公益財団法人 日本野鳥の会

Strix Vol.33

※特集と原著論文は、摘要をご覧になれます。

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特集:モニタリング

Strix編集部:モニタリング特集にあたって

天野達也:鳥類のモニタリング:その重要性,応用,将来に向けた提言(摘要)
藤田剛・掛下尚一郎・藤田薫・古南幸弘:30年にわたる鳥の相対的な個体数変化傾向から横浜自然観察の森の保全機能を推定する(摘要)
斉藤充:姫路市自然観察の森における繁殖期の鳥類生息状況 26年間のラインセンサス調査結果より(摘要)
山岸洋樹・善浪めぐみ・手嶋洋子・田尻浩伸・外山雅大:エゾシカの採食圧によるハマナス群落の衰退が草原性鳥類に及ぼす影響について(摘要)
渡辺朝一・池野進・西野正義・益子美治郎・川崎惟男・武田隆治・村上禎啓・大高由良:霞ヶ浦におけるカモ科鳥類の経年変化(摘要)

原著論文

Strix33巻

多田英行:越冬期におけるチュウヒの同種内での排他的行動の特徴(摘要)
加藤雅之・松沢孝晋・坂本泰隆・轟正和・永井敏和・吉田賢吾・柳澤紀夫:愛知県西三河地域におけるサシバButastur indicusの営巣木の分布と変遷(摘要)
藤巻裕蔵:北海道におけるメジロの繁殖期の分布(摘要)
川上和人:小笠原諸島南鳥島の鳥類相(摘要)
福田佳弘・小林万里:北方四島における沿岸海鳥類の分布と営巣地分布(摘要)
玉田克巳:石狩川沿い河跡湖沼群に生息するカモ科鳥類(摘要)
内田博・上田恵介:イカルチドリの配偶システムと雌雄の役割分担(摘要)

短報

土方秀行・橋本寿二・宮山修・鳥飼久裕・所崎聡:奄美大島で観察されたヒメコウテンシCalandrella brachydactyla200羽以上の群れ
高橋雅雄・長瀬京子・三国孝・久保清子・久保益男・宮彰男:青森県仏沼におけるウズラの繁殖
千嶋淳・片岡義廣・青木則幸・矢萩樹・長田宏子:北海道東部太平洋側におけるカワウの繁殖初確認
上田恵介・三王達也・佐藤望・上沖正欣・三上修:火山斜面や山岳地帯のガレ場に生息するヒバリの繁殖集団について
大久保香苗:伊豆諸島におけるオニカッコウEudynamis scolopaceusの初記録と音声による同定
三上修:繁殖後のサシバの行動を追跡するためのインターバルレコーダーとトレイルカメラの有用性の検証

特集:モニタリング

天野達也:鳥類のモニタリング:その重要性,応用,将来に向けた提言(摘要)

鳥類を対象とした長期モニタリングは,様々な調査が国内外で長年にわたって継続されている.本総説ではまず,なぜ鳥類の長期モニタリング調査が重要なのか,イギリスの農地性鳥類のモニタリングを一例として議論を行う.次に日本で鳥類モニタリングデータを実際に使った研究事例を紹介することで,モニタリング調査から得られたデータの用途について,さらに鳥類モニタリング調査による生物多様性保全への貢献について議論を進める.最後に,今後さらに長期鳥類モニタリング調査の有用性を高めていくために重要だと考えられる10 箇条について紹介する.

藤田剛・掛下尚一郎・藤田薫・古南幸弘:30年にわたる鳥の相対的な個体数変化傾向から横浜自然観察の森の保全機能を推定する(摘要)

近年,平野部など生息地の分断化が進んだ地域であっても,保全重要度の高い場所があることが指摘されている.横浜自然観察の森のある横浜市南部の丘陵地帯も,このような重要性の高い地域のひとつである.著者らは,観察の森が設置された1986 年から30 年にわたって継続されてきたライントランセクト調査のデータを解析し,総記録数の多かった20 種のうち,繁殖期には半数近い8 種の増加した可能性が相対的に高く,3 種の減少した可能性が高いことを示した.また,越冬期には4 種の増加した可能性が高く,1 種の減少した可能性が高いことが分かった.増加した可能性の高い種(繁殖期と越冬期合わせて10 種)のうち4 種が森林のみを生息地とし,それ以外の種も主な生息地の一部に森林を含んでいた.一方,減少した可能性の高い種(繁殖期と越冬期合わせて3 種)は,すべて生息地の一部に草地を含んでいた.増加した可能性のあった種の中には,大きな森林を必要とすると考えられる4 種が含まれていた.とくにセンダイムシクイとオオルリは地域全体にわたって減少している種であり,観察の森がこれら大きな森林に依存する鳥の生息地として重要な役割を担っていると考えられた.

斉藤充:姫路市自然観察の森における繁殖期の鳥類生息状況 26年間のラインセンサス調査結果より(摘要)

瀬戸内地方の都市近郊で見られる典型的な二次林から成る姫路市自然観察の森で行なった最近26 年間の繁殖期のラインセンサス調査によると,1991 年~ 2015 年の5 年期毎の出現数の上位5 種はヒヨドリ,メジロ,ウグイス,ホオジロ,スズメ,カワラヒワ,ヤマガラのいずれかであり,とくに前の3 種はほとんどの期で優占種であった.統計的に有意な増加傾向がヤマガラ,ヒヨドリ,エナガ,メジロ,キビタキ,コゲラで,また統計的に有意な減少傾向がホオジロ,スズメで認められた.5 年ごとに行われている植生モニタリング調査の結果を用い,鳥の出現数の変化を植生の変化と照らし合わせてみたところ,マツ枯れによって高木層のマツ類が大規模に枯死した際にはほとんどの鳥種で出現数に大きな変化は見られなかった.

山岸洋樹・善浪めぐみ・手嶋洋子・田尻浩伸・外山雅大:エゾシカの採食圧によるハマナス群落の衰退が草原性鳥類に及ぼす影響について(摘要)

根室市春国岱第一砂丘におけるエゾシカの過度な採食によるハマナス群落の衰退が,ハマナス群落を採餌,繁殖の場として利用する草原性鳥類に与える影響を明らかにするため,以下の分析,調査を行なった.1) 春国岱で2000 年から2016 年に行なわれたラインセンサス調査のデータを分析し,どのような種が増加,減少しているのかを検討した.その結果,シマセンニュウ・ノゴマなど4 種が有意に減少していることが明らかになった.2) 衰退した春国岱のハマナス群落とエゾシカの採食の影響を受けていないフレシマ地区のハマナス群落でポイントセンサス調査を行ない,鳥類相を比較した.春国岱ではヒバリしか確認できなかったのに対し,フレシマでは上記の分析で減少傾向にあった種を含め8 種の草原性鳥類が記録された.これらの結果からエゾシカの採食によるハマナス群落の衰退は草原性鳥類の生息地を消失させ,春国岱における鳥類の種数,個体数の減少に影響していることが示唆された.

渡辺朝一・池野進・西野正義・益子美治郎・川崎惟男・武田隆治・村上禎啓・大高由良:霞ヶ浦におけるカモ科鳥類の経年変化(摘要)

関東平野東部に位置し, 日本列島で二番目の開水面積を持つ霞ヶ浦一帯における, 毎年1 月に実施される環境省の「ガンカモ類の生息調査」で記録されたカモ科鳥類個体数の, 1970 年から2015 年にかけての経年変化を分析した.総個体数は, 1980 年代から1990 年代にかけて多い年で50,000 羽程度と横這いであったが, 2000 年代以降は増加傾向にあり, 2015 年には最多の90,000 羽以上が記録された.1980 年代まで多かった潜水採餌性のスズガモ属やアイサ類が激減し, 夜間に湖外で採食するマガモやヒドリガモの増加が顕著であった.プロの鳥学研究者によって科学的な研究を進めたうえで, 霞ヶ浦一帯におけるカモ科鳥類の保護管理体制を確立する必要がある.

多田英行:越冬期におけるチュウヒの同種内での排他的行動の特徴(摘要)

岡山県の阿部池と錦海塩田跡地において,2011 年から2014 年の越冬期に,チュウヒの同種内での排他的行動を調査した.排他的行動は行動形態の特徴などから,追跡飛行,追い出し,攻撃行動,警戒音,足下ろしの5 種に分類した.各種の排他的行動は性別に関係なく観察され,特定の性別間で排他的行動が多く発生する傾向は見られなかった.また,雌雄間での排他的行動において,排他的行動の優劣に性別が関与している傾向は見られなかった.同種内での排他的行動の発生頻度には日中の個体数が関与していることが推測されたが,排他的行動の増減を明確に説明できるほどの結果には至らなかった.なお,足下ろしは1 月以降に観察される傾向が見られ,発生頻度の増加には繁殖に向けた行動の開始が関与していることが示唆された.

加藤雅之・松沢孝晋・坂本泰隆・轟正和・永井敏和・吉田賢吾・柳澤紀夫:愛知県西三河地域におけるサシバButastur indicusの営巣木の分布と変遷(摘要)

愛知県西三河地域において,2007 年から2013 年までの7 年間に26 つがいのサシバButastur indicus の営巣について調査し,営巣木の分布,営巣木利用の変遷について考察した.その結果,当該地域では,サシバ営巣木は約1,000 m の営巣木間距離で連続的に分布しており,その分布特性は営巣環境(アカマツ林),餌場環境(水田等)が狭い範囲に入り組んで存在する当該地域の谷津田環境が広範に連続することに起因することが示唆された.当該地域におけるサシバは,営巣木にアカマツを優先的に利用した.また,多くのサシバが前年と概ね同じ営巣エリアで繁殖活動を開始するが,前年の営巣木から概ね200 m 以内に生育する別の営巣木を利用していた.

藤巻裕蔵:北海道におけるメジロの繁殖期の分布(摘要)

1976 ~ 2016 年の4 月下旬~ 7 月下旬に北海道の993 区画(4.5 km × 5 km)内の調査路1,118 か所でメジロZosterops japonicus の分布を調べた.分布図の作成ではこの他に既存の文献と個人記録も用いた.メジロが出現した区画の割合は11.5%で,主な分布域は南部と南西部であった.生息環境別の出現率は,ハイマツ帯を除く森林で1.3 ~ 14.8%,農耕地で2.4%,ハイマツ帯と住宅地では0%であった.垂直分布では標高400 m以下に生息していた.調査路におけるメジロの出現率は温量指数が低くなるにしたがって,低くなった.

川上和人:小笠原諸島南鳥島の鳥類相(摘要)

小笠原諸島南鳥島は戦前は多数の海鳥の繁殖地となっていたが,乱獲や開発による環境変化により,ほとんどの海鳥の繁殖集団は消滅している.一方で最近はこれらの影響は緩和されつつあり,海鳥の繁殖集団の回復が期待されるが,この島では1993 年以降鳥類調査が行われておらず,近年の生物相に関する情報は限られている.そこで,最近の南鳥島の鳥類相を明らかにするため,2007 年7 月に現地調査を行った.その結果,少なくとも3 つがいのアカオネッタイチョウ,16 つがいのクロアジサシ,約1700 つがいのセグロアジサシが繁殖したことが明らかになった.同時にセグロアジサシの羽毛が含まれたネコの糞も見つかり,海鳥相の回復を促すためには外来種対策が必要と考えられる.

福田佳弘・小林万里:北方四島における沿岸海鳥類の分布と営巣地分布(摘要)

筆者らは,日本側の調査としては初めて,北方四島全域における海鳥調査の機会が得られた.調査は, 択捉島は2002 年6 月11 日から6 月21 日,国後島は2003 年7 月12 日から7 月24 日,色丹島は2005年6 月8 日,11 日,12 日,歯舞群島は6 月10 日に行った.択捉島での海鳥分布調査はチシマウガラスとウミスズメ類に絞って行った.ウミスズメ類は10 種類を観察し,営巣分布調査ではチシマウガラス,ウミウ,オオセグロカモメ,ケイマフリ,ウトウ,エトピリカの営巣を確認した.国後島での海鳥海上分布調査では23 種類の海鳥類を観察し,営巣分布調査では,ウミウ,オオセグロカモメ,ケイマフリ,ウトウ,エトピリカを確認した.色丹島での海鳥海上分布調査では,14 種類の海鳥を観察し.営巣分布調査では,チシマウガラス,ウミウ,オオセグロカモメ,ケイマフリ,エトピリカを確認した.歯舞群島のハルカリモシリ島では,濃霧の中ではあったが,ウミウ,オオセグロカモメ,ケイマフリ,ウトウ,コシジロウミツバメの営巣を確認した.

玉田克巳:石狩川沿い河跡湖沼群に生息するカモ科鳥類(摘要)

石狩川沿い河跡湖沼群は,水鳥の飛来地として社会的に重要な地域として位置付けられているが,この広域な地域を対象にして水鳥を調べた調査研究はない.そこで石狩川中下流域に点在する14 か所の湖沼において,カモ科鳥類の生息状況を調べるとともに,北海道内の他湖沼で調べたカモ科鳥類の生息状況調査の結果と比較して,その特徴を明らかにした.全体で20 種のカモ科鳥類が確認された.宮島沼では秋に14 種,春に12 種が確認され,マガンAnser albifrons やコガモAnas crecca の飛来数も多く,石狩川沿い河跡湖沼群では種数,飛来数ともに多かった.人工護岸の割合が高かったしのつ湖や雁里沼では飛来種数は少なかった.
石狩川沿い河跡湖沼群に飛来する主要な種は,ヒドリガモA. penelope,マガモA. platyrhynchos,カルガモA.zonorhyncha,オナガガモA. acuta,コガモ,キンクロハジロAythya fuligula,ミコアイサMergellus albellus,カワアイサM. merganser の8 種であり,マガモ,カルガモ,コガモ,ミコアイサ,カワアイサの5 種は秋に多く,ヒドリガモ,オナガガモ,キンクロハジロの3 種は春に多い傾向があった.石狩,空知地方の平野部で繁殖するマガモとカルガモは結氷期を除く通年確認され,ミコアイサとカワアイサは10 月下旬から確認された.モニタリングサイト1000 の結果と比較したところ,カルガモは,主に淡水の湖沼に多く,ホシハジロA. ferina,スズガモA. marila,ホオジロガモBucephala clangula は淡水湖では少なく,汽水湖で多く確認される傾向が見られた.また,キンクロハジロとミコアイサは,淡水湖と汽水湖の両方で確認された.

内田博・上田恵介:イカルチドリの配偶システムと雌雄の役割分担(摘要)

本州の埼玉県中央部にある荒川支流の都幾川5.2km の区間において,1987 年から1993 年までの7 年間,イカルチドリの繁殖期の生態の調査を行った.イカルチドリは河川敷内の砂礫地に繁殖なわばりを構え,巣は河川敷内の砂礫地に造られた.繁殖なわばりは同種に対して強く防衛され,防衛行動は主に雄が行った.繁殖は一夫一妻でおこなわれた.巣は砂礫地を掘った浅い窪みで,小石や植物片などを敷かれていた.ほとんどの巣での一腹卵数は4卵であった.抱卵は4 卵目の産卵直後から始まり,ヒナは抱卵開始から約30 日で孵化した.抱卵における雌雄の分担の割合はほぼ同率であった.観察したつがいでの育雛期の雌雄の育雛分担もほとんど同率であった.雛は35日齢で飛ぶことができるようになり40 日齢から50 日齢間に親から離れ独立した.

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