公益財団法人 日本野鳥の会

Strix Vol.32

※特集と原著論文は、摘要をご覧になれます。

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特集:カンムリウミスズメ

Strix編集部:カンムリウミスズメ特集にあたって
綿貫豊:ウミスズメ科の多様性(摘要)
中村豊:宮崎県枇榔島で得られたカンムリウミスズメSynthliboramphus wumizusumeの知見について(摘要)
大槻都子:カンムリウミスズメ保全における国際協力および行政(宮崎県東臼杵郡門川町)の取り組み例(摘要)
佐藤仁志・森茂晃・八幡浩二・深谷治・星野由美子:島根県におけるカンムリウミスズメの生息状況(摘要)
田尻浩伸・手嶋洋子・佐藤智寿・山本裕:カンムリウミスズメの巣への出入り時刻と個体数調査方法の検討(摘要)
山本裕・土田修一・小林豊:卵殻膜のDNA分析による神子元島でのカンムリウミスズメSynthliboramphus wumizusumeの繁殖再確認

原著論文

鬼頭健介・関口伸一:スズメの営巣における電柱機器の利用(摘要)
岡八智子・西浦征克・今井光昌・安藤宣朗・下村孝嘉・久住勝司・田中洋子・横山真一・前田聡・石原宏・林益夫・中村洋子・西村泉・橋本裕子・世古口有司・平井正志:伊勢湾西岸海岸におけるミヤコドリの棲息(摘要)
藤巻裕蔵:北海道中部・南東部におけるモズの繁殖期の生息状況(摘要)
小川次郎・渡辺奈央・松井宏光・大森浩二:瀬戸内海忽那諸島およびその周辺島嶼部における絶滅危惧種ウチヤマセンニュウLocustella pleskeiの生息状況(摘要)
上出貴士:和歌山県日高町の西川における非繁殖期の鳥類群集-3シーズン(2010年10月~2013年4月)の調査結果から(摘要)
藤田薫・大久保香苗・藤田剛:噴火後15年目の三宅島におけるオーストンヤマガラの推定個体数(摘要)

短報

葉山雅広・児嶋翼・野中純:小笠原諸島母島におけるマガンの観察
奴賀俊光・Christopher Paul Norman・森川由隆:千葉県鴨川市におけるイソヒヨドリMonticola solitariusの繁殖生態
出口翔大・小川龍司・伊藤泰夫・組頭五十夫・中村勇輝・石原通裕:北陸地方沿岸部におけるガビチョウGarrulax canorusの記録
山口孝・御手洗望:近距離で営巣したサシバとツミの営巣記録
川上和人・堀野眞一・辻本恒徳:ハシブトガラスによるニホンジカに対する吸血行動の初記録
北野雅人・近藤崇・前嶋美紀・時田賢一・宮田弘樹:巣内カメラで観察されたヤマガラ同種内の巣の乗っ取りと思われる事例
志内利明・兼本正・中田政司・王仲朗・魯元学・李景秀・馮寶鈞・管開雲:中国雲南省で観察されたトウツバキの送粉者と考えられる3種の鳥類
安藤一次・一戸一晃:青森県におけるツノメドリFratercula corniculataの初記録
大久保香苗:三宅島の鳥類目録の整理 日本鳥類目録改訂第7版以降の知見
滝沢和彦:長野県北部の営巣地におけるノスリButeo buteoのペレット分析

特集:カンムリウミスズメ

綿貫豊:ウミスズメ科の多様性(摘要)

 ウミスズメ科は北半球だけに分布し,23種からなる.ウミスズメ科には,羽ばたいて飛行し潜水する,沿岸から外洋まで多様なハビタットを利用する,動物プランクトンからイワシ類,イカナゴ類までさまざまな餌生物を食べる,雛の巣立ち様式は離巣性から就巣性まで幅広い,といった特徴がある.このグループに関して,1)トウゾクカモメ科と分岐した後に,いかにして,そしてなぜ,翼は小さくなり,大型種も進化したのか,2)気候変化がもたらしたであろう生態系の変化がウミスズメ科の多様化とどう関係しているのか,3)ウミスズメ科の雛の巣立ち様式の多様性がどのようにして進化したのか,4)ウミスズメ科の特異的な渡り様式は,南北両半球にわたる長距離渡りをするミズナギドリ科とどう違うのか,といった魅力的な研究課題があるだ
ろう.こうしたウミスズメ科の進化に関する課題を解くために,分子・形態両面から明らかになりつつある系統関係と分岐年代の情報は役に立つだろう.

中村豊:宮崎県枇榔島で得られたカンムリウミスズメSynthliboramphus wumizusumeの知見について(摘要)

 宮崎県の枇榔島でカンムリウミスズメSynthliboramphus wumizusumeについて27年間調査研究して得られた主な成果を紹介する.自然界での最大寿命は21年以上である.体重は雌雄でほとんど差がないが,繁殖期の後期に雌雄とも大きく減少する.外部形態の測定値も雌雄でほとんど差がなく,雌雄の判定は難しい.産座に巣材を用いず抱卵するが詳細は不明.ヒナは約30日で孵化し,孵化後早いうちに巣立ちし,一晩のうちに約14km(2.47km/h)も移動した.その後海流を利用して北上した.繁殖のために枇榔島へ帰ってくる際には,南からの海流を利用した.枇榔島でカンムリウミスズメの死骸・卵殻が大量に見つかるため,ネズミ類による食害を想定した調査を実施したが,その証拠は得られず,ハシブトカラスCorvus macrorhynchosが捕食している可能性が濃厚となった
?カラスへの対策が必要である.

大槻都子:カンムリウミスズメ保全における国際協力および行政(宮崎県東臼杵郡門川町)の取り組み例(摘要)

 カンムリウミスズメSynthliboramphus wumizusumeは,日本の海鳥の中でも注目度の高い海鳥である.本種が近年注目されるようになった背景には,中村豊氏,小野宏冶氏,公益財団法人日本野鳥の会等の成果に加え,海外からの本種の調査への関与もあげられる.アメリカ・カナダチームの調査への参加は,調査技術や情報の交換という点から有効であった以外に,本種の希少価値を一般に知らしめるのには十分であった.本種の最大の繁殖地である 枇榔島が健全な状態で保たれてきた背景には,宮崎県東臼杵郡門川町の取り組みが重要な役割を果たしている.今回は,カンムリウミスズメの保全における国際協力の紹介と,行政側の取り組み例として門川町の取り組みを紹介したい.

佐藤仁志・森茂晃・八幡浩二・深谷治・星野由美子:島根県におけるカンムリウミスズメの生息状況(摘要)

 カンムリウミスズメの日本海側における繁殖地としては,福岡県筑前沖の島,京都府沓島,石川県七ツ島などが知られているが,筑前沖の島から沓島の間の島根県沖を含めた日本海には明確な繁殖地情報がなく,最近まで空白地帯となっていた.2011年から4か年かけて行った調査により,生息状況や繁殖実態がある程度分かってきた.星神島を中心とする島根県隠岐郡島前地区一帯の洋上には,繁殖期に200羽を超えるカンムリウミスズメが集結することが明らかになると共に,星神島では繁殖個体が確認され,洋上で巣立ち間もない綿羽に覆われた雛を連れた家族群も確認された.また,夜間の鳴き声調査やスポットライト調査等により,繁殖の可能性が考えられる島をある程度絞り込むことができた.さらに,隠岐諸島以外の島根県の本土側の島嶼にお
??ても,繁殖の可能性があることも分かった.

田尻浩伸・手嶋洋子・佐藤智寿・山本裕:カンムリウミスズメの巣への出入り時刻と個体数調査方法の検討(摘要)

 繁殖期のカンムリウミスズメは,日中は繁殖地周辺の海上に広く分散し,日没後に抱卵交代のため繁殖地に上陸する.したがって,多くの個体が繁殖地から海上に出て行く時間に合わせて調査を行なうと,より正確に個体数を把握できると考えられる.そこで,東京都神津島村の祇苗島にセンサーカメラを設置し,カンムリウミスズメが巣に出入りする時刻を調べて個体数調査に適した時間帯を選定した.その後,神津島村の恩馳島,新島村の地内島で実際に個体数調査を行ない,過去に同海域で行なわれた調査結果と比較して有効性を検討した.伊豆諸島では,日の出の1時間前を含むように調査を行なうと,より正確に個体数を把握できると考えられた.

山本裕・土田修一・小林豊:卵殻膜のDNA分析による神子元島でのカンムリウミスズメSynthliboramphus wumizusumeの繁殖再確認

原著論文

鬼頭健介・関口伸一:スズメの営巣における電柱機器の利用(摘要)

 近年スズメの個体数減少の一因として営巣場所の減少が挙げられている.また,一般的には家屋に営巣するスズメが,近年都市部では電柱機器に営巣している.そこで電柱機器への営巣状況を知るために都市部でのスズメの営巣場所の調査をした.その結果,スズメは電柱機器である変圧器受台,低圧引き込み箱,D字型腕金,弓支線を支える腕金に営巣していた.そして,家屋よりも電柱機器に有意に多く営巣しており,それは営巣可能な家屋が少ないからだと考えられた.また,4種の電柱機器で比較すると,営巣数と使用率について有意な差が見られ,営巣数は営巣可能な機器数に,使用率は機器構造による出入りのしやすさに影響を受けると考えられた.

岡八智子・西浦征克・今井光昌・安藤宣朗・下村孝嘉・久住勝司・田中洋子・横山真一・前田聡・石原宏・林益夫・中村洋子・西村泉・橋本裕子・世古口有司・平井正志:伊勢湾西岸海岸におけるミヤコドリの棲息(摘要)

 三重県伊勢湾岸のミヤコドリ個体数を1)環境省モニタリングサイト1000シギ・チドリ調査,2)同一日,同一時間に複数個所で行った一斉調査,及び3)随時調査の3方法で調査した.安濃川河口でのミヤコドリ越冬数は2000年以降増加した.この海岸での最大数は2011年1月の104羽であった.越冬期最大数は2011-2012年冬期には62羽,2012-2013年には77羽,2013-2014 年には84羽であった.これらは日本での越冬個体数の12-20%,東アジア―オーストラリア地域飛行経路の推定個体数の0.6-1%に達した.この調査で三重県伊勢湾岸がミヤコドリの棲息に重要であることが明らかになった.

藤巻裕蔵:北海道中部・南東部におけるモズの繁殖期の生息状況(摘要)

 1976-2015年の4月下旬-7月下旬に北海道中部・南東部の917区画(4.5 km×5 km)内の調査路1,029か所でモズLanius bucephalusの生息状況を調べた.モズが出現した区画数は381(42%),調査路数は430(42%)であった.生息環境別の出現率は,森林で22%,農耕地・林で58%,農耕地で60%,住宅地で26%であった.標高帯別の出現率は,200m以下で50%,201-400mで36%,401m以上で14%であった.2km当たりの平均観察個体数は森林で0.2±0.7羽,農耕地・林で0.6±1.1羽,農耕地で0.4±0.8羽,住宅地で0.2±0.5羽であった.モズが出現した区画の割合,出現率,観察個体数は東経144°0′以東ではそれ以西に比べて有意に小さかった.

小川次郎・渡辺奈央・松井宏光・大森浩二:瀬戸内海忽那諸島およびその周辺島嶼部における絶滅危惧種ウチヤマセンニュウLocustella pleskeiの生息状況(摘要)

 絶滅危惧種ウチヤマセンニュウの生息確認調査を,2012年から2014年にかけて,瀬戸内海に位置する忽那諸島を中心とした22の島嶼で行った.2011年に生息が確認されていた小安居島以外に芋子島,殿島,流児島,下二子島,臍島,怪島において新たに生息が確認され,県内では計7つの無人島に生息していることが明らかとなった.小安居島における雄の繁殖個体数は,毎年20羽から30羽ほどであった.小安居島以外の島嶼では個体数が少なく,最大3個体しか確認できなかった.縄張りはほとんどが林縁部にあり,特に谷状の地形となっている場所であった.瀬戸内海にはまだ知られていない繁殖地がある可能性は高いと考えられ,今後保全をする上では網羅的調査が必要である.

上出貴士:和歌山県日高町の西川における非繁殖期の鳥類群集-3シーズン(2010年10月~2013年4月)の調査結果から(摘要)

 和歌山県日高郡日高町の西川において,2010年10月から2013年4月の3シーズンの非繁殖期の鳥類群集を明らかにした.各シーズンの出現種数は23-26科,38-46種で,全調査期を通じて29科59種が確認された.各シーズンの累積出現個体数は,それぞれ2,528,1,892,2,581羽であった.優占した上位10種は,各シーズン間で6-8種が共通したが,種別個体数組成はシーズンによって大きく変化した.また,隣接した水田域と異なり,特定の種が著しく優占することはなく,水田域に比べて種の多様性は高く,単位面積あたりの個体数も多い傾向が見られた.

藤田薫・大久保香苗・藤田剛:噴火後15年目の三宅島におけるオーストンヤマガラの推定個体数(摘要)

 絶滅危惧IB類の固有亜種オーストンヤマガラの最大の繁殖地である三宅島で,ヤマガラの植生の選好性と,噴火前および噴火後15年目の個体数と生息地面積を推定した.ヤマガラはスダジイ林を選好し,タブノキ林,オオバヤシャブシ林,針葉樹植林をランダムに利用していた.推定個体数は,噴火前は約3,100-4,100羽で,2015年には約2,000-2,400羽(噴火前の約50-75%)に減少していた.生息地面積は,噴火前に約40 km2,2002年と2015年には約25 km2(噴火前の約60%)で,減少は止まっているようであった.しかし,個体数,生息地面積とも,未だに噴火前の水準には回復していなかった.

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