野鳥たちは、タネの散布を通じて森づくりに貢献しています。野鳥と植物との自然な関係を利用すれば、生物多様性に富んだ魅力的な森をつくることができます。しかし、野鳥によるもりづくりの手法は、まだ十分に確立されていません。
そこで、日本野鳥の会では専門家による検討委員会を設置し、有効な手法の検討を重ねてきました。
その結果をふまえ、野鳥による生物多様性に富んだ森づくりを進める上での留意点をまとめましたので、これらを参考にしながら、野鳥による森づくりにチャレンジしてみてください。
豊かな森を地域に残して育もう
地域ごとに広葉樹を中心とした豊かな森林環境があれば、そこが種子の散布源となり、野鳥たちが周辺に多様性に富んだ森づくりをしてくれます。そのためにも、できるだけ多くの豊かな森を残し、適正に管理し維持していくことが大切です。
しかし、そのような森が少なくなっているのが現状です。その場合、野鳥たちが運んできた多様な樹種を残し育んだり、その地域や土地に合った樹種の植栽をおこない、散布源となる森を残していきましょう。
実のなる多様な樹種を植えよう
野鳥たちが実を好んで食べるのは、主に秋から冬にかけてです。木は種類によって熟す時期や期間が異なるので、植える樹種を選ぶ場合には、実の熟す時期や期間を考慮し、できるだけ長い期間野鳥たちが訪れるようにデザインするとよいでしょう。長い期間訪れるということは、それだけ多くのタネを運んでくれることにつながるからです。
また、果実の色や大きさも考慮することが大切です。一般に赤い実は野鳥に発見されやすい傾向にあります。一方で、黒い実は一見目立ちませんが、果実を好むヒヨドリなどは、しっかりと見つけて採食します。
野鳥による種子散布を期待するには、野鳥が丸呑みできる実の大きさが重要です。野鳥が口を広げた大きさは、だいたい8~13㎜ですので、このサイズの実がなる樹種を選択するとよいでしょう。
★木の実と野鳥の密接な関係★
小さく、熟すと赤など鮮やかな色になる木の実は、少なくありません。じつは、その理由も鳥と密接な関係があるようです。植物は、自らの意志で移動することができません。しかし、種の繁栄を考えるとなるべく遠くにタネを届けたいところです。そこで、一部の植物は戦略として、鳥に目立つように進化し、野鳥が丸呑みできる大きさに進化したと考えられています。
木の実は、タネが成熟すると野鳥に食べてもらうために色を変えます。そして、熟した実を一部の野鳥は丸呑みにし、果肉部分を消化し栄養として取り込み、消化できないタネを少し離れた場所で排泄します。排泄されたタネはその地で芽を出し、生長していくという関係ができています。植物の中には、鳥の消化器官を通ることで発芽率が上がる種類があることも分かっています。
遺伝子に配慮した植林をしよう
植林する際には、同じ樹種であっても産地に気を配ることが重要です。例えば「ブナ」は、多雪地帯である日本海側や雪の少ない太平洋側にも広く分布しています。日本海側の「ブナ」と太平洋側の「ブナ」では、持っている遺伝子の型がある程度異なっています。それは、それぞれの地域の気候などの環境条件によって淘汰を受けた結果、その地域に適応した遺伝子の型になったためです。そのため太平洋側の「ブナ」を日本海側に植林すると健全には育ちません。しかし、一部の個体は不健全ながらも生存し、やがて花を着けるようになります。そして日本海側の「ブナ」と交雑をおこない、その地域にない遺伝子をもつ種子が作られてしまいます。これを「遺伝的攪乱(かくらん)」と呼びます。この交雑した種の中には、不健全ながらも生き残る個体が現れて、もともと適応している森林の「遺伝子攪乱」が長い間続くことになります。そうなると森林が衰退していく可能性も否定できません。そのため苗木を導入する際は、産地や元となる木(母樹)の産地を調べ、どの程度遺伝的差異があるかを確認し地域的に近い木を植えることが大切です。
★種子採取のための母樹林★
森林の遺伝的な攪乱を防ぐためには、それぞれの地域で植林のための種子採取母樹林を指定することが重要です。この母樹林はもちろん天然性であるか、同じ地域の苗木で作られた森林であれば遺伝的攪乱を防ぐことができます。スギやヒノキなどの重要な林業樹種では林業種苗法によって種苗の移動範囲が決められています。しかし、広葉樹にはこのような規制はないため、都道府県レベルでの種子採取の母樹林の指定が重要となります。神奈川県では平成20年度までに緑化用の広葉樹母樹が16科35種185個体について指定がされています(http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/576334.pdf)。
津村 義彦(筑波大学 生命環境系 教授)
止まり木効果を活用しよう
木の実のタネを運ぶ野鳥たちは、木の枝によく止まります。止まり木となる枯れ木を残したり、棒を立てたりすると、そこに止まった野鳥がフンを落とし、そこから木々が芽を出します。公園などでも野鳥がよくとまる柵などの下から、周辺にはない樹種が育っているのを目にすることがありますが、植林地においてもこの「止まり木効果」を活用するうとよいでしょう。
下刈りに注意しよう
下草を刈る際に、野鳥などによって運ばれ芽を出した若木を、誤って刈り取らないよう注意しましょう。ただし、要注意外来生物に指定されているトウネズミモチなどの望ましくない樹種を見つけた場合には、この段階で除去するのがよいでしょう。
森林のギャップを有効に利用しよう
多様な環境を構成する要素として、森の中で倒木などによって生じる、ぽっかりと開けた空間(林冠ギャップ)も重要です。日当たりのよくなったこのような空間では、野鳥たちが運んできた種子が生育する可能性が高くなります。なお、人為的にこのようなギャップを作ってやることも、良好で多様な森林環境を管理する手法のひとつです。
鳥類相にも注目しよう
野鳥による森づくりを期待する場合には、可能な限り現地周辺の鳥類相を把握しておきましょう。当ホームページの【種子散布者として期待できる野鳥20種】、【野鳥により種子散布される樹25種】、【野鳥による森づくり資料】などを参考に、どのような野鳥がどのような植物を運んでくれる可能性があるかなどを検討していけば、魅力的な森づくりができるでしょう。
なお、多様な鳥類相は、多様な環境を持った森に育まれることを忘れてはなりません。ササ類などの薮にもウグイスなどが好んで生息するなど、森の環境が多様であればあるほど多様な鳥類相がみられ、よりさまざまな樹種の種子散布が期待できるからです。