公益財団法人 日本野鳥の会

放射性物質の野鳥への影響調査(おもに水鳥)

自然保護室

放射線量が高いため作付けを規制され、放置された水田(南相馬市北西部)

福島第一原子力発電所の事故はチェルノブイリ原発事故に匹敵する規模であり、大量に漏出した放射性物質は自然界および人間社会に甚大な影響をおよぼすと考えられます。
2012年、当会では、原発被災地を取材するとともに、鳥類のなかでも手つかずであった放射性物質の水鳥への影響調査を行ないました。その結果について、レポートします。

広がる耕作放棄地と野生動物の出没 福島県飯舘村・南相馬市

イノシシのぬた場
写真1 イノシシのぬた場。
もとは水田だった(飯舘村)

 福島第一原発の北西約40㎞に位置する飯舘村では、事故前には豊かな自然の恵みを受けながら約6千人が暮らしていました。しかし、原発から漏出した高濃度の放射性物質によって全住民が避難を余儀なくされ、それまでの生活は失われたのです。
 住民が避難してから約1年半が経った2012年8月、除染作業が進められている飯舘村を訪れました。村内の空間線量は2~6マイクロシーベルト/hと依然高く、山林では10マイクロシーベルト/hを超える場所もありました。
 人による管理がなくなり、放置された田畑は草地化し、人家を草木がとり囲んでいました。このまま長期的な放置が続けば、遷移が進み、多くの場所は森へと変わっていくでしょう。
 野生動物が人里周辺に出没していることも大きな変化で、無人化した人家のすぐ近くではイノシシが放置水田を荒らし、植物の根を食べた痕跡が随所に見られました(写真1)。
 南相馬市の北西部は、避難指示解除準備区域に指定されています。この地域は比較的放射線量が高いため、米の作付けが2年にわたり規制されており、その面積は広範囲におよぶと思われます。かつて水田だった場所は雑草に覆われ、ヒバリやカワラヒワ、キジなど、草地性の野鳥の姿を目にしました。
 居住地の近くでは、サルやイノシシ、キツネを以前より見かけるようになったとのことで、人がいないことで野生動物が行動範囲を広げている点は飯舘村と共通しています。

東北・関東地方でのコロニー土壌調査

 繁殖地の汚染の有無や鳥類体内への蓄積の可能性を探るため、2012年1月以降、河川と海洋を生息地とする水鳥、なかでもサギ類、カワウ、ウミネコを対象にコロニー内外の土壌調査を行ないました(表)。
 漏出した放射性物質は河川や海へと流れ込み、湖や湿地などに溜まり、ホットスポットとなります。こうした環境にくらす水鳥は汚染されやすく、魚類などのエサを通じて体内に蓄積するおそれがあります。また、フンとなって放射性物質が体外へ排出されたとしても、そのまま土壌に蓄積して、コロニー内を汚染する可能性もあります。
 1、2月に実施した冬期の土壌調査では、福島県内にある2か所のサギ類のコロニー(福島A・C)から、それぞれ2万4千ベクレル/ kg、7千900ベクレル/ kgの高い放射性セシウムが検出されました(※)。また、コロニー内のほうが周辺部よりも高い傾向がうかがえました(図1)。
 コロニー内の値が高いことがただちに鳥類への蓄積を示唆するとはいえませんが、この値が繁殖期を通じてどう推移していくのかが心配です。幸い、6、7月に実施した夏期の土壌調査(写真2・3)では、冬期から継続して調査ができた6つのコロニーのうち、福島Bコロニーを除く5つのコロニーで減少傾向という結果が得られました(図1)。
 鳥類に放射性物質が蓄積されており、コロニーへの蓄積が進むという可能性は現時点では低いと考えられますが、放射性セシウムのうち、セシウム134の半減期は2年、セシウム137は半減期30年とされていることから、コロニー内のセシウム値については今後も経過を見ていくことが必要です。

※環境省では、一般廃棄物最終処分場に埋立処分できる基準値を8千ベクレル/kgと定めている

水鳥の体内被曝を調査

 福島県内のサギ類のコロニー調査の際、親鳥のヒナへの給餌物を採取・分析したところ、平均102ベクレル/ kg(4サンプル。最大値157、最小値59)の放射性セシウムが検出されました(写真4)。
 また、岩手県内で有害鳥獣駆除されたカワウ7羽の提供を受けて、体内への放射性物質蓄積の有無を調べたところ、胸筋からは平均46ベクレル/ kg、肝臓からは平均36ベクレル/ kgの放射性セシウムが検出され、岩手県内でのサンプルは低い値であることがわかりました。

主要河川河口での調査

 流下した放射性物質は、河口付近で多くなると予想されることから、主要河川の河口や湖沼での土壌の分析および鳥類の個体数調査も行ないました。
 土壌の線量は、福島県内の2河川(新田川、鮫川)で高い傾向があり、とくに上流部に飯舘村がある新田川では1千170ベクレル/ kgが検出されました(図2)。
 新田川河口には、オオハクチョウ、コハクチョウに加えて、オナガガモ、コガモなどが数多く越冬に訪れています。こうした野鳥への影響についても、長期的なモニタリングが必要です。

本調査は、「地球環境基金」からの助成、および「野鳥を科学する基金」により行ないました。日本野鳥の会福島支部、郡山支部、宮城県支部、北上支部、宮古支部、福島市小鳥の森からは、コロニーの情報提供と調査協力をいただきました。


写真2 福島県内のサギ類コロニー


写真3 サギ類のコロニー内で
土壌サンプルを採取する当会職員


写真4 サギのヒナへの給餌内容

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