性について検討が必要」との疑念が呈示されています。(添付資料5)
  4. 野鳥の乱獲等の違法行為を助長
    この制度は現在に至っても、各地において野鳥の乱獲等の違法行為を助長しております(添付資料6)。飼養許可が更新された飼養登録票を所持しながら、足環の装着されていない複数のメジロを違法に飼養していた事例が各地から報告されており、愛がん飼養制度の運用そのものにも問題があると考えられます。
    また飼養登録されているメジロ全てを実際に確認し、メジロに足環を装着する実務を担う市町村職員の負担は大きく、一定の知識と技能が必要であり、愛玩飼養制度を適正に運用することは極めて困難であり、取り締まりに支障を来たすという声も聞いております。
  5. 既に半数の自治体が許可を停止
    現在、既に半数以上、24都道府県が愛がん飼養を制度として廃止するか、実態として許可を出していない(添付資料7)。現在の飼養登録数は、ただちに許可を打ち切ったとしても差し支えのない数である(添付資料8)。

添付資料

  1. 愛がん飼養制度の経緯:野生鳥獣保護管理検討会報告書(平成16年12月公表)から
    イ 愛がん飼養
    愛がん飼養を目的とした鳥獣の捕獲許可については、昭和32年の鳥獣審議会の答申において、本来は捕獲を禁止すべきものであるが、旧来より飼養の慣行もあるので、制度の運用に当たっては、学術研究、教育参考資料、愛がん飼養のため必要な場合に限り、最小限度においてこれを許可するようにすべきであるとされ、飼養に関する慣行を認めてきたところである。
    また、昭和53年の自然環境保全審議会の答申においては、日本に生息する種類の鳥獣の愛がん飼養を広範囲に認めることは、鳥獣は本来自然のままに保護すべきであるという理念にもとるのみならず、鳥獣の乱獲を助長することとなるおそれがあるので、廃止することが望ましいが、過渡的措置として、次のような規制の強化を図る必要があるとして、飼養のための捕獲の許可基準の厳格化や輸出国の適法捕獲証明書の制度等により、国内産鳥獣の保護に好ましくない影響を与えることのないよう適切な指導を行う必要があるとされている。
    愛がん飼養目的の捕獲許可は、かつては7種について認められていたが、捕獲については最小限度許可するとの考え方を踏まえ、これまで許可対象種を減らしてきており、平成11年からは、「第8次鳥獣保護事業計画の基準(」現在の基本指針)において、メジロ、ホオジロの2種のうちいずれか1種について、1世帯1羽のみ飼養を認める扱いとしている。
    一方、都道府県の許可の状況を見ると、愛がん目的の許可を行っていない都道府県や高齢者や身体障害者など野外や山野で自然を楽しむことが難しい者に限定して許可をしている都道府県もある。
    このような中、昭和32年の答申等を踏まえ、野鳥の愛がん飼養は順次禁止すべきであるという指摘がある。
    愛がん飼養については、上記のような鳥獣審議会の考え方を基本としつつ、近年の対象鳥獣の生息状況、許可の状況、捕獲状況、飼養の実態等を勘案し、さらなる規制について検討することが考えられる。
  2. 愛がん飼養対象種の変遷
  3. 年度 種数 種名
    1950(昭和25)年~1979(昭和54)年 7 ヒバリ、ヤマガラ、メジロ、ウグイス、ホオジロ、ウソ、マヒワ
    1979(昭和54)年~1980(昭和55)年 5 メジロ、ウグイス、ホオジロ、ウソ、マヒワ
    1980(昭和55)年~1999(平成11)年 4 メジロ、ホオジロ、ウソ、マヒワ
    1999(平成11)年~2007(平成19)年 2 メジロ、ホオジロ
    2007(平成19)年~ 1 メジロ
  4. 現行の「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」(平成十九年一月二十九日環境大臣告示第3号)における改正必要箇所
    Ⅱ 鳥獣保護事業計画の作成に関する事項
    第四 鳥獣の捕獲等及び鳥類の卵の採取等の許可に関する事項
    1 鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等に係る許可基準の設定
    (2) 許可する場合の基本的考え方
    (4) その他特別な事由を目的とする場合
    4) 愛がんのための飼養の目的
    個人が自らの慰楽のために飼養する目的で捕獲する場合。
    【小会改定意見】 上記下線部を削除すべき。
  5. 鳥獣保護法施行規則における改正必要箇所
    第五条  法第九条第一項の環境省令で定める目的は、次に掲げる目的とする。
    一  鳥獣の保護に係る行政事務の遂行
    二  傷病により保護を要する鳥獣の保護
    三  博物館、動物園その他これに類する施設における展示
    四  愛がんのための飼養
    五  養殖している鳥類の過度の近親交配の防止
    六  鵜飼漁業への利用
    七  伝統的な祭礼行事等への利用
    八  前各号に掲げるもののほか鳥獣の保護その他公益上の必要があると認められる目的
    【小会改正意見】 上記下線部を削除すべき。
  6. 生物多様性国家戦略2010の該当箇所
    第2部第2章第1節  野生生物の保護と管理
    2.5 違法捕獲の防止など
    (現状と課題)
    愛がん飼養のための捕獲及び飼養については、その対象種を順次減らしており、現在はメジロ1種のみ、一世帯1羽に限り捕獲及び飼養できることとなっています。しかし、違法に捕獲される事例も数多く発生していることから、愛がん飼養制度そのものの必要性について検討が必要です。(中略)
    (具体的施策)

    • 愛がん飼養のための捕獲許可を平成19 年に策定した「鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針」に基づき、捕獲の方法、区域などについて適正に推進します。(環境省)
    • 鳥獣保護員を活用し警察や地方公共団体、自然保護団体とも連携して、違法捕獲及び違法飼養の取締りの強化を推進します。(環境省)
      愛がん飼養制度の現状を踏まえたその必要性について検討を行います。(環境省)
  7. 愛がん飼養制度が密猟を助長し密猟者に悪用されている近年の事例(全国野鳥密猟対策連絡会調べ)
    • メジロ等野鳥10羽の違法飼養により摘発された鳴き合せ会(NPO法人日本鳴合文化保存協会)会員が、愛がん飼養登録を受けたメジロ1羽を所有していた。このメジロは装着登録票(足環)を着けておらず、2~3才という鑑定だったが、捕獲時期から6歳以上であることと矛盾していた。しかしこの個体は押収されなかった。NGOからの抗議にも関わらず県はこの飼養登録を抹消しなかった(平成17年7月 奈良県上牧町)
    • メジロ4羽を違法飼養していた男が、飼養登録をしており、期限の切れた飼養登録票で警察官を欺こうとした。登録個体は装着登録票(足環)を着けていなかった。(平成22年4月広島県府中市)
    • 死亡した父親名義で愛がん登録申請をしようとした男性の自宅から密猟されたメジロ、オオルリ等85羽が発見された(平成21年9月 徳島県牟岐町)。この他、徳島県内で平成17年度から平成21年度に検挙された密猟者41名のほとんどが、飼養登録票を所持していたとの情報がある。
    • メジロ13羽を違法飼養していた男性が、警察の調べに対し許可を得ているといって飼養登録票を見せた。しかし、押収した13羽中に足環装着個体はいなかった。(平成22年12月 三重県熊野市)
  8. 愛がん飼養に関する都道府県における対応状況
    • 第10次鳥獣保護事業計画においてメジロの捕獲許可を認めていない都道府県:16
    • ここ数年許可を下ろしていない都道府県:8
  9. 以上、合計24都道府県が実態としてすでにメジロの捕獲許可を出していない。すなわち、50%を超える都道府県が愛がん飼養をすでに認めていない。しかし、基本的指針に掲載されているという理由で、捕獲許可の対象としている都道府県も存在する。

  10. メジロの飼養数から見た捕獲許可打ち切りの妥当性
    メジロの現在における飼養登録数 6,013羽(平成20年度暫定値)
    過去に愛がん飼養目的の捕獲許可対象からはずれた鳥類と比較すると、捕獲許可を打ち切る前年の時点の飼養数は、
    ・ヤマガラ 6,048羽(昭和53年度)
    ・ウグイス 14,565羽(昭和54年度)
    であり、現在のメジロよりも飼養数が多い時点で捕獲許可を打ち切っている。このことから、ただちにメジロの捕獲許可を打ち切っても、何ら問題はないと考えられる。
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