公益財団法人 日本野鳥の会

ツバメの子育て状況調査2013~2015 結果報告

(2016年5月)

全国約5,000巣を分析、都市で巣を落とす人は農村の7倍
全国の都市部・市街地でツバメの子育てが困難に

(公財)日本野鳥の会は、近年減少の可能性が示唆されていたツバメの現状を明らかにするため、2012年に全国に呼びかけて調査を開始しました。2012年の調査では、約4割の方が「ツバメが減っている」と感じており、その一因として不衛生を理由に人が巣を壊してしまう例が数多く報告されました。

この結果を受け、2013年から当会の特設ホームページにツバメの子育てのようすを観察・記録していただく「ツバメの子育て状況調査」を実施し、2015年までの3年間にのべ2,506名の方々の協力を得て、全国796市区町村(全国の約半数)、のべ5,115巣もの観察情報をお寄せいただきました。この全国規模のデータを詳しく分析した結果、ツバメの子育てを取り巻く日本の現状について、次のことがわかりました。

  1. 全国の都市部や市街地で、ツバメの子育てが困難に
    巣立ちヒナ数と都市化との関係を分析したところ、首都圏や京阪神はもとより全国の地方都市でも巣立ちヒナが少ないことがわかりました。郊外や農村部での巣立ちヒナ数は平均約4.3羽、都市部では平均約3.9羽と1巣あたり約0.4羽分少なくなっていました。巣立ちヒナ数が4羽以下なることは、将来的にツバメの生息数が減少していく可能性が高まることを示唆しています。
  2. ツバメと人のつながりの消失は、都市部で顕著
    子育てに失敗した原因について、都市部と郊外や農村部を比較したところ、「人による巣の撤去」の占める割合が都市部では10.6%、郊外や農村部では1.5%と、都市部で約7倍も高い結果となりました。本来、天敵を避けるために人の暮らしの中で命をつないできたツバメですが、特に都市部では人そのものが子育ての脅威になりつつあるという現状が見えてきました。
  3. 都市部での子育てに必要なのは、水辺環境と緑地
    ツバメの子育てが困難となっている都市部で、より多くのヒナが巣立つために必要な環境を明らかにするため、都市を代表する東京23区で巣立ちヒナ数と巣の周辺環境との関係を分析しました。その結果、一番は巣の近くに水辺環境があること、次いで公園、空き地などの緑地がプラスに働いていることがわかりました。都市部ではエサとなる昆虫が生息する水辺や、巣を作るために必要な土と草を採取できる場所が重要だと考えられます。


1.ツバメの子育て状況調査2013~2015の結果まとめ

(1)調査にご協力いただいた人数とツバメの巣の数

2013年から全国に広く協力を呼び掛けてスタートした「ツバメの子育て状況調査」は、2015年までの3年間で、でのべ2,506人の方にご参加いただき、日本全体の約46%にあたる796市区町村で調査を行なっていただきました(表1)。情報が寄せられたツバメの巣の数は、のべ5,115巣にものぼります。今回はこれらのデータを用いて、日本におけるツバメの子育ての現状と周囲の環境との関係を詳細に分析しました。

表1.2013~2015年の調査にご協力いただいた人数と得られた情報数

(2)ツバメの分布域は昔と変わったのか?

環境省が1970年代と1990年代に実施した全国の繁殖分布調査の結果と、日本野鳥の会が2012~2015年に実施した調査でツバメの巣が目撃された地域を比較してみました(図1,表2)。その結果、日本国内におけるツバメの分布域はこの約30年では大きな変化はなく、分布域が縮小しているといった傾向はみられませんでした。また、環境省が過去に行なった調査と比べて、日本野鳥の会の調査では北海道の北~東部からも営巣記録が寄せられました。


図1.過去と現在のツバメの分布域の比較

表2.図1におけるツバメ確認数の凡例内訳

ランクA:繁殖を確認した ランクB:繁殖している可能性がある ランクC:生息を確認した

(3)都市と農村で巣立つヒナの数を比較

3年間調査を継続したことで、都市部以外からの情報も多く蓄積することができました。そこで、データを都市部(市街化区域)と郊外や農村部(市街化調整区域や農業区域)に大別し、ツバメのその年1回目の繁殖(1番仔)における平均巣立ちヒナ数を比較しました。その結果、都市部では平均約3.9羽、郊外や農村部では平均約4.3羽と、約0.4羽分巣立ち数が有意に少ないことが分かりました(図2)。ツバメにとって巣立ちヒナ数が4羽以下になることは、生存率の研究事例を基に試算すると、将来的にツバメの生息数が減少していく可能性が高まることを示唆しています(表3)。また、過去に巣立ちヒナ数を調べた文献では、1番仔の平均ヒナ数が4羽を下回る事例はほとんどありませんでした(表4)。


図2.都市部と郊外や農村部におけるツバメの平均巣立ちヒナ数の比較(1番仔)
「都市計画法」と「国土利用計画法」に基づき、都市部:市街化区域、郊外や農村部:市街化調整区域や農業区域の2つに分類。※全国から集まった巣立ちまで観察情報のある2,427巣のデータで解析。

表3.巣立ちヒナ数の3羽と4羽の違い(1番仔のみで試算)

※実際の個体数予測は繁殖成功率や2番仔の巣立ち数、各年齢の死亡率等を考慮するため、より複雑なものとなる

表4.各年代ごとの巣立ちヒナ数の比較
(過去に全国的に調査を行なった事例はなく、調査地の違いなど誤差は考えられる)

[1]千羽晋示(1972)三重県桑名郡多度町におけるツバメ(Hirundo rustica)の繁殖記録(自然教育園資料のまとめ)
自然教育園報告(3):35-42.
[2]金井郁夫(1960)ツバメの生態(第3報).山階鳥類研究所研究報告 2:30-40.
[3]Mizuta K(1963)Local distribution of two swallows of genus Hirundo, and breeding success of
H. rustica. Res. Popul. Ecol. 5(2): 130-138.
[4]飯嶋良朗(1982)北海道十勝南部におけるツバメの繁殖記録.鳥 31(1):17-21.より記録を独自に算出

(4)ツバメの子育て失敗原因

2013~2015年の調査結果からツバメが子育てに失敗した原因をまとめると、天敵(カラス、ネコ、ヘビ、スズメ等)に襲われた割合が30%ともっとも高くなりました(図3)。人間が巣を壊したり、巣を作らせなかったりしたケースは8%を占めました。繁殖失敗の原因と割合を都市部と郊外や農村部に分けて見てみると、繁殖失敗率は都市部が23.0%と郊外や農村部の19.8%より高い結果となりました。

さらに、人が巣を壊したり巣作りを妨げたりする行為も、郊外や農村部が全体の1.5%だったのに対し都市部は10.6%と、約7倍も高い値となりました(図4)。フンが汚いなどの理由から人為的に巣が壊されるケースが増えてきていると考えられます。本来、天敵を避けるために人の暮らしの中で命をつないできたツバメですが、特に都市部では人そのものが子育ての脅威となりつつあるという現状が見えてきました。


図3.繁殖の失敗原因と割合(2013~2015年のデータ,計665件)
※「巣やヒナの落下」「巣が壊れる」には自然に落ちたものだけでなく、建物の構造に起因するもの、人や天敵に落とされたものも含まれると推測されます。


図4.土地区分ごとの繁殖失敗原因の内訳

(5)ツバメの子育てに欠かせない環境とは?

3年間の調査で、全国各地でツバメたちがたくましく生き抜いていることが分かったものの、都市部はツバメにとって子育てをする上で非常に厳しい環境であることが改めて浮き彫りとなりました。都市部でたくさんのヒナを育てるためには、どのような環境が必要なのでしょうか。日本を代表する大都市の東京23区内で、巣立ちヒナ数と巣の周辺環境の関係を詳しく分析しました。

その結果、河川や池といった水域がもっとも重要な環境要素であり、次いで公園や裸地(空地)などの緑地が有効である(巣立ちヒナ数にプラスに作用する)ことが分かりました(図5)。このことから、都市部ではエサとなる小さな昆虫が生息する水辺の環境や、巣を作るために必要な土と草を採取することができる場所が、「子育ての命綱」になっているといえます。

一方で、そのような環境の多い農村部でも人口減少による過疎化が進み、農業が衰退すると、巣をかける家屋もエサや巣材を得る田畑等の環境も失われる恐れがあります。現時点では、農村部は都市部より巣立ちヒナの数が多いものの、今後も子育ては安泰とは言えないかもしれません。


図5.ツバメが好む(巣立ちヒナ数が多い)環境についてモデルを検討した結果
2013~2015年の間にヒナが巣立った巣のある100m四方のメッシュと、その周囲500mの環境要素を解析した(一般化線形混合モデル;GLMM)。当てはまりの良かった上位9つのモデルを示す。表中の+はその説明変数が巣立ちヒナ数へプラスに作用にし、-はマイナスに作用することを意味する。

(6)ツバメと共に生きる未来を!

ツバメは、農作物の害虫を食べてくれる益鳥として古くから親しまれ、ツバメが巣を作った家には幸福が訪れると歓迎されてきました。しかし、開発やライフスタイルの変化とともに子育てできる環境が減り、ツバメと人のつながりも消えつつあります。

地域全体の環境を改善していくには長い時間と労力が必要です。しかし、私たち一人ひとりが今年も日本にやって来るツバメたちを温かく出迎え、1羽でも多くのヒナが巣立てるよう優しく見守ることはできるはずです。日本野鳥の会は今後も市民参加による調査を継続し、日本のツバメの現状をより詳細に明らかにしていきます。また、ツバメが安心して子育てできる町を増やすため、引き続きツバメを見守る方法を発信して、人とツバメが共存できる社会をめざしていきます。

2.「ツバメの子育て状況調査」について

調査の概要

2012年のアンケート結果で多くの方が感じているツバメの減少を、ツバメの繁殖の状況を調べることによって明らかにするため、日本野鳥の会では2013年からインターネット上に専用サイト「ツバメの子育て状況調査」を立ち上げ、調査を実施しています。

このサイトでは、より多くの方に参加いただけるようにスマートフォンやタブレット等にも対応させ、参加者に継続して同じ巣を観察いただき、子育ての様子を観察日記のように記録していただくことが可能です。また、巣立ったヒナの数や、繁殖に失敗した場合はどの繁殖ステージで失敗したのか、失敗の原因は何かといった情報を収集し、それを基にツバメが減少傾向にあるのかを調べます。

参加者はツバメの子育て情報を記録して共有することができ、ツバメの子育てを見守りつつ、保護のための情報を蓄積することができます。

調査の特徴

ツバメの子育て状況調査に参加する


図6.「ツバメの子育て状況調査」の画面
左:パソコンの画面 右:スマートフォンの画面

3.ツバメの巣を壊さないで

巣を壊すことは法律により禁じられています

ツバメなどの野鳥は、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(略称:鳥獣保護管理法)」により保護されており、都道府県知事の許可がなければ、卵やヒナが中にいる巣を壊すことは禁じられています。これに違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。

もし、卵やヒナのいる巣を落とそうとしている人を見かけた時などは、各都道府県の鳥獣保護関連部署などにご相談ください。

鳥インフルエンザ感染と野鳥について当会の見解

2009年、高病原性鳥インフルエンザの国内被害がニュースで取りあげられた際、ツバメの巣が壊されるという事件がありました。鳥の病気である鳥インフルエンザが、ツバメから人間に直接感染することは考えられません※1。もし鳥インフルエンザに感染したツバメがいたとしても、繁殖期にはつがいでの生活となり、他の鳥にうつす機会がないうちに抗体ができて、ツバメの体内のウイルスも消滅していくと考えられます。鳥インフルエンザウイルスは、気温が高くなると寿命が短くなり、フンなどで体外に排出され、感染力を失います。ツバメが玄関先に巣を作ったからといって、脅威を感じる必要はまったくありません。

※1 過去に、ツバメが高病原性インフルエンザにかかった事例は、海外で1例(H5N1亜型)のみで、人間への感染例はありません。

放射性物質の影響について

東日本大震災にともなう福島第一原発の事故以降、放射性セシウムを含むツバメの巣が確認されました。これは、福島県を中心に高濃度汚染地区(ホットスポット)の土を巣材に利用したことに起因します。放射性物質の飛散予測で汚染が高かったとされる一部の地域では、濃度の高い巣がある可能性もありますが、全国の巣が汚染されているということではありません。また、環境省は「高濃度の放射線物質に汚染された巣であっても、50cm以上離れれば自然放射線量と同等になり、人体に影響はない」※2と正式に発表しています。さらに時間が経過したことにより、空間線量が低下し、ツバメの巣に含まれる放射性セシウム濃度も事故当時より低下していると考えられます。

これらの理由からツバメの巣を壊したりしないよう、お願いします。

※2 放射線量は、放射線を発する物体からの距離の二乗に反比例して低下します。
例)距離5cm地点での線量に対して、50cm離れると100分の1.5m地点では1万分の1になる。

4.ツバメについて

ツバメは、全長17cm程度、長く切れ込みの入った尾羽が特徴。ユーラシア大陸と北米の広い範囲で繁殖して、冬には熱帯に渡って過ごします。日本では種子島以北の日本全土に夏鳥として渡来します。北海道では南部をのぞき、数は少ない傾向があります。

ツバメは(ハチ、ハエ、アブ、トンボなどの)昆虫を飛びながら空中で捕食するので、巣材を集める時以外に地上に降りる姿を見かけることは稀です。また、飛びながら水面をひっかくように口を開けて水を飲みます。

繁殖期は4月から8月で、おもに一夫一妻で年に1~2回(多い時は3回)繁殖をします。人家の軒下などに泥と藁でできた巣を作ります。ヒナは巣立ち後、数日間は巣の近くにいて、親鳥から餌をもらいます。2週間ほどたつと、親鳥から離れて、水辺のヨシ原などで、集団で夜を過ごすようになります。この集団ねぐらは数千~数万羽の規模になることもあります。東京近郊では6月中旬ごろから集団ねぐらに集まるようになり、7月下旬~8月上旬が最大になります。8月頃から10月頃に東南アジアに渡っていきます。


写真2.水田を飛翔しているツバメ(写真/佐藤信敏)

5.日本野鳥の会ツバメ全国調査2012(アンケート調査)の結果

(1)ツバメの全国分布は大きな変化なし


図7

回答者の99%がツバメを確認

全国すべての都道府県から8,402件の情報が寄せられ、そのうち一般目撃調査の回答者の99%がツバメを確認し、86%が営巣を確認していました(図7)。この結果を鳥類繁殖分布調査(環境省2004)と比較したところ、分布が縮小している傾向は認められませんでした。

(2)ツバメの数は減少?


図8

回答者の39%が減少と感じる

しかし、有効回答者6,866人のうち39%は、ここ10年間でツバメが減少したと回答しており、分布は変わらないものの、多くの地域で個体数が減少している可能性が示唆されました(図8)。

(3)ツバメ減少の要因は、カラスによる影響、人による巣の撤去が上位に


表5.ツバメの減少要因(自由表記)

ツバメ減少の要因として、回答のあった933件の情報のうち、カラスによる影響が296件、またフンで汚れるなどの理由から巣が人の手で壊される事例が216件寄せられ、上位を占めました(表5)。

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